風のささやき

二月の終わりに

空には大きなあくびのように
長閑に漂う雲
きっと大地の温もりが届いたのだろう
それで風に流れることさえ
億劫なのかも知れない

こんな春の午後
すべての真面目な試みも
つまらないことに思えてくる

さっきまでは人と
さもそれが大切なことのように
強い口調で話をしていた自分を
今はまったく理解できなくて
小ばかにした薄ら笑いさえ浮かべる

きっと春の暖かな風が
この世に僕を結び付けている
堅い結び目を油断させて
解いてしまったから

それからの僕は
まったくをもって解けてしまい
春風に暮らす
透き通った住人の風貌で
話しかけてくる人の言葉は
まったく頭に入らなくなった

梢の上のあどけない陽射しと
恥らうスミレの色
子猫の眠りの健やかさを友達に
噴水の輝く水をご馳走に喉を潤す

春風よ これじゃあ
もう今までの世界には
戻ることができないよ
僕を結んでいた錆色のリボンで
早く心も封印してくれ

さもなければお前と一緒に
どこか遠くへ運んでおくれよ
この世への未練も
一切消えうせている今を狙って