風のささやき

春浅き空き地

ゆっくりと すれ違ったモノレールの向こう側
造成中の看板の下の 枯れ草だらけの空き地を
早春の夕日が ゆっくりと撫で付けている
まるで金色の馬の鬣に 触れるように愛おしげに

大地の上に 姿を変えて
乾いてまでも 立ち尽くしてきたものたちの
その逞しくも 凄絶な時間を
分かりやすい言葉で 何度も説き伏せている
もうおまえたちの仕事は 十分に終わったんだよと

知っているよ お前たちの優しい気持ち
次から次へと建物が 立っていくのに
看板の下に見せしめのように 取り残された空き地を
お前たちの伸び行く生で 明るくしようとしていたこと
その最初の誓いに 姿を変えてまで
誠実であろうと してたこと

今は 姿を表している空き地の砂が
それを伝えているよ キラキラと夕日を照り返し
ありがとうの言葉で 一杯なんだと

ささやく夕日にやっと 長い生の束縛から
開放されてほっとする 茶色の枯れ草たち
見覚えのある 懐かしい絵のように
空き地は 輪郭を淡くして

やがて 新しい息吹が
枯れ草を見えなくするように 背を伸ばすよ
枯れ草が 立ち尽くした
時間の記憶を 知っているから
それを遥かに超えて 伸びてゆこうとして

だから 春の空き地の新しい芽吹き
屈託のない希望は 自信にあふれ
迷いなく 楽しく見えるんだって