風のささやき

忘れゆく栞

いつからか 思い出すことさえも
一つの 努力となっていた
君が 口付けをくれた朝
朝焼けに濡れた 唇の柔らかな震え
その後にもれた かすかな吐息と
節目がちに 僕を見た微笑み 
僕は 高鳴ったままの鼓動の先に
かすかに 感じていた
めぐりくる 悲しみの数
それにも今は ただ目をつむってと
身をゆだねていた 幸福も僕をすり抜けて

やっと 抱き合えた時間までの
喜びと迷いの数も
何気ない言葉 重ねることの楽しさも
星屑の下に 言葉なく歩む
静かな心持も

忘れゆく栞として 僕は
過ぎ去る日付の間に あなたを挟み込み仕舞う
たくさんの 思い出と青い涙とを
あの日のペンの 色合いのままに書き添えて
ありがとうの文字で 締めくくるには
まだしょっぱい味を させたまま

あの日見た 青い水平線のように
潮風に弄ばれていた 白い鴎のように
指先から逃げて行った 銀の水滴のように
思い出せないままに 波打っている
風景程に 忘れてしまうために

いつしか僕が 顧みるページの
赤い押し花を印した 栞として
たくさんの 時間を重ねて
優しくなれたら 僕が
今度は ありがとうの文字で
締めくくる思い出の 栞として