風のささやき

タンポポ

小さな子供が 種をつけたタンポポを
丁寧に摘んでいる 緑の河原
旅立ちの日にはもってこいの
青空には 道案内の雲が待っている

タンポポの種は 初めてのことに
震えているのか 風に綿毛が揺れている
あるいは 待ちきれずに
あわて者はすでに 風の中

柔らかな春風を たくさん吸い込んで
風船のように膨らむ 子供のお腹
その喜びに満ちた息に 包まれるように
空に 旅立つこと
それはきっと タンポポにも
心強く 嬉しかったこと
種は勢いにまかせ 空に吸い込まれていく

そうして子供は しばらくは
空を見上げたまま
バイバイを告げる 小さな手を振る

そんな大きな仕事をしたのに
いつの間にか 普段通りの
悪戯げな顔に戻って 走り去って行く

その楽しげな様子に
春風も 芽吹いたばかりの緑も 
すべてが 子供よ
君の後を ついて行こうと手を伸ばしている

これから どんな風景が
君のまだ柔らかいままの肢体に
まとわりついてくるだろう

全てのものが 薄明かりの中で
輪郭を 輝やかせたまままの
君の目に 見えてくるものが
幸 多きものであるように

君の顔の 穏やかな希望が
タンポポの種のように
遥かなる大地へと運ばれて
君を 楽しませてくれる場所に
花つけるようにと

僕も今日の日の思いを
風の中に飛ばしてみる・・・・・