風のささやき

夏の蝉

それはいつでも
ふとした瞬間に聞こえる
頭の奥で鳴いている
一心な蝉の声

いつからか
耳の奥の林の中に
住みついた透明な夏の生き物

初夏のバス停で仰ぎ見た空
どこかでなっているガラスの風鈴
僕よりも背の高い向日葵
口を近づける赤いスイカの大きさ

ふとした瞬間に響く
透明な鳴き声
何処かの世界に僕を
繋ごうとする
糸電話のように

「もしもし」と
話しかけてみると
夏の忘れ物だよと
糸を震わす声がする

きっと忘れてはいけない
大切な時間があるから
透明な蝉は
頭の奥でずっと鳴いている

心に大切にしまう
幼い夏の日の思い出
日に焦げて林をかけた日々

ふとした瞬間に
耳を澄ませば
どこからかまた
聞こえてくる透明な蝉の声