風のささやき

写真に

一枚の 写真の上のあなたは
異国の 強い夏の陽射しに
目を細めている 麦わら帽子を深く被って
笑っている まぶしそうにこげた顔
僕の見知らぬ 色彩豊かな寺院の前に立って
小さく手を振る あなたにつられて
僕も思わず 微笑んでしまうから

そのときの あなたの胸には 
どんな調べが 流れていたのだろう
あなたを豊かに育んでくれた
華やかな色彩 鮮やかな陰影 
異国の人の 肌の色合い
暮らしの中に 立ち込める匂い

僕がそのとき あなたのそばにいられたならば
あなたはどんな言葉を 僕にくれたのだろう と
写真のあなたと話せない僕は どこかもどかしいままに

けれど 知っている
あなたが体にためこんだ だくさんの風景は
深い色合いのとけこんだ 始めの海のような
栄養豊かに あなたを育むゆりかご

あなたの口元に ときどきキラキラと
そんな風景が 呼び立てられて 姿を変えて
産まれたての天使のように
まぶし過ぎるばかりだから

僕はひかれ続けて やまないんだ
今度はどんな甘い蜜 こぼれてくるかって
ミツバチやアゲハチョウのように
僕を毎日 豊かに甘くしてくれる ね