風のささやき

冬の思い

いつからか 雪は降り
ボタン雪となって 終わりなく続いた
幼いときに見た 夢の続き
真っ白な舞台の 一夜限りのおとぎ話
声無き 影絵の始まりのように

ストーブの前の椅子 赤い毛布を膝にかけて
あなたは眠ってしまった いつの間にか 
本降りの雪の 様子など知らず
さっきまであんなに はしゃいでいたのに

雪はどんな祈りを 心の真ん中に埋め
降りてくるのだろう 長い長い旅路を
巡礼者のように 敬虔に
壊れやすい結晶の 姿をして

時折は この部屋の灯りに
誘われるものもいて
窓辺に顔を寄せては
透明なガラスに張りついて

とけていく せつなさ
まじわれない せつなさ
―雪は どんな祈りを僕に
 捧げに来たのだろう

やがて大地は 祈りの言葉で
満たされて 静寂を増す

明日の朝になれば 大地から
きっと消える雪は 遠い夢物語として
かなわない祈りは 空に帰り
また降る時を 待つのだろう

雪の降るよりも 微かな吐息で
まどろむ あなたの頭に
僕はそっと 頬を寄せる
溶けることなく 温もり伝わるあなたに
さわれることの うれしさ
きえてしまわない たしかさ

胸に湧く言葉を
綺麗な結晶にみがき
あなたに届けたいと
ささやく雪を 真似たくて
静かに 窓の外に 耳を澄ませた