風のささやき

晩夏の公園

噴水は 涼しい光の花束を咲かせた
咲いては弾ける 白いかすみ草を
何度も空に差し出そうとする あきらめの悪い手

その花びらを ついばもうとする
途方も無い企てに あわてて
鳩の群れが いっせいに羽をうち鳴らしている

空は そんな鳩さえ とまどうほどに澄み渡って
泳ぎ着けない 岸辺の無い水際のように
その中に染まるものは 骨の髄さえ残さずに
青さに 姿を失うと

噴水の流れには そばかすまみれの気の早い落ち葉
その上にとまろうと とまどっているのは
遊び足りない 真っ赤なとんぼ
きっと照り返しが激しくて 複眼の目が見えないから
夏が太陽の陽射しで 型どった透明な羽も
季節の境目に力をなくして
破れ墜落して行く 紙飛行機のように

どこにも 行くところなくした夏が 
最後の祝祭にと 集まってくる
季節のすれ違う 晩夏の公園に
一人足を踏み入れて 交錯する思いに
引き裂かれる僕を

去り難い夏は 誰もいないブランコに揺れて
銀色の滑り台を 急いで何度でも滑る
過ぎ去る時間を 一秒でも惜しむかのように

木立は そんな夏にはもう無関心に
年輪のため息 深まる独り言
そうして 秋の身づくろいとで精一杯だから

秋に誘われる 僕の体も透き通り
あらわになる夏の血潮 脈打たせる血管に
あなたのいない寂しさが
紛れ込み 騒ぎだすから

空を舞う鳩よりも とまどい
噴水に遊ばれる 落ち葉よりもあわてて
あなたの白い肌に 触れていたくなる
優しい声に 胸を満たしたくなる
体中から抜けきらない 寂しさを鎮めて

僕の心が 季節のままの正しい調子
すっかりと 取り戻せるように
あなたの強くて暖かい瞳に
心から つつまれていたくなる