風のささやき

夏の避暑地で

藤椅子にうたた寝をしていた
涼しい高原の風が 今
石を踏む音に気がついて
いそぎ森に帰ったから
ベランダの藤椅子が
あんなにも揺れているのだと話す
僕の言葉を信じない
あなたは軽く笑う

あなたと遊ぶ高原の避暑地は
蝉の声さえさわやかに
風の語り口は耳の裏に
ミントのように涼しい
小さなロッジを囲む白樺は
涼風が森をかきわけた爪のあと

いつの間にか藤椅子に体を沈め
目をつむるあなたは
夢見る子供のような
あどけない微笑を浮かべ
木漏れ日は頬の上の影絵
まぶたは宝石のように
透明に重くなって

あなたが気づかないうち
真っ白な雲が山並みに峰を重ね
森は夏の陽射しを含んで明るい
花にもぐりこむミツバチの羽音
空の水面をすまして泳ぐとんぼたち
さっき遊んだ木のシーソーのぎこちなさ

一瞬ごとの楽しい印象
あなたの心にしのばせる贈り物
森の香りととじ込める
香水の小瓶のような

いつかの夏の日
胸の片隅に取り出し垂らす
体いっぱいの緑の涼しさ
甘い花の香りをかすかに含んで と

あなたは目を閉じたまま
長い髪で高原の風を遊ばせる
寄ってくるたくさんの風が
光を運びあなたを輝かせ
まぶしいばかりだ

あなたの眠りに
青ざめた寂しい夏の影が
入りこまないようにと
少し緊張をしながら
僕のささやかな贈り物が
あなたの胸に届けられるようにと
形かえる雲を眺め考えていた