風のささやき

明るむ春に

梢には若葉が芽吹く
春の美しい食べ物
木立を回った風は
新鮮な香りにお腹を膨らませた

春はあまねくすべてのものとある
花壇にも小さな鉢植えにも
花が待ちわびた思いを咲かせる

穏やかな午後の陽射しを
背中に楽しみ
のどかな雲を見上げて
明るく感じられる方へと歩く

赤い屋根の家 子供の遊ぶ庭
小さな公園 人も少ない喫茶店
学び舎の校庭には若い声
大地を蹴る力 汗さえも流して

こんなにも生がもつれる前に
まだ見ない希望に膨らんでいた
忘れかけの笑顔で 僕も

あの頃から春のような陽だまりを胸に
明るむ人になりたいと思う
人に温かく あどけなく菫を眠らせる
明るむ春の様子を真似て
梢をいっせいに芽吹かせる
菜の花で彩りをそえる魔法を

けれど学びの遅い弟子で 僕は
いつまでも身につけられずにいる
その春の習いを

まためぐる春に途方もなく迷い
遠い空の水面に目線を泳がせて
強い風の海原におぼれる

せめて歩いて行ければ
明るく感じられる方へ
僕をきっと呼んでくれている