風のささやき

雨上がりの街

君たちの小さな瞳には
あの空を横切る虹が
どんな不思議な色に
映っているのだろう

雨上がりの明るむ街並
通り雨に濡れ 声をあげながら
走り込んだ家の軒先
まだ乾かない髪を 気にすることもなく
愉快なほどに 目をまるめる
君たちのために もう少し
ここにいて 天がける
きれいな彩りを 眺めていよう

世界中にあふれる
美しいもののかけら	
たとえば今日の虹 夕焼けの金色
青い空を支える新緑 走る雲の速さ
鳥のさえずり 天道虫の背中の星も
川の楽しげなささやき 花の一心さも
(そうして君たちにも 
 気がついて欲しい
 人の心にひそむたくさんの 
 はかなくて 美しい思いを)

君たちは一杯 一杯集めるがいい
君たちが大事に集める
絵本や玩具よりもたくさんの数の
美しい風景 言葉や音楽 色彩や不思議な形象で
君たちの小さな胸を 彩り満たせばいい

それは長い影を背負う
寂しい夕べにも道標のように
君たちを正しいところへ
運んでいってくれるだろう
(君たちの心に
 忍び込ませる僕からの手紙
 そのときにはもう
 僕は君たちの大きな力には
 なれないだろうから)

僕が君たちにできることは
あまりにも少ないから
せめてこの一時
虹に見とれる君たちを
静かに見守っていよう
それから虹が消えたら家へ帰って
温かなお湯に頭までつかろう
家までの短い距離を競争しながら

(そうして君たちは知っているかい
 君たちの無邪気な笑顔が
 僕の中の一番楽しい風景となって
 若葉のようにキラキラと
 まぶしいぐらいなんだと)