風のささやき

穏やかな思い

さっきまで騒いでいた 子供たちが
さよなら告げて 波が引くように遠ざかる声
潮風のように まとわりつく風に
うながされて 見上げる空を
溺れるように 群れて鳥が帰る

毎日の見なれた 帰り道
羽で空をたたく 不格好な鳥のように
どこか 淡い寂しさに
僕も あわててしまうから
足を早めて 帰ろう 
きっと僕を待つ あなたのいる家へ

―帰ってゆく子供たちの背中
 見守る 慈愛の夕日は
 穏やかな金の瞳 木立の一葉も見守って

誰もいなくなった 公園のブランコが
風を乗せて まだ揺れている
マンションの窓辺には
また一つ 柔らかな明りが点って
何処かから煮物の 匂いする

花壇に実る 小さなフドウの一房
西日に鈍く 黒く光って
静かに赤い 風に揺られて

その一房さよりも かすかな酸味
後味の悪さが 舌に残る 一日のかたみ
跡形も無く 棚引いて消える
茜色の雲にも似て

顔に火照る 残照のように
悔いだけが まだ胸にひりひりとするから
あなたの面影に あふれた風に抱かれ
柔らかな舌のように 癒される

そんな一日が あったことさえ忘れられて行く 
ありふれた日々の終わりごと
深まってゆく 穏やかなあなたへの思い