風のささやき

潮風に歩いた日

衣服を遊ぶ
 いたずらげな潮風は
  あなたのまわりに

高いところ
 空に溶け出す水平線は
  白い鴎を滑り落として

まだあどけない
 春の光りはその翼に
  一羽、二羽と
   降りて明るむ・・・・・

なだらかな一本の道を
 通ってたどりついた
  切り立つ岬

下から吹き上げる風と
 背中から押してくる風に
  足元が奪われそうに

呼吸を失ったような瞬間の
 真近に浮かぶ
  雲の白さが印象的だった・・・・・

岩肌をたたく
 波の音は耳に大きく

あなたは
 下を覗いていた
  僕の手をとり
   おそるおそるに

あなたの白い襟元
 金色の鎖が
  僕の瞳には輝いていた・・・・・

あなたの声に呼ばれて
 歩いて行く
  岬の先には
   空へと伸びる古い灯台

そのまわりを取り囲む
 草地には背の低い
  春の花が群れて

つややかな緑の皿
 太陽に盛った薄い紫・・・・・

潮風に吹かれる
 その草花は踏まないように
  近づいてゆく灯台の先には
   白い客船が銀色の海原を漂い

あんな船に乗り
 僕らもどこかの
  きっと遠くへと
   伝えようとする

あなたは指先から
 空の青さに
  溶け込んでしまいそうな気がして

その細い肩の感触を
 僕は手のひらに
  しっかりとつかんでいた・・・・・

あなたは不思議そうに
 僕を見て微笑み
  僕はうっすらと
   口元をゆるめる
    微笑みを返して

あなたの横顔を
 照らす日差しからは
  影になる頬へと
   そっと唇を押しあてた。