風のささやき

沖合へ

こぎ出したのは
北極星の輝く海だった

夜
海原は軽く頭をもたげ
進めてゆく
オールもない僕らの
小さな舟を
暗い闇に
つつまれたままの
遠い沖合へ

月影がかなでる
水面の音楽の静けさに
時折は振り返る海岸線
かすかに
またたく街の明かりを送り
灯台はたむけに
光りの花束を投げてくる

それすらも
もう届かない
僕らは
見ず知らずの所へ
向かうのだと
語ろうとする
僕の唇をふさぐように
あなたの瞳は
語りかけてくる
夜空燃え尽きた
短い命の星を映して
(いく千もの費やされる
 言葉以上の言葉で)

行くあては
夜風さえも知らない
繰り返して歌う
波の音を聞きながら
その波間にかいま見る
不安と希望とを二つ
僕らもまた胸に宿して

高ぶる気持ちに
あなたの頭を胸に
長い髪に
隠れた耳元には囁きを

明日は南へ
暖かい
やしの葉が揺れる
白い砂浜へと
ただよう舟を
届かせよう