風のささやき

草原のひととき

しっとりとした大気から
しぼり取る新鮮な露に顔を洗い
目覚めたての蕾を開く
ニッコウキスゲの黄色から

立ち上がるあなたの白い腕を
山影から顔を覗かせたばかりの
夏の陽射しの長い指がつかむ

草原の風も動き始めて
あなたの髪と朝日とを紡ぐ
まるで金色の贅沢な糸紡ぎ

山あいの街は
昨日の疲れを残したままだ
重たい眠りから
目覚める気配さえない

心に音を立てる
草原をゆく風
あなたへの愛しさ
それはとても心地よく

胸一杯の朝の風に
膨らんで僕は
愛しさもそのままに
大きく膨らんでいく

花に囲まれて
僕を見るあなた
朝の光と風にじゃれつかれ
無邪気に笑う顔には

こぼれ落ちる陽射し全てを
花びらにかえて
降らせたかった

天にある野原から
籠一杯に天使が
あなたを祝福するために
摘んだ光りの花びらを

空を流れる雲はいくつも
手に届きそうな高さを
千切れ千切れに
姿をかえながら

言葉なくて僕は
ただまつげをさわる
朝日と風とに目を細めている

あなたへの愛おしさで一杯で
けれど 愛おしさに
透き通れないことも感じて