残存脂肪酸分析  --その科学性と成果の検証--

元企業技術者y 

【要旨】

 遺物に残存している脂質は脂肪酸組成が変化しており、その変化の度合いも不定なので、残存脂質の脂肪酸組成から本来の脂質を特定することには、無理がある。また、脂質の脂肪酸組成データから、脂質を構成する動植物油脂の数の特定はできない。数の特定が出来なければ、動植物油脂の種の推定は不定解となろう。残存脂肪酸分析は、ある動植物に特徴的な脂肪酸が検出された場合は有効であり、油脂源が一つと判明している場合に大まかな目処を得るのに有効であるかもしれないが、原理的な矛盾を内包している方法である。その成果を全面的に信頼することは問題があろう。


 【1】はじめに
 【2】「残存脂肪酸分析」の原理とプロセス
 【3】「残存脂肪酸分析」の前提
   (3-1)化学から見た“脂肪酸不変の前提”
    (3-1-1)トリグリセリドの構造
    (3-1-2)トリグリセリドの種類
    (3-1-3)トリグリセリドに関係する化学変化
   (3-2)“脂肪酸不変の前提”の対照実験及び遺物からの検証
   (3-3)“脂肪酸不変の前提”に関する従来の見方
 【4】「残存脂肪酸分析」データの解析
   (4-1)動植物種の推定方法に対するこれまでの批判
   (4-2)動植物種の合理的推定の可能性への疑問
 【5】「残存脂肪酸分析」の成果の検証
   (5-1)食品炭化物に係わる分析
    (5-1-1)山形県押出遺跡
    (5-1-2)秋田県上の山II遺跡
    (5-1-3)小樽市忍路土場遺跡
     (5-1-4)青森県熊ヶ平遺跡
   (5-2)糞石に係わる分析
    (5-2-1)宮城県里浜貝塚・他
   (5-3)土壌に係わる分析
    (5-3-1)北海道八雲町山越2遺跡
 【6】今後のために
 【7】まとめ

 [謝辞] [あとがき] [参考文献] [用語]

【1】はじめに

 「残存脂肪酸分析」は、1980年代に日本に紹介されてから、国内の数多くの遺物や遺跡において、適用されてきた。これらに関する文献は、太田氏ならびにash氏により、詳細に集約され、インターネツト上で、書誌的事項を一覧できる1) 2)
 このような文献の中には、批判的な文献もあり、ash氏の集約では、8文献が批判的な文献3)〜10)に分類されている。
 これら批判文献の内、6)〜8)は未見であり、それらと重複の恐れがあるが、化学から見た「残存脂肪酸分析」の科学性を考察し、「残存脂肪酸分析」の成果のいくつかを検証したい。
 本稿の目的は、化学の立場から「残存脂肪酸分析」の科学性と成果を検証し、非合理部分と合理部分を分別することにより、「残存脂肪酸分析」を正当に評価するための一つのたたき台を提供することにある。

【2】「残存脂肪酸分析」の原理とプロセス

 「残存脂肪酸分析」は、遺物に残存している残存脂質の脂肪酸の種類と量(=組成)を測定し、その組成から本来の脂質の起源を推定する方法である。
 「残存脂肪酸分析」のプロセスは図1のとおりである。P0は考古学、P1〜P4は化学が主体となろう。P5は数学であろうか。
 「残存脂肪酸分析」の導入と実践をリードしてきた中野氏は、「すべての動植物は脂質をもっており、その主成分である脂肪酸の割合は、動植物の種によって少しずつ異なっている。そこで、この脂肪酸の化学組成の違いをいわば指紋として使おうというのが、脂肪酸分析法である。考古学資料に残存している脂肪酸組成を分析し、現生の動植物や絶滅した動植物の脂肪酸組成のデータベースと照合すれば、それが何であったかを特定できる。」と説明している11)

図1.残存脂肪酸分析のプロセス
P0.遺物の発掘、分析対象の選定
       ↓
P1.遺物からの残存脂質の単離
       ↓
P2.残存脂質の加水分解による脂肪酸の遊離
       ↓
P3.遊離した脂肪酸の分析
       ↓
P4.残存脂質の脂肪酸の組成の把握
       ↓
P5.残存脂質の脂肪酸の組成から
  本来の脂質の動植物種の推定

【3】「残存脂肪酸分析」の前提

 さて、「脂質の由来する動植物が特定できる」ためには、当然ながら、脂肪酸が変化していない状態で、残存していることが前提になる。残存脂肪酸分析の前提は、“残存脂質”の脂肪酸組成が“本来の脂質”の脂肪酸組成と変わっていないことである。脂肪酸が変化した場合、“本来の脂質”の合理的な推定は不可能になる。指紋が変わったのでは、犯人特定に役立たない。
 この脂肪酸不変の前提が、長年月、自然環境下にあった遺物に付着していた脂質について成立するであろうか?分子の構造と化学反応に関する知見から考察し、次いで、これまでに行われたモデル実験を検証したい。

(3-1)化学から見た“脂肪酸不変の前提”

 脂質の内、動植物油脂の主成分であるトリグリセリドとその構成分である脂肪酸を対象として、その変化について考えることにする。トリグリセリドまたは脂肪酸において、分子中で変化が起きる可能性のある場所はどこか、どのような変化が起こり得るか、変化が起きる条件(変化を起こす原動力)は何か、遺物の置かれていた環境条件は、変化が起きる条件に該当するか、等を検討してみたい。なお、脂肪酸とその関連物質の基本事項については、本稿末の[用語]を参照していただきたい。

(3-1-1)トリグリセリドの構造

 トリグリセリドは、グリセリンに脂肪酸が3個結合した化合物で、図2左の構造を持つ。 字の色が青の部分がグリセリンに由来する部分で、赤の部分が脂肪酸に由来する部分である。

図2. トリグリセリドの構造
 CH2OOCR
 
 CHOOCR'
 
 CH2OOCR''
 
    加水分解
 +3H2O →→→→ 
 
 
 CH2OH
 |
 CHOH  +
 |
 CH2OH
 RCOOH

 R'COOH

 R''COOH
 トリグリセリド    グリセリン  脂肪酸

(3-1-2)トリグリセリドの種類

 グリセリンには脂肪酸が結合できる場所が3個所ある。脂肪酸の種類も、炭素鎖の長短、二重結合(不飽和結合)の有無、その数、炭素鎖中の存在位置により、多種類がある。多種類の脂肪酸から同一の場合も含め3種の選択と、更にグリセリンの結合位置による順列組合せがあるので、非常に多数の種類のトリグリセリドが存在し得ることになる。
 動植物に由来する油脂は、これら多数の種類のトリグリセリドの混合物であり、その組成は動植物種により異なる。動物の場合、食性に依存する部分もあるが、一般には、その動植物種に特徴的な組成を持つ。本来であれば、トリグリセリド分子種の組成を求める方が、トリグリセリドを分解して脂肪酸の組成を求めるより豊富な情報が得られる筈である。が、分析技術上の制約から、「残存脂肪酸分析」ではトリグリセリドを分解した脂肪酸の組成を求めていると思われる。

(3-1-3)トリグリセリドに関係する化学変化

 トリグリセリドの構造で、化学変化を受ける可能性のある場所は二つある。
 その一つは、グリセリンと脂肪酸の結合部分(図2参照)である。この繋ぎ目が分解を受けやすい。本稿では、便宜上、この分解を主鎖の分解と呼ぶ事にする。主鎖の分解は、図2の右に示すように、トリグリセリド1分子が水H2Oの関与する分解(=加水分解)で、グリセリン1分子と 脂肪酸3分子に分解する反応である。分解にはモノグリセリド1分子+脂肪酸2分子、ジグリセリド1分子+脂肪酸1分子の分解もあり得る。
 分解を受けやすいもう一つの部分は、脂肪酸自体である。二重結合(不飽和結合)が存在する脂肪酸(=不飽和脂肪酸)では、二重結合の部分が化学変化を起こしやすい。
 別種の分解として、生体の代謝に係わるトリグリセリドの分解がある。生体内に摂取されたトリグリセリドの主鎖が酵素により分解された後、脂肪酸は炭素数が逐次的に2個づつ減少するβ酸化と呼ばれる分解を受ける。β酸化は脂肪酸の飽和、不飽和に拘わらず起こり、生体はエネルギーを獲得し、脂肪酸自体は最終的には水と炭酸ガスに分解される。

(3-1-3a)主鎖の分解

 主鎖の分解は図2に示したように、トリグリセリドが水と反応して分解する反応である。この分解には水が必要であり、水分不在の絶乾状態では起こり得ない。主鎖の分解は、酸性またはアルカリ性条件下で促進される化学反応による場合と、微生物などの酵素(リパーゼ)による酵素反応による場合がある。
 反応速度に関する理論に従えば、化学反応の場合も、酵素反応の場合も、反応の原料であるトリグリセリド濃度の減少につれ、反応速度は遅くなる。しかし、反応原料が存在する限り、平衡状態に達するまで進行する筈である。このことは、反応初期には主鎖分解が極めて速やかに進行し、その後、緩やかになることを意味する。一見、分解が停まったように見えても考古学的長時間のスケールで見れば、緩やかに進行していると考えるべきであろう。
 主鎖の分解が起こらない条件は、水分不在の絶乾状態、微生物不在の滅菌状態である。この条件が保証されない場合、主鎖の分解は起こる可能性がある。遺物の存在状況で、この条件が保証される場合は少ないと思われる。

(3-1-3b) 不飽和脂肪酸の化学変化

 不飽和脂肪酸は、トリグリセリドの状態で存在している場合も、遊離の状態で存在している場合も、その二重結合は化学的に不安定であり、酸素の関与する反応により変化を受けやすい。化学的にはラジカル反応と呼ばれる反応タイプに分類される。
 この反応は、熱、光、酸素、重金属イオンなどにより、誘発、促進される。この反応で中間的に生成する過酸化物やラジカルは、非常に活発な反応性を持ち、再結合、分解など多様な反応を引き起こし、最終的な生成物は複雑な様相を呈する。
 主鎖分解の場合には、生成物がグリセリンと脂肪酸であり、単純明解だが、不飽和脂肪酸の化学変化は、ラジカルが関与する反応であり、不規則である。一旦、ラジカルが生成すると、再結合、不均化、水素引き抜きなどで停止するまで、反応がどのように進行するか、不飽和脂肪酸の種類やその置かれている環境条件や共存する他物質の状況により異なり、予測しにくい。結合や分解により、炭素鎖は長くもなれば、短くもなり得る。
 不飽和脂肪酸の変化が不規則で複雑なことは、残存脂質の脂肪酸組成の変化が不規則であることを示唆し、「残存脂肪酸分析」の確度に微妙な影を投げかけている。
 不飽和脂肪酸の二重結合は化学的に不安定なので、酸素が存在すれば化学変化は起きると考えられる。現代の加工食品では、酸素を除去する真空パックや窒素シールで、脂質の化学変化を抑制している。遺物の存在状態は、真空パックや窒素シールの状態でないので、酸素の影響は避けられず、不飽和脂肪酸の化学変化は不可避であろう。

(3-1-3c) β酸化による脂肪酸の分解

 β酸化は生体の代謝に関係する分解であり、トリグリセリドが微生物や動物に取り込まれた場合に起こる。 β酸化により、脂肪酸は分解され消失する。遺物近傍に微生物が存在すれば起こりうる普遍的な現象である。

(3-2)“脂肪酸不変の前提”の対照実験及び遺物からの検証

 化学的には、遺物のトリグリセリドの分解や不飽和脂肪酸の変化は不可避と推測されたが、現実にはどうであろうか?“脂肪酸不変の前提”をモデル実験から検証してみたい。
 エゾジカの脛骨の実験データ12)を検討してみる。このデータは実験開始時の数値を100%とすると、実験開始時→14ヶ月後→23ヶ月後の脂肪残存率が100%→6%→5.2%と読みとれ、脂肪は当初の約5%に減少している。残り約95%の脂肪は、主鎖分解とそれに続くβ酸化により消失したと見られる。
 また、実験開始時→14ヶ月後→23ヶ月後の脂肪酸組成の数値は変化しており、脂肪酸の変化が起こったことを示している。不飽和脂肪酸であるリノレン酸は、2.8%から0.7%に減少し、一方、アラキジン酸以上の高級脂肪酸は、0.5%から5.6%に増加している。これは、不飽和脂肪酸の変化により生成した中間生成物の結合により、炭素鎖の長い高級脂肪酸が新たに生成したか、不飽和脂肪酸や低〜中級脂肪酸が高級脂肪酸より速やかに分解され、高級脂肪酸の比率が相対的に高くなったためであろう。
 モデル実験でなく、実際の遺物でも、Thornton, M.D., Morgan E.D. & Celoria, Fの報告13)からは、主鎖分解と側鎖の変化が起こってることが示されている。難波氏の要約14)によれば、「bog(沼沢地帯)で発掘されるバター状の油脂が沼地に沈んだ人間や動物の脂肪に由来することは、明らかだが、長い年月の間に、不飽和脂肪酸が酸化され、飽和脂肪酸に変わり、かつグリセリンエステルが分解してしまうため、みんな同じような飽和脂肪酸の組成になってしまう。従って、湿地や水の中にある脂肪は、どの動物に由来するか鑑別できなくなる」となる。
 また、発掘調査報告書(例えば、忍路土場遺跡15)にも、遊離脂肪酸やジグリセリドの存在が報告されている。遊離の脂肪酸やジグリセリドを多量に蓄積する動植物は存在しないので、これらの存在は主鎖分解が起こっていることの証左である。
 「主鎖分解が起こっても、脂肪酸が遊離するだけのことで、脂肪酸組成には影響しないのでは?」との見方も考えられる。が、遊離した脂肪酸の性状は元のトリグリセリドと異なる。トリグリセリドの状態では流亡し難かった脂肪酸が、遊離したために流失し易くなることはあり得る。パルミトレイン酸(palmitoleic acid)のような低融点の脂肪酸は、遺物や近辺の土壌から流失しやすいことを難波氏は指摘した9) 10)。土壌による吸着があるので、低融点が直ちに流失に結び付くとは考えにくいが、主鎖分解は脂肪酸組成を変化させる一つのトリガーになり得る。
 また、「対照実験から見て、油脂の主鎖分解や不飽和脂肪酸の変化は、1〜2年で安定した状態になるから、分析やデータ解析に支障ない」との見方もあるようだが、どのように、どの程度変化したか、遺物の場合には判断できない。指紋の変化が安定化したからといって、既に変化した指紋では犯人特定に使えない。
 以上のように、「残存脂肪酸分析」の前提である“脂肪酸不変”は、化学的な立場からの推論では成立困難であり、モデル実験及び現実の遺物でも、成立していない。

(3-3)“脂肪酸不変の前提”に関する従来の見方

 実証的に成立しない“脂肪酸不変の前提”が、従来どのように認識されてきたか、振り返ってみたい。
 中野氏は「脂肪は微量ながら比較的安定した状態で千年・万年という長い年月を経過しても変化しないで遺存することが判明した」11)という表現で、“脂肪酸不変の前提”を全面的に肯定している。この表現は中野氏の各種論文に常用されている16)〜 19)
 この常用文の出典として、中野氏は、『歴史公論』掲載の自分の解説(1984年)20)を引用したり、Rottlaenderの文献(1979年)21)を挙げている。
 文献20)は解説であり、“トリグリセリドは変化しないで遺存する、脂肪酸は変化しない”ことを実証するデータはない。
 文献21)は、難波氏が“…引用文献が一切なく、また叙述形式も原著論文のように「序論」、「材料と方法」、「結果」、「考察」、「文献」というように区別した記載がなく、原著論文でもなく総説でもない。…”“…文法的な誤りが多々見られます。学術的には、きわめて低レベルにあり、たぶんまともな雑誌なら間違いなく、却下される…”と指摘14)した文献である。
 文献21)には、W.V.Stokarの業績の紹介があり、その中に“……pollen and seeds organic molecules of higher molecular weight (like fats and steroids) are often preserved unchanged over ten thousands of years.……”の表現があるが、unchangedを証明したデータ、手法または根拠について、何の記載もない。また、Rottlaender自身のデータの記載はあるが、それを用いて、「千年・万年という長い年月を経過しても変化しないで遺存する」ことに言及した部分はない。また、文献4)によれば、Rottlaenderの別文献(1990年)22)には、リノレン酸を用いたモデル実験の例が記載されている模様であるが、千年・万年の不変とは結び付きつかない。
 なお、文献4)は、主鎖の分解及び不飽和脂肪酸の変化について、多くの例を挙げ、脂肪酸組成の酸化や熱による変質は避けられないことを指摘している。
 以上のことから、「脂肪は微量ながら比較的安定した状態で千年・万年という長い年月を経過しても変化しないで遺存することが判明した」という表現の科学的根拠は極めて乏しいと判断される。

【4】「残存脂肪酸分析」データの解析

 仮に、本来の脂質の脂肪酸が変化せずに残存していた場合、「考古学資料に残存している脂肪酸組成を分析し、現生の動植物や絶滅した動植物の脂肪酸組成のデータベースと照合すれば、それが何であったかを特定できる」であろうか?
 前述の“脂肪酸不変の前提”を第一の関門とすれば、第二の関門は、脂肪酸組成を基にした本来の脂質の起源(動植物)の特定の問題である。

(4-1)動植物種の推定方法に対するこれまでの批判

 魚油におけるDHA、EPAのような不飽和高級脂肪酸、菜種油におけるエルシン酸のような、その種に特徴的な脂肪酸が存在すれば、動植物種の推定はかなりの確度で推定できる。しかし、そのような特徴的な脂肪酸が存在しない場合、「残存脂肪酸分析」では、どの油脂にでも共通に存在する脂肪酸の比率(組成)によって動植物種の推定を行うことになる。
 動植物種の推定については、文献4)5)にいくつかの問題点が指摘されている。それらを列挙すると、以下☆1〜☆5のとおりである。なお、難波氏は☆6を指摘し、さらに☆1に関連し、小池・早坂氏の発表要旨23)を引用し、「イノシシとシカは脂肪酸では区別できない」24)ことを指摘している。また、鶴丸氏は、千歳市柏台1遺跡での脂肪酸分析について、非科学的であり、「前略…氏らは不誠実にも限られた試料との比較で済ませていることが推測されるのであり、考古学にとって全く無意味な分析であると断じざるをえない」と批判している25)

 ☆1.脂肪酸組成の差違の微妙さ

 大きなカテゴリーでの分別ができるだけではないか?

 ☆2.脂肪酸組成の変質

 特定種の動植物を認定するのは困難

 ☆3.脂肪酸由来の不確実性

 経年変化や土壌からの汚染
 動物の部位や食性による脂肪酸組成の変異

 ☆4.推定手続きの不透明

 “脂肪酸組成から内容物を推定する手続きが、分析依頼する側であ る考古学者に対して必ずしも客観的に示されていない”26)

 ☆5.推定に用いる動植物候補の選定基準が不透明

 経験的または先入観による動植物候補の選択。“各資料間の相対的な相関係数から、類似度を樹状構造図として表すものである限り、結果は分析する以前から決まっている”3)

 ☆6.複数の動植物が混合している場合の推定手段の誤り

 ラグランジュの未定係数法の適用は原理的に誤りである9)10)

これらの批判をつなぎ合わせると、

「動植物種による脂肪酸組成の差違は元々微妙であり、動物の部位や食性による脂肪酸組成の変異、更に経年による脂肪酸組成の変化や土壌からの汚染を考慮すると、特定種の動植物を認定するのは困難で、大きなカテゴリーでの分別が精一杯であろう。
推定手続きや動植物候補の選定基準も不透明で、複数の動植物が混合している場合の推定手段に誤りがある。科学的でなく、考古学にとって全く無意味な分析例もある」

となろう。

(4-2)動植物種の合理的推定の可能性への疑問

 このような批判に対し、残存脂肪酸分析において大きな役割を果たしてきた中野氏からの反論は無いようである。残存脂肪酸分析に対する問題点を指摘した論文4)5)が二つ掲載された考古学ジャーナルNo386(1995年)に同時掲載された中野氏論文(残存脂肪分析の現状と課題)12)では、微量の脂質の検出装置の導入とか、データベースの充実とか、技術的な部分での改善について触れているが、本質的な部分の疑問への応答、または問題提起は見られない。
 そもそも、油脂の種類が何種類の動植物油脂混合物かわからない状態で、脂肪酸組成から、動植物の種類の数、動植物の特定、その混合割合の特定が可能であろうか?
 遺物に残存している油脂が、単独の動植物種に由来している場合、“脂肪酸不変の前提”が成立していれば、可能であるが、この場合も脂肪酸組成の微妙な差で、どこまで細かく種を特定できるかの問題23)があり、限界を認識しておく必要があろう。
 遺物に残存している油脂が、複数の動植物種に由来している場合、脂肪酸組成から動植物種の数、動植物種の名称、動植物油脂の混合割合を求めることになる。脂肪酸組成から動植物種の数を求めることはできない。数が分からなければ、名称は特定できない。既知値に比べて、未知数が多く、答えは不定解となり、特定解を求めることは原理的に不能であろう。このことは、難波氏により指摘されたラグランジュの未定係数法の誤用の問題9)10)と関連しているのかもしれない。簡単な例で検証してみよう。

 仮に、牛の脂肪はステアリン酸(S)だけ、豚はパルミチン酸(P)だけ、ウサギはS50%、P50%の混合物として、遺物の残存脂肪を分析したところ、S60%、P40%であったとする。遺物の残存脂肪が一種の動植物に由来するのであれば、遺物の残存脂肪はウサギの可能性が高いということになる。ところが複数の動植物に由来するのであれば、2種混合物なら牛と豚との0.6:0.4混合物、3種混合物なら牛と豚とウサギの0.4:0.2:0.4混合物も可能となる。
 この牛、豚、ウサギの想定例は、次のことを示している。
「脂肪酸組成から、脂肪の由来する動植物の数は分からない」、
「答えは不定解となり、複数の答えが存在する。特定解を求めることは不能である」
「複数混合油脂の場合、動植物脂肪の候補を、脂肪酸組成の相関関係の近いものに限定することは誤りである」
上例で残存脂肪と相関関係の近いものはウサギだが、混合脂肪の場合であれば、関係の遠い牛や豚も条件を満たすことになる。混合脂肪の場合、相関関係の近いものに動植物油の候補を限定した脂肪酸組成のデータ処理は、可能性の一つを示しただけで、真実かどうかは定かでない。
 皮革製品など特殊例を除き、土器や石器などの遺物に付着している油脂が単独の動植物種に由来しているか、複数の動植物種に由来しているかは判らない筈である。このような状況では、仮に第一の関門を突破したとしても、動植物種の合理的な特定は不可能であろう。
 脂肪酸組成から単独の動植物種に由来する油脂か、複数の動植物に由来する油脂の混合物であるか、複数であれば何種類か、その動植物の名称、その混合割合の特定ができれば、時折、油脂や蛋白の偽和で困惑する食品業界にとって朗報だが、そのような分析法は耳にしたことはない。

【5】「残存脂肪酸分析」の成果の検証

「残存脂肪酸分析」の実例のいくつかについて、食品炭化物、糞石、土壌に分け、その手法と成果を検討してみる。

(5-1)食品炭化物に係わる分析

 食品炭化物については、國學院大學考古学会により、詳細に検討されている27)。それらを参考に、山形県押出遺跡、秋田県上ノ山遺跡、青森県熊ヶ平遺跡、北海道忍路土場遺跡の炭化物を検証した。

(5-1-1)山形県押出遺跡11)

 同遺跡から出土した炭化物は、縄文クッキーとの通称でよく知られているが、学術的に不詳な部分が多い。

(5-1-1a)報告概要

文献11)の原文を引用すると

「山形県・押出(おんだし)遺跡(縄文前期、約5000年前)からクッキー状の炭化物が出土した(写真1=省略)。この立体的な装飾を施した「縄文クッキー」を残存脂肪酸分析法で分析すると、クリ・クルミの粉に、シカ・イノシシ・野鳥の肉、イノシシの骨髄と血液、野鳥の卵を混ぜ、食塩で調味し、野生酵母を加えて発酵させていたことがわかった。これには、木の実を主体にした「クッキー型」と動物を主体にした「ハンバーグ型」のものとがあったが、どちらも栄養価は100g当り、400〜500Kcal。成人男子のカロリー摂取量が、1800Kcal/1日だとすると、25〜30gの縄文クッキーを1日12〜16個食べればよいことになる。さらにその栄養成分を街で買った普通のクッキーと比較したところ、縄文クッキーのほうが、タンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、栄養学的には完全食に近く、保存食としてもなかなかのものだった。
 脂肪酸分析によって明らかになったのは、思いのほか豊かな縄文の食生活だったのである。」

となる。

(5-1-1b) 疑問点

 ☆1.学術報告がない

 縄文クッキーに関する学術報告がない。このことが☆2以下の不審点の原因になっている。
 縄文クッキーの分析についての学術報告の探索は次の4手段により行ったが、論文を確認できなかった。なお、中村氏も確認できなかった旨、報告28)している。

  1. 考古学関係雑誌文献データベースである日本考古学協会DAS→該当なし
  2. 国内外の科学技術関係の総合的なデータベースであるJICST(科学技術振興財団)の著者名検索(1981〜2001年)→全19件が該当。内、考古学関係3件。但し、抄録で見る限り、何れも総説であり、原著論文でない。
  3. GOOGLEなど、インターネツト上の検索→原報についての情報は得られず。
  4. 考古学掲示板での情報依頼29)→原報についての情報提供なし。

 なお、日本農芸化学会東北支部・北海道支部合同秋期大会で口頭発表された模様なので、日本農芸化学会誌に転載された同講演要旨30)を閲覧したが、脂肪酸の由来する動植物を特定した方法等は、記載されていなかった。

 ☆2.データ解析の方法が不明

 従って、「クリ・クルミの粉に、シカ・イノシシ・野鳥の肉、イノシシの骨髄と血液、野鳥の卵を混ぜ、食塩で調味し、野生酵母を加えて発酵させていたことがわかった」を導いたデータ解析の過程が不明である。動植物候補の選定ならびに上記の動植物に特定したプロセスが全くわからない。現状では「脂肪酸組成から内容物を推定する手続きが、分析依頼する側である考古学者に対して必ずしも客観的に示されていない」26)との批判の典型的対象例となろう。

 ☆2-1.動植物候補の選定

 動植物候補の選定を相関関係の近いものに限定したとすれば、(4-2)で指摘したように油脂混合物の場合、それは誤りである。

 ☆2-2.動植物の特定

 動植物種の特定にラグランジュの未定係数法を適用したとすれば、難波氏が馬場壇の脂肪酸分析に関連して指摘した9) 10)ようにそれは誤りである。

 ☆3.栄養成分表の作成過程が不明

 文献11)には、縄文クッキーの栄養成分表が掲載されている。この詳細な栄養成分表の作成過程が不明である。作成には二つの方法が推定される。その一つは実際に炭化物を分析した実測、もう一つは脂肪酸分析値からの算出である。どちらか不明なので、双方に対する疑問点を挙げてみる。

縄文クッキーの栄養成分表(文献11より)
 現代クッキー縄文クッキー
(クッキー型)
縄文クッキー
(ハンバーグ型)
エネルギー (kcal) 492 430 471
水分    (g)   3  3.2  6.3
蛋白質   (g)   5.2  18  66.4
脂質    (g)   21.8  7.4  11.7
炭水化物  (g)   68.6  71.4  15.6
カルシウム (mg)  26 250 368
りん    (mg)  50 222  47.7
鉄     (mg)  0.3 575 1120
ビタミン類*    0.06  80.46 148.06
ビタミンA (IU)  0  60 141
ビタミンB1 (mg)  0.04  0.32  1.16
ビタミンB2 (mg)  0.02  0.44  0.4
ビタミンC (mg)  0  19.7  5.5

*私註:ビタミン類の単位は記載されていないが、試算すると、数値はビタミンA〜ビタミンCの数値の合計となっている。(mg)と(IU)という単位の異なる数値を足し合わせた不可解な数値である。

 ☆3-1.実際に炭化物を分析した場合

 ☆3-1-1.炭化したものから元の有機化合物を同定できるか?

炭化物から元の有機化合物をどのように同定し、定量したのか?炭化物から、微量のビタミン類が同定、定量できるのだろうか?
 なお、加熱調理した食品と生の食品の化学的な違いは、前者では澱粉の結晶構造の破壊や蛋白質の変性が起こり、食品高分子の高次構造(長い鎖の折り畳み方)が変化しただけで、化学的な変化をおこした訳ではない。
 炭化となると、食品を構成している分子が化学変化(分解、縮合、炭素化など)を起こし、いわば全く別の分子になってしまうことになる。別の分子になった状態から、元の有機化合物を同定、定量できない。

 ☆3-1-2.縄文クッキーには、栄養成分表記載以外の化合物は含まれていないのか?

文献11)の栄養成分表の重量から算定すると、記載の化合物で100%になる。現代の精製された素材と異なり、当時の素材は植物に由来する栄養成分以外の化合物を含んでいた筈である。例えば、セルロース、ヘミセルロース、ポリフェノール類等である。微量のビタミンが検出されたのに、もっと含量が多い化合物が検出されないのは何故か?縄文クッキーのセルロース、ヘミセルロースは炭水化物に含めて表示したとすれば、栄養成分表のカロリー計算に不合理が生じる。

 ☆3-1-3.炭化部分と非炭化部分の混在物で、元の成分を定量的に推定できるのか?

 例えば、半分焦げて炭化した芋の分析値と炭化していない芋の分析値が同じになるとは考え難い。同じでない分析値から、どうやって、元の組成を算出できるのか?炭化部分と非炭化部分での成分の不均一性は栄養成分表にどのように反映されたのか?

 ☆3-2.脂肪酸分析値からの算出の場合

 この場合、算出は次のa〜cの過程を経て行われたと思われる。
a.脂質の動植物種を特定し、その存在割合を算出
b.栄養成分表の脂肪比率の逆数を乗じて、各動植物種の量に変換
c.各動植物種の量から、栄養成分表に基づき炭水化物、蛋白質を求め、表を作成
なお、ここでいう栄養成分表とは、一般的なデータベースとしての栄養成分表を意味する。
 この算定では、基礎データとなる動植物種の特定とその混合比率が確実なこと、及び換算の基準となるデータベースとしての栄養成分表の存在が前提になる。

 ☆3-2-1.基礎データが不確実

動植物種の特定に不明点が多いことは前述の通りで、基礎データが不確実である。

 ☆3-2-2.栄養成分データベースに無い品目の換算方法が不明

国内の栄養関係者では一般に栄養成分表というと、データベース「科学技術庁資源調査会編集:食品成分表」を指す。平成2年当時は4訂版である。
 これには、シカの肉、野鳥の肉、イノシシの骨髄、イノシシの血液、野鳥の卵は掲載されていない。掲載されていない品目の計算は不可能である。他の特殊な“現代栄養成分表”を用いたのなら、出典を明記すべきである。

 ☆4. 「野生酵母を加えて発酵させていた」根拠が不明

 発酵させたと推定した根拠が示されていない。発酵させた根拠に、ステロール分析によるエルゴステロールの存在を挙げるのであれば、そのエルゴステロールが酵母由来であることの証明が必要である。エルゴステロールは真菌類の細胞膜に共通して存在し、酵母独自に存在するのではなく、カビにも存在する。
 さらに、食品汚染源としての酵母でなく、発酵に用いた酵母である証拠の提示が必要であろう。カビや酵母が生えて放棄したものでなく、酵母で発酵させた根拠を示すことが求められる。

 ☆5.脂質以外の縄文クッキーの成分は何か?

 「忍路土場遺跡・忍路5遺跡報告書」(文献15)の中に、参考として押出遺跡の縄文クッキーの残存脂質抽出量の数値が記載されており、0.7577%である。脂質以外の成分が99%以上となる。土器や石器が対象であれば、脂質以外の成分を分析しても有益な情報が得られる可能性は少ない。が、縄文クッキーは食品遺物なので、定量分析は無理としても定性的には、脂質情報以外にも多くの有益な情報が含まれている筈である。
もし、脂質分析を行っただけで、99%以上の圧倒的な多量成分の分析を無視したとすれば、遺物からの最大限の情報引き出しという本質を忘れたことになろう。

(5-1-1c)検証結果

現在見つけ得た報告の範囲では、縄文クッキーの脂肪酸分析は、科学的根拠不明の部分があまりにも多すぎる。縄文クッキーについての記述ならびにデータが正しいことを確認できない。

(5-1-2)秋田県・上の山II遺跡の炭化物31)

(5-1-2a)報告の概要

 中野氏及び図工社所属3名の連名の報告である。原報の総括(p122)では「上の山II遺跡から採取した炭化遺物試料の油脂は、アラカシ、トチ、クリ等の植物質が23%とアカハラ、モズ、ツグミ等の野鳥および野鳥の卵等の動物油脂が63.9%存在することがわかった。中略……動物性油脂を主体として、木の実を混合させて加熱処理した食品の可能性が極めて高いと推測される」と結論している。

(5-1-2a) 疑問点32)

 「炭化物試料に残存する脂肪酸組成から算出した動植物油脂の分布割合」:原報表5に絞って疑問点を挙げる。

炭化物資料に残存する脂肪酸組成から算出した動植物油脂の分布割合(文献31 表5)
脂肪酸 炭化物 イノシシ
加熱
ウズラ卵
加熱
ツグミ
加熱
アカハラ
加熱
ニホンジカ
加熱
クリ
加熱
トチ
加熱
アラカシ
加熱
計算値
c16:0 39.00 52.66 39.18 31.21 30.16 42.07 35.09 20.26 31.89 40.545
c16:1 16.58 - 3.50 3.39 4.22 6.56 2.08 - - 7.771
c18:0 9.85 15.17 12.45 17.67 13.48 25.95 1.10 2.61 1.70 -1.569
c18:1 13.79 6.83 23.27 11.41 12.13 14.15 10.21 32.93 24.28 -0.658
c18:2 1.22 5.35 16.26 10.36 12.84 4.65 44.15 28.14 35.71 0.839
c18:3 - - 0.28 - - - 10.26 - - -4.056
c20:0 1.61 1.72 - 1.58 6.72 2.81 - 6.50 5.07 -2.693
c20:1 0.27 0.97 0.07 0.34 0.35 0.36 - 7.80 0.46 -0.216
c20:2 0.55 - 0.62 - - 0.24 - 0.10 0.10 -0.468
c20:4 - - - - 6.82 0.05 - - - -1.867
c20:5 - - - 7.46 1.41 0.04 - - - -0.052
c22:0 5.18 7.70 1.87 1.69 - 1.10 - 1.46 0.25 0.889
c22:1 0.15 2.05 - - 0.02 0.38 - - 0.08 -1.893
c22:2 3.04 6.70 0.06 0.01 - 0.38 - - 0.08 5.565
c22:5 - 5.25 - - 6.12 0.15 - - - 0.964
c24:0 8.75 3.65 0.02 10.92 0.48 1.57 - 0.19 0.16 4.428
c24:1 - - 0.09 0.46 - 0.41 - - - 0.071
分布割合(%) 3.6 20.1 19.7 24.1 6.0 3.0 1.9 18.1

 ☆1.脂肪酸の組成比(表5最右欄=計算値)にマイナスの数値がある

 組成比の最小値はゼロで、マイナスになる筈がない

 ☆2.脂肪酸の組成比(表5最右欄=計算値)の合計が100%にならない

 ☆3.動植物油脂の組成比(表5最下欄=計算値)の合計が100%にならない

 ☆4.表の比定では、パルミトレイン酸の数値を説明できない

 炭化物の実測値では、パルミトレイン酸が16.58%と、比率で2位の数値だが、表5呈示の8種の動植物油の内、パルミトレイン酸の最高含量は日本シカの6.56%に過ぎない。これでは、8種の動植物油をどう組合せても実測値とかけ離れた値になる。動植物油の選定に誤りが推測される。

 ☆5.動植物油脂の特定にラグランジュの未定係数法を用いているのは誤り

(5-1-2c)検証結果

 原報表5は数理的な整合性に欠け、非合理である。したがって、表から導いた結論も信頼性に欠ける。ラグランジュの未定係数法を用いているので、動植物油脂の特定に誤りがある。

(5-1-3)小樽市・忍路土場遺跡の炭化物15)

(5-1-3a)報告の概要

 中野氏及び図工社所属3名の連名の報告で、忍路土場遺跡出土の炭化物・土器・石製品の脂肪酸分析に関する報告である。ここでは、炭化物を取り上げることにする。
 原文(p293)では「エゾシカ等哺乳動物9.1%、オットセイ6.1%、イルカ2.2%、シジミ15.0%等海産動物23.3%、野鳥の卵4.5%、ハイイヌガヤ24%、同じ層位の土壌試料N0.11が28.2%、No.12が5.7%等植物種子及び植物腐蝕土壌57.9%分布していた。…中略…貝殻類が動物種では主成分を占め、それにハイイヌガヤ等の木の実を澱粉質として用いて混ぜ合わせ、250℃以上の高温で焼いた可能性が極めて高い。……後略」と記載されている。

(5-1-3b) 疑問点

 ☆1.分析操作の前に、パン状炭化物を有機溶媒で洗浄しているのは不適切

 パン状炭化物に触れた人の手の脂を除去するためとのことで、通常の分析操作の前に、パン状炭化物を有機溶媒で洗浄している。有機溶媒の名前や洗浄の仕方(量、温度、時間、方法など)の記載はない。これらの不記載は学術報告のルールに反する。
 その有機溶媒は人の手の脂だけでなく、遺物に残存していたその他の脂も溶解・除去したと思われる。遺物表面に調査以降付着した油脂だけを除去する方法が確立されているのであろうか。その方法が記載されている報告を引用文献に収載すべきである。この報告書には、そのような引用文献はない。その報告が無い限り、有機溶媒による洗浄が残存脂肪の組成を変化させた可能性は否定できない。脂肪の組成を変化させた遺物の残存脂肪の分析意義は疑問である。

 ☆2.炭化物の脂肪源に近接土壌2点を加えているのは不自然

 脂肪は、土壌により生産されることはない。土壌中の脂肪は、何らかの生物により生産されたものが蓄積したものである。本来的なものと二次的なものを同列に扱うのは不自然である。石器や土器ならまだしも、食品となれば脂肪は主成分の一つである。炭化物となった食品の当初の脂肪含量は近接土壌よりも圧倒的に多かった筈で、近接土壌を脂肪源に想定しなければならないほど、炭化物となった食品の当初の脂肪が変化しているとすれば、そのような微量の残存脂肪を分析して元来の脂肪源を推定する行為自体が無意味であろう。

 ☆3.動植物油脂の特定にラグランジュの未定係数法を用いているのは誤り

(5-1-3c)検証結果

 有機溶媒による洗浄という試料の前処理により、脂肪組成が変化した恐れがあり、分析の意義自体に疑問がある。ラグランジュの未定係数法を用いているので、動植物油脂の特定に誤りがある。

(5-1-4)青森県・熊ヶ平遺跡の炭化物17)

(5-1-4a)報告の概要

 中野氏及びズコーシャ総合科学研究所所属3名の連名の報告である。種特異性相関の項(原報p398)では、「試料中に残存している油が一般的な植物腐植土に由来する油と類似している…中略…従って、炭化物には動物脂肪の他に植物脂肪も混ざっていることを示している」という表現をしている。
 しかし、総括(原報p399)のところでは、「以上の結果から熊ヶ平遺跡から出土した炭化物試料はクリ、クルミ等の堅果類にキジ肉のような野鳥の肉を混ぜて焼いたものと推定された。」と、何故か固有名称が出現する。
 この報告では、ラグランジュの未定係数法に代わり、中級脂肪酸と高級脂肪酸の比をX軸に、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比をY軸にとり、両尺度から種特異性相関を求める手法を採用している。その理由は記されていない。

(5-1-4b) 疑問点

 ☆1.種特異性相関の求め方は、考古学試料に適切か?

 中級脂肪酸と高級脂肪酸の比をX軸に、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比をY軸にとった分類で、試料の値が第一〜第四象限のどこに所属するかで、種特異性相関を求めている。引用文献が記載されていないので、報告者らが案出した方法と推定される。油脂源を大まかに分類する方法として、新鮮な油脂では有効であろう。
 しかし、遺物に残存する油脂は、長時間を経過し、変化していることに留意すべきである。不飽和脂肪酸の化学変化は(3-1-3b)で説明したとおりで、炭素数の変化も含めた複雑な変化をする。中間生成物である過酸化物やラジカルは更に分解し、短鎖脂肪酸になったり、結合して長鎖脂肪酸になるなどの変化がある。考古学的長時間を経過した油脂は、炭素数の変化ならびに不飽和脂肪酸から飽和脂肪酸への変化があるので、これら両軸の尺度による分類には馴染まないであろう。遺物に残存する油脂には、適切な尺度ではない。

 ☆2.動植物特定の過程が不明確

 中級脂肪酸と高級脂肪酸の比をX軸に、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比をY軸にとった種特異性相関からは、動植物種名は特定できない。総括で記載された「クリ、クルミ等の堅果類にキジ肉のような野鳥の肉」を特定した方法が記載されていない。

(5-1-4c)検証結果

 歴史的長時間を経過し、油脂が変化した可能性の強い考古学試料を、不適な尺度により特徴付けしている。動植物の候補の選定理由、ならびにそれから、クリ、クルミ等の堅果類にキジ肉のような野鳥の肉と、特定した経緯が不明である。

(5-2)糞石に係わる分析

(5-2-1)宮城県里浜貝塚・他33)

(5-2-1a)報告の概要

 文献33)「糞石による昔の食の復原」の総括(p45)より

「糞石の残存脂質から、約13種類の食事メニューが推定された。植物食は主としてトチ、クリ、クルミ等の木の実が主体であった。動物食はニホンシカ、イノシシ、タヌキ、イヌ、ニホンザル、アザラシ、クジラ、魚介類、海草、野鳥など各種の組合せが見られた。コレステロールに対するコプロスタノールの比は、ほぼ一定していることから、縄文人は健康的な食生活が観察された。
食事メニューを栄養学的に復原すると一日の摂取エネルギーは2250kcal(9900kj)と理想値に近く、糖質、蛋白質、脂質の3大栄養素および食塩も現代人の目標値に近い値を示した。無機成分、ビタミンも豊富であった。」

(5-2-1b) 疑問点

 ☆1.基礎データが不確実

 ラグランジュの未定係数法を使用しており、また、動植物候補の選定にも疑問があり、比定された動植物種の確実性に疑問がある。

 ☆2.残存脂肪酸分析という質の分析で、何故、一日摂取量がわかるのか?

 脂肪酸分析により脂肪酸組成は判明するが、炭水化物も蛋白質もビタミンも無機質もわからない。糞石の脂肪酸分析により、一日に食べた量は特定できない筈である。

 ☆3.“栄養学的に復原”した方法の記載が無い

 脂肪酸分析から一日摂取量を算出した方法の記載がない。従って“栄養学的に復原”の過程を検証できない。なお、日本農芸化学会大会で発表した模様だが、その講演要旨集34)にも、何の記載もない。

 ☆4.栄養成分比較の図4の数値と本文記載の数値に矛盾がある

 文献33)図4では、一日分の摂取量として、蛋白質596.6g、脂質73.9g、糖質596.6gという数値が記載されている。1g当たりのカロリーを蛋白質4kcal,糖質4kcal,脂質9kcalとして計算すると、蛋白質から2386kcal,糖質から2386kcal,脂質から665kcal、合計5437kcalになる。この数値は「…食事メニューを栄養学的に復原すると一日の摂取エネルギーは2250kcalと理想値に近く、…」という記述と合致しない。
 なお、このカロリー値は、現代人の一日の栄養所要量の2倍以上の莫大なカロリーである。また、蛋白質の摂取量は現代人の一日の栄養所要量の10倍にも達する量である。

里浜貝塚縄文人と現代人の一日分摂取食品の栄養成分比較(文献33 図4)
レーダーチャート

 ☆5.栄養成分データベースに不掲載の食品素材の栄養成分をどう照合したのか?

 「脂肪酸分析から、シカ、イノシイ、タヌキ、イヌ、ニホンザル、アザラシ、クジラetcの動物を同定し、残存脂質の含量と動植物種の混合割合から現代栄養成分表と照合して縄文人の栄養成分を復原した」というが、現代栄養成分データベースである「科学技術庁資源調査会編集:食品成分表」には、タヌキ、イヌ、ニホンザル、アザラシは食品素材として掲載されていない。算出不能の筈である。他の特殊な“現代栄養成分表”を用いたのなら、出典を明記すべきである。

(5-2-1c)検証結果

 動植物種の推定過程に問題があり、一日摂取量の推論過程が明らかでない。本文と図の一日摂取量の数値に矛盾があり、誤謬があると判断される。図の数値は、現代人の栄養所要量のカロリーで2倍以上、蛋白質で10倍という過大な数値である。

(5-3)土壌に係わる分析

(5-3-1)北海道八雲町山越2遺跡16)

 中野氏の新しい報告の例(2001年)として、北海道八雲町山越2遺跡を検討した。この報告は、中野氏及び(株)ズコーシャ4名の連名の報告である。

(5-3-1a)報告の概要

 ☆1.論文構成

 表のとおりで、同じく最近の南茅部町大船C遺跡18)、千歳市キウス4遺跡(7)Q地区19)の報告書も同じ形式である。
 表で、脂肪酸組成の数理解析とは、脂肪酸組成をパターン化し、各試料の類似度を調べる操作である。
 また、脂肪酸組成による種特異性相関とは、中級脂肪酸と高級脂肪酸の比をX軸に、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比をY軸にとり、分析で得られた脂肪酸組成を分類し、種を特定する操作である(参照:5-1-4b)。

論文構成
1.土壌試料
2.残存脂肪の抽出
3.残存脂肪の脂肪酸組成
4.残存脂肪のステロール組成
5.脂肪酸組成の数理解析
6.脂肪酸組成による種特異性相関
7.総括

 ☆2.分析プロセスの特徴

 ラグランジュの未定係数法ではなく、5-1-4bで紹介した種特異性相関を取り入れた構成になっている。

 ☆3.分析試料

 土壙内試料3点、対照試料2点の計5点

 ☆4.結果

 土壙内試料1点に残存する脂肪は高等動物の体脂肪や骨油に由来することがわかった。土壙内試料2点及び対照試料2点に残存する脂肪の由来はわからなかった。

(5-3-1b) 疑問点

 科学的なアプローチは、「土壙の土壌が他の土壌に比べて、脂肪量や脂肪組成が異なるか否か?」「異なるとしたら、その脂肪はどのような動植物に由来すると推定されるか?」「その動植物から見て土壙の用途は、人の埋葬に使った可能性が一番高いと判断されるか?」を明らかにすることであろう。これに対し、実際に行われた分析の合理性を検証する。

 ☆1.分析試料

 土壙土壌のような微妙な判定が必要な対象物では、単なるデータのバラツキを、特徴と誤認する恐れを回避する措置が必要であろう。厳密には、他の土壌に比べ、土壙の土壌の脂肪量や脂肪組成に統計的に有意な差があるかどうかを検定できるように、試料の数と採取場所を設定すべきであろう。このような観点からは、対照試料2点は少なすぎる。試料を増やせば、分析の手間が問題となるが、残存脂肪の抽出以外に手間のかかる分析操作はない。

 ☆2.動植物種の特定

 動植物候補の種類が少なすぎる。原報の図4(試料中に残存する脂肪の脂肪酸組成樹状構造図)には、今回の5試料の他に19試料が掲載されているが、その多くが他の遺跡土壌であり、動植物としては、ヒトの体脂肪とヒトの骨油の2種類だけが掲載されている。
 土壙に残存している油脂の由来を知りたい訳であるから、多数の動植物油脂を参考資料とすべきであろう。参考にした動植物油脂がヒトの体脂肪とヒトの骨油の2種類だけでは、ヒト以外の油脂と類似する訳がない。土壙の用途から見て、ヒトの証拠がでれば良いので、これでよいのだ、という考えもあろうが、それでは、多数の動植物油脂の中に、ヒトよりもっと近いものがあっても排除されてしまうことになる。「人の埋葬に使った可能性が一番高い」との判断には、多数の動植物油脂との比較が必要であろう。

 ☆3.その他

 考古学試料では不適と思われる種特異性相関の方法を適用している。

(5-3-1c)検証結果

 試料数の不足、動植物種候補がヒトの体脂肪とヒトの骨油の2種類だけに限定されていることなど、方法論的に疑問を感じる。

【6】今後のあり方

 以上の検討から、残存脂肪分析は、化学的には論理的な矛盾を内包している方法と判断され、また実際の成果の検証でも多数の不審点が見出された。これらの事から、残存脂肪酸分析の論理性・有効性について、考古学及び化学の学会の間で、または両専門家の間で検討し、学理的な見方を統一することが望まれる。考古学学会が脂質化学やラジカル反応の一線の専門家と検討、議論することは、考古学の発展に役立つと思われる。
 一方、食用油脂の偽和の実用的鑑定に熟達していると推定される油脂業界や消費者団体の検査機関の実務担当者の知識も有益であろう。脂肪酸組成のデータ一つで、油脂の種類数(例:縄文クッキーでは8種類)、油脂の名称、混和割合を確定できるか、否か、脂質化学者より、明解な実務知識を持っている可能性が強い。出来るとすれば、「残存脂肪酸分析」において、その手法の活用が望まれる。出来ないとすれば、これまでの「残存脂肪酸分析」の成果は見直しを迫られよう。
 化学者や実務専門家との意見交換で、これまで「残存脂肪酸分析」で得られた成果を見直す必要がでれば、「残存脂肪酸分析」が基礎となっている部分の考古学の見直しも必要となってくる。
 考古学がモノを土台とする学問である以上、モノの検証にその時々の科学的手法が取り入れられ、考古学に関係する理系関係者が存在する。考古学に関係する理系関係者には、本来の自己の専門分野における研究と同様に、客観性を重視した取組みが期待される。
考古学試料の属性把握にあたり、次の☆1〜☆3が理系関係者に望まれる。

 ☆1.属性情報を正確に把握すること

 ☆2.把握の経路を明確に記録化し公開すること

 ☆3.把握した属性情報をそのまま発信すること(増幅・偏向しないこと)

☆1〜☆3が遵守されない場合、考古学に不当な混乱をもたらす恐れがある。なお、実験の対照試料の取り方によって、実験結果の解釈が異なることはよくあるが、先入観による対照試料の選択なども避けるべきであろう。
 理化学的な分析結果に対する考古学関係者の姿勢としては、

「前略……考古学の側に組織者としての能力が求められることは言うまでもないが、現実には共同研究者として一体化が見られないどころか、分析結果の対応にも無責任な姿勢が目立ち、自然科学の導入の一方で発生する結果の解釈と総合化の責任を放棄しているというべき現状である。その結果、非科学的・非良心的な分析報告が堂々とまかり通ることになるのである……後略」

との指摘23)を生かすべきと考える。

【7】まとめ

 化学から見た「残存脂肪酸分析」の科学性を考察し、「残存脂肪酸分析」の成果のいくつかを検証した。

  1. 「残存脂肪酸分析」の前提である“脂肪酸不変”は、化学的な立場からの推論では成立困難であり、現実のモデル実験及び実地の遺物でも、“脂肪酸不変”の肯定例はなかった。
  2. 「脂肪は微量ながら比較的安定した状態で千年・万年という長い年月を経過しても変化しないで遺存することが判明した」 という常套的文章の具体的根拠は見いだせなかった。
  3. 脂質の由来する動植物種を特定する解析過程において、その動植物種が単独であることが保証されている場合を除き、脂肪酸組成の相関係数の近似度で動植物種候補を限定することは誤りである。
  4. 複数の動植物種に由来する脂質が混合している場合、脂肪酸組成データから動植物種の数は分からない。従って、名称の特定も不定解となる。
  5. 脂質の由来する動植物種を特定する解析過程におけるラグランジュの未定係数法の使用は誤りであることは、難波氏により既に指摘されている。
  6. 「残存脂肪酸分析」は、その動植物種に特徴的な脂肪酸が検出された場合は、動植物種の特定に有効である。
  7. 動植物種に特徴的な脂肪酸が検出されなかった場合は、現状においては、二つの選択肢があると思われる。  イ)強引に脂肪酸特定に結びつけることはせず、(後人のために)データを公開・温存しておく。  ロ)数を規定すれば、ラグランジュの未定係数法が使えるのであれば、動植物種の数を仮定して、一種、二種、三種…八種…の場合なら、という前提条件付きで想定する。
  8. これまでの「残存脂肪酸分析」の成果ならびにそれから構築された古代像は再検討すべきである。特にラグランジュの未定係数法を用いた成果は、ご破算にすべきである。
  9. 考古学学界が脂質化学の一線の専門家と共同で「残存脂肪酸分析」について検討し、見方を統一・確立することが望まれる。

【謝辞】

 掲示板での私の投稿に対し、いろいろご意見をいただき、また文献入手に便宜を取り計らっていただいた方々に感謝します。特に太田浩司さん、島岡武さん、中村耕作さん、難波紘二さんにお礼申し上げます。ashさん、図書館通いさんのご意見は有益で、参考にさせていただきました。また、掲載の許可をいただき、いろいろご助言いただきました早坂広人さん、掲載のご斡旋と文献チェックにご助力いただきましたTさんに感謝します。

【あとがき】

 考古学掲示板の議論を元にまとめたものです。見慣れない考古学報告書をみて、脂肪酸分析の跡をたどるのは、推理小説を読むように興味ある作業でした。筆者プロフィールは次のとおりです。本名:山口昌美。元旭化成工業(株)他。東京大学農芸化学科卒・工学博士(博士論文:金属を含む二元系開始剤によるビニル重合の研究)、著作(共同執筆):プラスチックデータブック(工業調査会2000/3)等。化学関係の種々な分野を経験したが、脂質を研究対象とした経験はなく、得意分野でもない。

【参考文献・ホームページ】

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12)中野益男:「残存脂肪分析の現状と課題」『考古学ジャーナル』No.386,2-8(1995)
13)Thornton, M.D., Morgan E.D. & Celoria, F.:「The composition of bog butter.」『Science & Archaeology』 3:20-25,(1970)
14)難波紘二:「ロットレンダー“論文”について」『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[705] (2001.04.28)
15)中野益男・福島道広・中野寛子・長田正宏:「忍路土場遺跡から出土した遺物に残存する脂肪の分析」『小樽市忍路土場遺跡・忍路5遺跡』北埋調報53(1989)(財)北海道埋蔵文化財センター
16)中野益男・中野寛子・清水了・門利恵・星山賢一:「山越2遺跡から出土した土壙に残存する脂肪の分析」『八雲町山越2遺跡』北埋調報163(2001)(財)北海道埋蔵文化財センター
17)中野益男・中野寛子・明瀬雅子・長田正宏:「熊ヶ平遺跡から出土した炭化物に残存する脂肪の分析」『熊ヶ平遺跡』青森県埋蔵文化財調査報告書第180集(1994)
18)中野益男・中野寛子・長田正宏「大船C遺跡から出土した遺構に残存する脂肪の分析」『大船C遺跡』(1998)南茅部町教育委員会
19)中野益男・中野寛子・門利恵・星山賢一:「キウス4遺跡Q地区から出土した土壙に残存する脂肪の分析」『千歳市キウス4遺跡(7)Q地区』北埋調報152(2001)(財)北海道埋蔵文化財センター
20)中野益男:「残存脂肪分析の現状―遺跡・遺物に残存する脂肪は原始古代を語ってくれるか―」『歴史公論』124-133(1984年5月号)
21)Rottlaender,R.C.A.and Schlichtherle,H.:「Food identification of samples from archaeological sites」『Archaeo-physika』10,260-267(1979)
22)Rottlaender,R.:「Lipid Analysis in the Identification of Vessel Function.」『Organic contents in ancient Vessels 』eds.by Birers,W.&P.McGovern p37-50.Univ.ofPennsylvania,Philaderphia.(1990)
23)小池裕子・早坂広人:「考古遺物の脂質分析−種の同定はどこまで可能か」『日本第四紀学会講演要旨集』18,52-53(1988)、日本第四紀学会(http://www.asahi-net.or.jp/~XN9H-HYSK/godhand/dai4ki.htm
24)難波紘二:「イノシシとシカは脂肪酸では区別できない」『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[906] (2001.6.6)
25)鶴丸俊明:「北海道旧石器考古学の論点」『北海道考古学』第37輯2001.03(←図書館通い:『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[1051] (2001.07.21)
26)西田泰民:「縄文土瓶」『古代学研究紀要』2、1-33(1992)←文献4)
27)考古学会展示班2000:「縄文時代の食−加工食品炭化物から−」『國學院大學考古学会誌』2000年度若木祭記念号 國學院大學考古学会 p11-30 および中村耕作私信
28)中村耕作:「re(1)縄文クッキーの組成についての疑問」『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[897] (2001.06.06)
29)元企業技術者y:「文献を教えて下さい」『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[869] (2001.5.31)
30)福島道広、中野寛子、中岡利泰、中野益男、根岸孝:「残存脂肪酸分析法による原始古代の生活環境復原―とくに東北地方の縄文時代前期遺跡から出土したクッキー状炭化物の栄養化学的同定(日本農芸化学会東北支部・北海道支部合同秋期大会講演要旨B-9(1987年、p15))」『日本農芸化学会誌』62、119(1988)
31)中野益男・福島道広・中野寛子・長田正宏「炭化物に残存する脂肪の分析」『上ノ山II遺跡』秋田県文化財調査報告書第186集(1989)
32)元企業技術者y:「上の山II遺跡出土の炭化物の脂肪酸分析」『南河内考古学研究所・喫茶室 記事記録No.1』[925] (2001.6.7)
33)佐原眞・中野益男・西本豊弘・松井 章・小池裕子:「原始古代の環境復原に関する新方法の開発(課題番号01300020)」『平成2年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告書』(1991)
34)中野益男、福島道広、中岡利泰、根岸孝、中野寛子、明瀬雅子、長田正宏:「糞石の残存脂質による縄文人の食の栄養化学的復元(1991年日本農芸化学会大会(講演番号3Tp2)」『日本農芸化学会誌』、 65、577(1991)

【用語】


       付表 脂肪酸とその関連物質の相互関係              
                                       
               脂質                      
      生物体内に存在して、水に不溶、有機溶媒に可溶の有機化合物の総称  
    ┌───────────┼─────────────┐        
    │           │             │        
 ┌─複合脂質    ┌───単純脂質     ┌────誘導脂質      
 │リンや糖などを  │ 脂肪酸と各種アルコール│単純脂質、複合脂質の加水分解
 │ 含む脂質    │  が結合した化合物  │ 生成物で水に不溶の物質&他
 │         │            │              
 │┌─リン脂質   │┌─ロウ        │┌高級アルコール      
 └┤リンを含む脂質 └┤           └┼ステロール        
  │         │            ├テルペン etc       
  └─糖脂質     └─油脂         └脂肪酸          
   糖を含む脂質     │脂肪酸とグリセリンが │ 一価のカルボン酸で  
              │ 結合した化合物   │ 鎖式構造を持つもの  
              │  脂肪:常温で固体 │  一般式は RCOOH   
            ┌─┘  油:常温で液体  │   (R=アルキル基) 
            │             │            
            ├─トリグリセリド     ├─不飽和脂肪酸     
            │  グリセリンに3個の脂肪│  Rに二重結合を含む  
            │   酸が結合した化合物 │   脂肪酸      
            ├─ジグリセリド      └─飽和脂肪酸      
            │  グリセリンに2個の脂肪   Rに二重結合を含まない
            │   酸が結合した化合物     脂肪酸      
            └─モノグリセリド                  
               グリセリンに1個の脂肪              
                酸が結合した化合物              

註:上表は、infoseek(http://www.infoseek.co.jp/)搭載の国語辞典(大辞林)の脂質関連の定義・説明を中心に作成。


平成13年9月16日受領。10月21日公開
平成14年1月14日 南河内考古学研究所喫茶室の発言の過去ログ化に対応し、リンクを修正。他、

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