カンタベリー物語


 イギリス南東部のケント州にカンタベリーという街があり、1960年代にその街を中心として集まった若者達からユーモアあふれるダダイズム的POPなサウンドにジャズやロックなどを取り込んだ独特なプログレッシブ・サウンドが生まれ、そのサウンドは人脈を通じて世界的規模へと発展していったのだが、そんな音楽をカンタベリー・サウンドと呼んでいます。
 カンタベリー・ミュージックシーンはミュージシャン同士の交流が非常に強く日頃からセッションなどを重ねていたようで、一人のミュージシャンが一つのグループに収まっていることが少なく人脈的に全体を把握するのがとても難しいのですが、ここではその代表的なグループやミュージシャンを紹介出来ればと思います。

▼SOFT MACHINE

 そもそも60年代はじめにロバート・ワイアットとオーストラリア出身のヒッピー、デイヴィド・アレンやロンドンから来たケヴィン・エアーズにワイアットの学友のマイク・ラトリッジ、ホッパー兄弟、リチャード・シンクレアらが集まりバンドを組んだ事に始まります。彼らは「ワイルド・フラワーズ」と名乗りカレッジや映画館などでギグをこなしていました。そして66年にアレン、エアーズ、ラトリッジ、ワイアットの4人は「ソフトマシーン」を結成し演奏活動を始めるのですが、67年のヨーロッパ・ツアー後にアレンが諸事情によりパリに残らざるおえなくなりフランスにて「ゴング」を結成します。トリオになったソフトマシーンは68年にファーストアルバムを発表し、アメリカ・ツアーをこなすも、今度はエアーズがイビサ島に渡ってしまった為ワイルド・フラワーズで一緒に演っていてマシーンのローディーもしていたヒュー・ホッパーを加えセカンドアルバムを発表。その後もアルバムごとにメンバーチェンジを重ねながらも音楽的に進化しソフトマシーンは81年まで活動を続けました。

 ワイルド・フラワーズとして活動していた他のメンバー、パイ・ヘイスティングス、リチャード・シンクレア、リチャード・コフランとデイヴ・シンクレアの4人は新たに「キャラバン」を結成し活動していきます。

▼CARAVAN

 71年にはソフトマシーンを脱退したロバート・ワイアットがキャラバンで活動していたデイヴ・シンクレア、元「デリバリー」のフィル・ミラー、「クワイエット・サン」のビル・マコーミックらと「マッチング・モール」(Soft Machineのフランス語の英語読み?)を結成し2枚のアルバムを発表するが、73年にワイアットがパーティの席上で酔っぱらい5階の窓から落ちて背骨を折る事故を起こし下半身不随となりバンドは解散してしまいます。しかしワイアットはその1年後にはカンタベリーの同士達の助けを借りて復活し、ソロアルバムを発表し音楽活動を再開します。

 マッチング・モール解散後フィル・ミラーは兄のスティーブ・ミラー、デリバリーやゴングで活動していたピプ・パイル、キャラバンのリチャード・シンクレア、と「ハットフィールド&ザ・ノース」を結成します(個人的にこのグループが一番好き!)。その後すぐキーボードが元「エッグ」のデイヴ・スチュワートに代わり2枚のアルバムを発表します。しかしアルバムプロモーション・ツアー中にリチャード・シンクレアが脱退してしまいバンドはあえなく解散。

▼HATFIELD AND THE NORTH

 ハットフィールド解散後デイヴ・スチュワートは2ギター、2キーボード編成のグループを計画するも、結局ハットフィールドのベースがニール・マーレイ(後にジョン・グリーヴス)に代わった形で「ナショナル・ヘルス」がスタートします。1st にはゲスト扱いで「ギルガメッシュ」のアラン・ゴウエン(key)やジミー・ヘイスティングス(fl)が参加しています。しかし商業的にはまったく成功せず2枚のアルバムを出して解散。(後にアラン・ゴウエン追悼のため再結成されもう1枚アルバムを出しています)その後デイヴ・スチュワートはイエスやキングクリムゾンのドラマーとして有名なビル・ブラッフォードのバンド「ブラッフォード」に加入した後、ハットフィールドのアルバムにコーラスで参加していた女性ヴォーカリストのバーバラ・ガスキンと「スチュワート/ガスキン」を結成し活動します。

▼NATIONAL HEALTH

 ハットフィールド&ザ・ノースを抜けたリチャード・シンクレアは一時「キャメル」に在籍しますが、その後キャラバンに戻りアルバムを1枚出した後、いくつかのユニット的グループに参加しながらソロとしても活動中。フィル・ミラーとピプ・パイルはエルトン・ディーンらと「イン・カフーツ」としても活動を続ける。

 ざっと駆け足でカンタベリーシーンの代表的なグループを紹介してきましたが、もっと詳しく知りたい人は97年に青林堂から「ロング・ムーブメンツ/ロバート・ワイアットの足跡」という本が出ています。これを読むとカンタベリーを中心としたプログレッシブ・ロックの歴史が良く解ります。
 さらに2004年には雑誌ストレンジデイズの増刊として「カンタベリー・ミュージック」なる本も出てしまいました。


 最後にその他のカンタベリーシーンゆかりのグループ、アーティストの名前を思いつくままにあげておきます。

スティーヴ・ヒレッジ/ヘンリー・カウ/スラップ・ハッピー/アート・ベアーズ/フレッド・フリス/クリス・カトラー/ピーター・ブレグヴァッド/ダグマー・クラウゼ/ジョン・グリーブス/カシーバー/ディス・ヒート/フィル・マンザネラ・801/ブライアン・イーノ/ニュークリアス/マイク・オールドフィールド/カーラ・ブレイ/マイケル・マントラー/ピンク・フロイド/シド・バレット/ジミ・ヘンドリックス/キングクリムゾンetc.


カンタベリーシーンの公式サイトへはこちら「CALYX」をどうぞ。


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