カテゴリーIIサブラクセイション複合体
およびDeJarnatte頭蓋症候群(DCS)
「Brain Matters : Missing Link」 より抜粋
「脳の話ー未知なる連環」:邦題
出版:CAVU Conceps, LLC 2019年刊
著者:Jaseph Unger*
訳者:前田滋
2026.10.15
*Joseph F. Unger., Jr., DC, FICS:
1979:Logan Chiropractic College卒業
1984~同学にてインストラクターを務める
Fellow International Craniopathic Society(FICS).
国際頭蓋療法協会におけるフェロー
訳者からのコメント:
この文章はJoseph Unger, D.C.著「Brain Matters」からの抜粋である 。
カテゴリーII(カテゴリー2)に関して詳しく解説している。
ただし、解説図はあえて引用していない。原本は安価なので、
是非とも購入し、それを見ながら読んでいただきたい。
そうすることで少しでも原本の売り上げに貢献できることを
願っている。
著者のDr. Ungerは、訳者がその昔SOTのベイシック、アドバンス、
クラニオパシーの認定試験を受けにオマハへ行った時(1987年、1988年、1990年)、若手のスタッフとしてセミナー会場や試験会場で走り回っていたので、
頻繁に顔を合わせていたことがある。
また、2012年にはPAACの主催のセミナー講師として来日している。
アンソニーとマイケルの症例
は、体の一部が機能不全を起こした時、
どのようにして全身の組織に影響を及ぼし得るかを示している。
この章では、カテゴリーIIサブラクセイション複合体と、
それがどのようにしてDeJarnatte頭蓋症候群(DCS)を引き起こすかを、
詳しくみてゆくことにする。
すべては骨盤から始まる。骨盤は2つの寛骨(腸骨などを含む)と仙骨の
3つの主要な骨で構成されている。カテゴリーIIサブラクセイションでは、
仙骨と寛骨の接合部である仙腸関節(SIJ)が過度に緩み、ねじれ(捻転)を
伴うわずかなズレが生じる。仙腸関節の不調を招く原因は、
アンソニーの事例のような大きな事故だけではない。日常生活における外傷や
その他のストレスも、仙腸関節の乱れや骨盤のねじれを引き起こす要因と
なり得る。こうした外傷やストレスは、出生時の外傷や、歩き始めの
時期に生じるものから始まることもある。精神的、感情的、身体的、
あるいは食生活に関連するものなど、その他のストレスも仙腸関節を
傷める原因となる。ただし、ストレスや外傷を経験したからといって、
必ずしもカテゴリーIIの状態に陥るわけではないという点には注意が必要である。
とはいえ、カテゴリーIIに関連する問題は非常に多く見られる。
カテゴリーIIサブラクセイション複合体は、過可動性の仙腸関節(SIJ)
によって片側の股関節が後方に、もう片側の股関節が前方に回転する
ことから始まる。この動きを誇張して示した図が下図に示されている。
この動きは連鎖反応を引き起こし、さらなる損傷につながる。
図6.
第5腰椎-回旋
腸骨ASISー上方へ
仙骨ー側屈、回旋と捻れ
閉鎖孔:拡大
カテゴリーIIの亜脱臼複合体は、図に示すように、一連の機械的歪みを
引き起こす。骨盤がねじれるだけでなく、片方の脚が短くなり、
もう片方の脚が長くなる。第5腰椎が回転することで、第5腰椎の
椎間板に大きなストレスがかかり、脊椎全体のバランスが崩れる。
その結果、痛み、椎間板の問題、脊柱側弯症、さらには上半身、
首、肩、頭蓋骨にも影響を及ぼす多くの機能障害を引き起こす
可能性がある。
図7.
腸骨-後方および下方に回転する
腸骨-前方および上方に回転する
大腿骨-腸骨に対して上方に移動し、「見かけ上の」短脚が生じる
大腿骨-腸骨に対して下方に移動し、「見かけ上の」長脚が生じる
腸骨がサブラクセイションを起こすと、図7のように支点を中心に動く。
これにより、脚の骨を上に引っ張ったり、下に押し下げたりする力が生じる。
その結果、脚長が不均等になり、脊椎から頭蓋骨、そして脚から足に至るまで、
全身の歪みがさらに複雑化する。この歪みに対する一般的で過度に単純な
アプローチの一つは、ヒールリフティングを使用することである。
これは、見た目の不均等な脚長を均等にするかもしれないが、
サブラクセイション複合体を固定してしまうことに伴う。
より望ましいアプローチは、カテゴリーIIのサブラクセイション
複合体全体に対処することである。
股関節が回転すると、脚が付着する寛骨臼にも影響が出る。
股関節が後方に動くと、寛骨臼は前上方に移動する。その代償として、
反対側の寛骨臼は後方の股関節に対して後下方に移動する。
その結果、片方の脚は引き上げられ、もう片方の脚は押し下げられる。
そのため、立っているときには、片方の股関節が低く、もう一方の
股関節が高くなる。まるで下手な設計の建物のように、私たちの体も
短脚側に傾いてしまう。下半身への影響はすぐに現れることがある。
股関節がねじれると、膝と足にもねじれが生じる。これは、脚や下肢に
痛みやその他の問題を引き起こし、最終的には足の構造に影響を
及ぼす可能性がある。骨盤を安定させるために、足底装具を
再び使用する必要が生じる場合もある。
骨盤のねじれは、頭蓋仙骨呼吸メカニズム(CSRM:Cranio Sacrum Respiratory Mechanism)の
仙骨端に非常に大きな負担をかける。
このねじれが発生すると、生体の潜在的な潜在活力を抑制する。
言い換えれば、身体は潜在的な活力と治癒エネルギーの低下を
引き起こし始める可能性がある。また、硬膜に負荷かかかる
ことにより、腰痛、頭痛、首の痛み、その他の身体の痛みや
臓器の機能障害が生じる可能性もある。
骨盤より上の部分でも重大な問題が発生する。脚長が短いことを
補うため、脳はこの不均衡を感知し、首と肩の筋肉を緊張させて
身体を直立させるように指令することで、傾きを修正する。
この修正によって、新たな問題、すなわちカテゴリーIIの
歪曲パターンが発生する。
この歪曲パターンは、多くの人が常に背中や肩の緊張を感じる主な
原因になっている。身体の骨格構造におけるこれらの生体力学的特徴が
バランスを崩すと、上半身の姿勢筋の筋肉活動が著しく増加する。
この代償動作が続くと、脳と神経系はこれらの筋肉の緊張を
生み出すに至る。これは反射反応によって緊張を感じている人は
意識的に筋肉を弛緩させることができなくなる。多くの人が首や肩の
筋肉を弛緩させることができないと訴え、何かがおかしいのでは
ないかと考える。確かに問題はあるが、多くの場合、問題は
股関節から始まっているのだ。
首より上の部分では問題はさらに複雑になる。第3章では、
身体の相互関係について説明した。腰のねじれは頭蓋骨に影響を与える。
腸骨は、頭蓋骨の側頭骨と直接的に関連している。骨盤が回転すると、
同じ側の側頭骨も反対方向に回転する。
図 8.頭蓋仙骨の相互関係
後頭骨と仙骨の骨運動の相互関係は、頭蓋療法歴史を通じて
十分に記述されている。しかし、もう一つの関連性は、同程度の注目を
集めているとは云いがたい。それは、股関節の腸骨と頭蓋内の側頭骨との
相互運動である。腸骨が後方に回転すると、同側の側頭骨が内旋する。
腸骨が前方に回転すると、同側の側頭骨が外旋する。
骨盤の歪みが頭蓋骨に反映されるのと同様に、頭蓋骨の歪みも骨盤に
反映されることに留意すべきである。
側頭骨にも股関節と同様のソケットがある。股関節のソケットは
脚の付け根となる部分である。側頭骨のソケットは、下顎骨とも呼ばれる
顎骨、つまり下の歯が収まる部分である。この構造によって蝶番が作られ、
口を開閉したり、噛んだりといった動作が可能になっている。
下顎骨は側頭下顎窩で側頭骨に左右対称に繋がっている。
片側の股関節が後方に変位すると(いわゆる短脚側)、
同側の側頭骨は前方に回転する。図では、顎関節(下顎骨顆)が
後下方に引っ張られているのがわかる。この動きによって、患側の顎の
可動性が低下し、動きが制限される。このまま放置すると、
顎はその側で固定され、正常な可動域が制限される。
図9.
側頭骨の内方変位は、腸骨の後方回転と関連している。
重要な注意点:カテゴリーIIのサブラクセイション複合体では、
頭蓋骨の歪みの程度を測定でき、場合によってはミリメートル単位で
測定できる。正常な状態では、側頭骨は、歩行などの動作で骨盤が
動くたびに、わずかな内旋と外旋を起こす。さらに、頭を片側に向ける
動作でさえ、側頭骨のわずかな相互運動を伴う。これらの動きは、
従来説明されてきた頭蓋仙骨呼吸運動に加えて起こるもので、
呼吸運動の振幅ははるかに小さい。
そして反対側の股関節が前方に回転する。これにより、脚が下方に
押し下げられ、長く見えるようになる。その側の側頭骨は後方上方に回転する。
下顎顆は前方に押し出され、側頭下顎窩はより広く開く。この側の下顎骨は
緩みやすくなり、動きが大きくなる。この動きの増加は刺激や炎症を
引き起こし、この側の顎は損傷や外傷を受けやすくなり、
摩耗も起こりやすくなる。
図l0.
腸骨が前方に回転すると、同側の側頭骨が外旋する
この上方への押し上げと前方への動きが、顎関節機能障害(TMD)を
引き起こす可能性がある。カテゴリーIIサブラクセイション複合体は、
顎関節痛、機能障害、その他の問題を引き起こすことがよくある。
ねじれは顎だけにとどまらない。側頭骨の下にある後頭骨もねじれる。
後頭骨の片側は下方に押し下げられ、もう片側は上方に引っ張られる。
これにより、脊椎の最上部の椎骨である環椎(C1)に楔状の力が加わり、
横方向と後方に押し出される。カイロプラクティックでは、
これを環椎後部サブラクセイションと呼んでいる。
図11.
正常
内旋:頭蓋は狭くなる
外旋:頭蓋は拡がる
頭蓋骨によく見られるサブラクセイション・パターンは、骨盤のねじれに
対応する頭蓋骨の相互的な内外の歪みであり、これはカテゴリーII
サブラクセイション複合体のデジャネット頭蓋症候群を引き起こす。
このサブラクセイション複合体の頭蓋部分では、頭部の片側が狭くなり、
反対側が広くなる。この頭蓋構造の異常は、脳内の脳脊髄液の
流れパターンの変化、頭蓋内圧の上昇、および脳神経の通路の歪みを
引き起こすと考えられている。
図12.正常な顎関節
下顎骨顆が円板後腔に侵入する
関節円盤は前方に変位する
これは、外側側頭骨に対する下顎骨の相対的な位置異常を示している。
この位置ずれは、過可動性や顎関節円板の変位を引き起こす可能性がある。
最終的には、顎関節機能障害、ポッピング音、クリック音、痛み、その他の
機能障害につながる可能性がある。
図13.
腸骨のサブラクセイションが脚の相対的な長さを変化させるのと同様に、
側頭骨のサブラクセイションによって顎を支える側頭骨の一部が再配置される。
この図は、側頭骨の内旋サブラクセイションに伴う顎の位置の変化を示している。
顎関節の下顎骨顆は多少制限されるため、正常な動きが制限される。
図14.下顎窩の概略図
頭蓋骨を上から見たこの図は、下顎顆の位置を示している。
下顎顆は下顎骨の一部で、頭蓋骨に収まる部分である。
図15.
側頭骨外旋:拡がる
下顎窩のおおよその配置:前方、上方、外方にシフトする
側頭骨内旋:狭まる
下顎窩の、おおよその配置:後方、下方、内方にシフトする
カテゴリーIIサブラクセイション複合体の頭蓋骨の歪曲と、それに伴う
デジャネット頭蓋症候群は、図に示すように顎関節の相対的な位置を変化さる。
このサブラクセイションは、顎関節機能障害(TMD)を引き起こすだけでなく、
脳とその多くの機能にさまざまな悪影響を及ぼす。
第2頸椎は、環椎後部とは反対側に後方に回旋する。
図16.後頭骨下方変位
環椎(アトラス)は内旋側の頭骨に向かって回転する
軸椎(C2)は反対方向に回旋する
骨盤のカテゴリーIIサブラクセイションは、短脚側の仙骨の落下と、
それに伴う頭蓋骨後頭部の落下を引き起こす。これにより、
脊柱最上部の椎骨(環椎)に力が加わり、これは反対側に押し出される。
そして、第2頸椎(軸椎)は反対方向に回転する。これらの上部頸椎の
サブラクセイションは、脳脊髄液の脳外への流出を阻害し、
頭蓋内圧の上昇を引き起こし、様々な健康上の合併症につながると
考えられている。
一部の施術者は、このサブラクセイション複合体の上部頸椎のみに焦点を当て、
環椎の位置のみを治療している。仙骨後頭骨テクニックおよび
カイロプラクティック頭蓋療法では、全身が重要かつ統合されたシステムとして
捉えられ、全身に及ぶ介入が行なわれ、この操作がサブラクセイション
複合体全体に影響を与えるストレスや歪みを緩和するために必要となる。
図17.
頭蓋骨、骨盤、硬膜、およびその付属物すべてが
頭蓋仙骨呼吸メカニズム(Cranio Sacrum Respiratory Mechanism:CSRM)を形成する。
このメカニズムは全身の屈曲・伸展の周期的な運動として
説明される。
図18. 屈曲 伸展
この図は、頭蓋の屈曲・伸展の動きを誇張している。
カテゴリーIIサブラクセイション複合体では、ねじれの力が骨盤と
頭蓋骨を相対的な伸展状態を作り出し、側頭骨の相対的関係性
によって対側の頭蓋に屈曲状態を作り出すことがよくある。
いくつかの調査研究では、サブラクセイション複合体による頭蓋の
非対称性が確認されている。
全体的な歪曲複合体は、頭部と脳にある種の障害を引き起こす。
脳内メカニズムによって、CSF(脳脊髄液) には常に圧がかかっているので、
CSFには流出経路が確保されている、。その圧が長時間かかっていたり、
慢性状態にあると、脳の機能に悪影響を及ぼす可能性がある。
一部の研究者は現在、CSFによる脳圧上昇が、アルツハイマー病、
パーキンソン病、多発性硬化症、認知症その他の病気に関係している
可能性があるのではないかという仮説を立てている。
頭蓋療法を実践しているカイロプラクターたちは、この圧がさまざまな問題を
引き起こし、全身至る所に不調を引き起こす可能性があることを
示唆する臨床例を報告している。
脳機能の潜在的変化のもう一つの原因は、硬膜のねじれに起因している。
硬膜の構造は頭蓋内の区画にさまざまな機能を生み出している。
構造のねじれや歪みにより、ある部位から別の部位への圧が変化する
可能性がある。これによって、脳のさまざまな部分間の適切な連携が
損なわれ、他の問題を引き起こす可能性もある。
ありきたりな言葉かもしれないが、骨盤に生じた波紋は、頭蓋に一連の問題を
引き起こす可能性がある。
症例 - Sarah
私が初めてサラを診察したのは、彼女が53歳の時だった。当時、彼女の
主訴は2〜3ヶ月前から続く首の痛みだった。さらに詳しく状態を尋ねると、
10年ほど前から肩の痛みもあるとのこと。彼女には軟骨の退縮が見られたが、
グルコサミンのサプリメントを摂取しても改善は得られなかった。
また、長年にわたって腰痛を断続的に経験しており、ときどき
足底筋膜炎も起こしていた。
さらに、ここ数年はホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)に悩まされており、
腹痛や一般的な胃炎も頻繁に起こしていた。この1ヶ月間、栄養上の配慮や
一般的なカイロプラクティックの施術によって、ある程度の改善は
見られたものの、抱えている問題はすべて残ったままだった。
サラはかなり遠くに住んでいた。さらに厄介なことに、彼女は仕事で頻繁に
出張していた。多忙なスケジュールと治療のために長距離を移動しなければ
ならないにもかかわらず、最初の3ヶ月間で12回彼女に会えた。この間の
彼女の回復はやや不安定だった。ある時点で、彼女はひどい腰痛を再発させた。
それは2週間ほど続き、その後はうまく治まった。歪みを補正しようとして
きた身体が、施術によって本来の正しい配列に適応し、それを維持する
のではなく、むしろ補正状態にとどまろうと抵抗することがよくある。
突然の外傷やストレスによって体の部位がずれることもあるが、
バランスの崩れは時間をかけてゆっくりと進行することもある。例えば、
2歳の時に頭を打ったことで頭蓋骨サブラクセイションを起こし、
バランス感覚が損なわれた成人などが挙げられる。私たちの身体は
問題に適応し、代償する能力に長けているので、症状や痛みを
感じることなく何年もかけて状態が進行することがある。最終的に、
身体がこれ以上の刺激に耐えられなくなると、症状が現れる。
ゴルフボールを拾おうとしてかがんだだけで、激しい腰痛を
経験したという例があるのはこのためでである。ゴルフボールを
拾うためにかがんだだけで突然腰痛が起こったように感じるのは、
実は何年もかけて徐々に進行してきたものなのだ。
さらに話をややこしくしているのは、最初に現れる症状が、
真の問題箇所から、時期の面でも場所の面でも大きく離れている
ことが多いという点である。例えば、首の痛みや頭痛が、骨盤の
バランスの崩れやサブラクセイションに起因していることがある。
つまり、腰や股関節には痛みがないのに、首や頭に痛みが生じている、
といったことが起こり得るのだ。
首や頭の痛みの根本的な原因を改善するには、骨盤のバランスを整え直す
必要がある。こうしたサブラクセイション複合体(椎骨サブラクセイションに
関連する複合的な機能障害)が長年かけて形成される過程で、
筋肉や靭帯、その他の構造的な要素は、異常なストレスがかかった状態で
固定されてしまっているのである。そのため、サブラクセイション複合体が
矯正されたあと、身体が本来の正しいバランスに適応していく過程で、
一時的に腰痛や不快感が生じることがある。
理想的な治癒を妨げるあらゆる要因があったにもかかわらず、サラの状態は
改善に向かっていた。最終的に、彼女の問題の根本には、仙腸関節の
過剰可動性、すなわち「カテゴリーIIサブラクセイション複合体」があることが
判明した。そのため、仙腸関節ベルトを着用し、特定の安定化
エクササイズを行うことが推奨された。カテゴリーIIサブラクセイション
に対する骨盤の調整に加え、頭蓋縫合における特定のサブラクセイション
に対しても施術が行なわれた。
3ヶ月が経過する頃には、彼女の腰痛は大幅に改善していた。長時間の過酷な
移動も、大きな問題なくこなせるようになった。まだ激しい運動は
できない状態ではあったが、腰の状態の改善は目覚ましいものがあった。
しかし、サラの状況において最も特筆すべきは、腰痛だけでなく、
首の痛み、肩の痛み、足底筋膜炎、そして胃炎までもが完全に
消失していたことである。カテゴリーIIサブラクセイション複合体
に対してのみ治療を行なった結果、これらすべての症状が完全に
解消されたのである。
本症例は、治癒メカニズムがどのように構築されるかを示している。
カテゴリーIIサブラクセイション複合体および縫合部の固定によって
生じるストレスは、身体の生理学的・神経学的な機能を阻害し、
治癒メカニズムの主要な構成要素を妨げてしまう。身体には本来、
自らを治癒する力があるものの、カテゴリーIIサブラクセイション
や縫合部の固定(DCS)は、それ自体で治癒することはできない。
これらに対しては、訓練を受けたカイロプラクティック・ドクター
による適切な対処が必要である。
一般的に、治療とはまず症状を適切に診断し、その局所的な問題に対して
何らかの対処を施すことによって決定されると考えられがちである。しかし、
カテゴリーIIサブラクセイション複合体や縫合固着(頭蓋骨の縫合部の動きが
制限された状態)といった症例では、問題の根本原因が必ずしも症状の
現れている場所にあるとは限らない。症状の原因に対して好奇心を持ち、
柔軟な姿勢で向き合うことが、多くの場合、満足のいく結果へとつながる。
なぜなら、生体系が本来の正常な機能を回復したときにこそ、
治癒が起こるからである。サラの場合には、主に対処すべき機能不全は、
カテゴリーIIサブラクセイション複合体およびそれに関連する頭蓋の
機能不全であった。このメカニズムにアプローチすることで、
サラの構造的なバランスが改善された。脊髄神経にかかっていた圧迫が
軽減された結果、脳から身体全体へと、治癒を促すシグナルが効率的に
伝達されるようになったのである。
頭蓋仙骨呼吸メカニズム(CSRM::Cranio Sacrum Respiratory Mechanism)は、
脊柱管内において脳脊髄液(CSF)をより効率的に循環させることができる。
これにより脳内の脳脊髄液圧が低下し、生体内の治癒プロセスと構造的な
機能の連携が改善される。カイロプラクティックにおける
SOT(仙骨後頭骨テクニック)は、神経系を正常に機能させるための
身体のメカニズムを整えることで、身体が本来備えている自己治癒力を
引き出す。施術者は、生じている細かな個々の問題に対処する
のではなく、本質的な箇所にアプローチしなければならない。
特定の問題だけを修正すれば、その問題に対してのみに対処した
ことになる。しかし、身体全体を整えれば、個々の問題は自然と
治癒していくのである。
<DeJarnette Cranial Syndrome(DCS) デジャネット頭蓋症候群>
問題を複雑にしているのは、外傷や慢性的なカテゴリーII
サブラクセイションが、頭蓋骨全体の関節系(縫合)の制限を
引き起こす可能性があることでである。
頭蓋骨の動きが減少あるいは失われると、脳脊髄液ポンプが損なわれ、頭蓋内に
余分な圧が蓄積される。前述のように、この状態はデジャネット
頭蓋症候群(DCS)と呼ばれている。
DCS(頭蓋縫合系機能不全)は、頭蓋骨を構成するすべての骨に関わっている。
これは、骨と骨の間の結合部(縫合)が適切に動かなくなるためである。
この可動性の消失により、骨は脳脊髄液(CSF)を循環させるという重要な
ポンプ作用を十分に果たせなくなる。DCSは硬膜系にも影響を及ぼすが、
硬膜そのもののサブラクセイションが主な原因というわけではない。
頭蓋メカニズムは、硬膜、カテゴリーIIの縫合系、そして頭蓋仙骨
ポンプによる律動的な動きという、3つの主要な要素から成り
立っている。縫合系にサブラクセイションが生じると、それは
頭蓋構造全体に影響を及ぼし、頭蓋の配列に比較的大きな歪みを
生じさせる可能性がある。
このような大きな構造的変化によって、頭蓋孔をはじめとする頭部の
他の部位にも影響が及ぶ可能性がある。頭蓋孔とは、脳神経が
通過する小さな穴のことである。頭蓋骨がねじれると、
このような小さな穴が変形し、そこを通る神経が圧迫されることがある。
この圧迫によって生じる圧力は、影響を受けた神経の機能に
変化をもたらし、患者にさまざまな問題を引き起こす原因となり得る。
その結果、痛みや筋痙攣が生じたり、あるいは三叉神経痛の
ような症状が現れたりすることがある。三叉神経痛は、痛みや、
時には顔面の筋肉のピクつきを伴う疾患である。
下の図は、実際のヒトの頭蓋骨を示したものである。
左右の矢印で示された頭蓋孔の大きさに注目していただきたい。
明らかに大きさが異なっている。
図19.
頭蓋骨の内部には12対の孔があり、これらが脳神経の出口となっている。
脳神経は、頭部および上半身における重要な機能の多くを制御している。
図20.
圧迫された神経 歪んだ頭蓋孔
頭蓋骨のサブラクセイションは、一部の脳神経に圧迫を引き起こす
可能性がある。こうした頭蓋骨の歪みは、カテゴリーII
サブラクセイション複合体およびそれに起因するデジャネット
頭蓋症候群(DCS)によって生じることがある。
その結果、三叉神経痛や顎関節症といった疾患などが生じる可能性がある。
このようなストレスが、骨盤にとっての安全機構の一部でもあると
いうことを理解しておくことが重要である。頭蓋縫合が許容する
動きには限界がある。この制限によって、硬膜にかかる過度な
ストレスが抑えられると同時に、骨盤がそれ以上ねじれることも
抑制される。特に注目すべき部位は骨盤である。骨盤の動きに
不可欠な筋肉は周囲に存在しているが、身体を重力に対して支える
という点において、仙腸関節の靭帯は、いわば孤軍奮闘している
存在なのである。
カテゴリー IIサブラクセイション複合体によって生じる機能不全の量を、
脳は縫合を固定することで神経学的に補っている。
頭蓋縫合の固定は、健康を維持する上で不可欠なメカニズムである一方、
同時に私たちの活力を奪い、脳から身体の各部位に至るまで、しばしば
神経機能障害を引き起こす原因ともなる。
DCS(DeJarnette Cranial Syndrome)のように縫合線が固定されてしまうと、
その影響は急速に現れ、痛みを伴うとともに、心身の機能を
著しく損なうものとなり得る。以下の症例が、そのことを如実に
示している。
症例 - Nick
頭蓋骨は、外部からの力から脳を保護する役割を担っており、衝撃を吸収する
性質も備えている。そのため、頭部に打撃を受けて脳震盪を起こしたとしても、
後遺症を残すことなく回復することができる。
ドイツを旅行中、ニックは頭に軽い衝撃を受けた。それはごく些細な出来事
だったため、彼は何事もなかったかのようにその日を過ごした。頭を打つのは、
これが初めてのことではなかった。だが今回、彼の体はこれまでとは
違う反応を示した。
1〜2時間の間に、次から次へと押し寄せる感覚が彼の体を襲った。
まるでドミノ倒しのように、一つの感覚が次の感覚を引き起こしている
かのようだった。やがて、体の右側全体に痛みが広がった。
首、肩、腰、膝、足、そして足首―そのすべてに不快な症状が現れた。
症状は続き、ほとんど日常生活に支障をきたすほどの苦痛をもたらした。
時が経つにつれ、右足の形状が崩れ、土踏まずや足首の他の部分の輪郭が
目に見えて低下した。ニックは世界中の様々な医師の治療を受けようとしたが、
どれも効果がなかった。
私が彼を初めて診たのは、彼が45歳の時だった。それは、彼が頭を軽く打ち
つけてから7年後のことである。彼は絶えず不快感を抱える状態にあった。
車椅子や松葉杖は使っていなかったが、右側に何らかの障害があることは
明らかだった。
彼は右足の感覚を失っており、地面に足が触れていないかのような感覚を
抱いていた。右足の筋肉だけを使って自分の体を持ち上げることもできなかった。
こうした単純な動作ができないことは、神経系に何らかの問題が生じている
可能性を示唆していた。
ニックの身体構造と機能が分析され、脊椎と骨盤の様々な部位に問題が
特定され、それに応じた治療が行われた。右側の症状は改善した。しかし
残念ながら、その改善は一時的なものだった。ニックはせいぜい数日間は
症状が軽減したと感じる程度だった。その後2ヶ月間、治療のたびに
症状は改善し、数日後には悪化するという状態が続いた。
ニックの問題は解決できると確信していたが、どうすれば
解決できるのかはまだ分からなかった。
なぜならニックは多くの人から頭蓋骨の調整を受けていたからである。
世界中の一流の専門家が集まったが、彼の体はそれらに対する反応が
不十分だった。以前の治療では、縫合糸の完全な調整は考慮されて
いなかった。何ヶ月もあとになって良好な結果が得られたが、
彼が再び痛みに逆戻りするのを見るだけだった、私は再び彼を検査し、
完全な頭蓋縫合術(Integrated Sutural Protocols=ISP)を
行なうことを決断した。
ニックは最初の施術直後にはある程度の踵あげを行なうことができた。
彼の脚の筋肉は再び働き始め、右足が地面に触れていることがわかった。
次の数週間で、彼は 20 ~ 25 パーセントの改善したこを知らせてくれた。
こうして、ニックはDCSを患っていたことが確定されたのである。
劇的な結果が得られたのち、2回目の完全な頭蓋縫合操作が約1ヶ月後に
行なわれた。最初、彼は約80パーセント症状が改善したことを報告した。
しかしこのレベルの改善は長くは続かず、その翌月には 50 ~ 60% の
改善に落ち着いた。
私は、7年前の小さな事件がどうなったのか気になっていた。あまりにも
激しい反応を引き起こし、ほとんど麻痺してしまう可能性があるからだ。
ニックは田舎で育ち、かなり活動的だったことが分かった。
彼が青年の頃、多くの身体的障碍、特に頭部の怪我を経験していた。
彼はスポーツしていて、何度も馬から落ちたり、山積みの干草の束から
落ちたりしていた。肘で頭をぶつけたり、脳震盪も多数起こしていた。
若くて強靱だったので、どれも彼にダメージを与えることはなかった。
怪我は治ったようで、後遺症は残らなかった、ドイツに行くまでは。
たび重なる怪我や外傷が大きなダメージを与えたが、彼の身体は
それらのストレスに適応し補正していた。ドイツで受けた頭の打撲は、
「ラクダの背を折った藁」だったのである。彼の身体は次々に
受けた打撃を受け入れて立ち直るも、もはや適応できなくなっり、
崩壊してしまったのである。
だからこそ、私たちは常に怪我という単純で直接的な状況の向こう側を
見なければならないのだ。なぜなら、たとえ小さな衝撃であっても、
はるかに大きな出来事を引き起こし、劇的な結果をもたらす可能性が
あるからである。ニックやその他多くの人々がそれを証明している。
再び、完全な縫合操作が行なわれた。この記事を書いている時点では、
ニックはまだ治療中だが、私は彼が完全に回復すると確信している。
今後数ヶ月にわたってさらに数回の治療が必要になるかもしれないが、
最終的な成功はほぼ確実である。過去複数回にわたる重度の外傷を
負っているため、完全な矯正にはより長い時間がかかるだろう。今回の治療は、
数十年にわたる重度かつ累積的な頭蓋サブラクセイションを矯正するものである。
<顎関節機能障害 (TMD )>
前述の通り、もう一つの一般的な問題は顎関節機能障害(TMD)である。
TMDは、DCSによって生じる歪みが原因であることが多いと考えられている。
DCSに苦しむほぼすべての人が、ある程度の顎関節機能障害を抱えている。
痛みや問題がなくても、バランスの崩れが生じている可能性が高い。
顎に関連するもう一つの問題として歯ぎしりがある。歯ぎしりは、
頭部の縫合が動かないことによって生じるストレスを軽減しようと
する身体の反応であると考えられている。歯ぎしりは常にDCSの指標
であり、治療せずに放置すると、深刻な歯科疾患を引き起こす
可能性がある。
長期にわたるDCSは、顎の筋肉、首の上部、そして頭部側面の緊張を
高める傾向がある。頭蓋縫合全体を対象とする施術の一分である
統合的縫合操作(ISP:Integrated Sutural Protocols)は、
顎の筋肉や頭蓋骨のその他の部位に加え、上半身全体に生じている
筋肉の緊張に直接アプローチすることで、このDCSを緩和することを
目的としている。
頭痛、顎関節症(TMD)、あるいは歯ぎしりに悩まされている場合、
頭部の問題を完全に解消するには、まず骨盤のサブラクセイションを
解消する必要がある。同様に、腰痛、脚の不調、椎間板疾患、
坐骨神経痛などがある場合には、下半身の問題を解決する前に、
頭蓋縫合の機能を正常化することが必要となる。
<脳の損傷(Brain Trauma)>
外傷性脳損傷(TBI=Traumatic Brain Injury)は、DCS
(DeJarnette Cranial Syndrome)の一般的な原因の一つである。
TBIには、脳震盪、脳震盪後症候群(PCS)、神経損傷、軽度脳損傷、
乳幼児揺さぶり症候群などが含まれる。
「閉鎖性頭部損傷」というのは、頭蓋骨や硬膜が損傷を受けずに保たれて
いる外傷性脳損傷の一種である。米国疾病予防管理センター(CDC)は、
病院の救急外来から報告されるデータに基づき、閉鎖性頭部損傷の
件数を追跡している。報告されなかった症例や、開業医の診察を受けた
だけの症例は、このデータには含まれていない。CDCが発行した
『ニュースやソーシャルメディアにおける外傷性脳損傷に関する記載案内』
(2015年)によると、以下の通りである。
・2010年、米国において、単独または他の損傷を伴う外傷性脳損傷(TBI)
に関連する、救急外来受診、入院、および死亡の件数は250万件に上った。
・TBIは5万人を超える人々の死因となった。
・19歳以下の若年層において、スポーツやレクリエーションに関連する
外傷によるTBIでの救急外来受診件数は、2001年の153,375件から
2009年には248,418件へと、62%増加した。
・外傷性脳損傷(TBI)に関連する救急外来受診、入院、および死亡に
かかる総費用は―単独の損傷であるか他の損傷を伴うものであるかを問わず―
医療費および生産性損失のコストを含め、年間820億ドルを超えている。
その金額には、苦痛や精神的苦痛といった要素は含まれていない。
負傷者の多くは完全には回復せず、生涯にわたってその代償を
負い続けることになる。社会や個人が被る真のコストは、CDC
(米国疾病予防管理センター)によるこうした控えめな推計値よりも、
確実にずっと大きなものある。
この820億ドルという金額のうち、カイロプラクティック・クラニオパシー
(頭蓋調整法)によって、どれほどの額を節約できる可能性があるか
想像してみてほしい。もちろん、それは状況の緊急性が解消された
後の話である。実際には、従来の治療法がその有効性の限界に
達した後も、苦しみが長く続くケースがあまりにも多い。
適切な研究が行なわれれば、頭部外傷を負った人々に対する治療の
質は飛躍的に向上するはずである。
症例 - Daniel
ダニエルは17歳の高校フットボール選手だった。いつもの練習中、彼はボールに
突進し、相手選手と衝突した。その衝撃は凄まじく、頭が後ろにのけぞり、
ヘルメットにひびが入った。その直後、彼は左腰に痛みを感じた。
その日、彼の額には大きなこぶができたが、すぐに消えた。ダニエルは
脳震盪の兆候がないか診察を受けたが、何も見つからなかった。
若くて健康で頑健な彼のことだから、数日もすれば痛みは治まるだろうと
誰もが思っていた。そもそもフットボール選手というものは、常にどこかしら
痛みを抱えているものなのだから。
当初の症状としては、左脚の痺れや、頭を動かすと変動する腰の
痛みなどがあっt。それまで頭痛とは無縁だったにもかかわらず、
頭痛を起こしやすくなった。時間が経つにつれ、首や背中
(上部および下部)に常にこわばりを感じるようになり、継続する
疲労感に悩まされるようになりった。さらに悪いことに、
不眠の症状まで現れ、十分な休息をとることができなくなった。また、
頭部全体に奇妙な持続性の緊張感があり、それが夜になると悪化すると
いう症状もあった。
絶えず痛みに苦しみ、医師から明確な答えが得られないことに苛立ちを
募らせていたダニエルは、私のオフィスにやってきた。怪我が深刻であったため、
安全な施術の妨げとなるような骨折やその他の危険な状態がないかを
確認するために、腰部と頸部のX線検査を行なった。背骨の数ヶ所に
わずかな歪みは見つかったものの、従来の検査のいずれにおいても、
彼の抱えているすべての症状を説明できるような所見は得られなかった。
彼が抱える痛みや苦痛の明確な原因が特定できなかったので、私たちは
その損傷を改善するための最善の計画を見極めようと、一連の試験的な
治療を試みた。しかし、その経過は期待外れなものだった。治療によって
一時的に症状が和らぐこともあり、私たちは「正しい方向に向かっている」と
思ったが、結局、状態が完全に改善することはなかった。彼はクリニックから
かなり離れた場所に住んでおり、高校の授業や課外活動で多忙だったため、
頻繁に通院することができなかった。来られるときには来院していたが、
その後4年間で計13回診察したものの、大きな進展は見られなかった。
私たちは、考えられるほぼすべてのことを試してみた。彼は指示された治療の
ための運動やストレッチを熱心に続けたし、症状の軽減を期待して理学療法も
受けたが、問題は解消されなかった。その後、彼が別の治療法を試すことを
選んだため、私は数年間、彼と会うことはなかった。
彼が治療を再開するために戻ってきたとき、最初の負傷からすでに10年近くが
経過していた。ダニエルは大学を卒業し、クリニックの近くに転居していた。
しかし、歳月は彼の体に決して優しくはなかった。膝に痛みが生じるようになり、
走ると足の裏が灼けるように感じたり、感覚が麻痺したりするようになった。
こうした新たな症状が、それまで抱えていた症状の数々に加わったのである。
彼は依然として睡眠に困難を抱えており、アメリカンフットボールによる
負傷直後から始まった頭部の圧迫感にも、絶えず苦しめられ続けていた。
症状は一時的に改善することもあったが、完全に消え去ることはなかった。
そして再び悪化し、顔にまで突っ張るような感覚が生じるようになった。
その後1年ほど続けた治療は多少の助けにはなったものの、症状をわずかに
和らげる程度のものだった。私たちは、背骨と骨盤のバランスを整える
伝統的な施術に加え、頭蓋骨に対するさまざまな調整を行なっていた。
施術を受けると1〜2日、時にはそれ以上の期間、調子が良くなる
こともあり、着実に改善の兆しは見えていた。問題の根本原因を
突き止められたという確信は持てなかったが、それでも症状が
全く出ない状態まで回復し、この不調から完全に解放される
可能性はあると信じていた。しかし、期待していたような十分な結果が
得られなかったため、ダニエルは治療を一時中断することにしたのであった。
最初の負傷から12年近くが経過したのち、彼は再び来院した。前回の治療を
終えた後、症状は一時的に軽減していたが、やがて再発したのであった。
頭部や首の痛みは、これといった理由もなく著しく悪化していた。
私はダニエルの問題の根本原因を突き止めようと、これまで以上に決意した。
ダニエルの頭蓋骨の構造が固定化されてしまい、統合的縫合操作ISP)
以外の治療法ではこれらの問題を解決できないのではないかと疑い始めた。
彼はもしかして、DeJarnette Cranial Syndrome(DCS)を
患っているのではないか?面談の際、私は頭蓋縫合部治療の全過程を
説明し、これが彼の症状を恒久的に改善するために必要な治療法
であると確信した。彼は一連の頭蓋縫合部治療に同意した。
ダニエルは、最初のセッションを終えた時点で大きな改善を実感した。
頭を締めつけるような圧迫感は数日間消え、頭痛も和らいだ。私たちは
正しい方向へ進んでいるようだった。3回の施術を終える頃には、期待通りの
結果が得られた。すべての症状が完全に解消したのである。彼は再び
走れるようになり、頭痛もなくなった。背中の張りや痛みも消え、
足の痛みもなくなった。12年以上もの間、彼を日々苦しめてきた頭部外傷による
後遺症から、ついに完全に解放されたのである。高校時代に負った外傷は、
今では過去の記憶となった。彼は現在も、何の症状にも悩まされることなく
過ごしている。
ダニエルをめぐる経験は、DCS(DeJarnette Cranial Syndrome)に苦しむ
他の人々にとって、この疾患に対する認識を深めるものとなる。
DCSを抱えたまま、何年、あるいは生涯にわたって苦しみ続けている人が、
他にもどれほどいるのだろうか。こうした非侵襲的な操作法を活用すれば、
どれほどの痛みや苦痛、そして医療費を回避できるだろうか。これらの問いに
対する解答は、適切な研究を通じてのみ得られるはずである。
頭部外傷は、壊滅的な結果をもたらすことがある。また、その症状が持続的
かつ容赦なく続き、従来のいかなる治療法でも改善しないという例も少なくない。
DCS(DeJarnette Cranial Syndrome)に苦しむ人々にとって、
完全な頭蓋縫合操作(Full Cranial Sutural Procedure)」こそが、
唯一の有効な治療法となり得る。他のあらゆる手段が奏功しなかった場合、
カイロプラクティック頭蓋療法が解決策となるかもしれない。
ダニエルの回復は、この考え方を如実に物語っている。
<脳卒中:Stroke>
脳血管障害(CVA)は、脳血管発作(CVI)とも呼ばれるが、一般的には
単に「脳卒中」と称される。これは脳に生じる疾患であり、
その影響は軽度なものから致命的なものまで多様である。
発症の主な機序は2つある。
1つは、何らかの閉塞によって脳の一部への血流が遮断されるケースだ。
例えば、血栓などが生じ、それによって動脈から先の脳領域への血流が
途絶えてしまうといった状態が挙げられる。もう1つは、脳の血管が破裂する
ケースであり、これも同様に血流の途絶を引き起こす。
いずれの場合も、根本原因は酸素欠乏である。脳内で、正常に機能する
ために必要な酸素が十分に供給されない領域は、ごく短時間のうちに
文字通り死滅してしまう。その範囲が極めて小さければ、本人も
気づかないまま終わることもある。しかし、ある程度の大きさの
範囲が影響を受けると、脳のどの部位でそれが起きたかによって、
さまざまな症状が現れる。
例えば、言語中枢が侵されれば、話す能力に何らかの障害が生じる。
手足の筋肉の動きを司る部位が侵されれば、その手足を動かす能力が
損なわれたり、完全に失われたりする。また、記憶を司る領域が損傷すれば、
記憶機能が失われることになる。
世界的に見て、脳卒中は死因の第2位である。2010年には約700万人が
脳卒中を発症し、そのうち600万人以上が死亡している。現在、世界中で
少なくとも3千万人が、過去に発症した脳卒中の後遺症に苦しんでいる。
米国だけでも、医療費による経済的負担は700億ドルを超えると
推定されている。これには、家族や個人の人生にもたらされる甚大な被害、
さらには生産性や所得の損失といった要素は含まれていない。
脳卒中は極めて深刻な疾患ではあるが、適切な食事やその他の予防策を
講じることで、多くの場合、防ぐことが可能である。その衝撃的な統計データを
知るだけでも、適切な予防策を講じようという動機づけには十分なはずである。
脳卒中の兆候を見分ける方法を学び、それが「緊急の医療事態」であることを
正しく認識しておくことは、誰にとっても有益なことである。幸いなことに、
医学は大きく進歩しており、早期に発見できれば、脳卒中による影響を
最小限に抑えることが可能になっている。予防と、適切なタイミングでの治療が
何よりも重要なのである。
脳卒中のもう一つの原因として、遺伝的素因が挙げられる。我々の身体は、
遺伝子によってあらかじめプログラムされている。そばかすの有無や手足の
形といった細部に至るまで、すべてが遺伝子という設計図の影響を
受けている。血管系の隅々に至るまで、その精緻な構造は、遺伝子という
詳細な設計図に基づいている。もしこの設計図に何らかの欠陥があれば、
血管に弱い部分が生じることがある。その部位が脳内にある場合、
その人は脳卒中などを起こしやすくなる。一方、影響を受けた血管が皮膚の
近くにあると、その部位に「血管が切れた」ように見える状態が頻繁に
現れることがある。
外傷や動脈あるいは静脈を弱くしうるその他の出来事は、脳卒中を
引き起こす原因となり得る。
脳卒中の多くは、適切な対策を講じれば予防可能である。とはいえ、
どれほど理想的な食事や健康習慣を心がけていても、予期せず脳血管障害が
起こることはある。ライアンの場合も、まさにそうだった。
症例 - Ryan
ライアンは、並外れた精神的鋭敏さを備え、頑健で健康を大切にする
人物だった。彼の知的能力を示す一例として、彼は4千平方フィート
(約370平方メートル)もの広さがある自宅のあらゆる細部を、
なんと頭の中だけで設計してみせたのだ。もちろん、建設業者のために
設計図を作成する必要はあったが、彼らは、何千もの細部を頭の中で
設計し、さらに修正まで重ねていくライアンの能力に、ただただ
驚嘆するばかりだった。ライアンはデザイナーでも建築家でも
建設業者でもない。本業はセールスマンだったが、明らかに
卓越した頭脳の持ち主だった。
ある日、何かがおかしいと感じたので、彼は緊急治療室を訪れた。検査が
実施されたが、機能障害は認められなかった。彼は解放され、家に帰された。
一日過ぎると症状が悪化し、今度は入院することになった。そして重度の
脳卒中を起こしていることが判明した。その重篤さは、彼の容体に対処する
設備がより整った施設へ、ヘリコプターで緊急搬送しなければならないほど
深刻なものだった。
最初に連絡を受けた際、彼がこの甚大な外傷を乗り越えて生き延びられる
のかどうか、大きな懸念が残る状況だった。幸いにも彼は一命を取り留めたが、
神経内科医からは、彼が二度と歩くことも話すこともできないだろうと
本人と家族に告げられました。脳の損傷は医学的に見て永続的かつ
広範囲に及ぶものだった。見通しは非常に厳しく、家族は深い絶望に
打ちひしがれた。彼が生きていること自体には誰もが感謝していたが、
57歳という若さで襲われたこの悲劇により、これほど聡明な人物が、
その能力を発揮できなくなってしまったという事実は、受け入れるのが
あまりもに困難なことだった。
私は長年ライアンと親交があり、彼が過去の障碍やさまざまな不調に対して、
驚くべき回復力をもって対処する姿を目の当たりにしてきた。私は心の底から、
彼なら今回の困難からも、医学的な予測を大きく上回るほどに回復できるはず
だと確信していた。また、彼と彼の妻が非常に優れた精神的姿勢と強い信仰心を
持っていることも知っていた。これらは、どのような治癒の過程においても、
極めて重要な要素となり得るものだ。こうしたすべての要素が、以下に記す
驚異的な回復の歩みにつながったのである。I
ライアンは言葉を発することもできず、ほとんど動くこともできなかったので、
できるだけ早く治療を開始すれば、彼の最終的な回復にとって良い結果に
なると私は確信していた。退院後、彼と奥さんは帰宅途中に私のところに
立ち寄り、このような状況での回復の助けとなるための、私が勧めた
栄養プログラムを受け取ってくれた。私は彼にすぐにでも積極的な治療
プログラムを開始してほしかったのである。
肉体的にひどく衰弱していたため、彼は数ヶ月間、治療のために来院
するできなかった。しかし、脳の炎症を抑え、回復を促すための栄養療法には
取り組んでいた。彼はそれが大きな助けになっていると実感し、医学的には
不可能と思われるほどの速さで改善が見られ始めた。とはいえ、
抱えている問題が解決したとは到底言えない状況だった。
旅行できるほど回復した後、ライアンは私のクリニックで治療を開始した。
彼の治療プログラムの重要な特徴の一つは、脳脊髄液の流れを促進し、
治癒エネルギーが脳に確実に届くようにするためのカイロプラクティック
頭蓋療法だった。脳卒中によって損傷を受けた脳の領域は、
当然ながら正常な機能に戻ることはできないが、このような場合、
脳の他の領域が失われた機能を代行するようになることがあるのだ。
ライアンの損傷は非常に広範囲に及んでいたため、彼がこのような
転移(transference)を起こせるかどうかは全くの未知数だった。
しかし、このプロセスを促すためにカイロプラクティック頭蓋療法の
専門的な手法を適用したところ、即座に、しかも希望の持てる反応が
見られた。その後1年間、彼は劇的な改善を見せたが、
もちろん予想された通り、良い時もあれば悪い時もあった。
決して順調で平坦な道のりではなく、まるでジェットコースターに
乗っているような状態だった。
話すことは次第に楽になり、痛みの程度も軽減していった。弱っていた手足も、
以前に近い状態で動かせるようになった。その後12〜18ヶ月の間に、
脳卒中の痕跡は外見上ほとんど消え失せた。ライアンの姿を目にした人は、
彼にかつて何らかの障碍があったとは気づかないだろう。
しかしながら、ライアンは栄養療法とカイロプラクティック頭蓋療法が
効果の限界に達したと感じ始めた。彼の表現では、脳機能の一部が
まだ回復していないような感覚、つまり、思考やアイデアを概念化し
創造する能力に、何かが欠けているような、欠けた部分が
あるような感覚だった。他の治療法が効果の限界に達したため、
AlphaBio centrix (ABC)というエネルギー・ヒーリング・パッチの
投与を受け始めた。効果はほぼ即座に現れ、数日のうちにライアンと
妻はは驚くべき変化を実感した。最適な脳機能、そして脊椎、脚、
腕の機能を確保するため、SOTカイロプラクティックとカイロプラク
ティック頭蓋療法を継続した。ABCプロトコルを追加したことで、
すべての改善が劇的に加速した。夫婦が再び笑えるようになったと報告
してくれた時、私たちは正しい方向に向かっていると確信した。
脳卒中以来、笑うことはほとんどなくなっていたからである。
こうした追加のエネルギー療法が数ヶ月にわたって続けられたが、
ライアンは依然として、頭の中に何かがぽっかりと欠けているような
感覚を訴えていた。自身の置かれた状況の中で暮らし、周囲の世界と
関わり続けるうちに、彼は、自分の脳から失われていたものの一部が、
本来あるべき「感情」だったことに気づくようになったのである。
前述の通り、これは非常に大きな脳卒中だった。脳の頭頂葉が侵され、
身体各部の運動機能に影響が及んだ。さらに前頭葉の広範囲に損傷され、
言語、記憶、感情といった機能に影響が生じた。ライアンは感情を失っていた。
私たちは治療プログラムの詳細を調整し続け、やがて新たな、そして効果的な
組み合わせを見出すに至った。
数日間、彼は、こうした機能のいくつかが再び働き出し、正常な状態に
戻ったかのように感じていた。すぐに完全に改善したというわけ
ではないが、得られたフィードバックが、その後の数ヶ月間の
治療方針を決定づけるものとなった。現在も、治療のプロセスは
継続中である。
ライアンはまだ100%の状態には戻っていないが、本人いわく、本来の機能の
90%以上は回復しているとのことである。あと10%で完全回復だ!
私は、その残りの10%も必ず戻ってくると信じている。一生、言葉や身体の
自由を失うかもしれないと予測された、命に関わる出来事から2年が
経とうとしているが、その回復ぶりはまさに奇跡としか言いようがない。
命を脅かすような脳卒中から、どのようにして回復し、ほぼ以前と
変わらない状態に戻ることができるのだろうか。ライアンの回復過程を
目の当たりにすると、同じような状況にある他の人々も、最先端の、
従来とは異なる治療法や戦略によって恩恵を受けられるのではないか、
と考えずにはいられない。実に心躍る可能性である!同時に、
なぜこうした戦略が、現代の主流の医療において活用されていないのか
という疑問も湧いてくる。
ライアンと協力する中で、いくつかの知見を得ることができた。
ここセントルイスにある大きな医療センターの医師たちは、彼の回復ぶりを
目の当たりにして、ただただ驚き、呆気にとられていた。彼らは、
これほど劇的な回復の過程を解明したいと考え、ライアンに
検査を受けてくれないかと打診した。ライアンは一つだけ条件を出した。
それは、検査の際に担当医を同席させることだった。病院側の医師たちは
快く承諾し、その担当医がライアンに対して一体どのような治療を行なった
のかを知ることを心から楽しみにしていた。
関係者全員が、そこから何が学べるのかという点に期待を寄せ、関心を
示していた。検査に向けた準備が始まった。検査担当医たちは、検査に
ついて連絡を取るために、ライアンに担当医が誰であるかを尋ねた。
ところが、その主治医がカイロプラクティック。ドクターであることを知る
やいなや、彼らはこのプロジェクトに対する関心を即座に完全に
失ってしまったのである。
これは、病を抱える患者のための治療法を生み出す研究の多くが、
主流の標準的な考え方の枠外にある治療法を意図的に無視している
という事実を端的に示している。よく言われるように、「これまでと同じことを
繰り返していれば、これまでと同じ結果しか得られない」のである。
したがって、多くの治療法や療法が、一般的な医療専門家から推奨
されないとしても不思議ではない。こうした治療法は科学的な検証を
経ていないため、効果が証明されていないとよく言わることである。
しかし、代替的な治療法が調査・研究のプロセスから自動的に
除外されてしまうという深刻な問題がある。言い換えれば、すでに広く
普及しているものだけが研究の対象となるのである。こうしたジレンマは、
「既存の医療の枠組み」から外れた治療法やプロトコルについて研究を
行なう上での障壁となっている。ライアンの事例のように、実際に成功を
収めていることが示されているものであっても。
ライアンの回復において、もう一つ極めて重要な要素があった。
それは、彼自身が自身の医療ケアの主導権を握り、奇跡的な
回復をもたらした治療のプロセスを自ら主導したことである。人が自身の
医療やケアに関する意思決定の過程により主体的に関われるようになると、
回復のプロセスは勢いづく。適切な機会と前向きなサポート、そして
絶え間ない励ましがあれば、傷ついた心であっても、自らを癒やす
助けとなり得るのである。
"カイロプラクティック・アーカイブス"へ
著作権所有(C)1996-:前田滋(カイロプラクター:大阪・梅田)