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どうする?ニッポン
ウクライナ紛争と日本の安全保障

2025年9月9日

古くは「紅旗征戎(こうきせいじゅう)、吾が事にあらず」(藤原定家)、近くでは、「浮き世のことは笑うほかなし」とはコラムニスト山本夏彦の言葉だが、 戦後80年、昭和百年を迎えた今年、知らぬ振りをしたり、笑ってばかりもいられない日本の 現状なので、素人の付け焼き刃ながら、日本を取り巻く国際情勢をまとめてみた。


1938年、ナチスドイツはオーストリアを併合し、 これに続いて、ドイツ系住民を迫害から解放する名目で、 チェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を英仏に要求した。 これに対して英仏は、第一次世界大戦のあと、再び欧州が戦乱に陥るのを避けたい と考え、これを許した。このことがきっかけとなってヒトラーは増長し始めることになる。

第一次大戦後、ベルサイユ条約によってポーランド領となっていた ダンチッヒ回廊(元々はドイツ領)に居住する百万人のドイツ人(全住民の95%)を 解放するという大義名分を掲げ、1939年9月1日、ヒトラーはこの地域に侵攻を開始した。 これに対して英仏はドイツに宣戦布告した(第二次世界大戦の始まり)。

これに先立ち、ポーランドは英仏と同盟を結び、ドイツが侵攻するなら 英仏が黙っていないと警告したが、ドイツはこれを無視したのである。 ポーランド政府の目論見ははずれたことになる。

その後、ドイツが敗戦したものの、戦争前のポーランド政府は復活せず スターリンの共産主義陣営に取りこまれてしまった。 その意味では、英仏の行動はきわめて中途半端だったといえる (最初から放置するか、スターリンととことん戦うべきだった)。

このことがあっておよそ80年後、2022年2月、ロシアがウクライナ東部に 侵攻を開始した。そして2025年、プーチンは和平の条件としてウクライナ東部の ドンバス地方(ルハンスク州とドネツク州)、クリミア半島の 割譲を要求し、米国大統領トランプはこの要求を受け入れる姿勢を 見せている(2025年9月現在)。

万一これを許せば、80年前と同じ轍を踏むことが危惧される。 こうなると、数年後にはバルト三国を欧州から孤立させようとして、 ロシアはこの地域に向けて軍事侵攻する可能性が大きい。

ロシアが勝利すると、これを支援する中国も勢いを増し、 台湾に侵攻するかもしれない。そうなると日本やアジアの安全保障に 大きな影響が出るだろう。
どうする? ニッポン。


では、なぜプーチンはウクライナに唐突に攻め込んだのか?少し詳しく探ってみよう。

まず、ウクライナという国の成り立ちから。
紀元前5百年ころのウクライナ地方は、イダンテルソス王がひきいる スキタイという遊牧民の地だった (ヘロドトス著 “歴史” 第四巻 参照)。

それ以後ずっと時代は下り、モンゴルの支配を受けた時代(13~14世紀)、ポーランドに呑みこまれた時代(西ウクライナ)もあったが、帝政ロシアの時代には、西ウクライナはコサック民族が、 東ウクライナ(ドンバス地方)はロシア人が住んでいた。

そして19世紀になり、世界各地で民族主義が興り、ウクライナもその波にのり始めた。 ところがロシアは世界有数の穀倉地帯であるウクライナを手放したくないので、 独立運動の矛先をロシアからそらし、ユダヤ人に向けさせるように仕向けた。

これを反ユダヤ主義(ポグロム)といい、ポーランドをはじめ、ヨーロッパ各地で この動きが勃発した。若い頃のヒトラーもこの運動に染まり、 後年になってホロコーストを起こすのである。

反ユダヤ主義を煽った代表的な事例:
○1881年のアレクサンドル2世皇帝の暗殺事件
実行グループの中にユダヤ人女性がいたことで、ロシア政府はユダヤ人排斥を煽った。

○シオン賢者の議定書:
ロシア政府が作成した全くデタラメな偽文書で、1905年頃から流布し始めた。 その内容は、ユダヤ人が経済を牛耳り、メディアを掌握し、宗教対立を 煽り立てることで世界を支配するという秘密計画だった。

ここで話は横道にそれるが、「屋根の上のヴァイオリン弾き」というミュージカルは ショーレム・アレイヘムの「牛乳屋テヴィエ」という短編小説が原作で、 1905年頃のウクライナに住むユダヤ人一家の物語りである。 森繁久彌が主人公のテヴィエを演じ、 公演回数900回(1867年~1986年)を達成したことは有名。

閑話休題。
1917年のロシア革命後、レーニンとトロツキー(共にユダヤ系)が 東西のウクライナ地方を強引にくっつけてウクライナ共和国としたが、 この状態は1991年まで続く。

ホロドモール:スターリンによる穀物(小麦)の強制徴収(1932~1933年)。
これによってウクライナは大飢饉に見舞われ、数百万人の餓死者が発生した。 この事実は長い間隠蔽されていたが、ソビエト連邦崩壊後(1991年)に発覚した。 これはナチスドイツによるユダヤ人大虐殺(6百万人)に匹敵するほどの大虐殺である。 不思議なことに、この事実は日本の教科書には全く記載されていないという。 日本の社会科の学者たちは、誰に遠慮しているのだろう。

そしてソビエト連邦崩壊後、米国はNATOの東方への不拡大をロシアに約束しておきながら (ゴルバチョフ、エリツィンの時代)、実際には東方への拡大政策を推し進めた。

1991年以後、NATOに加盟した国は以下の通り。
エストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、 アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア、フィンランド。
それ以前からの加盟国を合わせると、2025年現在のNATO加盟国は31ヶ国に登る。

そしていよいよウクライナがその焦点となり、2014年に米国(バラク・オバマ政権)は工作員を多数送り込み、時のヤヌコーヴィチ大統領(親露派)をその地位から引きずり下ろし、 親欧米派のポロシェンコを大統領に当選させた。これを「マイダン革命」と呼んでいるが、 実際はクーデターである。その後2019年5月にゼレンスキーが大統領になり、現在に至っている。

一方のプーチンは、NATO勢力が自国に肉薄してきたので追い詰められたように感じ、 ついに2022年2月24日、ウクライナに侵攻を開始した。

このことを指摘しているのは、シカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマー(John Joseph Mearsheimer)である。(John Joseph Mearsheimer=陸軍士官学校(West Point)を卒業)。

日本のオールドメディアは上記のような解説を一切行なわず、突然プーチンが ウクライナに攻め込んでいったような印象を与える報道をしているが、 そもそもは米国がロシアを追い詰め、プーチンが暴発するのを誘導したという構図 が読み取れる。

このことは、大東亜戦争勃発前、米国が日本に対して行なった政策に酷似している。 すなわちABCD包囲網(米・英・支那・オランダ)による経済制裁と、日本にとって到底受け入れることのできない項目を掲げたハルノートの突きつけである。 これによって日本の軍部は戦争開始しか道がないと思い込み、 なんの目算もなしに米国との戦争に突入したのであった。

昔も今もアメリカはこのようなことを画策するのが好きなようで、 「民主主義を世界に広めるのだ」(共産主義の拡大を阻止する)といっては ベトナムに介入し(1955年~1975年)、アフガニスタン(2001年~2021年)、 イラク戦争(2003年)、リビア介入=カダフィ抹殺(2011年)、 シリア介入(2017年)などを起こしているが、ことごとく失敗している。

現在の米国は
1.ウクライナ紛争
2.中東:イラン・イスラエル紛争
に軍事介入しているが、これ以上手をひろげる余力を持っていない。

万一中国が台湾に侵攻したなら、米軍が東アジアに軍を派遣することなど夢のまた夢である。日本政府、日本国民は「いざとなったら米軍が支援してくれるだろう」などと 脳天気に構えているが、それはきわめて甘い考えだ。

そしてもうひとつ冷徹な事実を書いておく。 米国の仮想敵国にはロシア、中国、に加えてドイツと日本が入っていることを 忘れてはならない。日本に駐留している米軍は、いざとなれば中国に向けている大砲を反転させて、日本本土に向けるつもりなのだ。

アメリカは、大東亜戦争時のF.ルーズベルトとそれに続くトルーマンの政策として 「真の意味で日本を独立させない」という政策を推し進めた。 この方針はいま現在もしっかり続けられているので、日本が核兵器を含め、独自の軍備を 備えようとする動きをみせると、あらゆる手段を講じてこれを阻止しようとするだろう。

さあ、どうするニッポン?

アメリカのネズミ遊園地や映画セットの遊園地に浮かれている場合ではないぞ!

参考資料:
伊藤貫氏、茂木誠氏による一連のYou Tube動画

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