腰痛とカイロプラクティック

1996.06.24~2007.07.10

1.いわゆるギックリ腰あるいは急性腰痛の場合

このタイプの腰痛では、8割方において
腰椎の後方変位が認められる


腰痛を引き起こす疾患や病名には、椎間板ヘルニア、脊椎分離・ 辷り症、変形性脊椎症、骨粗鬆症による腰椎の圧迫骨折、 脊柱菅狭窄症、脊椎靱帯骨化症(特に後縦靱帯骨化症)、 脊椎披裂症(二分脊椎)、各種の腎臓疾患(腎炎、遊走腎、 腎結石など)、尿管結石、膀胱結石、子宮筋腫、まれに 脊髄腫瘍や癌の骨転移など、多くの病名や症状が知られています。

しかし、腰痛を訴えて来院する患者のうち、これらの病名のつく患者は およそ20%であり、残りの80%が病名を付けられない「不確定な 要素による腰痛」であると、ある整形外科医は語っています。

これら80%のいわゆる病名のつけられない腰痛は、一般には、 いわゆる「ギックリ腰」、病院では「急性腰痛症」と 呼ばれていますが、これらは、いずれかの腰椎の後方変位が 原因です。これは、レントゲン分析の結果をふまえての話です。

カイロプラクティックでは、椎骨の変位を読みとる読影法がきちんと 確立されていまして、これは、一般の整形外科と全く異なる見方です。

ですから、腰痛で治療に来られた患者さんは、そのほとんどが 「整形外科でレントゲンを撮影した結果では、骨には異常がないと 云われましたが、痛みがなかなか取れないので、人に紹介されて 来ました。」とおっしゃいます。

このことを説明しますと、「骨に異常がない」というのは、 「椎間板の萎縮や骨棘形成による椎骨変形などの骨病理が 認められない」という意味に解して良いと思います。ところが、 「椎骨の変位は厳然として存在している」というのが、 カイロプラクターの基本的考えです。現実にレントゲンフィルム 上で椎骨変位を証明することは簡単です。

30才を過ぎると、脊柱を支える筋や靭帯の強度が徐々に低下し 始めます。筋肉や靭帯の衰えを日々の生活の中で予防するのは、 十分に歩くことが最も手軽に行なえる予防運動なのですが、 現代人は歩くことが少なくなっていますので、その意味では、 車で通勤し、職場でも一日中座りっぱなしという人が (しかも腰を丸めて!)腰痛を起こしやすいと云えるでしょう。

一般的に脊柱の骨は、後方へ変位しやすい構造になっています。 筋肉や靭帯が弱り始めているところへ疲労や寝不足が 重なりますと、ふだん何気なく行なっている姿勢変換の際に、 ふとしたことで腰椎が<後方へ>ずれることがあります。

特に前屈動作時には腰椎に後方への力が作用しますので、 朝起きてズボンを穿こうとするときや洗面時(起床直後は 脊柱の関節も堅くなっている)、そして重い物を持ち上げ ようとして腰を屈めたときなどに、瞬間的に第5か第4腰椎 あたりの骨が一気に後方へ変位し、その状態で関節の固着を きたすことがあります。

ここで強調しておきたいことは、関節の可動性が失われ、 「関節が固着」したときに、その関節周囲の筋や靱帯、 関節軟骨などで痛みを感じるようになる、ということです。 急激に変位を起こしたときには、関節周囲の軟部組織に 急性の炎症も発生し、これも痛みの原因となるでしょう。

これがいわゆるギックリ腰と呼ばれている状態です。 生まれて初めてギックリ腰を起こしたときには、 おそらく1~2mmほどの後方変位でしょう (この程度の変位でも、全く起立不能に陥ることがあります)。

また、後方変位の詳しい定義はここでは割愛します。 これを読んで下さっている方は、今のところ正常な位置から、 骨が後ろ方向へ変位するのだと云うイメージでご理解下さい。 これでもほとんど実際と大差ありません。 腰椎の後方変位に関する詳しい説明は、こちらへ


追記(2007.7.10);
ここで小生が述べているのは、腰椎の後方辷りが腰痛の 「必要充分条件」であると述べているのではなく、 「必要条件」であると述べているだけなので、 誤解のないように説明しておきます。

具体的にいうと、
「腰痛患者の8割に後方辷りが認められる。しかもその関節が 機能不全(固着)をきたしている」ということであり、 「後方変位を持っている人がすべて腰痛を煩っている」という ことではありません。

従って、後方辷りを持っていても、その関節の可動域が十分に 確保されているなら、痛みは起きません。

また、「多くの腰痛患者を診ているが、後方辷りは あまり認められない」というコメントを同業者や整形外科医の 方々から、しばしばいただきますが、これはレントゲンフィルムの 目視だけの所見ではないかと推測します。

小生の経験では、目視で後方辷りがないように見えても、 丁寧に線引きをしてみると、後方辷りが確認できる例が多いのです。

また、レントゲンによる後方変位だけを腰痛原因の判断基準にしているのではなく、これにあわせて、関節可動域の減少を伴うことが、 後方変位が腰痛を引き起こす必要にして十分な条件であることを 強調しておきます。


腰椎の後方変位の一例
自然立位での撮影像

腰椎の後方変位

では、どのように治療するかということになりますが、 腰椎に変位が認められたからと云っても、その椎骨を アジャストするとは限りません。カイロプラクティック概説の 哲学の部分で説明しましたように、矯正するのは メジャー・サブラクセイションと判定された椎骨で、 これは変位して痛みを引き起こしている腰椎に現れるとは 限らないのです。

同じ椎骨が同じように変位しているとしても、メジャー・ サブラクセイション、すなわち治癒力を低下させている椎骨は、 患者さんによっては、頚椎であったり、骨盤であったり、 あるいは変位している腰椎そのものであったりする訳です。

要は、患者さんが潜在的に持っているINNATE INTELLIGENCE (治癒力)をうまく高めることができれば、痛みを引き 起こしている椎骨変位は、「患者さんが自分の力で 治してゆく」と考えています。

【ギックリ腰を起こしたときには】
自分でできる対処法と注意事項

1.痛みが強くて、とても起きあがれないとき
安静にして横になっているのが最も良い。寝るときの姿勢は、 仰向けよりも横向きが良いでしょう。痛みの少ない方向を探し、 股関節と膝を軽く曲げた状態で、横になっていて下さい。 (仰向けやうつ伏せで寝ると、ずれている関節に体重がかかり、 痛みが増悪することが多い)

このときに、できれば、アイスノンか氷で、痛む部位を10分間だけ 冷やす。1時間のインターバルをおいて、また10分間冷やす。 この操作を一日に4~5回行なう。

2.とりあえず起き上がれる状態で、家事や仕事が何とか こなせる状態の時には...

次の姿勢を崩さないように極力努力する。

a.お臍を前に突き出し、お尻を持ち上げる。 この姿勢は、腰部の脊柱を前弯させている状態です。 さらに、ベルトの高さのあたりの腰背部の筋(脊柱起立筋)に 力をいれて 腰部の前弯を崩さないように努力する (自分の筋肉で、ずれている骨を守ってやるつもり)。

最初に書きましたが、腰椎はほとんどの場合、後方へ変位します。 上の姿勢ですと、腰椎を後方へ押す力は作用しません。 逆に、脊柱起立筋の力を抜いて腰部を後方へ丸めた状態ですと、 筋肉の補助がなくなる上に、体重によって、関節面に沿って 椎骨を後方へ押す力が作用することになります。

ついでに云いますと、この姿勢が、二足歩行で脊柱を重力に 対して適応させる唯一の方法だと、私は考えています。 そしてこの姿勢が、あらゆるスポーツ、武術などの最も基本的な 姿勢ではないかと考えています。

逆に、起立筋を弛めたままで(背中を丸めて)生活する習慣を つけてしまいますと、「使わないものは直ぐに衰える」の 法則通り、起立筋は衰弱し、脊柱の関節も固着してしまって、 歳を取るにつれて、やがては脊柱を真っ直ぐ立てて生活 することができなくなり、背中が丸くなって固着して しまいます。これが「老人性円背」と云われているものです。 (骨粗鬆症による脊椎の圧迫骨折が加わると、 この円背がひどくなります)

b.立っているにしても、座っているにしても、長時間じっとしないこと。 関節が変位して正常な動きが失われて痛みを引き起こしている のですからじっとしていると、再び関節が固着し始めます。 a)で説明した姿勢に気をつけて、できるだけ歩き回るのが 良いでしょう。

一度に歩く時間は、20~30分程度を目安にして下さい。 ただし、歩いてみて痛みがひどくなるようでしたら、 歩くのはそこで中止して下さい。

以上、腰痛で困っておられる知り合いの方に、ぜひ教えてあげて下さい。


2.慢性の腰痛に関して
「老化」といわれても諦めないで・・・・

ギックリ腰(急性の腰痛)を起こしたときや慢性の腰痛が ひどくなったときなどに、牽引や低周波、温熱、鍼灸など、 どんな治療を行なったとしても、あるいはただ安静にして 寝ているだけでも(椎骨変位が残ったままでも)、 固着している関節の動きが、ある程度まで回復すれば、 痛みは一応解消します。

この場合、ずれの残っている関節は構造上弱くなって いますので、次に何らかの物理的なストレスがかかると、 その骨(関節)は再び後方へずれを引き起こしてしまいます。 そしてその都度(痛みの程度に軽重はあっても)、 腰痛を繰り返すことになります。

このようにして何度も後方へのずれを繰り返し、 最初に骨がずれ始めてから5~10年経過しますと、 変位の程度もひどくなると共に、徐々に骨の病理変化が 発生します。具体的には、椎間板の狭小化 (骨と骨の間隔が狭くなる)や、椎骨の骨棘形成(骨の変形) となって現れます。

これは私の経験則ですが、腰椎の後方変位が5mm以上になると、 椎間孔で神経根が圧迫され始め、坐骨神経痛が起きるようです。 もちろん個人差はあります。また椎間板ヘルニアなど 椎間板の問題を併発して坐骨神経痛を起こすこともあります。 その場合でも一部を除いてカイロプラクティックのアジャストで 回復は可能です。また、骨腫瘍などの病理変化も坐骨神経痛の 原因となり得ますが、ここでは椎骨変位のみに話を限定して いますので、その点をご了解願います。

慢性の腰痛を訴える方の場合、整形外科でのレントゲン撮影の 結果では、「骨と骨の間の軟骨(椎間板)が狭くなっているから、 ずいぶん老化が進んでいますよ」とか、「骨が変形(骨棘形成) しているから、老化のせいですよ」と云われ、医者も患者さんも 「老化」と云う言葉で何となく納得し、現状から回復する 見込みはないものと諦めてしまうことが多いように思います。

しかし、決して諦めてはいけません。たとえ椎間板が狭くなり、 骨の変形が進んでいても、椎骨の変位を少しでも解消し、 その可動性さえ回復させることができれば、日常生活には 何の支障もない程度にまでは症状は改善させることが できるのです。私の治療室では、そのような症例は、 これまでに数えきれないほど経験しています。

ここで椎間板の厚みが減少したり、骨棘が形成されてくる (椎骨の変形)病理変化について、カイロプラクティックの 立場から解説してみますが、これは決して老化現象などでは ありません。これは人体の純然たる生理作用の結果なのです。



【椎間板の萎縮(骨と骨の間の間隔が狭くなる)】

椎間板は水分が85%のゼリー状の物質で(均一構造ではなく、 線維輪に包まれるようにして球状の髄核があります)、 思春期以後は、椎間板への栄養血管が消失してしまいますので、 栄養の取り入れや老廃物の排出は、その周囲の体液が 椎間板に出入りするという形で行なわれます。 その体液の出入りをポンプしているのが、これに接している 椎骨の正常な関節運動なのです。

ところが椎骨が変位すると関節の正常な可動性が失われ、 ポンプ作用が減退または消失してしまいますので、 椎間板へ体液が入ってゆかなくなり、椎間板は徐々に 水分を失ってしまいます。そして最終的には、その厚みを 失ってしまうのです。

椎間板の萎縮
椎間板の萎縮



【骨の変形(骨棘形成)】

一方の骨棘形成(骨の変形)ですが、椎骨が変位したままで 放置されていると、正常な関節の可動性が消失するために、 その部分によけいなストレス(力)が常に掛かってきます。 そうすると、身体の生理作用は、その部分の強度を高めて 物理的なストレスに対抗できるようにしようとします。 強度を高めるために、とりあえず人体の中で利用できる 物質と言えばカルシウムがありますので、変位している椎骨に カルシウムを蓄積させるようになります。

椎骨の変形(骨棘)
椎骨の変形(骨棘)
以上が、椎間板の萎縮と骨棘形成に対するカイロプラク ティックからの解釈です。加齢と共に運動不足となり、 脊柱全体の可動性が失われた場合にも椎間板の萎縮や 骨棘形成が発生するようになりますが、これは歳を取る ことが原因なのではなく、関節の可動性が失われるから なのです。

このように考えますと、老人でも椎間板の狭小化や 骨棘形成の進行している部位と、それほどでもない部位が あることや、中年期やもっと若い年代の方にも、 このような病理変化の現れる理由が説明できます。

今これを読んでおられるあなた、腰が丸くなっていませんか? お臍を前に突き出すようにして腰をシャキッと反らせて 座るように心がけて下さい。そして、いつまでも若々しく 元気な人生をお楽しみ下さい。

かく言う私も、14才で初めて腰痛を引き起こして以来、 あちこちの病院や鍼灸院を渡り歩きましたが、最終的には 26才になってカイロプラクティックの治療を受け始め、 ビックリするほど良くなりました。

しかし、痛みを起こしてから関節調整を受けるまで10年以上の 期間が経過していたため、レントゲン撮影では、腰椎の 椎間板は全てペッシャンコ(椎間腔狭小化)です。 整形外科医に見せると「老化だ!」の一言でおしまいです。 26才で「老化」といわれたときはショックでしたね (51才の今はピンピンしています)。

これに関連する話ですが、97年1月に私の母が自宅の階段から 転落し、脳内出血(外傷性くも膜下出血)を起こしました。 骨折・半身不随などは起こさなかったものの、2ヶ月経過 しても脳内血腫が吸収されないので、4月の定期検査 (CTスキャン)で、「まだ血腫が頭蓋内に残っているなら、 穴をあけて抜き取らないと、そのうち半身不随がでたり 痴呆がでるかも知れない」と担当医から言われました。

そのころになってようやく外を歩けるようになったので、 私の治療室まで来させて頭蓋療法を週に一度のペースで 3回おこなったところ、4月の定期検査の結果では血腫は 殆ど吸収されていました。しかし、母は医者から言われた ことを気に病み、「もし半身不随や痴呆がでたら、 どうしよう?」と気にするあまり、食事がのどを通らなくなり、 胃の痛みまで訴えだしたのです。胃カメラ検査では、 幸い、胃潰瘍までは起こしておらず、糜爛性胃炎と いうことでしたが、この検査と治療は全く余計なことに なります。まさに医原病といえるでしょう。

治療師(医者)たる者は、患者に夢も希望も 失わせるような言葉を簡単に投げつけることのないよう、 十分注意するべきでしょう。話がそれましたが、 この部分は自戒を込めて書いています。

現在、私は人様の身体を触るようになっていますが、 20代30代ですでに椎間板変性を起こし、椎間腔が 狭くなってしまっている患者さんは結構おられます (中にはひどい骨棘形成=骨の変形を起こしている人も)。 しかし、関節の固着を解消すれば、日常生活には 何の支障もなくなります。


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