頭部損傷 : ヒポクラテス著
Wounds In The Head:HIPPOCRATES


英訳:E. T. Withington (1860~1947)
Loeb Classical Library
HIPPOCRATES VOL. III : 1928
邦訳:前田滋 (カイロプラクター、大阪・梅田)
(https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-wounds.html)

掲載日 2026.10.18

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。


I.
人の頭の形は一様ではなく、頭蓋骨の縫合線の配置も人によって異なる。 前頭部に隆起(骨そのものが丸く突出した部分)がある場合、縫合線は ギリシャ文字のタウ(T)のような形になる。つまり、短い線が隆起の基部に 横向きに走り、長い線が頭の中央を縦に走って首筋まで達している。 一方、後頭部に隆起がある場合、縫合線の配置はこれとは逆になる。 短い線が隆起のあたりに横向きに走り、長い線が頭の中央を縦に走って 前頭部まで達するからである。頭の前後の両端に隆起がある人の場合、 縫合線はギリシャ文字のイータ(H)のような形になっている。長い線が それぞれの隆起のところで横向きに走り、短い線が頭の中央を縦に走り、 その両端が長い線に接する形になっているからだ。前後のどちらにも 隆起がない人の場合、縫合線はギリシャ文字のキー(X)のような形になっている。 一方の線は横向きに走ってこめかみまで下り、もう一方の線は頭の中央を縦 に走っている。

頭蓋骨は頭の中央で二重構造になっており、最も硬く密度の高い部分は、 頭蓋骨の滑らかな表面が頭皮の下に接する最上部と、滑らかな表面が 膜に接する最下部の両方に位置している。最上部と最下部の最も硬く密度の 高い部分から、骨はより柔らかく、密度が低く、より空洞状になり、 板間層へと続いている。板間層は空洞状で柔らかく、特に多孔質である。 実際、最上部と最下部のごく一部を除いて、頭蓋骨全体は海綿質のような 構造をしており、骨の中には互いに似たような湿った肉質の粒子が 多数含まれており、指でこすると血液が出てくる。また、骨の中には 血液で満たされた細い中空の血管も存在する。したがって、硬さ、柔らかさ、 空洞は、このような状態になっている。

II.
頭蓋骨の厚さと薄さに関しては、一般的に、骨は前頂部(ブレグマ:1)で 最も薄く弱く、この部分の肉質も最も少なく薄く、そしてここには最も 多くの脳質が詰まっている。

1.ブレグマは頭頂部の前部、すなわち頭蓋骨が最も長く開いている部位

このような状況であるから、傷の程度や凶器が同等かそれ以下の場合、 頭部のこの部分の骨は、よりひどく挫傷あるいは骨折し、それに加えて 陥没を伴う場合、病変はより致命的であり、治療や死を免れることは、 頭部の他のどの部分よりも困難である。

傷が同程度だったり、より軽度だったり、同様に傷つけられたり、 より軽度であったりしても、いずれにせよその傷かもとで死に至る ならば、頭のこの部分に傷を負った人は、他のどの部位よりも 短時間で死に至る。なぜなら、最も迅速かつ特に敏感なのは 前頂(ブレグマ)であり、脳はここで最も薄い骨と最少も肉質で 覆われており、脳の大部分はブレグマの下方にあるからである。 他の部位では、こめかみ部が最も弱い。なぜなら、下顎と頭蓋骨の 接合部がこめかみにあり、関節のように上下に動くからである。 その近くには聴覚器があり、太くて大きな血管が側頭部を貫いている。 頭蓋骨全体は、頭頂部と耳の後ろ側が前方のどの部分よりも強く、 肉質で覆われている部分もより厚く充実している。

このような構造から、頭部のこの部位に、同等かそれ以上の傷や 武器による打撃を受けた場合、骨折や挫傷は少なく、 いずれにせよ傷が原因で死亡する場合でも、後頭部に傷を負った方が 死亡までの時間が長くなる。骨の化膿は、頭蓋骨の厚みのために、 脳にまで達するのに時間がかかる。また、頭部のこの部分には 脳の量が少ないため、一般的に、頭部の後部に負傷した人の方が、 前部に負傷した人よりも生存率が高い。また、冬は夏よりも 生存期間が長い。いずれにせよ、頭部のどの部分に傷を負った としても、その傷が原因で死亡する人は、冬の方が長く生きられる。

III.
鋭利で軽量な武器によって生じる頭部の傷は、亀裂や挫滅、あるいは 挫滅を伴う陥没(これらは頭部の前方でも後方でも同様に生じ得る) を伴わない場合、本来であれば、たとえ死に至るようなことが あったとしても、それ自体が直接の死因となるものではない。 傷口に骨が露出し、そこに頭蓋縫合が認められる場合、その傷が どの部位にあろうとも、その骨は損傷や武器に対して極めて脆弱となる (特に、武器が縫合そのものに食い込んでしまった場合にはなおさらである)。 とりわけ頭部の中で最も脆弱な部位である「ブレグマ:前頂」に武器が 入り込んだ場合や、傷口に縫合が存在し、かつ武器がその縫合を 直撃した場合には、この脆弱性は顕著となる。

IV.
頭蓋骨はいくつかの異なる様態で損傷を受ける可能性があり、 その損傷の様態ごとに、骨にはさまざまな形態の骨折が生じる。 外力が加わって骨が折れる際、その周囲の骨には必ず打撲(挫傷)も 伴うことになる。なぜなら、骨を折る原因となった武器の部位は、 骨を折ると同時に、その骨を多かれ少なかれ打撲してもいるからである。 この現象は、まさに骨折が生じたその場所で、そして骨折した骨そのものに おいて発生する。これが第一の様態である。骨折の形態については、 実にさまざまなものが見られる。中には非常に小さなものもあり、受傷直後であれ、 あるいは患者の苦痛を和らげ、死の危険から救い出せるような期間中であれ、 全く気づかれないことがある。また、より大きく広範囲に及ぶ骨折や、非常に広範な 骨折も存在する。さらに、長いものや短いもの、ほぼ直線的なものや完全に 直線的なもの、あるいは湾曲していたり​​折れ曲がっていたりするものがあり、 骨の深部まで達するものや、骨を完全に貫通するものもあれば、 それほど深くなく、骨を貫通していないものもある。

V.
骨は、その位置を保ったまま打撲を受けることがあり、その打撲に 骨折が伴わない場合もある。これが第二の様態である。打撲には 多くの形態がある。骨の打撲の程度はさまざまであり、深部にまで 及ぶものもあれば、骨を貫通するものもあり、それほど深くなく骨を 貫通しない例もある。また、その範囲も長さや幅は大小さまざまである。 しかし、こうした打撲の形態を、その正確な形状や大きさという観点から 目視で見分けることはできない。なぜなら、たとえ実際に骨が打撲され 損傷を受けていたとしても、受傷直後の段階では、そもそも打撲が 生じているのかどうかさえ目視では判然としないからである。 これは、骨折していても、その骨折箇所が傷口から離れているために 目視では確認できない骨折があるのと同じである。

VI.
骨は打撲を受けて本来の位置から内側へと陥没し、そこには骨折も 伴っている。そうでなければ、陥没することはあり得ないからである。 すなわち、骨が折れて陥没した状態とは、骨の一部が本来の位置に とどまっている残りの部分から切り離され、内側へと押し込まれた状態をいう。 したがって、打撲による陥没が生じている箇所には、当然ながら骨折も 伴うことになる。これが第三の形態である。打撲を伴う陥没骨折には 多様な形態がある。頭蓋骨の広範囲に及ぶものもあれば、陥没の程度が 大きく深いものもあれば、逆に陥没の程度が小さく浅いものもある。

VII.
また頭蓋骨には、武器による傷跡が残ることがある。骨が本来の位置を 保ったまま、そこに武器が突き刺さり、その刺さった箇所に傷跡が残るとき、 これを「ヘドラ」と呼ぶ。頭蓋骨にヘドラが生じる際、ヘドラに加えて骨折を 伴うこともある。その場合、ヘドラと骨折が生じた部位の骨には、多かれ少なかれ 打撲(挫傷)も伴う。これが第四の形態である。また、武器による打撲を 伴いつつも、骨折は生じず、その周囲の骨に打撲だけが残るようなヘドラの 生じ方もある(これが第五の形態である)。それぞれの形態には多くの バリエーションが存在する。打撲や骨折(ヘドラに伴うのが打撲と骨折の両方 であるか、あるいは打撲のみであるかに関わらず)についても、それらには 多様な形態があることはすでに述べた通りである。ヘドラそのものに目を向けると、 その形状は長いものや短いもの、やや曲がっているもの、比較的まっすぐなもの、 あるいは丸みを帯びたものなどさまざまであり、武器の形に応じてさらに多くの 形態があり得る。こうしたヘドラは、深さや幅もそれぞれ異なり、亀裂が 生じている箇所では、その幅が広かったり、非常に広かったりすることもある。 骨に生じた亀裂は、その長さや幅がどのようなものであれ、亀裂の周囲の骨が 本来の位置を保っており、亀裂によって内側に押し込まれていなければ、 それは「ヘドラ」とみなされる。もし骨が内側に押し込まれていれば、それは 「打撲を伴う陥没骨折」となり、もはや「ヘドラ」とは呼べないからである。

VIII.
頭蓋骨が、患者に病変がある部位とは別の箇所で損傷し、 骨から肉が剥き出しになっている状態。これが第五の様態である。 このような事態が生じた場合、打つ手はない。なぜなら、もし人が このような損傷を負ったとしても、実際に損傷が生じているのか、 あるいは頭部のどのあたりに損傷があるのか​​を確かめる術が全くないからである。

IX.
こうした「骨折」の形態のうち、打撲(挫傷)を伴うものは―それが 目に見えない形であれ、何らかの形で顕在化しているものであれ― 穿頭術の適応となる。亀裂骨折についても同様で、目に見えない 場合であれ顕在化している場合であれ、穿頭術の対象である。 また、骨に(武器などによる)ヘドラが生じ、それに骨折や打撲が 付随している場合、あるいは骨折を伴わず打撲のみがそのヘドラが 付随している場合も、穿頭術を行なうべき症例となる。しかし、 打撲を伴う陥没骨折については、穿頭術を必要とするものは ごく一部に過ぎない。骨の打撲、陥没、粉砕がひどければひどいほど、 かえって穿頭術の必要性は低くなる。さらに、骨折や打撲を伴わず、 単独でヘドラが生じているだけの場合も、穿頭術は必要ない。 たとえその亀裂が大きく広がっていたとしても、やはり穿頭術は不要である。 なぜなら、亀裂とヘドラは同義だからである。

X.
負傷者を診察する際、まず確認すべきは、頭部のどこに傷があるか、 そしてその部位が頭蓋骨の強固な部分なのか脆弱な部分なのか という点である。また、傷口周辺の毛髪を観察し、それが武器によって 切断され、傷口の内部に入り込んでいないかを確認しなければならない。 もしそうであるなら、武器によって骨から肉が剥がれ落ち、骨自体も何らかの 損傷を受けている可能性が高いと判断できる。この判断は、患者に触れる 前の最初の観察段階で行なうべきである。骨から肉が剥がれ落ちているか どうかは、実際に患者の体に触れて診察する過程で確認するようにする。 骨が肉眼で見える状態であれば、それは露出しているということである。 見えない場合は、探針(プローブ)を用いて調べる。もし骨が露出 しており、かつ損傷を受けていることが判明したならば、その骨の損傷の 性質と範囲を見極め、どのような処置が必要かを判断しなければならない。 また、負傷者本人から、どのようにしてその怪我を負ったのか、どのような 種類の傷なのかを尋ねることも重要である。骨が露出しておらず、損傷の 有無が肉眼では確認できない場合、傷の原因や性質について患者から 詳しく聞き出す必要性は、骨が露出している場合よりもさらに高くなる。 なぜなら、骨に(外見上は)現れない打撲や骨折が存在する場合が あるからであり、まずは患者の証言から、頭蓋骨がそのような損傷を 受けているかどうかを見極める必要があるからである。その後、論理的な 推論と診察によって状況を検証する。この際、探針の使用は避けるべきである。 なぜなら、探針を用いても、骨がそのような損傷を受けているかどうか、 あるいはその結果どのような状態になっているのかを確実に証明することは できないからである。探針によって確認できるのは、武器による痕跡(ヘドラ) の有無や、頭蓋骨に陥没を伴う打撲骨折が生じているか、あるいは ひどく破損しているかといった点であるが、これらは肉眼による観察でも 十分に明らかになるものである。

XI.
頭蓋骨には、目に見えるものもあれば見えないものもあるが、 骨折や挫傷が生じることがある。また、本来の位置から陥没を 伴う挫滅骨折(陥没骨折)が生じることもある。こうした損傷は、 偶発的な場合よりも、他者から意図的かつ故意に攻撃を受けた場合に 特に起こりやすい。また、打撃や飛来物による衝撃が、同じ高さからではなく 上方から加えられた場合や、投擲あるいは打撃に用いられた武器が 攻撃者の意のままに完全に制御されていた場合、さらには強者が弱者を 攻撃した場合にも、こうした損傷が生じやすくなる。転倒によって頭蓋骨周辺や 頭蓋骨自体に損傷を負う場合について言えば、非常に高い所から、 硬く鈍い(尖っていない)物体の上に転落した者は、頭蓋骨の骨折や挫傷、 あるいは陥没を伴う挫滅骨折を負う可能性が高い。一方、それほど高くない場所から比較的柔らかいものの上に転落した場合には、頭蓋骨への損傷は軽微であるか、あるいは全く生じない こともある。頭蓋骨周辺や頭蓋骨自体を傷つける飛来物について言えば、 高い所から落下したものほど、また、硬く鈍く重いものほど(言い換えれば、 軽さ、鋭さ、柔らかさが最小限であるものほど)、骨の骨折や挫傷を引き起こしやすい。 このような状況下で、かつ傷が(武器に対して)垂直に生じた場合、 頭蓋骨は特に損傷を受けやすくなる。ここで言う「武器」とは、 打撃を与えるもの、飛来物、あるいは患者の上に落下してきた物体、 あるいは患者自身が転倒した際に衝突したものなど、何であれ骨に対して 直角に作用するものを指す。一方、武器が頭蓋骨に対して斜めに擦るように 当たった場合、たとえ骨が露出したとしても、骨折や挫傷、あるいは陥没を 伴う挫滅骨折が生じる可能性は低くなる。実際、こうした傷の中には、骨を覆う 軟部組織が剥がれ落ちず、骨が露出さえしないものもある。

骨に(目に見える、あるいは目に見えない)骨折を生じさせ、骨を挫滅させて 本来の位置からずらしてしまうような武器は、一般に丸みを帯び、表面が滑らかで、 鈍く、重く、そして硬いものである。こうした武器は頭皮を挫滅させ、組織を 押し潰してドロドロの状態にしてしまう。このような武器による傷は、 側面や周囲の組織が下からえぐられたような状態になりやすく、化膿もしやすい。 傷口は湿った状態が続き、治癒(清浄化)までに長い時間を要する。 なぜなら、押し潰されて破壊された組織は、必然的に膿となり、壊死組織として 脱落しなければならないからである。これに対し、細長い武器は通常、細く、鋭く、 軽量であるため、軟部組織や頭蓋骨を「挫滅させる」というよりは「切り裂く」ように 作用する。これらは頭蓋骨にヘドラ、すなわち割れ目(割れ目はヘドラと同義である) を生じさせるが、骨を挫滅させたり、折ったり、あるいは内側に押し込んで 本来の位置からずらしたりすることは、それほど容易ではない。

さて、骨の状態を自ら観察することに加え、こうした諸点についても 調査を行なうべきである。なぜなら、それらは傷の重篤度を判断する 手がかりとなるからである。また、患者が意識を失って暗闇に沈み込んだのか、 それとも目眩を起こして倒れたのかといった点についても確認が必要である。

XII.
武器によって頭蓋骨の肉が削ぎ落とされ、その傷がちょうど頭蓋縫合(縫合線) の位置に生じた場合、骨にヘドラ(武器による痕跡)が存在するか否かを 判断することは困難となる。他の部位であれば明瞭に確認できるはずの 痕跡であっても、それが縫合線上に重なってしまうと判別が難しくなるからである。 そもそも縫合線自体が頭蓋骨の他の部分よりも凹凸が激しいため、 誤認を招きやすい。痕跡が非常に大きい場合を除けば、どこが縫合線で、 どこが武器による痕跡なのかを明確に区別することは容易ではない。 また、縫合線上に武器による痕跡が生じる場合、通常は骨折も伴うものだが、 その骨折自体も判別が困難である。というのも、骨折が生じる際は、 たいてい縫合線の位置で起こるからである。この部位は、骨の構造が 本来的に脆弱であり、かつ多孔質であるため、容易に骨折したり、分離したり してしまう。さらに、縫合線そのものが裂けたり分離したりしやすい一方で、 縫合線を構成する骨自体はそれよりも強固であるため、骨そのものは 折れずに残ることがある。縫合線に生じる骨折には、縫合線の崩壊が含まれる。 そのため、縫合線における破損や分離が、武器による痕跡が生じた結果として 起きたものなのか、それとも頭蓋骨や軟部組織への打撲(挫傷)によって 生じたものなのかを判別することは、決して容易ではない。

とはいえ、打撲に伴う骨折は判別がより困難である。頭蓋骨の縫合線は、 それ自体が骨折のように見えるうえ、頭蓋骨の他の部位よりも凹凸が 激しいため、医師の目や判断を誤らせることがある。なお、縫合線が激しく 割れたり大きく開いたりしていない場合であっても、注意が必要である (割れ目とヘドラは同義である)。 もし傷が縫合線上にあり、凶器が骨の 周囲の組織を貫通して骨にまで達している場合は、骨がどのような損傷を 受けているのかを慎重に見極めなければならない。というのも、同程度あるいは それより小さな凶器によって同程度あるいはそれより小さな傷を負った場合でも、 それが縫合線に加わったときの方が、そうでない場合よりも頭蓋骨への損傷は はるかに深刻となるからである。こうした症例の多くでは、穿頭術が必要となる。 ただし、穿頭を行なう際、縫合線そのものに穴を開けてはならない。縫合線から 間隔をあけ、隣接する骨の部位に対して処置を行なうべきである。

XIII.
以下に、頭部の創傷に対する処置と、外見からは明らかではない頭蓋の 損傷を見つけ出す方法について、私の見解を述べる。頭部の損傷部を、 ワインをはじめとする如何なる液体であっても湿らせてはならない。 また、膏薬を塗ったり、傷口に詰め物をしたりすることも避けるべきである。 さらに、頭部の傷に包帯を巻くことも控えるべきだが、例外として、額、毛髪の ない部位、あるいは眉や目の周辺に生じた傷については、この限りではない。 これらの部位に生じた傷は、頭部の他の場所に生じた傷に比べて、膏薬の 使用や包帯による処置に適している。というのも、頭部の他の部分は 額全体を取り囲んでおり、損傷部位がどこであれ、その周囲から血液が 流入することで、炎症や腫れが生じるからである。

額であっても、常に絆創膏や包帯を使用し続けるべきではない。 炎症が治まり、腫れが引いたなら、絆創膏や包帯の使用を中止する。 頭部のその他の部位については、切開が必要な場合を除き、 傷口に詰め物をしたり、絆創膏を貼ったり、包帯を巻いたりしてはいけない。

頭部や前額部に生じた傷で、骨が露出し、かつ武器によって何らかの 損傷を受けていると思われる場合、その傷が骨の状態を観察するのに 十分な長さや広さを持っていなければ、切開を行なうべきである。 そうすることで、武器による損傷の有無、その性質、軟部組織の挫滅の 程度、骨の病変の有無を確認できる。あるいは逆に、骨が武器による損傷を 受けておらず、無事であるかどうかも確かめられる。また、軟部組織および 骨の損傷に対して、どのような治療が必要かを見極めることもできる。 こうした傷には、切開が必要となる。頭蓋骨が露出し、片側で組織が 大きく剥離(ポケット状に陥没)しているような場合は、適切な処置が 届きにくいその空洞部分を、切開によって開放しなければならない。 また、円形で、かつ広範囲にわたって組織が剥離しているような傷についても、 上下に切開を加えて傷を長く広げるようにする。

外科医は頭部の他の部位であれば安全に切開を行なうことができるが、 こめかみや、その上方にあって側頭血管が通っている領域を切開しては ならない。そうすると、患者に痙攣が起こるからである。また、左側のこめかみを 切開すると右側に痙攣が生じ、逆に右側のこめかみ切開すると左側に痙攣が生じる。

XIV.
したがって、頭部の傷において骨が露出しているために切開を行なう際、 その骨が武器によって損傷を受けているかどうかを確認したいのであれば、 切開創の大きさは十分な範囲を確保できるものにしなければならない。 手術に際しては、頭皮が骨膜や骨に癒着している箇所から、頭皮を骨から 剥離させること。その後、傷口全体にリント(綿布)を詰め込む。こうすることで、 翌日には、患者の痛みを最小限に抑えつつ、損傷部位を最大限に露出 させることができる。この詰め物をする際には、大麦の微粉を練ったものを塗布し、 リントを当てている間ずっとそのままにしておくこと。この練り物は、酢を加えて 煮込み、できるだけ粘り気が出るように調製する。翌日、リントを取り除いて 骨の状態を確認した際、損傷の性質が判然とせず、頭蓋骨に異常が あるのか​​どうかもはっきりしない場合であっても、武器が骨に達して損傷を 与えたと思われるのであれば、骨削器を用いて骨を削る必要がある。 その際、患者の体軸に沿って上下方向に削るだけでなく、横方向にも 削ることで、骨の他の部分が本来の位置から押し込まれていないために 隠れてしまっているような、潜在的な骨折や打撲の痕跡を確認 できるようにする。

骨を削ると、病変がはっきりと現れる。たとえ骨の内部に病変が存在していても、 それ以外の方法では確認できない場合があるからである。また、骨にヘドラ (亀裂や損傷を伴う病変部)が認められる場合には、そのヘドラ自体 だけでなく、それを含んでいる骨の部分も削り取るべきである。というのも、 ヘドラには(よくあることだが)打撲を伴う亀裂、あるいは単なる打撲が 併発していることがあり、それらは目立ちにくいため見過ごされてしまう 可能性があるからである。

骨を骨削器で擦った際、頭蓋の病変が穿頭術の適応であると判断 されるならば、3日間が経過するのを待って放置するのではなく、 その期間内に穿頭術を行なうべきである。特に暑い季節においては、 治療の初期段階から関与している以上、速やかに穿頭術を実施すること。

患者の証言から、受けた打撃が強烈であり、自分より力の強い相手 (もし他者から殴打されたのであれば)によって加えられたものであること、 また、傷を負わせた道具が危険な種類のものであることが疑われる場合― さらに、患者がめまいや視力喪失を経験し、意識が朦朧として 倒れ込んだという状況であれば―、目視だけでは頭蓋骨に骨折や打撲 (あるいはその両方)が生じているかどうか判別できないことがある。 そのような場合には、骨の上に「非常に黒い溶液」を滴下し、その黒い 薬剤を傷口に塗布すること。その上から亜麻布を当てて油で湿らせ、 さらに大麦粉の湿布を施して包帯で固定する。翌日、傷口を開いて洗浄し、 骨をさらに削ってみる。もし骨が健全ではなく、骨折や打撲が生じているならば、 削った後の骨の大部分は白く見えるはずだが、骨折や打撲の箇所には 薬剤が浸透しているため、白い骨の中に黒い痕跡として現れることになる。

また、黒く見えている骨折部を、さらに削り落としていく。もし削り進めるうちに その黒い部分が消えて見えなくなったとすれば、骨には多少の挫滅 (打撲による損傷)が生じていたということになる。この挫滅が、削り落とす ことで消滅した骨折を引き起こしていたわけだが、骨折が消失した今となっては、 その深刻さや危険性は低減している。もし損傷が深部にまで及び、削っても 消えないような場合には、穿頭術(頭蓋骨に穴を開ける処置)が必要となる。

XV.
手術後は、創傷に対して必要なその他の処置を施さなければならない。 不適切な処置によって、周囲の組織から頭蓋骨へと悪影響が広がることを 防ぐ必要がある。というのも、穿頭術によって、あるいは穿頭せずとも骨が 露出した場合―たとえ骨が本来健全であっても、あるいは外見上は健全に 見えても武器によって何らかの損傷を受けている場合であっても―骨周囲の 軟部組織に対する処置が不適切で、炎症を起こして締め付けられるような 状態になれば、本来なら化膿しないはずの状況であっても、化膿のリスクが 高まるからである。組織には一種の発熱が生じて激しい熱を帯びるようになり、 最終的には骨が周囲の組織から熱や炎症、刺激、拍動、さらには軟部組織が 抱えるあらゆる有害な要素を吸収してしまい、その結果、骨が化膿するに至る。 また、創傷部の組織が湿ってふやけた状態になり、浄化されるまでに長い時間が かかることも好ましくない。むしろ、できるだけ早く創傷を化膿させるべきである。 そうすることで、周囲の組織の炎症を最小限に抑え、最も迅速に創傷を浄化 できるからである。武器によって打撲・挫滅させられた組織は、必然的に化膿し、 壊死して脱落する運命にあるからだ。創傷が浄化された後は、むしろ乾燥した 状態に保つべきである。そうすれば、新たに形成される組織が湿った状態ではなく 乾燥した状態となり、最も早く健全な状態へと回復する。また、こうすることで、 肉芽が過剰に増殖することもなくなる。この原則は、脳を覆う膜についても 同様である。もし直ちに穿頭術を行ない、骨を取り除いてこの膜を露出させた ならば、できるだけ早くその膜を清潔かつ乾燥した状態にしなければならない。 湿った状態が長く続くと、膜が異常増殖して腫れ上がり、腐敗してしまう 危険があるからである。

XVI.
頭部に傷を負い、頭蓋骨に武器による傷跡(ヘドラ)が残った場合、 あるいは骨が広範囲にわたって露出してしまった場合、やがて骨の一部が 周囲から分離することがある。こうした骨は、血流を失った後に分離するのが 通例である。というのも、骨に含まれる血液は、時間の経過や、傷口に 施されるさまざまな処置によって乾燥してしまうからである。傷口を可能な 限り迅速に洗浄した後、その傷口と露出した骨(大小を問わず)を 乾燥させれば、骨の分離は最も速やかに進行する。なぜなら、乾燥して 土器の破片のようになった骨は、血液が通い生命を宿している周囲の骨から、 極めて容易に分離するからである。

XVII.
骨が打撲によって陥没し、広範囲にわたって粉砕されているような場合 であっても、脳を覆う膜が無事であれば、(他の損傷と比べて)危険性は低い。 骨が多数かつ広範囲にわたって折れている場合も同様に危険性は低く、 骨片も除去しやすくなる。このような症例では、穿頭術を行なってはならない。 また、骨片が自然に浮き上がってくる前に無理に取り除こうとして、危険を 冒すようなことも避けるべきである。骨片は、周囲が緩んでくれば自然と 浮き上がってくるものだからである。骨片が浮き上がってくるのは、下から 肉(肉芽組織)が成長してくるためである。もし頭蓋骨の外板(外側の層) のみが壊死している場合、この肉は頭蓋骨の板間層(内層と外層の間の 海綿状組織)や、健全な骨の部分から成長してくる。傷口をできるだけ早く 化膿させ、清潔に保つようにすれば、こうした下からの肉の成長や増殖は 最も速やかに進む。もし頭蓋骨の外板と内板の両方が打撲によって内側に 陥没し、脳を覆う膜にまで達しているような場合であっても、同様の処置を 行なうことで、傷口は最も早く治癒し、内側に押し込まれた骨片もきわめて迅速に 浮き上がってくることになる。

XVIII.
幼い子供の頭蓋骨は、より多くの血液を含んでいるうえ、中が空洞で 多孔質であり、緻密でも硬くもないため、薄く柔らかい。また、同程度 あるいはそれ以下の威力を持つ武器によって同じかそれ以下の程度の 傷を負った場合、年長の子供に比べて年少の子供の頭蓋骨は、より容易 かつ急速に化膿し、その期間も短くなる。さらに、その傷が原因でいずれ死に 至るような場合、年少の子供は年長の子供よりも早く命を落とすことになる。

しかし、骨から肉が剥き出しになっている場合には、外見からは判断 できない事柄を見極めるべく、知力を尽くさねばならない。すなわち、 頭蓋骨に骨折や挫傷が生じているのか、それとも挫傷のみなのか。 また、もし(武器などによる)損傷があるならば、それは挫傷を伴うものか、 骨折を伴うものか、あるいはその両方なのか、といった点である。骨にこうした 損傷が認められる場合は、小さな穿頭器(トレフィン)で穴を開けて血を 排出させること。その際、こまめに様子を確認しながら慎重に行なう必要がある。 というのも、若年者の頭蓋骨は高齢者に比べて薄く、より表面に近い位置に あるからである。

XIX.
頭部の負傷により死に至る場合、すなわち回復や救命が不可能な状況に おいて、死が迫っていることを診断し、その後の経過を予測するための徴候は 以下の通りである。頭蓋骨に損傷(骨折、挫傷、あるいはその他の 何らかの損傷)があるにもかかわらず、それを見落として、本来必要な処置 である骨の掻爬(そうは)や穿孔を行なわなかった場合、骨は健全な 状態にはない。このとき、冬であれば14日以内、夏であれば7日を過ぎた頃に、 患者は発熱に見舞われるのが通例である。こうなると、患部は変色し、 少量の漿液が滲み出る。炎症は完全に消失するが、組織はふやけた状態となり、 その外見は、どす黒い赤みを帯びた干物のように見える。やがて骨の壊死が始まり、 本来の白色から暗色へと変化し、最終的には黄色味を帯びるか、あるいは 死んだような白色(死白色)を呈するようになる。化膿が進むと、舌に水疱が現れ、 患者は譫妄(せんもう)状態に陥って死に至る。多くの場合、身体の片側に痙攣 が生じる。頭部の左側に損傷がある場合は身体の右側に、頭部の右側に損傷 がある場合は身体の左側に痙攣が現れる。また、卒中(脳卒中様の発作) を起こし、夏であれば7日以内、冬であれば14日以内にその状態で死に至る 者もいる。これらの徴候は、患者の年齢にかかわらず、同様の診断的価値を持つ。

そして発熱し始めていることに気づき、さらにこれに他の兆候のいずれかが 付随しているなら、ただちに骨を膜に達するまで鋸で挽くか、 あるいは掻爬器で削り落とし(骨は鋸で挽きやすく、削りやすくなっている)、 その上で、生じる事態を見定めながら、有益と思われるようにその後の 治療を行うべきである。

XX.
頭部に創傷がある場合―頭蓋穿孔術を受けたか否かにかかわらず、 骨が露出しているような状況において―顔面や片側あるいは両側の眼の 周囲に、丹毒様の赤い浮腫が生じることがある。この浮腫は触れると 痛みを伴い、悪寒を伴う発熱も現れる。しかし、頭皮や頭蓋骨の損傷部位 そのものは健全な外観を呈しており、顔面の浮腫を除けば、創傷周辺の 状態も良好である。また、養生上の過ちによって病状が悪化しているわけ でもない。このような場合には、利胆薬を用いて腸管を浄化(排便を促すこと) すべきである。こうした処置を行なうと、発熱は治まり、浮腫も消退して、 患者は回復に向かう。なお、薬剤を投与する際には、患者の体力や 全身状態を十分に考慮しなければならない。

XXI.
患者に対して穿頭術を行nう必要がある場合には、以下の点に留意すること。 治療の当初から担当している症例において穿頭術を行う際、一度に骨を膜に 達するまで完全に除去してはならない。なぜなら、骨が取り除かれて膜が露出し、 長期間にわたって有害な影響にさらされることは好ましくなく、最悪の場合、 膜がふやけてしまう(浸軟する)恐れがあるからである。また、骨を膜に 達するまで一気に除去しようとすると、手術中に穿頭器具で膜を傷つけて しまうという危険もある。したがって、骨の切削がほぼ完了し、骨が動くように なった段階で操作を中断し、骨が自然に分離するのを待つべきである。 残された骨は十分に薄いため、穿頭された部位や切削されずに残った部分に 悪影響が及ぶことはない。その他の治療については、病変に対して有益と 思われる方法を選択すること。

穿頭術を行なう際は、骨が熱くなるのを避けるため、頻繁に鋸を取り出して 冷水に浸すこと。鋸は回転によって熱くなり、骨が熱くなって乾燥すると、 骨が焼灼され、穿頭した部分の周囲の骨が本来よりも多く削り取られて しまうからである。膜まで一気に穿頭して骨を取り除きたい場合には、 同様に穿頭器を頻繁に取り出して冷水に浸すこと。

もし治療の当初から関わっておらず、後から引き継ぐ形で治療に加わること になった場合は、直ちに鋭い歯を持つ穿頭器を用いて、骨を膜に達する まで削ること。その際、頻繁に穿頭器を外して状態を確認し、また探針を 用いて切削経路の周囲を調べること。というのも、すでに化膿して膿が 溜まっている状態であれば、骨はより容易に切削できるからである。 また、頭蓋骨は厚みがほとんどない場合も多く、特に傷が頭部の骨の薄い 部位に生じているときはなおさらである。したがって、穿頭器を当てる際には 細心の注意を払い、常に骨が最も厚いと思われる箇所に固定するように しなければならない。頻繁に状態を確認しつつ、前後に動かすような動作で 骨を持ち上げようと試みること。そして、骨を取り除いた後は、損傷部位に 対して(それまでの経緯を考慮した上で)有益と思われる処置を施すこと。

症例を初期段階から担当し、骨を一度に完全に切り抜いて膜から 取り除こうとする場合は、その都度、探針を用いて鋸による円形の切開溝を 確認するようにすべきである。その際、トレフィン(円形骨鋸)は常に骨の 最も厚い部分に固定し、往復運動を繰り返すことで骨片を取り外すようにする。

また、穿孔用トレフィンを使用する場合、初期段階から処置を行なうのであれば、 膜に達するまで深く掘り進めてはならない。前述の穿頭術に関する指示に 従い、骨の薄い層を残しておくこと。
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