診療所における心得 ヒポクラテス著
On The Surgery Hippocrates


英訳:Francis Adams (1796~1861)
「The Genuine Works of Hippocrates」 (1849)
邦訳:前田滋(カイロプラクター:大阪・梅田)
(https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-surgery.html )

掲載日 2013.12.15

英文サイト管理者の序

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。


1.
医師が最初にやるべきことは、もっとも際立った徴候と、もっとも分かりやすい徴候、どんな方法でも分かることに関して、何が正常で何が異常かを見極めることである。それらは、全ての感覚すなわち、視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚を通して、知識を獲得するためのあらゆる手段を用いて理解できるものである。

2.
外科手術に関連する事柄は、まず患者、次に術者、助手たち、手術器具、照明、これらを、どこでどのように配置するか。器具の数と、それを何時どのように用いるか。患者、器具は何時使用するか、使用法、場所などである。

3.
術者は座っていても立っていてもよいが、手術する部位や照明の都合で、自分のやりやすい位置を取るべきである。

照明には二種類ある。すなわち自然光と人口灯である。自然光は思い通りにできないが、人口灯は調節できる。それぞれの使用法には二通りある。光を正面から受ける方法と、光を斜めから受ける方法である。

光を斜めに受ける方法はほとんど使わない。そしてどの方向から光を受けるのが良いかは明らかである。

光を正面から受ける時には、手術部位を最も明るい光に向ける。ただし、その部位を遮蔽する必要がある時や、見せると困る場合を除く。このようにして患部が光に当たるようにし、術者は患部に正対する。ただしこの場合も術者が影にならないようにする。このようにすると、術者には患部がよく見えるが、他の人には患部が見えないからである。

術者が座っている時には、膝が両足の真上になるように配置し、両足は少し離して揃える。両膝は鼠径部より少しだけ高くし、お互いを少し離しておく。こうすれば肘を膝の上に休めることができるし、肘を動かす余裕ができる。着衣は皺のないすっきりした通常のものでよく、肩と肘に均等に釣り合うものを用いる.

手術部位に関しては、遠近の程度、上か下か、左右か中央か、などを考慮する。遠近に関しては、肘が膝の前になったり、胸部の後ろになったりしないようにする。そして両手は胸より高くも低くもならないようにし、胸が膝の上にある時には、前腕が上腕に対して直角になるようにする。

以上が中央の配置であるが、左右に位置を変える時には、椅子を動かさずに、身体を前に傾けたり、動かしている身体部を適当に捻って対処する。

医師が立つ場合には、両足をしっかり水平に配置して検査するべきだが、施術する時には片足(動かしている手の反対側)に体重をかけること。他方の膝は、座っている時と同じく、鼠径部より少し高い位置に上げてもよい。その他の配置も座っている時と同じである(前田注;「骨折」第8節参照)。

患者には、立位、座位、横臥位どの姿勢でも、身体の自由になる部位を用いて術者を補助させる。適切な姿勢を維持するのがもっともやりやすいようにして、滑ったり、転倒したり、身体の位置がずれたり、ぶら下がったりしないようにする。そうすれば、処置や手術の間、またその後の処置において身体の配置や患部の形を保持できる。

4.
指の爪は指先から出ないように短くし、また短かすぎないようにする。指先を用いる操作は、示指と母指を対向させ、手掌を下向け、しかも両手を対向させることが多い。

適切な指の形は、四指を大きく開き、母指を示指とを対向させる。しかし生まれつきか体質かによって、母指を四指で握り込む習慣の人は、明らかに支障を来す病気である。

あらゆる操作は、両手とも同じようなものなので、片手または両手を使って行なうようにする。医師の目標は能力を高め、操作の優美さ、迅速さ、無痛、正確さ、滑らかさを会得することにある。

5.
器具については、それらを使用する場合と使用法を解説する。器具の正しい位置は、操作の邪魔になる位置でも、遠い位置でもなく、術者の手の近くである。助手が器具を術者に手渡す場合には、その少し前に用意させ、術者が指示した時に差し出させるようにする。

6.
看護人たちには、患者の手術部位を医師が思う通りに見せるようにさせる。そして、身体の他の部位を動かないようにしっかり保持させ、静かにして医師の指示に従わせる。

7.
包帯に関しては、終えた時のできばえと巻き方の二つの観点がある。巻き方に関しては、機転と手際の良さに加えて、素早く痛みのないように行なうべきである。。

どんなことにも臨機応変に対応できるように備えつつ、手際よく操作を最後まで素早く終えることや、痛みを起こさずに易々と包帯する操作は、見ていて心地よいものである。

これらの操作に上達するための練習法はすでに説明している。包帯を巻く時には上手に手際よく行なうべきである。手際よいというのは、上手にしかも滞ることなく、患部が均一で同質である時には均一に、そして同じように巻きつけ、患部が不均一で異質な時には、不均一にまた異質なように包帯を巻くという意味である。

包帯の巻き方には、単純形(環状)、斜形(手斧形)、極端な斜形(層状?)、単眼帯、菱形、半菱形がある。患部の病気や形状に合わせて、それにふさわしい巻き方を用いる。

8.
患部に包帯を施す場合、「上手に」というのには二つの意味がある。一つ目は強く巻くか、包帯の数を多くして、しっかり巻くことである。。包帯は、それ自身が治療になることもあるし、治療器具を補助することもある(前田注;二つめの記述がない)。

治療器具を用いる時の巻き方があって、これには包帯法の最も重要な要素が含まれている。器具が落ちないように押さえておくべきだが、強すぎてもいけない。強く押さえつけないようにして患部に密着させる。そして両端では圧を軽くし、中ほどでは圧を最も軽くする。

結び目や糸の縫い目は下側ではなく上側にするべきで、これは配置を見たり、包帯を巻いたり、締めつけを強くするのに都合が良いからである。

包帯の終端は傷口の上ではなく、結び目を作る位置に来るようにすべきである。結び目は擦れたり動いたりする場所や、その目的を果たせないような場所には作らないようにする。結び目や縫い目は柔らかくし、かさ張らないようにする。

9.
包帯は、頭のてっぺんや下腿の下部など、垂れ下がっている方や円錐形の方に滑ってずれることを、しっかり心に留めておくこと。

右側の部分を巻く時には左方向に巻き、左側の部分を巻く時には右方向に巻く。ただし、頭部を巻く時には縦に巻く。対称形の部位に包帯を巻く時には、双頭包帯が必要である。しかし、片側から巻き始める場合には、包帯をそれぞれの方向に巻き、頭の中央部やそれに似たような固定されている部位に対して同じ位置関係を保つようにする。

動きのある部位に包帯を巻く時には、膝の裏側のように曲がる部位では、巻く回数をできるだけ少なくしてしっかり締めつける。しかし膝蓋骨のように伸びる部位では、幅の広い包帯で広く巻く。

これらの部位をしっかり固定するため、また包帯を支えるために、膝の上部と下部のような、動きのない平らな部位に包帯を追加して巻きつける。肩の場合には反対側の脇の下に回すのが適切で、鼠径部の場合には胴体の反対側に、脛(すね)の場合には脹ら脛の上部に巻くのがよい。

包帯が上にずれやすい箇所では下の方から支え、下にずれやすい箇所では上の方から支える。頭部のように、このような支えができないところでは、もっとも滑らかな部位をしっかり固定する。そしてできる限り斜めになるのを防ぐ。そうすれば最後の一巻きをしっかり巻くことで、もっとも動きやすい部位を固定できる。包帯でしっかり固定するのが難しかったり、反対側から支えるのが難しい場合には、糸で環状に縫い合わせたり、内部に縫い目をつけて固定する。

10.
包帯は清潔で軽く、柔らかく、薄いものを使用する。両手で同時に巻く練習と、片手で別々に巻く練習をしておく。患部の厚さと幅を考慮して適切な大きさの包帯を用いる。包帯の端はしっかりしていてすり切れておらず、皺のないものを用いる。装着物をはずす時には、包帯がすぐに外れるのが良い。そして装着物を押しつけないように、また落ちないように巻くこと。

11.
上包帯と下包帯またはその両方の目的は何か。下包帯の目的は、分離しているものを合わせること、めくれた傷口をふさぐこと、癒着したものを離すこと、歪んでいるものを整復することにあるが、下手なやり方では逆効果となる。

亜麻布の包帯は軽くて柔らかく、薄くて幅広く、縫い目がなく平坦で傷んでいないものを使用する。そうすることで必要な強さに耐え、しかもそれ以上に少し強度が出るようにする。そして乾いたままでなく、それぞれの症例にふさわしい液で湿らせて使用する。

分離した膿瘍に包帯する時には、盛り上がった部分を押さえないようにして、その上部に包帯の基部を当て、正常部から巻き始め、傷口の所で巻き終える。そのようにして膿瘍内の体液を押し出し、それ以上集積しないようにする。

真っ直ぐな部位には真っ直ぐに巻き、傾斜部には斜めに巻き、痛みのないようにまた締めつけもせず、姿勢を変えてもずり落ちないように巻いて、何かを固定したり、腕や脚を吊り下げたりする。このようにして、筋肉や血管、靱帯、骨などが正しい位置と、お互いの位置を保てるようにする。

また痛みを起こさないようにして自然な位置に保持するべきである。そして開いている膿瘍がない時には、逆のやり方を行なう。傷口が開いている時には、他の症例と同じようにして傷口を合わせるのだが、最初は充分離れた位置から巻き始め、徐々に締めつけ具合を強めてゆく。すなわち、最初はごく軽く締めつけ、その後徐々に圧を強くし、傷口が合わさる状態を締めつけの最大強度とする。

癒着部を引き離す場合には、炎症があるなら逆に包帯をできるだけ用いない方が良い(Jonesの注に従った)。炎症がない時には同じものを使用して前記と逆のやり方で包帯を巻く。捻れている部位を矯正するには、これまでと同じ原則に従って包帯する。外側に捻れた部位は包帯や膠で接着したり、吊り下げたりして内側に戻す。内側に捻れたものはこれと逆のやり方で戻す。

12.
骨折に用いる圧定布の長さ、幅、厚さ、量について。長さは包帯を巻く範囲に合わせ、幅は3~4指幅、厚みは3~4枚重ねとする。量は周囲を囲む時に重なりもせず隙間もできないだけの量とする。形を矯正する必要がある時には、長さはぐるりと取り巻くのに必要なほどにし、幅と厚みは凸凹を均一にならすように調整するが、一度で凹みを埋めないようにする。

亜麻布の下包帯には二つある。最初は患部から上に向かって巻き、二度目は患部から下に向かって巻き、再び上に向かって最上部で巻き終える。患部を最も強く縛り、両端は最もゆるくする。その他の部位では、これに合わせて締めつけ具合を調整する。包帯は健常部にも充分広く巻く。

上包帯の量と長さ、幅に関して。副木による圧迫感がなく、重くもなく、回って滑ることなく、副木の効果を弱めることもない適切な量を用いる。長さと幅については、3~6キュービット(約135Cm~270Cm)の長さで、3~6指の幅がよい。そして支え帯は柔らかく薄いものを用い、圧迫感のない程度に巻きつける。これら全ては、患部に合わせた長さと幅、厚さのものを用いる。

副木は滑らか、平坦で、両端に向けて徐々に先細りになっているものを用いる。そして包帯を巻く幅より少し短くしておく。また骨折した隆起部では最も厚くしておく。また、四指や足首のように通常は肉で覆われていない彎曲部に当たらないように副木の位置を調整したり、短くしておく。副木は押さえつけないようにして支え帯でぴったり固定する。包帯を最初に使用する時には、柔らかくて滑らかなワックスを塗り込めておく。

13.
用いる水は温度と量を考慮する。温度は自分の手に水をかけて確認する。量は患部が緩み、痛みが軽くなるほどの量がよい。しかし肉質の形成を促がしたり、これを柔らかくしたりするためには、頃合いの量にしておく。頃合いの注水で止めるには、患部の腫れが引く前の、まだ腫れている時にやめるべきである。というのは、患部は最初に腫れて、その後に腫れがひいてゆくので。

14.
患部をのせる台は柔らかく滑らかで、踵や臀部のように隆起部をのせられるように傾斜しているものがよい。そうすれば後ろに曲がったり(横に曲がったり?、折れ曲がったり?)せず、歪みもしない。円筒形の副木は下肢の半分に当てるよりは全体に用いる(前田注;「骨折」第16節参照)。この副木を使用する時には、障碍の具合と、これを使用することによって生じる明らかな不利益を考慮すること。

15.
患部の診察、牽引、整復などは身体を自然な状態にして行なう。身体の動作は自然な状態で行なわれるので、どのような動きが自然かを判断しなければならない。上記の場合では、休息状態、通常の状態、習慣から判断する。休息している時や安静状態からは、患部の正しい向きを推定する。例えば、腕の場合には、通常の状態から自然な伸展状態と屈曲状態を判断する。そして腕と前腕が殆ど直角になるのが自然である。

習慣からは、もっとも楽な姿勢を推し量る。例えば足を伸ばしている時のように、これは姿勢を変えないままで長時間そのままでいられるもっとも楽な姿勢である。牽引の(手術の)後で姿勢を変えても、筋肉、血管、腱、骨は習慣的な姿勢や自然な姿勢の時と同じ位置関係を保持できるだろう。このようにすれば、台の上に乗せたり、ぶら下げたりする時にも、もっとも都合良くできる。

16.
牽引をもっとも強く行なうのは、最も大きくて太い骨や、二本の骨が折れた時である。次に強く牽引するのは腕の下側の骨の場合で、腕の上側の骨にはもっとも弱い力で牽引する。子供の場合を除き、不必要に強い力を用いるのは有害である。四肢は少し高くしておく。患部が正しく矯正されているかどうかを判断するのは、健全な方の同じ部位か、対となっている部位を目安にする。

17.
マッサージは患部を緩めたり、刺激したり、肉づきをよくしたり、細くしたりする効果がある。これを強く行なうと刺激し、ゆるやかに行なうと緩め、長時間行なうと細くし、ほどほどに行なうと太くする。。

18.
最初に包帯を巻く時のやり方を以下に説明する。損傷部が最も強く締めつけられていると感じ、包帯の両端は殆ど締めつけられていないと患者が感じるように巻く。包帯は密着してなければならないが、圧迫感を与えないようにする。それには、強く締めつけるのではなく、包帯の量を多くする。そして最初の日とその夜は、締まり具合がむしろ強く感じるはずである。しかし翌日には締まり具合は軽くなり、3日目には包帯は緩むようにする。包帯の翌日にはその両端で軽い浮腫が認められ、3日目に包帯が緩んだ時には、浮腫は軽くなっていなければならない。包帯を取り替えるたびに、このような所見が認められようにしなければならない。

二度目に包帯を巻く時には、以前の包帯が正しく巻かれたかどうかを確認しておく。そして前回よりも包帯の量を多くして強く締めつけるべきである。三度目の時には、二度目の時より量を多くして、より強く締めつける。

最初の装着から7日目になって包帯をはずすと、患部が細くなっていて、骨が動かせるようになっているはずである。

その後、腫れが引いていて痒みも潰瘍もなければ、副木を当てる。そして怪我をした日から20日経過するまで、そのままにしておく。しかし、何か疑念が生じた時には、その期間中でも包帯をはずしてみる。副木は3日目毎に締め直す(前田注;「骨折」第5節~第7節参照)

19.
骨折した四肢を吊り包帯で支える時には、その処置や包帯など全てが正しい配置を保持するように行なう。

患部の配置に関しては、四肢の習慣的な姿勢や、四肢それぞれの特殊な自然構造に基本的な配慮を払うべきである。それは、走ること、歩くこと、立つこと、横臥、仕事、休息などによって示される。

20.
運動すると身体は強くなり、使わないでいると弱くなることを忘れてはならない。

21.
包帯で締めつける時には、巻く時に力を加えるのではなく、包帯の量を多くするべきである。

22.
皮下溢血による紫斑、打撲傷、捻挫、炎症を伴わない浮腫などの場合には、 損傷部から血液を散らさねばならない。それには大部分の血液を患部から上方へ押しやるが、小量なら患部から下方に流れてよい。この時、腕や脚は傾けてはならない。包帯の端を患部に当てて、そこを最も強く締めつけ、両端を最も緩く。中間部を中程度に締めつける。そして最後は身体の上方部で巻き終えるようにする。包帯の巻き方と締めつけに関しては、締めつける力を強くするのではなく、包帯の量を多くして締めつける。このような場合には、包帯は薄くて軽く、柔らかて清潔で、幅が広くて傷みのないものを用いる。そうすれば、副木を用いなくても目的を果たせるだろう。そして大量の灌水を行なうべきである。

23.
関節の内反や外反を誘発するような脱臼、捻挫、対になっている二つの骨の離開、骨の剥離、骨の先端部の骨折、関節の捻れなどの場合には、位置のずれを起こすような圧をかけないように包帯をしなければならない。そしてずれている方向では強く巻き、ずれている方向の反対方向に四肢を強く傾けておく。

包帯、圧定布、吊り包帯による四肢の支え、姿勢保持、牽引、マッサージ、整復など共に大量の灌水を行なう。

23.(前田注;AdamsとWithingtonの訳に少し齟齬があるので、Withingtonの訳も掲載しておく;以下はWithingtonの訳)

脱臼、捻挫、骨の離開、骨の剥離、関節付近の骨折、左右に歪んでいる症例に包帯する場合、歪んでいる方向には軽くし、歪みに向かう方向には強く巻く。そして包帯する時またはその前には真っ直ぐにしないで、反対方向に少し傾けておく。

治療は、包帯、圧定布、吊り下げ、姿勢保持、牽引、マッサージ、整復、これに加えて大量の灌水を行なう。

24.
萎縮している部位を処置するには、健全な部位にもかなり広く包帯を施し、これによって体液流入を促し、衰弱した以上の栄養補給を萎縮部に供給する。このようにすれば、肉づきが成長しやすく、回復しやすくなる。

患部の上方部にも包帯を巻くのが良策で、脛(すね)の場合には大腿部にも巻き、また対側の大腿と脛(すね)も共に包帯を巻くのがよい。このようにすれば、両脚が同じ状態に保持され、同じように動きを止めることができ、左右の下肢に同じように栄養供給を止めたり、始めたりできる。締めつけの効果はきつく巻くのではなく、包帯の量を多くして引き出す。栄養を最も多く必要とする部位を第一に緩くする。そして肉づきを促すためにマッサージや灌水を行なう。副木は使用しない。

25.
胸部や脇腹、頭部などを支えたり強めるための包帯は、次のような場合に使用する。脈動に対して、これは患部が動かないようにするために。頭蓋骨の縫合が分離している場合、それを支えるために。咳やくしゃみ、その他の動きから胸部や頭部を固定するために。

これら全ての例で、これまでと同じ包帯のやり方を用いる。すなわち、損傷部にはもっとも強く巻き、症状に合った何か柔らかい物を包帯の下に当てる。障害を起こさないために、脈動を止める程度の強さで包帯し、また分離していた縫合が合わさる程度の強さで包帯し、それ以上の強さで締めつけてはならない。また咳やくしゃみを完全に止めるような強さで締めつけてはならないが、しっかり支えながらも窮屈にならないようにして、揺れても動かないように包帯する。

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