健康時の養生法 ヒポクラテス著
Regimen in health Hippocrates


英訳:W.H.S.Jones (1876-1963)
「HIPPOCRATES」 VOL. IV 1923
Loeb Classical Library
邦訳:前田滋(カイロプラクター:大阪・梅田)
( https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-regimen-health.html )

掲載日 2013.12.19

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。


1.
一般の人たちは次のような養生法に従うべきである。冬にはできるだけたくさん食べ、飲み物はできるだけ少なくする。飲み物は、できるだけ薄めないワインを飲み。そしてパンを食べ、肉は焼いて食べる。この季節の間には野菜の摂取をできるだけ少なくする。そうすれば身体が乾燥し、温まる。

春が来ればワインを飲む量を増やすが、かなり薄めて飲む。ただし一度に少しずつ飲むようにする。そして柔らかい食物を少量摂取する。パンの代わりに大麦のパンケーキを食べる。上と同じ原則に従って肉の量を減らし、肉は焼かずに全て茹でる。そして春が来れば少量の野菜を摂るようにする。夏に備えて食物は全て柔らかくし、肉は茹で、野菜は生か茹でる。ワインはできるだけ薄めて多めに飲む。薄め方は少しずつ徐々に行ない、急激に薄めないこと。

夏には大麦のパンケーキを柔らかくして摂る。ワインは薄めて大量に飲む。肉はどんな場合でも茹でる。夏にはこのような養生に従うべきだが、こうすれば身体が冷えて柔らかくなるだろう。というのも、夏は暑くて乾燥し、身体が火照って乾燥するからである。従って、このような状態に対抗するように生活してゆかねばならない。

同じ原則に従って、春から夏への変動は冬から春への変動と同じように行なう。すなわち、食物摂取を減らし、飲み物を増やす。

これと同じように、夏から冬へ移行する時には逆のことを行なう。秋には乾燥させた食物を多く摂り、肉も同じように摂る。ワインは量を減らし、あまり薄めずに飲む。冬を健康に過ごすには、ワインを生のままで少量飲み、食物はできるだけ豊富に、しかもできるだけ乾燥させて摂るべきである。冬は寒くて湿潤であるので、このような養生をすることで大変健康に、しかも最も冷えにくくして過ごせるだろう。

2.
肉づきがよく、柔らかで赤みの強い体質の人は、一年の殆どにおいて乾燥した食餌を摂るのが有益である。というのも、このような人の体質は水分が多いからである。

贅肉がなく筋肉質で、赤みがかっているか褐色の人たちは、一年の殆どの期間を水分の多い食餌を摂るべきである。このような人たちの体質は乾燥しているからである。

若者たちもまた柔らかくて水分の多い食物を摂るべきである。この年代は身体が乾燥し、若い身体は堅いからである。中年以後の人たちは一年の殆どの期間において乾燥した食餌を摂るべきである。というのも、この年代の人たちの身体は水分が多く、柔らかで冷えているからである。従って、養生法を決める時には年齢、季節、習慣、地域、体格、また暑さ寒さの変化に対抗するように注意を払うべきである。このようにすれば、最高の健康状態を甘受できるだろう。

3.
歩くことに関しては、冬には速く歩き、夏には、炎天下を歩くのでなければ、ゆっくり歩くのがよい。肉づきのよい人は速めに歩き、痩せている人はゆっくりめに歩くべきである。夏には頻繁に入浴し、冬には少なくする。痩せている人は肉づきのよい人よりも多く入浴するべきである。冬には脱脂した上衣をまとい、夏には油脂に浸した上衣を着るのがよい。

4.
肥満していて痩せたいと思っている人の場合、激しい運動は常に空腹時に行ない、食餌は身体が冷える前で、動悸がしている間に摂るべきである。そして、食餌の前に、あまり冷えていない薄めたワインを飲むのがよい。この人たちの食餌はゴマや甘い薬味などで風味をつけ、またそれらをたっぷり用いる。そうすれば最小の量で食欲が満たされるだろう。そして一日に一度だけ充分な食餌を摂るべきで、入浴を控え、堅いベッドに寝るようにし、できるだけ薄着で過ごすのがよい。

痩せていて太りたいと思っている人は、これと逆のことをするべきである。特に空腹時には決して激しい運動をしてはならない。

5.
催吐剤や浣腸薬は次のように使用するべきである。催吐剤は冬の半年間に使用するべきである。というのも、この時期は夏よりも粘液が多く分泌され、頭部や横隔膜から上の部位に病気が発生するためである。

しかし、気候が暑くなれば浣腸薬を使用するべきで、これは季節が灼熱状態になると身体は胆汁過多となり、腰や膝が重苦しくなり、熱感が出て腹部に疝痛が起きるためである。

従って、身体を冷やし、上に上がってくる体液を下に流さねばならない。太りやすく、水分が多くなりやすい人たちには、浣腸薬の塩分をかなり増やし、薄くする。身体が乾燥しやすく、痩せて虚弱な人の場合には、浣腸薬の油分を多くし、しかも濃くする。

油分が多くて濃い浣腸薬は牛乳から作ったり、ヒヨコマメまたはそれに類似のものを茹でて作る。薄くて塩分の多い浣腸薬は塩水と海水から作る。

催吐剤は次のように使用する。痩せもせず太っている男性の場合には、昼間に走った後、あるいは速く歩いた後に、空腹状態で催吐剤を飲むべきである。催吐剤は半コチレ(kotyle:約135ml)のヤナギハッカ粉末を1クース(約3.2L=12コチレ)の水に混ぜて作る。これに酢や塩を加えて飲みやすくしておいて患者に飲ませる。最初はゆっくり飲ませ、その後は一気に飲ませる。

痩せて虚弱な人たちの場合には、食後に催吐剤を飲ませる。それには、まず熱い湯に浸かってから、生のワインを1コチレ(約270ml)飲ませる。そして多様な種類の食物を摂らせるが、食事中と食後には飲み物を摂らせない。そして10ステード(約1800m)歩くほどの時間を待ってから、辛味、甘味、酸味のもの三種を混ぜたワインを飲ませる。最初は生(き)のままで少しずつ時間をかけて、その後はずっと薄めて、より早く、より大量に飲ませる。

一月に二度催吐剤を飲む習慣の人は、2週間に一度飲むよりも、2日続けて飲む方がよい。しかし、通常の慣行はこれと全く逆である。

食物を嘔吐することで体調が良くなる人たちや、便秘がちの人たちは、日に数回食事を摂るのがよい。食事は多種類の食物や、さまざまに調理された肉を摂り、ワインは2~3 種のものを飲む。

食物を嘔吐しない人たちや、便が緩い人たちの場合には、このやり方と全く逆のことを行なうのがよい。

6.
幼児の場合には、温かい湯に長時間浸からせた後、充分薄めて、あまり冷えていないワインや、腹部の膨張や鼓腸を最小限に抑えるようなものを飲ませる。この方法は、ひきつけを起こしにくくし、より大きく、血色をよりよくするために行なうべきである。

女性の場合には、かなり乾性の食餌を摂るべきである。乾性の食物は女性の柔軟な肉質によく適合していて、飲み物もなるべく生のままの方が子宮や妊娠にとって、より有益である

7.
運動選手の場合、冬の練習はランニングとレスリングを行なうべきである。夏にはレスリングを少し行ない、ランニングは全くしない方がよい。その代わり、涼しい場所で充分に歩くべきである。

ランニングで疲れた人はレスリングをし、レスリングで疲れた人はランニングをするべきである。というのも、このようなやり方で運動をすると、疲労している身体の部分をもっともうまく温めて引き締め、元気を回復させられるからである。。

練習中に下痢に襲われ、未消化物が便に混じっている場合には、少なくとも練習量を三分の一は減らし、食物を半分に減らすべきである。というのも、この人たちの腸は明らかに、摂取した量の食物を消化するのに必要な熱を産生できないからである。

このような人たちの摂るべき食物は、充分に焼き上げたパンをワインに浸してくずしたもので、飲み物は薄めないようにして、できるだけ少なくする。また、食後は歩き回ってはならない。このような時には、毎日一度だけ食餌を摂るようにするべきで、そうすると、運動によって腸に最大の熱が発生し、そこに流入してきた物は全て消化できるようになる。

この種の下痢は、肉の締まっている人たちが、このような体質にも拘わらず、敢えて肉を食べる時にもっとも多く発生する。これは、血管が堅く緊張している時には、体内に入ってきた食物を受け入れることができないからである。

この種の体質は、良い方または悪い方へ突然に変化する傾向がある。そしてこのタイプの身体では、最高の健康状態はほんの僅かの期間しか続かない。

肉づきがあまり堅くない体質で、毛深くなりやすい人の場合には、無理に食餌を摂っても適応でき、疲労にも強く、体調のよい期間も長続きする。

食餌の翌日に食物を嘔吐し、未消化の食物によって季肋部が腫れるような人たちの場合には、睡眠を長くすると有益である。しかしこれとは別に身体を疲れさせるべきである。またその時には、より多くのワインをなるべく薄めずに飲み、食物は少なめにするべきである。彼らの腸はあまりに弱くて冷えているので、大量の食物を消化しきれないのは明らかであるゆえ。

喉の渇きを覚えた時には、食物を減らして疲れ仕事を控え、充分に薄めたワインをできるだけ冷やして飲むのがよい。

運動の後や他の疲れ仕事の後に腹痛を覚える人たちの場合には、食物を摂らずに休息するのが有益である。またこの人たちは最小の量で最大の尿が出るような飲み物を摂るべきである。これは、腹部を通っている血管が膨満し、緊張しないようにするためである。というのも、腫瘍や熱は、このようにして発生するからである。

8.
脳から病気が発生する時には、まず頭が麻痺して尿意頻回となり、痛みとしぶりを伴いながら少しずつ出る排尿困難に伴う他の症状が現れる。この状態が9日間続くが、その後、体液や粘液が鼻孔や耳から流出するなら、病気は治り、排尿困難も治まる。その後20日にわたって無色で大量の尿が痛みを伴わずに排出される。患者の頭痛は消えるが、視力は弱くなる。

9.
賢明な人なら、健康というのは人間にとって天からの最高の恵みであることが分かっているはずである。また自身の病気から有益なことを、自分なりに導き出す方法を学ぶはずである。

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