養生法 V     ヒポクラテス著
Regimen V     Hippocrates


掲載日 2014.08.06

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしてギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。

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  養生法 V     ヒポクラテス著
Regimen V    Hippocrates


英文訳者:W.H.S. Jones (1876〜1963)
「HIPPOCRATES」 VOL. IV 1931
Loeb Classical Library

邦訳 : 前田滋 (カイロプラクター、大阪・梅田)
(http://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-regimen-3.html )


67.
先に述べたように、食物の量に正確に対応させて運動量を決めるという精密な養生法を処方することは不可能である。これを行なおうとしても多くのことが障壁となる。

まず最初に人の体質はそれぞれ異なっていることが挙げられる。例えば乾燥体質は、同じ人でも時によってその度合いがさまざまであるし、別の乾燥体質の人と比べてもさまざまである。湿性体質に関しても同様であり、その他どんな体質においても同じである。また年齢によっても必要な食事の量も変わる。さらに、地域、風向きの変化、季節の変動、その年の特徴などの状況がある。

食物それ自体にも多くの違いがある。小麦、ワイン、その他さまざまな食材における違いがあり、これらすべてが、厳密で正確な指針を記述する際の障碍になっている。しかし、私が見いだしたことは、運動が食物より過剰なのか、食物が運動より過剰なのか、体内での過剰な要素がどちかであるかを判定する方法である。そしてそれぞれの過剰な状態を改善するやり方と、病気の発生を阻止し、良好な健康状態を保証するやり方を見いだした。ただし極めて重大かつ多くの不注意を犯した場合はこの限りではないが。

このような場合においては、薬物が必要となるが、そのうちのあるものについては薬物でさえ治療効果が期待できない。

見いだせる限りにおいて、最大限度まで見いだしたが、完全に厳密な見極めは誰にもできないことである。

68.
まず最初に、次のような大多数の人たちのために役立つ方法を記しておく。すなわち、通常の食物と飲み物を利用している人たち、必要に駆られて作業する人たち、必要に迫られて歩かねばならない人たち、生きてゆくためのものを採りに海へ出てゆく人たち。つまり一般的には不規則な養生をして有益でもないのに身体が熱くなったり、冷たくなったりする人たちである。

これらの人たちは事情の許す限り、次のような生活をするのが有益である。一般に言われているように、私は一年を四つに分けることにする。すなわち冬、春、夏、秋である。

冬はプレアデス(昴)が見えなくなる時期から春分まで、春は春分からプレアデスが見え始める時期まで、夏はプレアデスが見え始めてから牛飼い座の大角星が見え始める時期まで、秋は牛飼い座の大角星が見え始める時期からプレアデスが見えなくなる時期まで、である。

さて冬には、次のような養生法に従って生活し、寒冷と凍結の季節に対抗するのが有益である。最初に、腹が極度に乾燥していない限りは一日に一食のみとするべきである。腹が乾燥している場合には軽い昼食をとる。

利用するべき食材は乾性で身体を温める性質のもので、これらをバランス良く、また混ぜ物を加えずに用いる。パンは大麦パンが好ましく、肉は茹でるよりも焼くほうがよい。飲み物は少し薄めた黒ワインを限られた量だけにする。野菜は身体を温め乾燥させるものを除き最小限とするべきであり、大麦の重湯や粥も最小限にする。

運動はあらゆる種類のものを多く行なうべきである。往復走を徐々に増やして行なう。レスリングはオイルを塗ってから行なうが、軽い運動から始めて徐々に時間を長くする。運動後の散歩はしっかり行ない、夕食の散歩は日当たりの良いところで軽く行なう。早朝の散歩は長時間行なうが、ゆっくり歩き始めて極端に激しくなるまで速め、最後はゆっくりで終える。

堅いベッドで寝ることや夜の散歩、ランニングが有益である。これらは全て身体を痩せさせ、温めるからである。塗油は多量に行なう。

入浴したい時には、体育訓練所での運動後には冷水浴を行ない、その他の運動後では温浴が有益である。性交はこの季節ではより頻繁に行ない、高年者では若年者よりも多く行なう。

湿性体質の人は月に三度吐瀉を行ない、乾性体質の人は月に二度行なう。これはあらゆる食物を摂った後に行なうようにする。吐瀉のあとは3日かけて通常量までゆっくり食餌量を戻し、この間は運動も軽め、少なめとする。

吐瀉は、牛肉、豚肉など、過度に満腹感を起こすものを食べたあとに行なうのが有益である。また、食べ慣れない食物や、チーズを使ったもの、甘いもの、脂肪質のものを食べすぎた後に行なうのもよい。さらに、酔っ払ったあとや食物を変えた時、転居した時に吐瀉するのが、より有効である。

人によっては大胆にも寒さに身をさらすだろうが、これは食後や運動のあとに行なうのではなく、早朝の散歩で身体が温まり始めた時や、ランニングの時、その他の時に行なうのが賢明であるが、過剰な露出は避けるべきである。というのも、冬の寒さに身体を晒さないというのは身体によくないことであり、これはちょうど冬の寒さを感じていない木々は結実せず、また力強く生育しないのと同じである。

またこの季節には、あらゆる種類の運動をたっぷり行なうこと。これは、疲労痛が起きないなら、運動過多になる危険性がないからである。

つぎのことは私が一般人に教えている指標であり、また説明しようとしている理由でもある。この季節は寒く凍てつくので、動物たちもまた季節の特徴に合わせている。従って運動するときに身体が温まるのはゆっくりで、利用できる湿気が排出されるのはごく一部だけである。そして運動に使える時間は僅かで、休息の時間は長い。これは冬には昼間の時間が短く、夜が長いからである。このため、運動の時間もその激しさも過剰になることはない。

このようにして、プレアデスが見えなくなる時期から冬至までの44日間の季節を過ごす。冬至の頃には最大の注意が必要で、冬至を過ぎたあとには同じ44日間を同様の養生法に従う。この期間が過ぎれば西風の吹く時期になり、季節はいっそう穏やかになる。そこで15日間は、養生法をその季候に合わせるべきである。

牛飼い座の大角星が見え始めるとツバメが現われる季節となる。この時期から春分までの32日間はいっそう多様な生活を送ること。従って養生法もこの季節に合わせる。食物と運動を刺激の少なめのものや軽めにし、春が来るまで徐々に変えてゆく。

春分に至ると日々の季候はいっそう穏やかになり、また日が長くなり、夜が短くなる。その後の季節は暑くて乾燥するが、実際には栄養に富み、温暖である。

したがって、知能を持たない木々が夏に備えて自身の成長の準備をし、木陰を作るように、人間もそのようにするべきである。そして知能を持っているからには、健康な状態で肉質を増強しておかねばならない。

そこで、養生法を急激に切り替えることのないように8日毎に6つの期間に分ける必要がある。最初の期間には運動を減らし、ゆるやかなものにする。食物は柔らかめで混ぜ物の少ないものにし、飲み物は薄めで白っぽいものにする。レスリングは太陽の下で身体にオイルを塗って行なう。

どの季節においても養生法のさまざまな事柄は徐々に変更するべきである。散歩は少なくするが、夕食後の散歩は多めに減らし、早朝の散歩は少しだけ減らす。小麦のパンに代えて大麦パンを摂る。そして茹でた野菜を食す。茹でた肉と焼いた肉を同量にする。入浴し、少量の昼食を摂る。性交は減らす。

吐瀉については、最初は同じ期間(Jones注;一ヶ月)に3回のところを2回に減らし、その後は期間をさらに開けて行なう。そうすれば恒久的で無傷な肉質が身体に備わる。これ以後、プレアデスが見え始めるまでの期間は、柔らかい食餌にする。

夏になれば、以後の養生法をこの季節に合わせねばならない。すなわちこの星団が昇れば、柔らかくて混ぜ物のない食餌を少なめに摂る。小麦のパンよりも大麦パンを多めに摂る。これは充分に捏ねたもので、あまり細かく挽いていないものを用いる。

飲むのは口当たりがよくて、白く、水で薄めたワインにする。少量の昼食を摂り、その後にごく短い午睡をとる。食べ過ぎを極力避ける。しかし食物と共にたっぷり飲むようにする。日中には、身体が乾燥しない限りは、できるだけ飲むのを控える。

野菜は茹でて食す。ただし身体を熱くする野菜は除く。生野菜も用いるが、身体を温めたり乾燥させるものは避ける。食べ過ぎの時を除いて催吐剤は控える。性交は極力減らす。入浴はぬるま湯にする。

この季節の果実は人間の身体には強すぎる。従ってこれは控えるほうがよい。強いて食べる時には食物と共に食すことによって害が最小になる。運動については、周回走やダブル・スタッド走(前田注;stade=約180m)は少なく、また短くし、散歩は木陰で行なう。レスリングは砂場で行なう。以上は、できるだけ身体の過熱を避けるためである。

砂場のレスリングは、周回走より望ましい。周回走は身体の湿気を除去して乾燥させるからである。

夕食後の散歩は短いそぞろ歩きに限定し、早朝の散歩を行なうべきである。しかし、太陽と、川や湖あるいは雪によってもたらされる朝夕の冷気に気をつけるべきである。

以上の養生法を夏至まで継続し、この期間中においては、すべてを乾燥、温熱、黒いもの、純粋なものから遠ざける。楽しみで少量を摂る場合を除き、小麦パンも同様に控える。

次の期間には、柔らかいもの、湿気のあるもの、冷たいもの、白くて純粋なもので食餌を構成するが、その期間は牛飼い座の大角星が昇り始める秋分までの93日間である。

秋分以後の養生法は次のようになすべきである。秋から冬にかけて徐々に変化するのに合わせることと、突然の寒暖変化にそなえて厚い衣服を着用することである。この時期には、衣服のままで簡単な運動をした後にマッサージを受け、身体にオイルを塗ってレスリングをする。そして徐々に激しさを増してゆく。散歩は陽光の下で行なう。温浴を用いる。昼寝は控える。食物は温かくて湿気が少なく、混ぜ物のないものとし、飲み物は黒くて口当たりがよく、薄めないものにし、野菜は乾性のものを少量にする。

養生法のあらゆる要素を夏のものから徐々に控えてゆき、冬のものへ移行してゆく。この時、秋分からプレアデスが沈むまでの48日間にわたって冬の養生法へとできる限り近づけてゆき、極端なことを避ける。

69.
以上が、行き当たりばったりの生活を余儀なくされていて、何をおいても自分の健康管理に専念する機会のない大多数の人たちに対する私からの助言である。

しかし、上記のことをみずから進んで心がけ、しかも富も何も健康に勝るものはないと分かっている人たちに対しては、私が見いだした、できる限り真理に近い養生法を提供できる。その内容は、追々述べるつもりである。

この発見は、それを発見した私自身に栄光をもたらし、それを学ぶ人にとっても有益であるが、先人たちはだれ一人それを理解しようとさえしなかった。しかし、この養生法は他のどんなことよりも偉大な価値があると私は考えている。

これは、病前の予後を示し、身体にどんな問題があるかという診断をもたらし、食べ物が運動より勝っているのか、運動が食べ物より勝っているのか、あるいはこれら二つがうまく調和しているのかを判断する指標となる。というのも、病気は、これらのどちらかが過剰であることによるもので、この二つが均等に調和している時には良好な健康をもたらすからである。

さて、これらの異なる状態を説明しよう。そしてそれらの本性と、健康そうに見え、食欲旺盛で、運動ができ、快調で健康な状態の人の外観を説明しよう。

70.
夕食後や睡眠後に、はっきりとした理由がないのに鼻がつまり、鼻をかむ必要もないのに鼻が一杯になっているように感じる。しかしこの人たちが朝の散歩や運動を始めると、鼻が通り、痰が出る。時がたてば瞼もまた重くなり、額が痒くなる。食欲がなく、少ししか飲めない。顔色が褪せる。そして誘発された膨隆が生起する部位によって、粘膜の炎症あるいは悪寒発熱が始まる。

しかし、この人たちは常に、病気になったときにたまたま行なうこと対して理不尽な非難をあびせるのである。このような場合には、食物が運動よりも勝っていて、過剰状態が少しずつ集積して病気を発症することになる。

しかし、病気になるまで事態を成り行きにまかせるべきではなく、最初の兆候に気づくやいなや、運動よりも食物が過剰になっていることを理解し、少しずつ膨満が集積していることを悟るべきである。実のところ、鼻汁や唾液は食べ過ぎの徴候である。

身体が休息状態にある時、これらが気道を塞ぐようなら、内部の膨満はかなりの程度に進んでいる。しかし運動によって身体が温まると、(体液は)薄くなり、それ自身が分離して出てゆく。

このような患者には次のような処置を行なうべきである。疲れない程度にいつも通りの運動を行ない、温浴をし、さまざまな食事を摂った直後に吐瀉する。吐瀉した後にはきつい(Jones注;収斂性の)ワインで口と喉を洗い流し、これによって血管の口を収縮させて、嘔吐の後に生じた物が下に吸い込まれないようにする。その後は日なたで少し散歩させる。

翌日には同じ散歩をするべきだが、運動は以前より少なくまた軽くする。夏であれば昼食は摂らない。夏でないなら、軽い昼食を摂る。夕食はいつもの量の半分に減らす。

三日目には、いつもの運動と散歩を再開する。食物は、吐瀉してから五日後に通常量になるように、少しずつ増やしてゆく。

その結果、患者の状態が良好になれば、その後は食物の量を減らし、運動量を増やす。食物過剰の徴候が消えないなら、通常量の食物に戻してから2日待ち、再び吐瀉させる。そして同じように食物量を増やしてゆく。たとえ三回目の吐瀉が必要であるとしても、過剰な状態が解消されるまで続けるべきである。

71.
運動よりも食物が過剰になっている場合には、次のような徴候を示す人もいる。食べ過ぎの始まった時点で長時間の心地よい眠りに陥り、一日の何分の一かをうとうとして過ごす。眠るのは肉質が湿るからである。そして血液が溶解し、息は拡散するが穏やかである。もはや身体が食べすぎの状態に耐えられなくなると、食物の栄養に対抗して魂の調子を狂わせている循環の力によって、身体は内分泌を起こす。そしてこの時期には睡眠はもはや快適でなくなっている。患者は必ず体調を狂わせ、自分は悪あがきしているのだと思う。

というのも、身体が経験することは、目を閉じている時には魂の光景として映るのであるから。従って人がこの状態になれば、病気になる寸前なのである。どんな病気になるかはまだ判らないが、それは分泌の性質と過剰になっている部位によって決まる。しかし賢明な人は状態をそのままにしないで、最初の徴候に気づくとすぐに最初の例と同じ処置によって治療するべきである。しかし、より長い期間と、厳しい食餌制限が必要である。

72.
食べすぎの徴候には次のようなものもある。身体が痛む。これは時には全身に及ぶことがあるが、問題のある部位だけに現われることもある。痛みは疲労による痛みに似ている。従って、人が疲労痛を感じると、その人は休息と食べすぎに頼り、最後には発熱する。その期に及んでもなお彼らは事態の本当の状態を理解せず、入浴と食物に耽り、その病気を肺炎にまで進行させて最悪の危機に陥るのである。

必要なことは病気にかかる前に、前もって運動することと、次のような対処をすることである。穏やかな蒸気浴に入るのが望ましいが、次善の策としては大量の温水浴をして、できるだけ身体を膨張させるのがよい。そして食物は最初に刺激性のものをごく大量に摂取し、そのあとで他の種類のものを摂る。そして食後に吐瀉して身体をすっかり空にするべきである。吐瀉後は日なたで少しの間そぞろに歩いてから眠る。

朝には長時間散歩する。ただし、最初は時間を短くして、徐々に増やしてゆく。運動は軽めにしておき、前者の例と同様に少しずつ増やす。このような状態ではかなり肉質を痩せさせることと、散歩による運動をたっぷり行なう必要がある。

用心を怠ると発熱に襲われるが、その時には3日間は水以外何も摂ってはならない。この間に熱が下がれば上出来である。もし熱が下がらなければ患者に大麦の汁を処方する。そうすれば4日目または7日目に汗が出て治まるだろう。分利が近づけば、発汗を促す軟膏を塗るのがよい。それは発汗させるものであるから。

73.
ある場合には、食べすぎの人は次のような徴候を示すことがある。頭痛がして頭が重く感じる。食後に瞼が閉じる。寝苦しく感じる。熱があるように感じ、時には便秘になる。性交の後、しばらくは心地よく感じるが、その後に重苦しさが増してくる。このような例では、食べすぎに対して頭が反対に作用して便秘を引き起こし、頭自体が重くなる。ひどい危険が迫ってくる。破れた場所に食べすぎの影響が現れる。そこで次のような考慮が必要である。素早い処置を望むなら、蒸気浴の後でヘレボレ(前田注;キンポウゲ科のクリスマスローズ)を用いて通じをつけ、10日間は軽くて柔らかい食物を徐々に増やしてゆく。肉は通じのつきやすいものを摂る。これは下腹部が下方への誘導作用によって頭部に勝るようにするためである。

運動はゆっくり走ることとし、早朝の散歩は長く行ない、レスリングは身体にオイルを塗って行なう。昼食を摂り、その後で短時間眠る。夕食後はそぞろ歩きで足りる。入浴と軟膏を用いる。入浴はゆるま湯で行ない、性交を控える。

以上が最も速やかな処置である。しかし患者が薬(ヘレボレ)の服用をいやがるなら、温浴を行ない、刺激性のもの、湿り気のあるもの、甘いもの、塩辛いものを摂取した後で吐瀉する。吐瀉のあとには短いそぞろ歩きをさせる。朝には散歩させるが、最初はゆるやかにして、徐々に増やしてゆく。前出の運動を6日間実行させる。7日目には同じような食物で満腹させてから吐瀉させる。その後は同じように徐々に増やしてゆく。

この養生法を4週間続ける。これが回復に要するおよその期間だからである。その後は食物と運動を少しずつ増やしてゆく。吐瀉する間隔もあける。食物を通常に増やす間隔を短くしてゆく。このようにすれば身体はそれ自身で回復する。また養生法を元通りに少しずつ戻してゆく。

74.
食べすぎは次のような徴候も示す。腹が食物を消化しても、肉質がそれを拒否すると、内部に残っている栄養が鼓腸を引き起こす。昼食後には鼓腸が治まるが、これは、より強いものに軽いものが追い払われるからである。これにて苦しみから解放されたように感じるが、翌日には症状がはるかに強くなってぶり返す。

日々の増悪によって食べすぎが強くなると、すでにあるものが外から追加されたものに打ち勝って熱を生じ、全身の調子を狂わせて下痢を起こす。それゆえ、食物だけからなる老廃物が便に排泄される不調が、このような名称をつけられているのである。しかし、身体が熱くなって排泄が激しくなると、腸が擦られて潰瘍が発生するので、便に血液が混じる。この不調は血性下痢と呼ばれ、これは難儀で危険な病気である。

これは事前の対応策をとるべきで、昼食をやめて夕食の1/3を減らす。運動は、より多く行なう。体育訓練の後と早朝に、レスリング、ランニング、散歩を行なう。10日経過すれば、減らしていた食物量の半分を追加し、嘔吐する。そして4日かけて徐々に食物を増やす。さらに10日経てば、減らしていた残りの食物量を追加して嘔吐する。その後は徐々に食物量を増やしてゆくと、この期間に治癒するだろう。このような場合には恐れずに厳しく運動してよい。

75.
食べすぎには次のような例もある。翌日、胸焼けせずに食物が未消化のままで逆流し、大量の便が排出されるが、これは食べた食物につり合っていない。疲労痛は感じない。これらの場合には腹が冷たいので夜間に食物を消化できない。従って腹が調子を狂わすと食物が未消化のままで逆流することになる。

そこでこのような人たちは、養生法と運動の両方から腹を温める必要がある。最初に、発酵させた温かいパンを砕き、これを黒ワインまたは豚肉のスープに浸す。魚は刺激性の塩水で茹でる。豚の足のような肉質の多い肉を充分に茹でたものや脂っこい豚肉を焼いて使用する。ただし子豚や子犬、子ヤギの肉は用いない。

野菜はセイヨウニラネギやタマネギを煮たり生で用いる。イヌビユ(前田注;養生法U第54節参照)とカボチャは煮て用いる。飲み物は薄めずに用い、初日は昼食を控える。運動の後には睡眠をとり、往復走を行ない、これを徐々に増やす。身体にオイルを塗ってゆるやかなレスリングをする。入浴は控えめとし、塗油はいつもより多くする。早朝の散歩は長く行なう。ただし夕食後には少しにとどめる。食物と共にイチジクを食し、これと共に生のワインを飲用することはよい。この処置を行なえば、遅かれ速かれ回復に至る。

76.
他の例では次のような徴候を示す。顔色が青ざめ、食後すぐに酸っぱいおくびがあり、鼻に酸っぱいものが上がってくる。この例では身体が汚染されている。これは、疲労によって溶解する肉質が、循環によって排出されるものよりも多いからである。そして身体に残っているこの過剰なものは栄養分と相容れないもので、栄養分を圧迫し、酸っぱくする。そして栄養分がおくびとなり、過剰なものが皮膚の下に押し上げられて顔色が青ざめ、水腫性疾患を引き起こす。

そこで以下の予防措置をとるべきである。速やかな処置としてはヘレボレ(前田注;キンポウゲ科のクリスマスローズ)を飲み、前記の段階的な食餌を行なう。

より無難な方法は次の通りである。最初に温浴を行ない、それから吐瀉を促す。その後は7日以上かけて徐々に通常の食餌に戻す。吐瀉から10日後に次の吐瀉を行ない、同じように次第に食物を増やしてゆく。この処置を三度繰り返す。

短くて急激な周回走を行ない、腕の運動、マッサージ、訓練場での長時間鍛錬、砂場のレスリングを合わせて行なう。運動の後と夕食後には散歩をたっぷり行ない、早朝には特に充分散歩する。身体に砂をかけた時にはオイルを塗り込める。入浴したがる時には温浴させる。この期間中は昼食を控える。一月で回復すれば、それ以後はそれなりの処置を行なう。しかし症状が完全に消えなければ、この処置を患者に継続させる

77.
時には翌日に胸焼けを起こすことがある。これが起きる時には食べ過ぎによって夜間に分泌物が生じている。従って、寝た後で身体を動かすと呼吸がいっそう速くなり、これが熱く酸っぱい物質を呼気と共に押し上げるのである。

予防措置をとらないでいると、このことが病気を引き起こす。この場合には、この直前に述べた処置をとることが有益である。ただし患者は運動量を増やさねばならない。

78.
以下の症状も生じる。肉質が引き締まっている人たちは、食物が温かくなり、寝入りばなにそれが溶解すると、その食物と睡眠によって肉質が温くなり、湿っている肉質から大量の分泌物が発生する。そして肉質が締まっているので栄養を受け入れることがなく、肉質からの分泌物は栄養を妨害してこれを押し出し、これを嘔吐して排出するまで身体を温めて息を詰まらせる。嘔吐すると緩和し、身体の痛みはないが顔色は悪い。しかし、やがては痛みと病気が起きる。

訓練をしていない人が突然激しい運動をすると肉質が大量に溶解するので、これと似たような徴候があらわれる。この人たちは次のような処置をとらねばならない。食物の1/3を減らす。食物は刺激性で乾燥していて、収斂性と芳香があり、利尿作用があるものを用いる。

ランニングはほとんどを往復走とし、着衣のままで行なう。しかしダブル・スタッド走(前田注;stade=約180m)や周回走を行なう時には裸になる。マッサージ、軽いレスリング、腕を使うレスリング(通常は腕相撲とパンチ・ボールで充分)、運動後の長時間の散歩、また早朝と夕食後の散歩を行なう。

発生練習は有効である。これは湿り気を排出することによって肉質を薄くするからである。昼食は控えるのが有益である。

以上の処置を10日間続ける。その後の6日間は、減らしていた食物の半分を追加し、嘔吐を行なう。嘔吐の後は、4日かけて食物を少しずつ増やす。嘔吐してから10日が経過すれば、食物を元の量に完全に戻す。ただし運動と散歩は継続する。そうすれば患者は回復するだろう。このような体質では食物よりも運動のほうが必要である。

79.
人によっては次のような徴候も現れる。食物が水様性となり未消化で排出される。ただし消化不良性下痢のような病気はなく、痛みも感じない。これらの徴候を引き起こすのは、特に冷えて湿っている腸である。冷えは消化を妨害し、湿り気は腸をゆるくする。それゆえ身体は適切な栄養を受け入れないので憔悴し、腸は健康を害し、病気が起きる。

そこで予防対策をとらねばならない。食物を1/3減らすのが有益である。食物は発酵させていないパンを用いる。すなわち篩(ふるい)にかけていない粗挽き粉を用いて鍋または灰の中で焼いたものを、温かいうちに乾性ワインに浸して食す。

魚は背中やしっぽの部位を用いる。頭の周囲や腹部は湿り気が強すぎるので用いるべきではない。魚は塩水で茹でるか酢と共に網上で焼く。

肉は塩または酢に漬けて保存したものを用いる。犬肉は火で炙る。ハトその他の鳥肉は茹でるか火で炙る

野菜は最小限に減らす。ワインは黒くて乾性のものとし、少し薄める。夕食後と早朝は長時間の散歩をする。そして散歩の後には睡眠をとる。

往復走を徐々に増やす。マッサージをたっぷり受ける。レスリングは身体にオイルを塗って行なうのも砂場で行なうのも共に軽くする。そうすれば肉質が温まって乾燥し、その反動で腹部から湿り気が引き抜かれる。。

塗油は入浴よりも有益である。患者は昼食を控えるべきである。7日後に減らしていた食物の半分を元に戻す。そして催吐剤を服用する。また4日かけて食物を徐々に増やす。一週間後には元の食物の量に戻し、再び催吐剤を用いる。その後は同様にして食物を徐々に増やす。

80.
その他にも次の徴候を示すことがある。便が未消化で、食物から得るものがないので身体が憔悴する。このような人たちはそのうちに病気に陥る。これらの場合には腸が冷えて乾燥している。適切な食物を摂らず、適切な運動も行なっていない時には、私がすでに述べたような徴候を彼らは示す。

この種の人は、以下の物を摂るのが有益である。すなわち篩(ふるい)にかけた粗挽き粉をオーブンで焼いたパン、ソースで煮た魚、茹でた豚肉、脚は充分に茹でたもの、脂肪質は火で炙ったもの、刺激物や塩気のある食物のうちでは、湿り気を加えるようなものや辛いソース。

ワインは黒くてまろやかなもの。食物と共にブドウやイチジクをいくらか採る。軽い昼食もまた摂るべきである。運動は通常より多めに行なう。往復走を徐々に増やしてゆき、最後は周回コースを走る。ランニングの後は身体にオイルを塗ってレスリングを行なう。

運動の後には短く散歩する。夕食後には少しそぞろ歩きをし、早朝には長めに散歩する。温浴をさせる。軟膏を用いること。柔らかいベッドで充分に眠らせる。幾分かの性交は必要である。食物を1/3減らす。12日かけて食物を通常に戻す。

81.
場合によっては便が水様性で未消化物を含んでいることがある。この時、全般的な健康状態は良好であり、運動も行ない、痛みもない。ただし仕事をこなせない人もいる。

時が経つにつれて腹がその熱で肉質を引きつけ、痛みを起こす。食欲が失せ、潰瘍が腹にできる。そしてこれ以後は下痢を止めるのが難しくなる。早期に予防措置を執るべきであるが、これは腹が過熱状態かつ水分過多状態であること、また不適切な運動を過剰に行なっていることを考慮して行なう。従って養生法は腹を冷やして乾燥させるものでなければならない。

最初に運動を半分に減らし、食物の1/3を減らす。大麦パンを食すべきだが、これは穀物を臼で挽き、充分に捏ねる。

最も乾性の魚で、脂っこくもなく塩辛くもないものを煮て食す。これを網で焼いてもよい。鳥肉に関しては、小バトや大バトは茹でるべきである。ウズラや鶏は調味料をつけて火で炙る。水に入れて茹でた野ウサギや、次のような冷性の野生の野菜を食す。すなわち充分に茹でた砂糖ダイコンを酢と共に食す。

ワインは黒くて乾性のものとする。運動は周回トラックで激しく走る。マッサージを受けるが、これは多くしないでほんの少しにする。本来のレスリングはしない。ただし腕相撲や腕の運動、パンチ・ボールや砂場でのレスリングは、やり過ぎなければ適している。

散歩は運動後に行なうが、疲労を考慮して充分に行なう。夕食後は食物を考慮してできるだけ長く散歩し、朝は身体の性向に合わせて行なう。入浴はぬるま湯で静かに入る。

上記の養生法を10日続けた後、食物を半分戻し、運動を1/3戻す。乾性で収斂性の食物を摂ってから、胃に長時間留まらせないように、催吐剤を用いる。実際、嘔吐は速やかに済ませるべきである。

嘔吐後は、4日かけて食物、飲み物、運動の量を同じ割合で徐々に増やす。10日過ぎれば残りの食物と飲み物の量を増やす。ただし運動量は完全に戻さない。

嘔吐の後はすでに述べたように徐々に進めてゆく。健康が回復するまでは、この期間中には一日一食だけにするのが有益である。

82.
ほかの例では便が乾いて焼けついたようになり、口が渇くが、そのうちに苦くなり、腸と腎臓が活動を停止する。

腸から湿り気が失われると、糞便の周囲が腫れて通路を塞ぎ、痛みを引き起こす。そして発熱し、食べたり飲んだりしたもの全てを嘔吐する。最後には糞便も吐く。この状態に達すると命は絶望的である。

患者は乾燥熱に負けていると理解した上で、早急に予防措置を執るべきである。食餌には、よく捏ねて柔らかくした大麦パンや、フスマと共に発酵させたソバ粉パンを用いる。野菜は摂るべきだが、刺激性で乾性のものは除き、茹でるべきである。

魚は最も軽いものを茹でるべきである。魚とロブスターの頭部を食してよい。イ貝、ウニ、カニ、ザル貝のスープ、ごく水気の多い種類のザル貝そのもの。

肉の中では、豚の前足を茹でたもの、子ヤギ、子羊、子犬の肉を茹でたもの。川や湖の魚を茹でたもの。まろやかなワインで、充分に薄めたもの。

運動は長くもなく、激しくもないもので、全てゆるめのものとする。散歩は朝に、身体の性向に合わせて充分長く行なう。また運動後には疲労につり合うように散歩し、夕食後には散歩してはならない。入浴して静かに眠り、昼食を摂る。ただし昼食後の睡眠は長くしない。

湿り気のある果実を食物と共に食すべきである。ヒヨコマメを食すべきだが、新鮮なうちに摂る。乾燥しているならまず水に浸す。

この患者もまたごく初期にそれまでの運動を半分に減らす。また甘いもの、栄養に富むもの、塩気のあるもの、脂っこいものを食した後には、催吐剤を利用させる。そしてこのような食餌は、嘔吐するのに合わせて、できるだけ長く胃に留まらせること。

その後は3日間にわたって食物を増やし、昼食を摂るのを忘れないようにする。10日経過後は運動の大部分を徐々に戻してゆく。この時点で食後に満腹を感じたり、腹の不調を感じるなら、催吐剤を利用させる。そうでなければ、以後は同じ処置を続ける。

83.
以下の徴候も生じる。早朝の散歩後に悪寒を発し、妥当な散歩量を超えた分に比例して頭重を伴う。悪寒と頭重の原因は身体と頭部から湿り気が失われるからである。時間の経過と共に悪寒を伴う発熱を起こす。

事態を進行させないために、前もって次の処置を執るべきである。最初の徴候が現れた時に、患者に軟膏を塗らせ、軽いマッサージを受けさせる。そしていつもより多めの昼食を摂らせ、まろやかなワインをたっぷり飲ませて、昼食後は長時間眠らせる。

夕刻には軽い運動と温浴をし、いつも通りの夕食を摂る。夕食後は散歩しないで時を過ごす。翌日にはすべての運動と散歩を1/3減らすが、いつも通りの食物を摂る。ぬるま湯に入浴させ、湯の中でオイルを塗らせる。柔らかいベッドで眠り、5日かけて少しずつ運動量を戻してゆく。

84.
場合によっては運動後に悪寒を発することがあるが、これはすなわち 衣服を脱いだ時から運動を終える時までのことで、身体が冷える時にも悪寒が再び起きる。歯がガタガタ鳴る。

患者は眠くなり、眼が覚めた後は頻繁に欠伸をする。眠った後は瞼が重くなる。時が経つにつれて譫妄と共に高熱も発する。

このような状態に至らないように注意せねばならない。そして以下のように養生法を変えるべきである。まず運動はすべてやめるか半分に減らす。すべての食物を湿り気のあるものや、一層冷える類いのものとし、飲み物はより口当たりの良いものを充分に薄める。

5日経過すれば、減らした運動量の1/3を増やす。食物は同じものを摂る。さらに5日経過すれば、残りの運動量の半分を戻す。そしてさらに5日経てばすべての運動を元に戻すが、それほど激しくさせず、またそれほど長時間させない。これは運動が再び過剰にならないようにするためである。

85.
患者がこのような徴候を示す時には、運動が食物よりも過剰になっているのである。そこで、それなりの対応策をとらねばならない。場合によっては、すべての徴候が現れるわけではなく、そのうちの幾つかしか現われない。ただし、これらすべての徴候は運動が食物より優勢であり、その処置も同じである。

これらの患者たちは温浴をして柔らかいベッドで眠り、一度か二度は過剰にならない程度に酒を飲むべきである。適度にワインをたしなんでから性交するべきである。散歩を除き、運動はゆっくり行なう。

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