養生法 U     ヒポクラテス著
Regimen U     Hippocrates


掲載日 2014.06.14

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしてギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。

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  養生法 U     ヒポクラテス著
Regimen U    Hippocrates


英文訳者:W.H.S. Jones (1876〜1963)
「HIPPOCRATES」 VOL. IV 1931
Loeb Classical Library

邦訳 : 前田滋 (カイロプラクター、大阪・梅田)
(http://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-regimen-2.html )


37.
さまざまな地域の状況と特徴を見分ける方法は、大まかに言って次の通りである。南の都市は北の都市よりは熱く乾燥している。これは南の都市のほうが太陽に近いからである。これらの都市の人々や植物は当然のことながら、これと反対の都市の人や植物よりも乾燥し、熱く、頑健である。

例えば、リビア(前田注;北アフリカの地中海沿岸)の人々とポントス(前田注;黒海沿岸地域、現トルコ共和国)の人々を比較し、それぞれの近くの人たちをも比べてみるがよい。

都市それ自体は次のような特徴がある。南の位置にあって高くて乾ききった地域は湿気が少ないので、同じ地域の平野に比べて乾燥している。というのも、平野では雨が降ると水が溜まるが、この地域では雨が溜まることがないためである。

じめじめした沼沢地は湿気て暑い。暑いのは、その地域が窪んでいて周りを囲まれ、大気が流れないからである。湿気るのは、そこで成長して人々の食料となる植物がいっそう湿気ていて、一方でその地域に水が澱んでいるために大気が重いからである。

水のない窪地は乾燥して暑い。ここは窪んでいて囲まれているので暑い。食物が乾燥しているのと、呼吸する大気が乾燥していて、我々の身体から湿気を養分として奪うので、乾燥している。大気は、そこから自分自身を養おうとして我々を責めさいなみ、より以上に湿気を帯びることはない。

山脈が南にあるために南風が吹く地域はカラカラに乾いて不健康である。山脈が北にあって北風が吹く地域は、しばしば体調不良と病気を引き起こす。街の北側に窪地がある場合や北側が島に面しているところでは、夏の風が吹いて暑いので、病気がちになる。なぜなら、澄んだ大気の流れをもたらす北風が吹かないし、夏の風によって大地が冷やされることもないからである。

本土の近くにある島では、冬は極度に厳しい。しかし陸地からずっと離れている島では、冬はずっと穏やかである。これは、大陸の雪と氷が残っていると、冷たい風を近くの島々に送るが、海の真ん中にある島では冬に雪が残らないからである。

38.
全ての固有の風に関しては次のようにすれば、その性質と威力を識別できるだろう。まず風というものは全て次の理由によって動植物の身体を湿めらせて冷やす力がある。というのも、これらの風は必ず雪または氷のある場所、あるいは厳しく凍りついた場所や河、湖、湿って冷たい土地から吹いてくるからである。

比較的強い風は、寒さが広範囲に、またひどくなっている地域からやってくる。比較的弱い風は、寒さがそれほど広くなく、またそれほどひどくない地域から吹いてくる。

動物が息を内に持っているように、その他のもの全てが、その大きさに合わせて大なり小なり息を持っている。そして全ての風が冷やしたり湿らせたりする性質がある。風は、さまざまな地域にやってくる時に、通過する国や場所の状態によって互いに異なる。すなわち比較的冷たかったり温かかったり、湿りがちであったり乾き気味であったり、病気を起こしやすかったり健康によかったりする。

それぞれの原因は次のようにしてわかるだろう。北風は冷気と湿気を運ぶが、これは太陽が近づいて大気を乾かすこともなく、湿気を消滅させることもない地域から風がやって来るからである。その結果、風そのものの威力を含んだ状態で、住むのに適した土地に到来する。ただし、この威力がその場所の状況によって減弱される場合はこの限りではない。

これらの場所の近くに住む人たちにとっては、この風は大変冷たく、遠く離れた地域に住む人たちにとっては、この風の冷たさは大変ゆるい。

南風といえども北風と同じ性質の地域から吹くことがしばしばある。というのも、風が南極から吹いたり、大量の雪や氷、ひどい霜のある場所から吹き始めると、北風が我々に吹くのと同じように、その風はどうしても、その近くに住む人たちに吹きつけることになる。

しかしこの風はすべての地域に吹くわけではない。例えば、風が南の太陽の近くを通って来ると、湿気は太陽によって吸収される。風が乾くので希薄になり、どうしても暑く乾いた状態でこちらにやって来る。そのため、ごく近い地域ではリビアのように、風は必ず熱くて乾いている。そして風が植物を焦がし、知らないうちに人間も乾燥させる。というのも、風は海や川から湿気を吸収できないので、動物や植物から湿気を吸収するからである。しかし風が暑くて希薄な状態で大洋を渡ってくると、吹きつける地域を大量の湿気で満たす。南風は、その地域の立地条件によって他の状態にならない限り、必ず熱く湿気ている。

ほかの風の威力もまた同様のことがいえる。地域ごとに適切な風というのは次の通りである。海や雪、霜、湖、川から吹き寄せる全ての風は、植物や動物を湿らせ、冷やす。そしてこの風は、冷たくなりすぎない限りは健康によい。しかし人体の中で冷たさと熱さの大きな変化を及ぼす時には有害である。大河の近くの暑い沼沢地に住む人たちは、このような変動を受けやすい。

これまでに述べた地域から吹いてくるその他の風はすべて有益である。というのも、それは汚れのない澄んだ空気をもたらし、精髄の熱に湿気を与えてこれを鎮めるからである。

陸地から吹いてくる風は、大洋と大地によって乾燥するので、必然的に乾いている。これらの風は栄養を取り込む場所がないため、生物から湿気を吸収するので、植物や動物を共に害する。

山脈を越えて街に来る風は、我々が吸い込む大気を乾燥させるだけでなく、かき乱す。それゆえ人体に病気を引き起こす。

以上が、さまざまな風の性質と威力を見極める方法である。それぞれの風に対してどのように対処すべきかは、引き続く議論の中で示すつもりである。

39.
さまざまな食物と飲み物の威力は、自然のままであれ加工したものであれ共に次のようにして判断するべきである。甘いもの、油もの、塩気のあるもの、そのほか類似のものを総括的に取り扱おうとする人たちは、間違いを犯している。全ての甘いもの、油もの、その他あらゆる種類のものに同じ威力が備わっているわけではないのである。多くの甘いものは通じをよくしたり、便通を止めたり、乾燥させたり湿らせたりする。

そのほか全てのものについても同じである。あるものは収縮作用があり、あるものは便通を良くし、あるものは利尿作用がある。またこれらのどれも持たないものがある。温める作用その他についても事情は同じであって、あるものは一つの効能があり、別のものには別の効能がある。従ってこれらの事を一概に説明することはできないので、個々のものについて特にどんな効能があるかを示すことにする。

40.
大麦は元来が冷性、湿性、乾性である。その殻の汁には幾分かの整腸作用がある。このことは次のことから証明される。殻と実をふるい分けしていない大麦を茹でて煎じたものは強い整腸作用があるが、殻をふるい分けしたものは比較的冷性で収縮作用がある。

これを火であぶると、火によって湿性と整腸作用がなくなるので冷性と乾性が残る。従って、冷やして乾かす必要がある時には、どんな作り方であれ、大麦パンなら、このように処理した大麦食がその効果を示すだろう。実際のところ、これが大麦パンの効能である。

籾殻入りの大麦粉は比較的栄養価が低いが、排便はずいぶん容易になる。籾殻を除いた大麦粉は栄養価はずっと高いが便通はそれほどよくない。水でほどよく捏ねてはあるがそれほどこなれていない大麦パンは、軽い上に通じが容易で、冷やす。冷えるのは冷水によって湿気るからで、便通がよくなるのは早く消化されるからである。軽いのは多くの栄養が呼吸と共に体外に排出されるからである。

管は栄養にとっては狭すぎるので、新しい余分なものを受けつけず、その一部は減弱して呼吸と共に体外に排出される。しかしその一部は残っているので鼓腸を引き起こす。これのある部分は上方に上がっておくびとなり、あるものは下って体外に出る。

従って栄養の大部分は体外に排出される。大麦粉を混ぜてすぐに大麦パンを作ると、これは乾性となる。というのも、大麦粉は乾性で、混ぜ合わせる水によってのみ湿気を与えられ、この水は腹の中に入ると、その湿気を温かいままで引き寄せるからである。熱いものは冷たいものを引き寄せ、冷たいものは熱いものを引き寄せるのが自然の摂理である。腹の湿気は消費されるので、当然のことに乾燥するが、大麦粉と混ぜられた水が腹に入ると、腹は必ず冷える。

従って、下痢や何らかの炎症を起こしている人を冷やしたり乾燥させる必要がある時には、この種の大麦パンが奏功する。よく練られた乾性の大麦パンは、それほど身体を乾燥させず、大変栄養がある。。これは、パンが比較的しっかり圧縮されていて、ゆっくり溶解するので管が栄養を受け入れるからである。そしてパンは上下から出るガスを生じることなくゆっくり通過する。

前もって混ぜ合わされ、充分に練られたものは比較的栄養が少ないが、便通がよくなり、より一層ガスを生じさせる。

41.
大麦に水だけを加えて作ったキュケオン(*)は身体を冷やし、栄養がある。ワインを加えたものは身体を温め、栄養があって収縮作用(前田注;下痢止め作用)がある。蜂蜜を加えたものは身体を温めるが、栄養価は比較的低い。しかし蜂蜜が混ざり合っている限りは弛緩作用(前田注;便通作用)が一層強い。蜂蜜が混ざり合っていると収縮作用がある。どんなミルクでも、これを加えたものは栄養価が高い。羊のミルクは収縮作用があり、山羊のミルクはいっそう弛緩作用が強く、牛のミルクは弛緩作用がいっそう弱い。馬やロバのミルクでは、弛緩作用がずっと強い。

*キュケオン:Jones注;大麦粉に水またはミルクを加えた飲料。これに蜂蜜または塩、ハーブを追加する 前田注;Jonesの英文では「Cyceon」となっているが、「Kykeon」という綴りが一般的であるようだ。

42.
小麦は大麦に比べて強力で栄養価が高いが、小麦とその粥(オートミール)は共に弛緩作用が一層弱い。殻を除かずに作った小麦パンは身体を乾燥させ、便通をつける。殻を除いたもののほうが栄養価が高いが、弛緩作用は弱い。さまざまなパンの中で、発酵させたものは軽くて便通をつける。軽いのはパン種の酸によって湿気が速やかに消費されるからで、この湿気が栄養となる。便通がよくなるのは速やかに消化されるからである。ところが発酵させていないものはそれほど便通がよくないが、栄養価は比較的高い。。

小麦粥と混ぜて作ったパンが最も軽く、これは良質な栄養となり、便通もよくなる。栄養があるのは混ざりもののない小麦から作るからである。軽いのは最も軽いものと共に捏ねて発酵させ、焼き上げているからである。便通がよいのは、甘くて便通をよくする小麦の成分が含まれているからである。

パンそのものの中では、最大のものが最も栄養がある。それは、これに含まれる湿気が火によって消費されることが最も少ないからである。炉や串で焼いたパンよりもオーブンで焼いたパンのほうが栄養がある。これは火によって焼かれることが少ないためである。

平鍋や灰の中で焼いたパンは最も乾性である。後者は灰が、前者は土鍋が湿気を吸収するためである。

シミラゴ(similago)と呼ばれる精製小麦粉で作ったパンは全てのうちで最も強性である。ただし粗挽き粉で作ったパンはそれほど強性ではないが、これは非常に栄養があり、それほど便通はよくない。

精製小麦を水に混ぜて飲料にすると活力がつくが、スペルト小麦を水で洗った後の水を火にかけたものも同様に活力がつく。

籾殻を煎じて煮たものは軽くて便通がよくなる。粗挽き粉をミルクに入れて煮たものは水で煮たものよりも便通がよくなる。これは乳清が含まれるためで、これに下剤を混ぜると特に便通がよくなる。

粗挽き粉を煮たり蜂蜜と共に油で揚げたものは身体を熱し、鼓腸を起こす。鼓腸を起こすのは非常に栄養があり便通を止めるからである。身体を熱するのは、脂と甘み、そして同じ方法で調理するべきでない不調和なものが一緒に含まれるからである。

精製小麦粉や粗挽き粉を煮たものは強性で非常に栄養があるが、便通はよくない。

43.
スペルト小麦(Jones注;ヒトツブ小麦とエンマー小麦)は小麦よりも軽い。これらから作ったものは、小麦から作ったものと同じ程度に軽いが、よりいっそう便通がよい。エンバクは食べるにしても煎じて飲むにしても湿性にして冷性である。

44.
粗挽き粉やふるいにかけた粉で作りたてのものは、新鮮でないものよりも乾性である。これは調理される火に比較的近いからである。それが古くなってくると熱が発散して冷が後を継ぐ。熱いパンは身体を乾燥させるが、冷たいパンはそれほど乾燥させない。前日に作ったパンは幾分かは乾燥が少なく、また幾分痩せさせる。

45.
豆類は収縮作用があり(前田注;便通を止める)、鼓腸を起こし、栄養がある。鼓腸を起こすのは、入ってくる大量の栄養を管が吸収しないからで、便通を止めるのはその栄養から残る残渣がほんの僅かなためである。

エンドウ豆はガスの発生が少なく、便通がよい。オクロスと呼ばれるヒヨコマメやドリコスと呼ばれる豆は上記の豆よりも便通がよく、ガスの発生も少ないが、栄養がある。白ヒヨコマメは便通がよくなり、利尿作用があり、栄養がある。基本的な部分に栄養があり、甘い部分に利尿作用があって、塩味の部分に便通作用がある。

キビの粗挽き粉と殻には乾燥作用と便通を止める作用がある。きつい労働をこなす人とっては、これをイチジクと共に摂ると充分な栄養になる。全粒キビそのものを煮たものは栄養があるが、便通を止める。

レンズマメは身体を熱し、腸の不調を起こす。この豆は便通を良くも悪くもしない。カラスノエンドウは便通を止め、強壮で太らせ、満腹にし、顔色をよくする。

亜麻仁は栄養があって便通を止め、幾分かは活力をつける。オニサルビア(前田注;clary sage;英文ではclary seed)は亜麻仁と同じ性状である。ウチワマメは強壮作用と発熱作用があるが、調理することによって生のままよりもずっと軽くなり身体を冷やし便通をよくする。

エリシマム(前田注;アブラナ科)の種子は湿性で便通をよくする。キウリの種子は便通よりも尿の出をよくする。洗浄していないゴマは便通をよくし、満腹感を与え、太らせる。便通がよくなるのは外皮の作用による。太るのは中身の作用による。これを洗ったものは、便通はそれほどよくならないが、いっそう太り、満腹になる。これは脂肪と油が多いので、これは乾性かつ熱性である。

ベニバナは便通をよくする。ケシは便通を止めるが、黒いケシのほうが白いケシよりもその作用が強い。しかし白いケシもその作用がある。しかし、これは栄養があり、強壮作用がある。これら全ての種子の汁は、その実質よりも便通作用が強い。従って、身体を乾燥させたい時には調理に際して注意深くその汁を取り除き、その実質を用いるようにしなければならない。便通をつけたい時には、その汁を多めに、実質を少なめに用い、種子は汁気の多いものだけを用いるようにする。

46.
食用動物に関しては、次のように理解しておかねばならない。牛肉は強性で便通を止め、消化しにくい。それはこの動物がひどく濃厚な血液を大量に充満させているからである。その肉は身体にとって重い。肉そのもの、ミルク、血液も同様である。薄いミルクと血液を持っている動物も同じで、肉も同様の性質である。

ヤギの肉は以上の動物に比べて軽く、便通もよい。ブタ肉はこれらの肉よりも身体にとってより強性で、便通もよい。この動物は細くて血液の少ない血管を持っているが、肉質は多いのがその理由である。

子羊の肉は羊の肉よりも軽く、子ヤギの肉はヤギ肉よりも軽い。というのも、これらの動物は血液がそれほど多くなく、ずっと湿気が多いからである。

もともと乾性で強性な動物は、若い肉は便通をよくするが、成長した肉はそれほど便通はよくならない。仔牛の肉も牛肉に比べると同じである。しかし若い豚の肉は豚肉よりは重い。というのも、この動物はもともと肉が多くて血液が少なく、若いうちは過剰に湿気が多いからである。そして入ってくる栄養を管が受けつけない時には、その栄養は滞留して熱くなり、腹の調子を狂わせる。

ロバの肉は便通をよくするが、子供のロバ肉のほうがさらに便通がよくなる。そして馬肉は幾分軽い。

犬の肉は乾性、熱性、強性であるが、便通を止める。子犬の肉は湿性で便通をよくするが、それ以上に利尿作用がある。イノシシの肉は乾性、強性で、便通をよくする。鹿肉は乾性で便通はそれほどよくならないが、尿の出はよくなる。

野ウサギの肉は乾性で便秘になるが、いくらかは利尿作用がある。キツネの肉は湿性で尿の出をよくする。ハリネズミの肉は利尿作用があり、湿性である。

47.
鳥に関しては以下の通りである。全ての鳥はほとんどが四足獣よりも乾性である。というのも、これらの生物は腹部の熱のために膀胱がなく、尿も唾液も生成しないからである。身体の湿気は熱を養うために消費されるので、尿も唾液も出さない。したがってそのような湿気が欠乏しているのは必ず乾性となる。

ジュズカケバトの肉が最も乾性度が高く、その次がシャコ、三番目がハト、雄鶏、キジバトである。ガチョウの肉が最も湿性である。中でも種子を常食にする鳥が最も乾性である。アヒルその他の沼地や水上で棲息する鳥類は全て湿性である。

48.
魚肉に関しては、以下のものは最も乾性である。カサゴ、ドラゴン・フィッシュ(前田注;Dragon Fish;和名見つからず:Jones注;greater weeverともいう)、メゴチと呼ばれる魚、フエフキダイ、グレイ・フィッシュ(前田注;Grey Fish;和名見つからず)、パーチ、トリッサと呼ばれる魚。

次に挙げるような、岩場に棲息する魚はほとんど全てが軽い。すなわち、スラッシュ・フィッシュ(前田注;thrush fish=κιχλη;キクレ;和名見つからず)、メルルーサ(前田注;英名;ヘイク;タラ目)、セイヨウカマツカ(前田注;コイ科)、エレフィティス(前田注;ελεφττζ=elephitis:和名見つからず)がそれである。

これらの魚はあちこち移動する魚よりも軽い。というのも、じっとして動かないので、肉質に締まりがなく軽いからである。あちこちさまよって波にもまれる魚は運動して波に叩かれるので、肉質はずっと堅く締まっている。

シビレエイ、ガンギエイ、ヒラメなどの魚は軽い。ボラ、セストレウス(前田注;cestreus;和名見つからず)、ウナギなど、泥の多い湿地に棲息する全ての魚は(消化が)より重い。これらは泥水やそこに生えているものからエサを摂っているからである。

そこの空気も人体に入るとその人を害し、重くのしかかる。河や池に棲息する魚は以上の魚に比べて重い。タコ、イカその他のものは、思っているほどには軽いようにはみえないし、便通もよくならない。また視力を低下させる。しかしそれらのスープは便通をよくする。ピンナ(前田注;pinna;和名見つからず)、カサガイ、アクキ貝、ホラ貝、カキなどの貝類は肉質が乾性で、そのスープは便通をよくする。

イシガイ、ザルガイ、トリガイは上記のものよりは便通をよくする。クラゲ(sea-nettles)は特に便通をよくする。軟骨性の魚は湿性で便通をよくする。

ウニの卵やロブスターの汁は便通をよくする。カニもまた同じであるが、河に棲息する種は他のものよりもその作用が強いが、海のものもまた同じである。これらはまた利尿作用がある。

塩漬け魚は乾性で痩せる。脂っこい魚は緩やかな便通作用がある。最も乾性な塩漬け魚は海に棲息するもので、その次が川魚である。最も湿性なものは湖に棲息するものである。それ自体が塩漬け魚とみなされる魚の中でも、最も乾性なものを塩漬けにしたものが最も乾性である。

49.
家畜に関しては、森や野原でエサを食んでいるもののほうが、屋内で飼われているものよりも乾性である。これは、太陽の下での活動と寒冷が家畜を乾燥させ、比較的乾燥している空気を呼吸するからである。

野生動物は家畜より乾性で、小食動物のほうが大食動物よりも乾性である。また、干し草を食べる動物のほうが生の草を食べる動物より乾性である。果実を食べる動物のほうがこれを食べない動物よりも乾性で、水を少ししか飲まない動物のほうが大量に飲む動物よりも乾性で、血液を大量に含んでいる動物のほうが、それが少しか全くない動物よりも乾性で、元気のある時期のほうがひどく老齢か若い時期のものよりも乾性である。メスよりもオス、去勢しているものよりも去勢していないもの、白いものよりも黒いもの、短毛または無毛よりも有毛のほうが、乾性である。これと反対のものはより湿性である。

分類としての動物の肉質が最も強性なのは、ひどく酷使された動物の肉、大量の血液を含んでいる動物の肉、横たわった時に下になっている部分の肉である。最も軽いのは、使役されることの少ない動物の肉、血液の少ない動物の肉、ほとんど日陰にいる動物の肉、動物の深部にある肉である。

血液のない部分のうちでは、脳と髄が最も強性である。最も軽いのは頭部、足、陰部、腱である。魚の中では、最も乾性なのは上方部で、最も軽いのは腹の下方部である。脂肪と脳があるので、頭部が比較的湿性である。

50.
鳥の卵は強性で栄養があり、ガスが生じる。卵が強性なのはその動物の原初になっているからで、栄養があるのはそれが動物の乳であるからで、ガスが生じるのは、小さな塊から大きく膨らむからである。

51.
チーズは強性、熱性で、栄養があり、便通を止める。強性なのは生物の原初に最も近いからで、栄養があるのはミルクの肉質部が残っているから、熱性であるのは脂肪が多いから、便通を止めるのはイチジクの汁またはレンネット剤(前田注;牛乳の凝固剤)によって固まっているからである。

52.
水は冷性、湿性である。ワインは熱性、乾性で、その原料によって幾分かは便通作用がある。黒くてきついワインはより乾性で、便通も利尿も唾液も止める。乾性であるのは、その熱によって湿気を消費して身体から排出するからである。黒くて軽いワインは湿性である。これはガスを生じ、比較的便通をよくする。黒くて甘いワインは湿性で弱性である。これは湿気を生じるのでガスを発生させる。

きつい白ワインは身体を乾燥させることなく熱を生じ、便よりも尿の出がよくなる。新しいワインはそれ以外のものよりも便通がよくなるが、これはより果汁に近いのと、より栄養があるためである。同じ年代のワインの中でも芳香のあるものは、ないものよりも便通がよくなる。これは芳香のあるもののほうがより熟しているからで、また濃厚なもののほうが薄いものよりも便通がよくなる。薄いワインは尿の出がよくなる。

白ワインと薄くて甘いワインは便よりも尿の出がよくなる。これらは身体を冷やして痩せさせ、湿らせる。しかし血液に対抗するものを体内に増やして血液を弱らせる。ブドウの絞り汁はガスを発生させ、腸の調子を狂わせ、これを空にする。ガスを発生させるのは身体を熱するからで、腸を空にするのは下痢を起こす作用があるから、腸の調子を狂わせるのは腸内で発酵し、便通をよくするからである。

酸っぱいワインは冷性、湿性で身体を痩せさせる。冷性で身体が痩せるのは身体から湿気がなくなるからで、身体が湿気るのはワインと共に身体に入る水分による。

酢は活力を増す。これは体内の湿気を液化し、消費するからである。これは便通をよくするよりも便通を止める。それは栄養がなくて刺激性があるからである。

煮詰めたワインは身体を温めて湿らせ、便通をよくする。これはワイン性のものであるから身体を温め、栄養があるので身体を湿らせ、甘くて、その上に煮詰めているので便通が良くなる。ブドウの皮から作ったワインは湿性で、便通をよくし、ガスで腹を充満させる。これは発酵前の果汁液もまた同じ効果があるためである。

53.
混ぜもののない蜂蜜は身体を温めて乾かす。水を混ぜたものは身体を湿らせ、胆汁質の人の場合には便通をよくし、粘液質の人には便通を止める。甘いワインは粘液質の人の便通がよくなる傾向がある。

54.
野菜の特徴に関しては、次の通りである。ニンニクは身体を温め、便と尿の出がよくなり、身体にはよいが目にはよくない。これはかなりの程度に身体を浄化するので、視力が低下するためである。便と尿の出がよくなるのは、その浄化作用のためである。これを煮たものは、生よりも効果が弱い。これはガスを滞留させるので、鼓腸を起こす。

タマネギは視力をよくするが身体にはよくない。というのも、これは身体を熱して火照らせ、便通を止めるからである。これは栄養にならず、また身体に役立つこともなく、その汁が身体を温めて乾燥させる。

セイヨウニラネギはこれよりも身体を温めることが少ないが、尿も便も出がよくなる。またある程度の下剤作用もある。これは身体を湿らせ、胸焼けを止めるが、最後に摂取するべきである。

ダイコンは、きつい作用によって粘液を散らすことで身体を湿らせる。しかしその葉はそれほどでもない。根は関節炎に悪い影響を及ぼし、腹に残って消化されにくい。コショウナは身体を熱して肉質を溶解する。これは白い粘液を凝固させ、疼痛性排尿困難を引き起こす。カラシナは身体を温めて便通をよくする。これもまた排尿を困難にする。キバナスズシロもまたカラシナと同様の効果がある。コリアンダーは身体を熱して収縮作用があり、胸焼けを止め、最後に摂取すると眠気を引き起こす。

レタスは汁が生成する前ならかなり身体を冷やす。しかし時には身体を弱らせる。アニス(前田注;セリ科の一年草、ギリシャ原産)は身体を熱し、その匂いはくしゃみを止める。セロリは便通よりも尿の出をよくする。その根は茎よりも便通をよくする。バジルは乾性で、身体を熱し、収縮作用がある

ヘンルーダ(前田注;ミカン科の多年草。地中海沿岸が原産)は便通よりも尿の出をよくする。そして幾分かは凝固作用があるので、前もって飲んでおくと毒を防ぐ。アスパラガスは乾性で収縮作用がある。セージは乾性で収縮作用がある。イヌホウズキは冷性で夢精を防ぐ。スベリヒユは、新鮮なものは冷性であるが、保存したものは温性である。イラクサは浄化作用がある。チクマハッカは身体を温め、浄化する。ハッカは身体を温め、尿の出をよくし、嘔吐を止める。頻繁に摂取すると精子を溶かし、これを流出させる。そして勃起を妨げて身体を衰弱させる。

スイバ(前田注;スカンポ)は身体を温めて、便通をよくする。ヤマホウレンソウは湿性で、便通はあまり良くならない。イヌビユ(前田注;ヒユ科ヒユ属の一年草。学名;Amaranthus blitum。別名;ノビユ、クサケトギ、ヒョー、キチガイ、ヤブドロボウ、オコリ、フシダガ、ヒエ、フユナ、ヨバイグサなど)は、便通をよくしないで身体を温める。キャベツは身体を温め、便通をよくし、胆汁様物質を排出する。サトウダイコンの汁は便通をよくするが、実質それ自体は収縮作用がある。これの根はかなりの程度に便通がよくなる。カボチャは身体を温めて湿らせ、便通をよくするが、利尿作用はない。カブは身体を熱して湿らせ、身体の調子を狂わせる。また排便、排尿が困難になる。

メグサハッカ(前田注;別名=ペニーロイヤルミント)は身体を温めて便通をよくする。マジョラム(前田注;シソ科の多年草)は身体を温め、胆汁様物質を排出する。セイボリー(前田注;シソ科トウバナ属の一年草、別名=キダチハッカ)は、これと同様の作用がある。タイム(前田注;またはジャコウソウ)は身体を温め、緩下作用と利尿作用があり、粘液性体液を排出する。ヒソップ(前田注;別名=ヤナギハッカ。シソ科ヤナギハッカ属の多年草)は身体を温めて粘液性体液を排出する。

野生の野菜の中でも、口の中を温め、芳香のするものは身体を温め、便通よりも利尿作用がある。湿気があり、冷性で味のないものや、匂いのきついものは利尿作用よりは便通をよくする。味がきつすぎたり強すぎて不快なものは便通を止める。刺激性で芳香のするもの利尿作用がある。口に入れると刺激があって乾いているものは乾性である。酸味のあるものは冷性である。

利尿作用があるのは、クリスムム(前田注;セリ科の多年草)、セロリ、ニンニクの煎じ液、クローバー、ウイキョウ、セイヨウニラネギ、クジャクシダ、イヌホウズキである。

冷性なのは、コタニワタリ(前田注;チャセンシダ科チャセンシダ属の多年草シダ)、ハッカ、セセリ(前田注;セリ科の多年草)、エンダイブ(前田注;キク科の一年草。別名=キクヂシャ)、バール・パセリ(前田注;セリ科カウカリス属)、ヒペリカム(前田注;オトギリソウ科の小低木)、イラクサである。

便通をよくしたり浄化作用があるのは、ヒヨコマメ、レンズマメ、大麦、ビート、キャベツ、ヤマアイ(前田注;トウダイグサ科の多年草)、ニワトコ、ベニバナを煎じた液である。これらは利尿作用よりも便通をよくする。

55.
果実の特性は次の通りである。果実全般は緩下作用があり、干したものよりは新鮮なもののほうが、この作用が一層強い。個々の果実の特性を以下に記す。桑の実は身体を温め、湿らせ、便通をよくする。セイヨウナシは、熟したものは便通をよくするが、堅いものは便通を止める。野生ナシ(前田注;wild winter pears:和名が不明なため表記のような訳語を用いた)は、熟したものは便通をよくして腸を浄化する。熟していないものは便通を止める。甘いリンゴは消化されにくいが、酸味のリンゴで熟しているものはそれほど消化は悪くない。マルメロの実は収縮作用があるので便通を止める。リンゴの果汁は嘔吐を止め利尿を促進する。リンゴの香りもまた嘔吐を止めるのによい。野生のリンゴは収縮作用があるが、調理すると便通をよくする。起座呼吸にはその果汁と、そのままのリンゴをすり潰したものが有効である。

サービス・ベリー(前田注;バラ科ザイフリボク属)、セイヨウカリン、コーネル・ベリー(前田注;cornel berry;和名見つからず)、この類いの果実は概して便通を止める収縮作用がある。甘いザクロの果汁は緩下作用があるが、身体を焦がすように熱くする。ワインのようなザクロの果汁は鼓腸を起こす。酸味のものは一層身体を冷やす。これら全ての種子は収縮作用がある。熟していないウリ(Jones注;キウリ)は消化されにくい。熟したウリ(Jones注;メロン)は尿と便の出をよくするが、鼓腸を起こす。

ブドウは身体を温め、湿らせ、便通をよくする。白ブドウは特にこの効果が高い。甘いブドウはひどく身体を熱するが、これは甘くなるまでに大量の熱を吸収するためである。熟していないブドウはそれほど身体を温めないが、これをすり潰したものには浄化作用がある。

レーズンは身体を焼けるように熱くするが、便通をよくする。熟していないイチジクは身体を湿らせ、便通をよくして身体を温める。これが湿性であるのは果汁に富んでいるからで、身体を温めて便通をよくするのは甘い果汁のためである。イチジクの一番生りが最も質が悪いが、これは多量の果汁を含んでいるからである。最後に生ったものが最も良質である。乾燥イチジクは身体を焼けるように熱くするが、便通をよくする。

アーモンドは身体を焼けるように熱くするが、栄養はある。身体を熱くするのは油性分に富むからで、栄養があるのは多肉質のためである。丸いナッツ(Jones 注;通常のナッツ)もこれと同様である。平たいナッツ(Jones 注;クリの実)は、熟しているものには栄養があるが、皮を除いたものは便通をよくするが、鼓腸を起こす。しかしその皮は便通を止める。トキワガシの実やドングリは、生では便通を止めるが、茹でたものはそれほどでもない。

56.
脂っこい肉は身体を焼けるように熱くするが、便通をよくする。ワイン漬けの肉は乾性で栄養がある。乾性であるのはワインによるもので、栄養があるのは肉質による。酢漬けにした場合には、酢のためにそれほど身体を温めないが、栄養は充分ある。塩漬けの肉はそれほど栄養はない。これは塩分が湿気を除くからである。しかしこれは身体を痩せ細らせ、乾かし、便通を充分につける。

食物の威力は次に述べる方法で個々に減じたり強めたりするべきである。というのも、動物も植物も、全てのものは火と水から成り立っており、また全てはそれらから成長し、それらに分解されてゆくことが知られているからである。

強壮な食物は何度も煮たり冷やしたりすることによって、その効力を減らす。湿気のあるものは焼いたりあぶったりして湿気を取り去る。乾いているものは水に漬けたり湿らせる。塩気のあるものは水に漬けたり煮る。苦くて刺激のあるものは甘いものと混ぜ合わせる。渋みのあるものは油性のものと混ぜる。

その他の全ての例においても、これまでに述べたことに準じて判断する。焼いたりあぶったりした食物は生のものより便通を止める。これは火が湿気や汁や脂肪分を除去するからである。従ってこれらが腹に入ると腹から湿気を取り去り、管の入り口を燃えるように熱くし、これを乾かして熱するので、体液の通る管が閉じられるのである。

水がなくて乾燥していて、酷熱の地域に由来するものは全て比較的乾燥していて温めで、身体を一層強化する。これは同じ容積であっても、水が豊富で寒く湿気の多い地域に由来するものに比べて重いからである。後者の地域に由来する食物はずっと湿気があり、軽めで比較的冷たい。

従って、穀物、飲料、肉類など食物それ自体の特性だけでなく、それらが由来する地域についても知っておかねばならない。食物の嵩を増やさずに、より強壮な栄養を身体に与えたい時には、乾燥している地域に産した穀物や飲料、肉類を用いねばならない。軽めで湿りがちの栄養が必要な時には、充分に灌漑された地域の産物を用いるべきである。

甘いもの、刺激のあるもの、塩辛いもの、苦いもの、味がきついもの、多肉質のものなどの食物は、乾性であろうと湿性であろうと、元来が身体を熱する。乾性の部分が多いものは身体を温め、乾かす。湿性の部分が多いものは、乾性のものに比べて全てが身体を温め、便通をよくする。このことは、身体により多くの栄養が入るので、それが腹部に誘導されて身体を湿らせ、便通が容易になるからである。

身体を温め、乾かし、唾液も尿も便も作らない食物は身体を乾かすが、これは次の理由による。身体が温かくなるにつれて湿気が失われるが、その一部は食物そのものによって失われる。一方で、その一部は精髄を温めるための栄養として消費され、また別の一部は温かくなって希薄になり、皮膚を通って排出される。

甘いもの、脂肪質のもの、脂っこいものは膨満感を起こすが、これは小さな容積から大きく膨らみやすいからである。温かくなって溶けると身体を熱で充満させ、落ち着かせる。

酸味のあるもの、刺激のあるもの、味のきついもの、渋みのあるもの、乾性のものは、膨満感はない。これは、血管の入り口を開いてそれを完全に洗浄するからである。そしてあるものは乾燥によって、他のものは刺激によって、またあるものは収縮によって肉質の湿気を震わせて、これを小さな容積に圧縮する。そうすると、体内の隙間が大きくなる。そこで、少量の食物で身体を満たしたい時や、もっと多くの食物で身体を空にしたい時には、この種の食物を利用する。

全ての新鮮な食物は、そうでないものに比べると一層身体を強くする。これらは生命体に近いからである。新鮮でなく古くなったもののほうが、新鮮なものよりずっと便通が起こりやすいが、こちらのほうが腐敗状態に近いからである。

生のものは疝痛やク気(おくび)を起こす。火によって消化されるはずのものが腹によって処理されるが、ここに入ってくるものに対して、腹は弱すぎるからである。

ソースに浸けて調理した肉は身体を燃えるように熱くし、湿らせる。油性のもの、火のように熱いもの、温かいもの、互いに反対の特性のものが一箇所に入っているからである。塩水または酢で調理したもののほうが質がよく、身体を熱くすることはない。

57.
入浴の特徴は次の通りである。飲用可能な水(Jones注;いわゆる「真水」のこと)は湿性かつ冷性である。これは身体に湿気をもたらす。塩水浴は身体を温めて乾かす。これは、元来は熱を持っているので身体から湿気を奪い去るからである。

温浴は、空腹時に行なうと身体は痩せて冷える。これは、その温かさによって身体から湿気を取り去るからである。一方で肉質からは湿気が失われるので身体は冷やされる。

食後の温浴は身体を温めて湿らせる。湯は、体内に元からある湿気を一層大きく膨張させるからである。冷水浴はこれと反対の効果がある。身体を空にしようとして、ある程度の熱量をもたらすからである。食後の冷水浴は湿気を取り除き、冷たい乾気で身体を満たす。入浴を控えると湿気が消費されるので身体を乾かし、また身体にオイルを塗るのを控えるのも同じ効果がある。

58.
身体にオイルを塗ることは身体を温め、湿気を与え、柔軟にする。太陽と火は次の理由によって身体を乾かす。これは暖かくて乾いているので、身体から湿気を取り去る。日陰や適度な寒さは身体を湿らせるが、これは受け取る湿気よりも与える湿気が多いからである。全ての汗は身体から出てゆく時に身体を乾かし、痩せさせる。この時に体内の湿気が出てゆくからである。性交は身体を痩せさせ、湿らせ、温める。身体が温まるのは疲労によるもので、湿気が分泌されるからである。身体が痩せるのは身体が空になるからである。身体が湿るのは、疲労によって溶け出した体内の残滓物質による。

59.
吐瀉は栄養を排出するので身体を痩せさせる。しかしこれは翌日に適切な処置を行なわないと身体が乾くことはない。食べ過ぎと疲労による肉質の溶解によって吐瀉はむしろ身体を湿らせる。しかし翌日に、温かさの栄養分として湿気が温かさによって消費されるので、徐々に栄養を増してゆくなら、吐瀉は身体を乾かすことになる。

便秘している腸は吐瀉によって緩み、緩んでいる腸は吐瀉によって締まる。前者の場合は身体を湿らせ、後者の場合には身体を乾かす。従って、腸を締めたい時には、食後に食物が湿り気を帯びる前、また下方に降りて行く前にできるだけ速やかに嘔吐させるのがよい。摂取する食物は渋みのあるもので乾燥しているものが好ましい。腸を緩めたい時には、食物をできるだけ長時間保持させるのが有効で、飲み物や食物は刺激性のもの、塩辛いもの、脂っこいもの、甘い物が有効である。

60.
空腹状態で睡眠を取るのは、長時間でなければ身体を痩せさせ、冷やす。これは体内の湿気を排出するからである。睡眠が長時間に及ぶなら肉質を熱して溶解し、身体を分解して衰弱させる。食後に睡眠を取ると栄養が全身に行きわたるので、身体を温めて湿らす。身体を乾燥させるのは、特に早朝に歩いた後の睡眠である。

食後に眠らないのは有害である。食物が分解されるのを妨害するからである。絶食している人が眠らないのは、それほど有害ではないが、肉づきを細らせがちである。

じっとしていることは身体を湿らせ、弱らせる。というのは精髄は休息していると身体の湿気を消費しないからである。しかし労働は身体を乾燥させて強化する。

一日に一度の食事は身体を痩せさせて乾燥させ、便通を止める。というのは、精髄の熱によって腹部と肉質から湿気が消費されて出てゆくからである。昼食を摂ることは一日一食だけの場合と反対の結果をもたらす。

飲料としての湯は一般に肉質を細らせるが、冷水もまた同じである。空気、食物、飲み物、何であろうと極端に冷たいものは体内の湿気を凝固させ、この凝固作用と冷たさによって便通を止める。というのもこれは精髄の湿気に打ち勝つからである。

過剰な熱もまた湿気の放散を妨害するほどの凝固をもたらす。栄養がなくても身体を温め、肉質の湿気を取り去るような食物は、湿気が過剰でなくとも、全ての場合において寒けを引き起こす。というのも、湿気が取り除かれると、外部から取り込まれた空気によって身体が満たされて冷たくなるからである。

61.
さて運動の特性について論じることにする。運動には自然なものや、激しいものがある。自然な運動というのは、見たり聴いたり声に出したり、考えたりすることである。見る運動の本性というのは次の通りである。精髄は見えるものに集中すると、動いて温かくなる。これが温かくなると乾燥するので、湿気は失われる。

聴くことによって雑音が精髄を刺激すると、精髄は震えて苦しみ、苦しむことによって温められ、乾燥する。

人に想起される全ての思考によって精髄は温かくなり、乾燥する。湿気を消費しつつ精髄は苦しみ、肉質が空になるので、身体は痩せる。

声の運動は、会話であれ、朗読であれ、詠唱であれ、全て精髄を動かす。これが動くと温かくなって乾燥し、湿気を消費する.

62.
歩くことは、他の運動にくらべてごく自然な運動である。しかし、激しい場合もある。数種の散歩の特徴を次に述べる。夕食後の散歩は腹部と身体を乾かす。これは次の理由で腹部に脂肪がつくのを防ぐ。つまり人が動くと食物と身体が温まる。そこで肉質が湿気を吸収するので、湿気が腹部に溜まるのを防いでいる。身体は湿気で満たされるが、腹部は細くなる。乾燥するのは次の理由による。身体が動き、温かくなるにつれて栄養の中でもっとも純度の高いものは生来の熱によって消費されるか、呼吸または尿によって排出される。体内に残るのは食物中もっとも乾燥している部分であるので、腹部と肉質部分が乾燥することになる。

早朝の散歩もまた身体を痩せさせ、頭の周辺部を軽くして聡明にし、聴覚も良好にする。これはまた腸がゆるくなる。身体が痩せるのは、身体を動かして熱くなると湿気は薄くなり、一部が呼吸と共に排出され、、一部は鼻をかんだ時や咳をした時に排出され、また一部は精髄の熱のための栄養となって消費されるからである。

腸がゆるくなるのは、これが熱い時に冷たい空気が上から一気に入ると、冷たさの前に熱が屈するからである。

頭の周辺部が軽くなるのは次の理由による。腸が空になると熱くなって身体全体から、そして特に頭から湿気を吸収する。頭が空になると視覚と聴覚が冴えわたり、その人は頭脳明晰となる。

身体を鍛えた後に歩くことは身体を浄化して痩せさせる。またこれは運動によって溶解した肉質が一体化して凝集するのを防ぎ、それを排出する。

63.
ランニング運動のうち、往復しないで(*)長距離を走るのは、徐々に距離を長くしてゆくなら、肉質を熱し、練り上げ、溶解する。この走り方は肉質内の食物の威力を消化し、周回走よりも身体を鈍重に、またがっしりさせる。この走り方は大食する人にずっと有効で、また夏よりも冬に行なうのが有効である。

(*Jones注;「往復走」というのは、二本のトラックを用意し、一本のトラック上を終点まで走り、もう一本のトラック上を出発点まで引き返すことをいう。これは距離が決まっているので、一本のトラック上で簡単に距離を延ばせるようには、「徐々に増やす」ことはできない。)

着衣のままでのランニングもまた同じ効果があるが、ずっと早く熱くなるので身体の湿気が強くなるが、それほど日焼けはしない。これは運動中に清浄な空気に強く晒されて浄化されることがなく、同じ空気のままであることによる。従って、この走り方は身体が乾燥している人や、過剰な肉がついていて、それを減らしたい人に有効である。また老人は身体が冷たいので、この人たちにも有効である。

身体を空気に晒した状態での往復走は肉質をそれほど溶解しないが、身体はずっと痩せる。なぜなら、この運動は精髄の内部に関係していて、肉質から湿気を誘導して排出し、身体を痩せさせて乾燥させるからである。

周回走は肉質を溶解することが最も少ないが、肉質と腹部を痩せさせて引き締めるのは最も強い。それというのも、この走り方は呼吸が最も早くなるので湿気を引き出すのも一等早いからである。

64.
肉質が乾燥している人が急に腕振り運動をするのは不適切である。次のように捻挫を起こすからである。身体が温められると、この振り子運動は相当程度に皮膚を薄くするが、周回走ほどには肉質を収縮させず、肉質から湿気を排出する。

スパーリングや腕立て伏せは肉質部を熱くすることが最も少ない。しかし身体と精髄の両方を刺激し、身体の活力を失わせる。

レスリングとマッサージは身体の外側部の運動になるが、次の理由で肉質を温め、これを堅くし、成長させる。生まれつき堅い部位はマッサージによって圧縮されるが、血管のような中空部は成長する。そして肉質がは徐々に温かくなって乾燥すると、血管から栄養を引き出し、成長する。

砂上レスリングは通常のレスリングと同様の効果があるが、砂のために一層乾燥する。また肉質はそれほど増えない。

指相撲は肉質を細め、上に引き上げる。パンチング・ボール叩きや腕の運動はこれと同じ効果がある。

息を止めることは導管を開き、皮膚を薄くし、そこからの湿気を排出する。

65.
砂地での運動が、オイルを塗って行なう運動と異なるのは次の通りである。砂は冷たくオイルは温かい。冬にはオイルを塗って運動するほうが一層成長を促すのは、身体から奪い去る冷たさを防ぐからである(前田注;何を奪い去るか目的語が記されていない)。夏には、オイルは過剰な熱を生み出すが、季節やオイルや運動によって肉質が熱せられ、これが溶解する。

夏には砂地での運動のほうが一層成長を促す。これは身体を冷やすことによって過剰に熱くなるのを防ぐからである。しかし冬には砂地での運動は寒くて凍えることさえある。

夏には、運動後に砂地に留まることは、短時間なら身体が冷えるので有益である。長時間留まると身体が過剰に乾燥し、木材のように堅くなる。

オイルと水を用いるマッサージは身体を柔軟にし、身体が過熱するのを防ぐ。

66.
身体に生起する疲労痛は次の通りである。訓練から遠ざかっている人達はほんの僅かの運動でもこの疲労痛を生じる。それというのも、この人たちの身体はどんな部位も運動に対する耐久性がないからである。しかし鍛えられた身体でも慣れない運動をすると疲労痛を感じるし、慣れている運動であってもやり過ぎると疲労痛を感じることがある。以上は疲労痛のさまざまな種類である。それらの特徴は次の通りである。

運動していない人たちは肉質が湿っているが、運動の後には身体が温まるので、肉質は相当程度に溶解する。

この溶解物質が汗として排出されようが、呼気と共に排出されようが、これは通常とは逆に空になった身体の部分だけに痛みを引き起こす。しかしそのような部位がそのままであると、通常とは逆に空になった部位だけでなく、湿気を受け入れた部位にも痛みを引き起こす。この溶解物質は身体との親和性がなく、害を及ぼすものなのであるから。

この溶解物質は、肉質の少ない部位ではなく、肉質に富む部位に集積する傾向がある。このようにして溶解物質が排出されるまで痛みを引き起こす。そしてこれは循環せずに留まり、熱くなるが、これに触れる物も熱くする。

この分泌物が大量になって健康な分泌物よりも優勢になると、全身が熱くなり、高熱を発するようになる。というのも、血液が引き寄せられて熱せられると、身体の中にある物が急速に循環し、身体全体が気息によって洗浄されるからである。溜まった湿気は温かくなって希薄になり、肉質から皮膚へと押し出されるが、これが「熱い汗」と呼ばれるものである。この分泌現象が終息すると、血液は本来の動きを取り戻し、熱は治まり、疲労痛は3日目頃に消える。

このような痛みは次のように処置するべきである。溜まった体液を蒸気浴と温浴によって解消し、ゆるやかに歩くことで痩せた肉質を引き締め、厳格な食餌と身体を痩せさせる運動によって便通をつける(前田注;分節のかかり具合がおかしいので、このように訳してみた)。身体にオイルを長時間穏やかに塗っておくのが有効である。これはそれほど激しく熱せられることもない。また発汗をうながす軟膏を塗り、柔らかいベッドに寝かせるのも有効である。

運動を続けている人でも慣れない運動による疲労痛をこうむるのは次の理由による。運動していない身体の部位は、どこでも必ずその肉質に湿気があるが、これは一般に、運動から遠ざかっている人が全身に湿気があるのと同じである。従って肉質はこの前の例と同様に、必ず溶解して体液を分泌して貯留する。

このような場合の有効な処置は次の通りである。まず慣れている運動を行なうこと。そうすることで溜まった体液が温められて希薄になって排出され、身体は全般的に湿気が失われもせず、鍛えていない状態にもならない。

これらの場合には、前述のようにマッサージと共に温浴も有効である。しかし蒸気浴の必要はない。というのも、運動は身体を温めるので、溜まった体液を薄めて排出するには運動することで充分であるから。

習慣的な運動による疲労痛は次のようにして起きる。穏やかな運動は痛みを生じない。しかし過激な運動は肉質を過剰に乾燥させ、適切な処置をしないでいると湿気が失われるので、肉質が熱くなり、痛みだして震え、長期にわたる発熱状態に陥る。この人はまず浴槽で身体を洗うべきであるが、あまり大量の湯を用いず、また熱すぎる湯を用いないようにする。

入浴後は軽めのワインを飲ませる。夕食にはできるだけ多量の、かつ多種の食物を摂り、充分に薄めた軽いワインを多量に飲むべきである。そして血管が満たされ、膨張するまで長時間休ませるべきである。その後は吐瀉させ、短くそぞろ歩きをさせてから柔らかいベッドで就眠させる。

次に通常の食物と運動を6日間かけて徐々に増やす。この間に、通常の食物と飲み物に戻す。この処置は、乾燥しすぎた身体に適度な湿気を与える。

運動の過剰量を見極められるなら、そして適切な食物量で回復させられるなら、全てが上記のようにうまく運ぶだろう。しかしこれは不可能であるので、他のやり方が簡単である。というのは、身体が乾燥状態にある時、食物が体内に入ったあとは、身体の各部位に有効なものをそれぞれの食物から受け取るからである。

腹が満たされて湿り、嘔吐によって腹が空になると、これは余分なものを放出することになる。そこで腹は空になっているので、誘導効果をもたらす。すなわち肉質は過剰な湿気を放出するが、薬物や運動、あるいは何らかの誘導作用を強制的に使用しない限り、適量を放出するわけではない。そして徐々に行なうことで、身体は穏やかに以前の養生法に戻るだろう。

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