整復装置     ヒポクラテス著
Instruments of Reduction   Hippocrates


掲載日 2013.10.30
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英訳:Francis Adams (1796〜1861)
The University of Adelaide Library,
University of Adelaide, South Australia 5005

英文サイト管理者の序
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邦訳者(前田滋)の序

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  http://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-instruments.html

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3. 本著作を商用以外の目的で再利用、配布する場合には、必ずこの著作の認可条項を周知させ、明確にすること。

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。また、目次も作成しておいた。

ーーーーーーーー 目 次 ーーーーーーーーー

人体各部の骨   第1節
鼻の骨折       第2節
耳の骨折       第3節
顎の骨折       第4節
肩の脱臼       第5節
肩峰の破断     第6節
肘の脱臼       第7〜9、12〜15節
前腕の骨の乖離  第10、11節
手関節の脱臼   第16〜18節
手指の脱臼     第19節
股関節の脱臼    第20〜25節
膝の脱臼       第26節
足関節の脱臼    第27〜29、31〜33節
踵の挫傷       第30節
関節・骨の切断   第34節
壊疽          第35節
脊柱          第36〜38節
口蓋          第39節
脱臼・骨折概論   第40〜42節

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整復装置     ヒポクラテス著
Instruments of Reductions   Hippocrates


英訳:Francis Adams (1796〜1861)
「The Genuine Works of Hippocrates」 (1849)
邦訳 : 前田滋 (カイロプラクター、大阪・梅田)
( http://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-instruments.html )

1.
指の骨と関節の構造は単純である。手と足の骨は数が多くて、接合の仕方もさまざまである。最上部にあるものが最も大きく、例えば踵は一つの骨から構成されていて、外観は飛び出ており、そこに後方の腱が付着している。

下腿は2本の骨からできていて、これらは上部と下部で共に結合している。しかしその中間部ではわずかに離れている。外側の骨(腓骨)は、足の小指に近い側では他方の骨よりわずかに細いが、骨が離れているところや、外側の膝腱の起始となっている膝の部分ではさらに細い。これら2本の骨は下部で足と連動する骨端を共有しており、上部ではもう一つの骨端を共有している(注*)。この部分では大腿の関節端が動くのだが、この関節端は、その長さに対応して単純で軽く、丸い形で、(これと接合している?)膝蓋骨を備えている。大腿骨自体は外方、前方に彎曲している。

大腿骨頭は丸い骨端を形成していて、これは股関節の寛骨臼に付着している靱帯の起始部となっている。この骨は幾分斜めに関節をなしているが、上腕骨ほどではない。坐骨(前田注;寛骨?)は仙骨の隣にある大きな椎骨と、軟骨性の靱帯(前田注;腸腰靱帯?)によって結合している。

仙骨から大椎(前田注;第5腰椎?)までの脊柱は後方に彎曲している。この領域には膀胱や生殖器、直腸の屈曲部が収容されている。ここから横隔膜までは、前方に傾斜しつつ真っ直ぐ上行している。そしてここには大腰筋がある。この点から肩の頂点にある大椎(前田注;第7頸椎?)までは後方に彎曲しているが、この彎曲は実際よりも強いように見える。それは、この部分の後部突起が最も高くなっているからである。頸の関節は前方に彎曲している。

椎骨は内方では規則的に並んでいるが、後方では軟骨性の靱帯で結合されている。これらは、脊髄後部にある不動結合を形成している。椎骨後部には、軟骨性の骨端を備えた鋭い突起があり、そこから下方に走る靱帯(nerves)の基部が出ている。また、頸から腰部にかけて筋肉も走っていて、これが肋骨と脊柱間の領域を埋めている。

肋骨は、頸部から腰部までは短い靱帯で椎骨間の内方で接合している。肋骨前面は、先端が海綿質で柔らかくなっていて、胸骨に繋がっている。肋骨の弓なりは全ての動物中で人間のものが最も強く、体幹に比例して最も狭い。また肋骨は、短い靱帯によって、短くて幅の広い横の突起(横突起?)の所でそれぞれの椎骨と結合している。

胸骨は一つの連続した骨であり、横には肋骨がはまり込むための窪みがある。またこの骨は海綿質で軟骨性である。

鎖骨は前面が丸くなっていて、胸骨との間にはわずかな動きしかないが、肩峰部ではずっと大きく動く。人体の肩峰は、ほとんどの動物と異なり、肩甲骨から発生している(前田注;「関節について」第13節参照)。肩甲骨は脊柱に近い側が軟骨性で、その他の部分は海綿質である。そして外側では不規則な形状をなしている。その頸部と関節窩は軟骨性である。この骨は肋骨の動きを妨げないようになっていて、上腕骨と接合しているほかは、どの骨とも繋がっていない。

上腕骨頭は、短い靱帯によって肩甲骨の窪み(関節窩?)と接合している。これは海綿状の軟骨である丸い骨端から構成されている。上腕骨自体は外方に彎曲していて、直線状ではなく側面の窪み(関節窩?)によって関節を形成している。

肘の部位では上腕骨は幅広く、でこぼこしていて堅い。背面には窪みがあり、腕を伸ばした時に、尺骨の鉤状突起(肘頭?)がここに嵌まり込む。またここには痺れを感じる神経(前田注;尺骨神経?)が走っていて、これは前腕にある2本の骨の接合部から出てきて鉤状突起に終わっている。
注* 骨端とは、靱帯によって二つの骨が密着している接合部のことである。

2.
鼻が折れた時には、できるだけ早く成型するべきである。軟骨部が骨折した時には、カルタゴ革の外皮あるいは刺激性のない他の材質に粗羊毛を詰めたものを鼻孔に挿入する。また、その革をずれた部位に貼りつけて矯正する。この症例では包帯は有害である。治療にはマナを混ぜた小麦粉あるいはワックスを混ぜた硫黄を用いる。

骨折部を素早く矯正した後、鼻孔に指を挿入して骨折部を元の位置に戻して保持する。その後でカルタゴ革を使用する。外傷がある時でも仮骨が形成される。骨が剥脱しても、これは重傷ではないので、同じ治療を行なう(前田注;「関節について」第35〜39節参照)。

3.
耳の骨折では、包帯も湿布も使用するべきではない。包帯を用いるなら、非常にきつく縛るべきである。そしてワックスと硫黄を包帯に塗り込めておく。

耳の中に腫れ物ができる時には、これは思ったより深部に見いだされる。というのは、耳は全体が果肉質で、水分の多い肉からできているので、このような場合には間違いやすいからである。

この傷口を切開しても害にはならない。それは、耳全体は肉づきが少なくて水分に富み、粘液質であるためである。しかし、腫れ物を切開すると致命的である場合の部位と状況に関してはここでは述べられていない。

耳を刺し通して焼灼すると最も早く治癒するが、この場合には、耳の形が損なわれ、小さくなる。腫れ物を切開した時には、外傷用の緩やかな塗り薬を用いる(前田注;「関節について」第40節参照)。

4.
顎の骨はしばしば僅かにずれる(脱臼?)が、すぐに戻る。欠伸をした時を除き、これが脱臼することは希である。事実、口を大きく開いた時に滑らない限り、この骨は決して脱臼しない。骨が滑るのは、顎の靱帯が斜めに走っていて、柔軟性に富み、伸びやすい性状のためである。

その徴候は次の通りである。下顎が突き出る。顎が脱臼側の反対方向に歪み、口を閉じることができない。両側が脱臼した時には、顎がもっと突出し、口もさらに閉じにくい。しかし、横への歪みはない。このことは、上下の顎の対応する歯並びで判る。両側の顎が脱臼した時、これを即座に整復しないと、ほとんどの患者は発熱が続き、感覚がなくなり、昏睡状態に陥って10日目には死に至る。それは、患部の筋によってこのような症状が誘発されるためである。腸が不調を起こし、少量で混じり気のない便(前田注;?)を排泄する。嘔吐するとしたら、これと同じ性状のものを吐く。他種の脱臼の場合には、これほど面倒ではない。

整復法はどちらの場合も同じである。患者は横になるか座る。医師は両側の顎の骨を内側と外側から掴み、三つの動作を一度に行なわねばならない。すなわち、顎の位置を矯正すること、それを後方に押し込むこと、口を閉じることである。

顎の骨を支えるために柔軟剤、快適な姿勢、適切な包帯を用い、整復操作と協調させる。(前田注;「関節について」第30〜31節参照)

5.
肩の骨は下方に脱臼する。私は、他の形態の脱臼は聞いたことがない。患部が前方へ脱臼したように見えるのは、衰弱して関節周囲の肉づきが落ちるためであり、冬が過ぎた後で牛が痩せ細ったのと同じように見える。痩せて細身の人が脱臼を起こしやすく、関節に水分が多く、炎症がない人も脱臼を起こしやすい。これは、炎症があると関節が強固になるためである。

雄牛の脱臼を整復調整しようとする人は過ちを犯している。なぜなら、その人たちは、雄牛がそのような徴候を示すのは、脚の使い方によるものであることと、その外観は同じ状態にある人間と同じであることを忘れているからである。そして冬期には雄牛が最も痩せるとホーマーが云ったことを忘れているからである。

この脱臼を整復しないでいると、腕を横から挙げる動作ができなくなる。どのような人たちが脱臼しやすいか、その結果がどのようになるかは、すでに述べた。

先天的に脱臼している人は、イタチ腕(weasel-armed)の例のように脱臼部に最も近い骨が最も短くなる。前腕はそれほど短くならず、手はさらに短くならない。また、脱臼部の上の骨は影響を受けない。

そして(損傷部の近くの)患部はひどく肉づきが落ちるが、これは腕が脱臼した方向の逆側で特に顕著である。青年期に起きた例では、先天的な例より幾分肉の落ち方は少ない。

新生児の肩の関節部には深部に化膿ができやすいが、これは脱臼と同じ結果をもたらす。成人の脱臼では、前の例と違って、他の骨が成長することはないので、骨はそれほど短くならない。しかし肉づきは落ちる。というのは、全ての年齢で毎日のように肉は増減しているからである。そして患者の体力と、肩峰が破断した時にできる凹みを上腕骨の脱臼と勘違いしないように注意するべきである。

上腕骨頭は腋下に触れ、患者は以前のように腕を挙げたりあちこち振り回すことができない。他方の肩はこれと違う(前田注?)。

整復法:患者自身の拳を腋下に挿入させ、これを用いて上腕骨頭を上に押し上げさせる。そして手を胸の前に持ってこさせる。
別法:腕を後方に挙げて、これを回転する。
別法:医師の頭を肩峰に当て、両手を腋下に差し入れて上腕骨頭を(体側から?)引き離す。そして肘を反対側に向けて押す。あるいは以前に説明したように、膝で押す代わりに別の人が肘を横に押す(前田注;「関節について」第2節参照)。あるいは、医師の肩を患者の腋下に入れて患者を担ぐ(前田注;「関節について」第4節参照)。または腋下の窪みに物を詰めて医師の踵を用いるやり方がある。この場合、右の肩には医師の右足を用いる(前田注;「関節について」第3節参照)。他にすり粉木を用いる方法(前田注;「関節について」第5節参照)や、梯子の踏み板を用いる方法(前田注;「関節について」第6節参照)、木の板を腕の下に当てて括りつけ、これを回転する方法(前田注;「関節について」第7節参照)などがある。

治療法:患者の上腕は体側につけ、手と肩を持ち挙げておく。この状態のままで包帯を施す。これを整復しないでおくと、肩の頂上部が痩せ細る(前田注;「関節について」第1〜12節参照)。

6.
肩峰が破断すると、見た目は肩の脱臼と同じとなる。そして骨が元の位置に戻らないことを除けば、何の障碍もない。腕の形状は、包帯も腕を吊り下げるのも脱臼と同じでよい。包帯は通常のやり方に従う(前田注;「関節について」第13節参照)。

7.
肘が部分的に内側または外側にずれてはいるが(亜脱臼?)、肘の先端(肘頭?)は上腕骨の関節窩に留まっている場合には、真っ直ぐに引き伸ばして飛び出ている部位を後方へ、そして横方向に押す(前田注;「関節について」第17節参照)。

8.
肘が横方向に完全脱臼した時には、上腕を骨折した時に包帯する状態にしておいて引き伸ばす(前田注;「骨折について」第8節参照)。それは、この状態なら肘の丸い部分が引き伸ばしを妨げないからである。

肘の脱臼は多くが内方に起きる。調整するには、両方の骨をできるだけ引き離して行なうべきである。そうすれば上腕骨の先端が肘頭に触れなくて済むから。そして上腕骨を持ち上げて回転するべきで、むりやり真っ直ぐにするのではない。これと同時に反対側に圧をかけて骨を元の位置に戻す。

これらの例では、肘を回転することが役に立つ。すなわち、元に戻るまで腕を回内位や回外位に回すのである。

整復中の姿位は、手を肘より僅かに高くし、上腕を体側につけておく。この姿勢は頸にかけた三角巾に適合して支えやすく、また自然な配置であり。仮骨が変則的に形成しない限りは通常の動作に対応できる。また、仮骨が形成されるのは早い。

治療は、関節のための一般的な包帯の巻き方に従う。ただし、肘の先端は包帯で巻いておくべきである(前田注;「関節について」第18節参照)。

9.
肘の脱臼は、発熱、疼痛、嘔気、胆汁嘔吐など極めて深刻な結果をもたらす。特に上腕骨が後方に脱臼した時は痺れを引き起こすような神経への圧迫を起こす。次に深刻なのが前方脱臼である。処置は同じである。後方脱臼の場合には牽引して整復する。この場合の徴候は伸展ができなくなり、前方脱臼の場合は屈曲ができなくなる(前田注;「骨折について」第43節参照)。前方脱臼の場合には、(肘の内側に)硬い球を配置し、伸展状態から前腕をこれに向けて急激に屈曲すれば整復される(前田注;「関節について」第19節、「骨折について」第42節参照)。

10.
前腕の骨の乖離は、腕に沿って走っている静脈が分岐している部位を調べて判定する(前田注;「関節について」第20節、「骨折について」第44節参照)。

11.
この場合には、仮骨が素速く形成される。先天性脱臼においては、損傷部の下部で、ほとんどがその部位に最も近いところが通常よりも短くなる。すなわち前腕の骨、次に手の骨、三番目に四指の骨である。

腕と肩は栄養が取れているので丈夫になる。他方の腕は、こなす仕事が増えるので、さらに丈夫になる。脱臼が外側で起きると、筋萎縮は内側で生じる。どちらにせよ筋萎縮は脱臼の反対側に生じる(前田注;「関節について」第21節参照)。

12.
肘が内方または外方に脱臼した時には、前腕を腕に対して直角の配置を取り、その状態で牽引する(前田注;「骨折について」第8節参照)。腋下に通したショールを用いて腕を吊り下げ、重りを肘の先端につけるか、または両手で力をかける。関節の先端を正しく持ち上げておき、手の脱臼におけるのと同様に脱臼部を手掌によって整復する。脱臼部は包帯を施して三角巾で吊り下げ、そのままの状態で保持させる(前田注;「関節について」第18節、22節参照)。

13.
肘の後方脱臼は急激に牽引しながら手掌を用いて整復する。同種の他の症例と同じで、この二つの動作を同時に行なう。しかし前方変位においては、布製の適度な大きさの球を挟んで腕を曲げると同時に整復される(前田注;「関節について」第19、23節、「骨折について」第42節参照)。

14.
肘が他の方向へ脱臼したなら、上記二つの操作を整復操作中に行なわねばならない。治療に関しては、腕の配置と包帯操作は他の症例と同じである。これらの症例全ては通常の牽引によって整復されるので(前田注;「関節について」第24節参照)。

15.
整復法に関しては、ある人は片方の骨を他方の骨より上に持ち上げ、他の人は牽引し、またある人は回旋する。最後の方法は前腕を内方や外方に素早く回旋して行なう(前田注;「関節について」第25節参照)。

16.
手の関節は内方または外方に脱臼するが、内方に頻発する。その徴候は簡単に判る。内方なら四指を全く曲げられない。外方なら四指の伸展ができない。

整復に関しては、四指をテーブル上に配置し、助手が牽引と対抗牽引を行なう。同時に医師は手掌または手根を用いて突出している骨を押し込む。そして他方手でもう一方の骨を後方から押す。この時に柔らかい物体を患部にあてておく。前方脱臼なら手掌を上向けにする。後方脱臼なら手掌を下向けにする。治療には包帯を用いる(前田注;「関節について」第26、64節参照)。

17.
手全体は内方または外方に脱臼するが、左右に脱臼することもある。しかし多くは内方に脱臼する。時には骨端が脱臼することもあるし、前腕の骨の片方が分離(離開)することもある。

これらの症例においては、強く牽引しながら突出している骨を押し込み、反対側から逆圧を同時に用いねばならない。背側と前面からテーブル上で両手または手根を用いて行なう。

これらの損傷は深刻な結果と変形を引き起こす。しかしやがては患部の強度が増すので、使えるようになる。

治療には包帯を用いるが、これは手と腕とに巻くべきである。副木は四指に達するようにする。これを用いる時には骨折の場合よりも頻繁に取り替え、また大量の灌水を用いるべきである(前田注;「関節について」第27節参照)。

18.
手首の先天性脱臼では手が短くなり、一般には脱臼の反対側において筋が萎縮する。成人の場合には骨は元の大きさのままである(前田注;「関節について」第28節参照)。

19.
指の関節の脱臼は容易に判るので説明しない。整復法は次の通りである。一直線に牽引しておいて、突出している骨を圧し、他方手で反対側に対抗圧をかける。

治療には包帯を用いる。これを整復しないでいると、関節の外側に仮骨ができて癒合する。

誕生時に脱臼を起こした時には、成長の途中では脱臼している骨は短くて、脱臼側よりもその対側で筋萎縮が起きる。成人の脱臼では、骨は正常の大きさのままである(前田注;「関節について」第29節参照)。

20.
股関節の脱臼は4通りある。内方脱臼が最も多く、その次が外方脱臼、その他は同じ頻度である。徴候は次の通りである。どの場合も共通して健全な脚と比較する。内方脱臼の特徴的な徴候は、大腿骨頭が会陰部に触れる。以前のようには下肢を曲げられない。下肢が長くなったように見える。左右の脚を正中線上で合わせて比較しない限り、ひどく長いように見える。足と膝は外方に曲がる

先天性脱臼や成長途中に起きた脱臼の場合には、大腿が短くなるが下腿はそれほどでもない。その他の徴候は一般的な脱臼と同じである。すなわち、肉づきは細くなるが、これは特に外側で顕著である。このような患者は直立するのを怖がり、健全な脚でのろのろ歩く。どうしても歩かねばならない時には、杖を1本または2本使い、患側の下肢を浮かせて歩く。下肢が短いほど、このような歩き方が顕著になる。

成人になってから脱臼した場合には、骨の長さは変わらない。しかし前に述べたように肉づきは落ちる。患者は、雄牛のように、のたうちながら歩く。また患者は脇腹で身体を曲げ、脱臼していない側の尻が突き出る。これは、健側の下肢が身体を支えるために、その真下に位置を占めねばならないからである。そして患側の下肢は身体を支えられないので、このような配置を取らないようにされる。これは足に問題がある人と同じである。

患者は健側に杖をついて身体を支え、膝の上部の大腿を手で掴んでおいて足を踏み換え、身体を運ぶ。股関節の下部は使用できるが、下方の骨は萎縮は少ないものの、肉づきはずっと落ちる。

21.
股関節が外方へ脱臼した時の徴候と体形は上記と逆で、足と膝が少し内方に曲がる。これが先天性または成長期の脱臼であるなら、前節と同じ理由で、骨が正常に成長しない。股関節の骨は自然な時よりも幾分位置が高くなる。炎症を伴わずに頻繁に外方脱臼を起こす人は、通常より下肢の水分が多い(緩い?)。これは手の母指と同じである。というのは、その構造上、この関節は最も脱臼する頻度が高いからである。

脱臼の程度には軽重があり、脱臼の起きやすさにも難易があり、そこから回復する見込みにも遅速がある。また治療できる例やできない例もある。そしてまた頻繁に脱臼を起こすが、治療できる例もある。

外方脱臼が先天的または成長期に起きた時、他の病気によるもの(このタイプの脱臼は症候性のものが最多で、この場合には骨が剥脱する場合もあるが、剥脱しないこともある)である場合には、患者は上記と同じ徴候を呈するが、内方脱臼の場合よりは、その程度が軽い。ただしこれは、歩く時に他方の側に身体を傾け、足全体を地面につけるように、適切な処置を受けた場合である。

患者が幼いほど、より手厚い看護が必要である。これを処置しないでいると状態はずっと悪くなるが、治療することによって改善する。下肢全体が萎縮するが、その程度が軽くて済む。

22.
両側の股関節が脱臼した時の骨の症状は上記と同じである。骨が壊死しない限りは、大腿内側を除いて肉はよく成長する。臀部が突き出し、大腿が弓なりになる。股関節上部の脊柱が彎曲すると、患者は健康にはなるが、頭部以外の身体は成長しない。

23.
股関節が後方に脱臼した時の徴候は、患部前面がへこみ、後面が突き出る。足は真っ直ぐ前を向いているが、大腿は痛みで曲げられない。大腿を伸ばすことは全くできない。下肢は短くなる。

患者は、下肢を大きく挙げないと膝と股の曲げ伸ばしができない。多くの例では、最上部の関節が動きを左右するからで、このことは関節、靱帯(nerve)、筋肉、腸、子宮、その他の器官に共通することである。

股関節の骨は臀部の後方に移動し、このために短くなり、また脚を伸ばせない。全ての例で、下肢全体の肉づきが落ちる。どの場合が最もひどく、それがどの程度か、などはすでに述べている(前田注;「関節について」第57節参照)。

身体各部は、その機能を使っていると強くて持久力があるが、使わないでいると衰弱する。ただし、疲労や発熱、炎症によって使わない場合を除く。

外方脱臼の場合には、下肢が短くなる。これは軟らかい肉に骨が入り込むためである。しかし、内方脱臼の場合には下肢が長くなる。それは飛び出した骨の上に骨が乗り上げる形になるためである。

成人でこの脱臼を整復しないままでいると、歩く時に鼠径部を曲げ、他方の膝を曲げる。患者はかろうじて足の親指の付け根の膨隆部を地面につき、手で下肢を掴む。そしてこの状態で、そのつもりなら杖がなくても歩ける。

杖が長すぎると足が地面につかないので、足を地面につけて歩きたい時には、短い杖を使わねばならない。

痛みを伴う症例では肉づきが落る。下肢の前面においてその傾向が強く、健側の下肢もそれなりに肉が落ちる。先天性または成長期、症候性の症例では(どのような状況でこれが発生するかは後で説明する)、下肢の障碍が特にひどい。これは靱帯(nerve)と筋肉が鍛えられないためである。そしてすでに述べた理由で膝にも障碍が残る。これらの患者は膝を曲げたままで、1本または2本の杖を使って歩く。健側の下肢は使っているので、肉づきがよい。

24.
股関節の前方脱臼では、徴候は上記と反対である。後部がたるみ、前方が隆起する。全ての動作で屈曲ができないが、伸展動作はできる。足は真っ直ぐで、踵の位置で脚長を比べると、他方と同じ長さである。足先は少ししか前方へ傾かない。痛みは特に初期に強い。この種の脱臼の中で、この場合が最も尿閉を起こしやすい。というのは、大腿骨が重要な靱帯(nerves)に囲まれているからである(前田注;「関節について」第59節参照)。

股関節の前面は引き伸ばされていて、成長が止まり、病気になりやすく、老化が早まる(前田注;「関節について」第59節参照??)。股関節の後面にはしわが寄る

成人の場合には、患者は踵を地面につけ、身体を伸ばして歩く。大股で歩く時には、明らかにこの歩き方になる。しかし足を引きずる。肉の萎縮は、股関節の脱臼形態の中で、この場合が最も少ない。これは下肢を使えるからで、萎縮はほとんどが後面に起きる。

下肢全体は通常よりも真っ直ぐになっているので、立つ時には患側に杖が必要になる。先天性または成長期の脱臼では、適切に処置すれば、成人が脱臼した時のように、下肢を使用できる。これを放置していると、下肢が短くなって伸びきってしまう。この場合には概して関節は真っ直ぐな状態になるからである。骨の縮小と肉の萎縮は通常の通りである。

25.
股関節を整復するには大腿を強力に牽引しなければならない。矯正法は全ての例に共通で、両手または板あるいは梃子を用いて行なう。内方脱臼の場合には板や梃子を丸めておき、外方脱臼の場合には平らにしておく。外方脱臼の場合には、これが特に有効である。

内方脱臼は、袋を大腿の患部にまで差し入れ、同時に下肢を引き伸ばし、両脚を一緒に括ることで整復できる。患者を逆さに吊しても整復できるが、この場合には、両足を少し離しておき、助手が患側の下肢の内側に腕を差し入れてぶら下がる。このようにして牽引と骨の位置調整を同時に行なう。この方法は前方脱臼その他の症例に充分有効であるが、後方脱臼には不向きである。

肩の脱臼例において腕の下に板を括りつけて整復したように(前田注;「関節について」第7節参照)、下肢の下に板を括りつける方法を内方脱臼にも使える。しかしこれは他の脱臼例には使えない。牽引しながら、足や手または板を用いて患部を押し戻す操作は、特に前方脱臼と後方脱臼に有効である。

26.
膝の脱臼は、肘の脱臼よりも手間がかからない。それはこの関節構造が簡潔で均整が取れているからである。それゆえに、簡単に脱臼しやすくまた整復しやすい。この関節は一般的には内方に脱臼するが、外方や後方にも脱臼する。

これを整復するには、膝を曲げておくか、後ろに蹴り上げる(excalcitration)ように急激に動かすか、細い帯を球状に丸めて、これを膝窩に固定し、素早くしゃがんで体重を膝にかけさせる。後方脱臼にはこの方法が最適である。

後方脱臼は、肘のそれと同じように緩やかに牽引しても整復できる。横への脱臼は、膝を曲げておくか、後ろに蹴り上げる(excalcitration)ように急激に動かすか、牽引(これは後方脱臼に最適)するか、緩やかに牽引する。

調整は全ての場合に共通する。後方脱臼を整復しないままにしておくと、膝が曲げられなくなる。また他の脱臼形態でも少ししか膝を曲げられない。そして大腿前面と下腿が萎縮する

内方脱臼の場合には、X脚(bandy-legged?)となり、下肢の外側が萎縮する。外方脱臼の場合には、下肢がさらに外方に曲がるが、障碍の程度はまだ軽い。これは、身体が太い骨で支えられ、内側が萎縮するためである。

先天的または成長期の脱臼例の経緯に関しては、これまでに述べたことと同じである(前田注;「関節について」第82節参照)。

27.
足関節の脱臼には強力な牽引操作が必要である。これには両手を用いるか、これと同様な方法を用いる。そして調整は全ての症例と同じで、同時に両側から行なう(前田注;「関節について」第83、87節、「骨折について」第13節参照)。

28.
足の脱臼は手の脱臼と同じようにして整復する(前田注;「関節について」第84節、「骨折について」第9節参照)。

29.
下腿に連結している骨が先天的または成長期に脱臼した時には、手の場合と同じ経過をたどる(前田注;「関節について」第85節、「骨折について」第10節参照)。

30.
高所から飛んで踵をついて、骨が分離(離開)し、静脈の皮下出血、靱帯(nerve)の挫傷を起こした時、これらの徴候がよほどひどい時には、壊死の危険性が高く(前田注;「骨折について」第11節参照)、一生苦しむことになるだろう。というのも、骨はお互いにすべり合うように創られていて、神経が互いに交通しているからである。

実際の所、骨折した時のように、下腿または大腿の損傷によって、またはこれらに連結している神経(靱帯?)の麻痺によって、あるいは寝ている時の不注意によって、踵が黒ずんでくると、非常に深刻な事態に陥る。時には、壊死に加えて、吃逆(しゃっくり)を伴う急性の発熱、意識混濁を併発し、大きな血管に紫斑ができて壊疽を起こし、急死する。

症状悪化の徴候は、患部とその周囲の皮下出血と黒ずみがいくらか堅く赤なることである。そして紫斑を伴う硬結ができると、壊疽を起こす恐れがある。しかし、患部の紫斑が軽い時、あるいはたとえ強くても、腫れが引いて緑色になり、柔らかくなれば、これらの症例においては全て好ましい徴候である。治療は、発熱していなければ、ヘレボレ(hellebore;前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を用いる。熱があるなら、必要に応じてオキシグリキ(oxyglyky;前田注;蜂の巣と酢を煎じたもの)を飲ませる(前田注;「骨折について」第11節参照)。

包帯は、他の関節と同様に行なう。足全体に巻き、特に挫傷部には通常より柔らかいものを多く使用し、強く締めつけないようにするべきである。潅水には通常より多くの温水を踵に使用する。

患者の姿勢は、包帯を巻く時と同じで、踵に体液が留まらないように、踵を膝より高くしておく。副木は使用しない(前田注;「関節について」第86節参照)。

31.
足が単独で、あるいは骨端と共に脱臼すると、ほとんどが内方にずれる(前田注;「骨折について」第13節参照)。これを整復しないでいると、やがては臀部、大腿、下腿の、脱臼した方向の反対側が萎縮する。整復は手首の場合と同じであるが、牽引を非常に強力に行なわねばならない。

治療は関節のための一般的な方法を用いる。安静を保つなら、手首の場合ほどには増悪しない。また、安静にしているので食事制限を厳格に行なう。これが先天的か成長期に起きたものなら、以前に述べた経過をたどる(前田注;「関節について」第87節参照)。

32.
軽度な先天的脱臼のうちのあるもの、特に内反足は整復できる。内反足にはいくつか種類がある。治療は蝋で成型するように足型を作る。これは松ヤニをワックスに混ぜ、大量の包帯を使用して作る。これに靴底用の革や鉛の板を、皮膚に直接着けないようにして包帯で固定する。これが矯正となり、足の形が決まる(前田注;「関節について」第62節参照)。

33.
脱臼した骨が皮膚を傷つけて外に飛び出たなら、それをぶら下げたり、押さえつけたりしないでそのままにしておくのがよい。治療には松ヤニを混ぜたワックスや暖めたワインに浸けた圧定布(このような症例には冷たくするのが良くないので)、あるいはある種の薬草を使用する。冬期なら未洗滌の羊毛を患部の覆いに使用してよい。湿布や包帯は使用しない。そして食餌制限を行なう。冷やすこと、肥満、圧迫、激しい動き、窮屈な姿勢、これら全てが命に関わることである。

適切に治療しても、身体の障碍と変形は避けられない。足首の脱臼であるなら、足が上方に引っ張られるし、他の部位なら、同じようなことが起きる。骨は簡単には剥脱しないが、小さな骨片が露出するだけで、そこに薄い瘢痕ができて治癒する。このような脱臼が大きな関節に起きるほど、また上位の関節に起きるほど危険性は高い。これらの患者が回復する唯一の道は、整復しないことである。ただし、指や手の場合を除く。そして、この場合でも、前もって危険があることを告げておくべきである。

整復を実施するのは、当日か翌日に行なうべきである。それができないなら、10日目に行なうのがよい。決して4日目に行なってはならない。整復には梃子を用いる。

治療は頭部の外傷と同じ方法を用い、そして患部を保温する。整復後には直ちにヘレボレ(hellebore;前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を飲ませるのがよい。

その他の骨の場合には、整復すると死に至ることを、よく理解しておくべきである。大きな関節であるほど、またその位置が上位であるほど死に至る確率が高く、また早い。 足の脱臼は痙攣(テタヌス)と壊疽を伴う。整復してこのような徴候が見えた時、回復の望みがあるとすれば、それはもう一度関節をはずすことである。痙攣は患部の弛緩状態から起きるのではなく、患部の緊張によって起きるのであるから(前田注;「関節について」第63〜69節参照)。

34.
関節または骨を切断した時、その位置が身体の上位でなく、手や足のあたりであるなら、気絶してすぐに死なない限りは、おおむね回復する。治療は頭部の外傷と同じように行ない、温める。

35.
肉の壊疽は、出血性の外傷を強く圧迫したり、骨折した部位を圧迫したり、包帯をきつく巻いて黒ずむことによって起きる。大腿や上腕の一部で骨と肉が脱落した場合でも、多くの人が回復している。この場合は他の部位と違って命に関わる危険性が低いからである。

骨折に伴う肉の壊疽では、肉の脱落が起きるのは早い。しかし、骨が露出した周囲での骨の分離は、ゆっくり始まる。損傷部から下位の部分や身体の健全な部位は(すでに死んでいるので)、前もって切除しておくべきである。この時に失神すると死に至るので、痛みを感じさせないように気をつけねばならない。

このような症例で、大腿骨が80日目に脱落した例があるが、この場合、下腿は20日目に切除されていたのである。ある症例では、下腿の骨が60日目に中間部で脱落した。

これらの症例では、医師の行なう圧迫の程度によって骨の脱落の早さが異なってくる。穏やかに圧迫すると骨は全く脱落せず、肉から露出もしない。そして壊疽もごく表面に限られる。

このような症例は引き受けるべきである。それは、ほとんどの例が実際よりも見た目がおぞましいだけなのであるから。治療は軽く行なうべきであるが、窮屈な姿勢を避け、食餌制限を行なう。また出血や冷えのないようにする。脚を上に上げておくような姿勢を取らせるが、膿瘍が化膿した後は、水平にするか、これに対応する適切な配置を取らせる。

このような症例で壊疽を起こした時には、通常は分利または出血と分利、または出血と激しい下痢があるが、これは数日で治まる。患者は食欲を失うことはなく、発熱もしないので、食餌を制限する必要もない。

36.
脊柱が内方に変位した時には、尿閉や知覚麻痺を起こして直ちに死ぬ恐れがある。これが外方に変位した時には、上のようひどい症状はなく、脊柱が変位せずに振盪を受けただけの場合よりもずっと軽い。外方へ変位した場合、症状は患部に限られるが、振盪を受けた場合には全身に影響するので、生死に関わる症状が出現する(前田注;「関節について」第41~46、48節参照)。

同様に、肋骨が折れた時には、1本であろうとそれ以上であろうと、粉砕していなければ、発熱、吐血、壊死を起こすことは希である。熱がなければ、排便以外は通常の治療でよいし、包帯も通常のやり方でよい。肋骨は海綿質なので、仮骨は20日で形成される。

しかし、挫傷した場合には、咳や傷口の化膿、肋骨の壊死と共に結節が形成される。というのも、それぞれの肋骨に沿ってあらゆる部位からの神経が走っているからである。またこの症例の多くは喀血と膿胸も起こす。

この症例の看護は注意深く行なうべきであるが、包帯は通常通りでよく、食餌は初期には制限し、後になるほど制限を緩めてゆく。患者は安静にし、会話を避け、排便に気をつけ、性交を控える。

たとえ吐血しなくとも、このような挫傷は骨折よりも痛みが強く、後になっても再発しやすい。患部に粘液が溜まったままにしておくと、そこに不調を感じるようになる。

治療は焼灼である。骨が冒されているなら、そこまで焼灼するが、骨自体には触れないようにする。肋骨の間が冒されているなら、焼灼はそこを刺し通してはならないが、浅過ぎてもいけない。

肋骨が壊死した時には、栓塞杆を試みるのがよい。これに関する全ての事項は後の方で説明する。しかし、次のようなものは言葉から学習するよりも実地に学ぶべきである。すなわち、食物、飲み物、熱さ、冷たさ、姿勢、薬に関してなら、乾燥しているもの、液体、赤いもの、黒いもの、白いもの、酸っぱいもの、膿瘍のためのもの、また食餌に関することなどである。

37.
落下による(椎骨の)ずれは矯正できる例が少ない。その中でも横隔膜の上部に生じたずれは最も矯正するのが難しい。子供の頃にこの損傷を起こした時には、下肢と腕、頭部を除いて身体が成長しない。

病気による成人の亀背(前田注; excurvation?)は速やかに回復するが、後になってから、子供の症例と同じ徴候が再発する。ただしこれは子供の場合よりずっと軽度である。

ある人たちはこの損傷によく耐え、逞しくなって太っている。しかしこの人たちが60才まで生きるのは希である。

側方への彎曲も起こりうる。これは寝ている時の姿勢が、ほぼその原因である。これらの症例は、それなりの予後に従う。(前田注;「関節について」第41、42節参照)

38.
整復と矯正のやり方は、車軸装置、梃子、楔と患部への圧迫である。車軸装置で患部を引き離し、梃子で押し込む。整復と矯正は強制的に牽引して行なう。患部をこの状態にしておき、ずれている骨の端に重なっている骨を引き離すのである。これを行なうには、両手を用いるか、逆さに吊り下げるか、あるいは車軸装置を使用する。

両手を用いる場合には、患部の構造に従って正しく押し込む。手首や肘の場合には、肘のラインに沿って手首を強く引き離し、一方で肘は、三角巾で吊すように肘を直角に曲げる。四指や足先、手首の飛び出た骨を引き離して元の位置に戻す時には、両手で正しく牽引できるだろう。その一方で、患部に何か痛みを和らげる物を当て、その上から足の踵や手掌を用いて押し込む。この時、患部の下には適度に柔らかい物を敷いておくが、その他の部位には何も敷かないでおく。内方圧迫でも外方圧迫でも後方、下方に押し込む(前田注;この段落は前後との繋がりがない)。

脊柱が側方にずれている時には、両側からそれぞれ反対方向に押さねばならない。前方にずれている時には、くしゃみ、咳、空気注入、吸い玉、どれを用いても矯正できない。この場合に何かよい方法があるとすれば、それは牽引法である。

棘突起の骨折が誤ってとらえられている。この時の痛みは前にかがんだ時に出るが、これが内方への脱臼と見なされるのである。この骨折は速やかに、また簡単に治る。外方への脱臼は振り回し法を用いる。彎曲部が上部であるなら、足を下にして振り回し、彎曲部が下方なら逆にする。牽引しつつ、足や板を用いて患部を押し込む方法もある。側方への脱臼は、有効な治療法としては牽引であるが、養生と正しい姿勢も指導するべきである。(前田注;「関節について」第43、44節参照)

使用する帯は幅が広く、柔軟で、強靱でなければならない。さもなければ布を巻きつけておくべきである。そして使用する前に長さや厚さ、幅を調整しておく。例えば大腿の牽引に用いる場合には、足首と膝の上部を括り、これらを同じ方向に牽引する。そして別の帯を腰に通し、脇の下の周りを縛る。もう一本を会陰と大腿に回して括る。そして一本は胸から、もう一本は背部から上方に伸ばす。これらの帯をすり粉木に似た木の棒または車軸に括りつけ、全て同じ方向に牽引する(前田注;「関節について」第71節参照)。

ベンチを用いてこれを行なう時には、ベンチの片側の脚を敷居に固定し、他方側の脚にはしっかりした木材を横に差し渡しておく。そしてすり粉木様の木の棒をこれらの木に立てかけ、これを用いて牽引と対抗牽引を行なう。車軸を床に固定するか、梯子を配置して反対方向へ牽引してもよい(前田注;「関節について」第78節参照)

ベンチの一般的なサイズは長さがおよそ6キュービット(約270Cm)、幅が2キュービット(約90Cm)、厚さ1スパン(前田注;約23Cm;Withington訳による)である。そして両端に低い車軸装置を備えつけ、中央部の両横に適度なサイズの柱を2本立てておく。この柱に、梯子の踏み板に似た横板を渡して固定する。この横板は、肩の脱臼に際して用いるのと同様に、下肢の下に括りつけた板を受けるものである。またこのベンチには皿のような数個の穴をつけておく。この穴は滑らかで幅と深さが共に4インチの大きさとし、その間隔は、下肢を整復する梃子を取りつけられるように開けておく(前田注;「関節について」第72節参照)。

ベンチの中央部には四角い穴を開け、そこに低い柱を取りつける。これが会陰に当たるようにして、患者の身体が脚の方に滑るのを防ぐ。また力が緩い時には幾分かは梃子の作用もする(前田注;「関節について」第72、73節参照)

場合によっては横の壁に開けた穴に板を差し込む必要がある。この板の端に何か柔らかい物を当て、これを下に押して整復するのである(前田注;「関節について」第47、75節参照)。

39. 口蓋から骨が剥脱した時には、鼻の中央部が陥没する。落下や骨折、圧迫による外傷を伴わない頭部の挫傷では、酸性の体液が頭部から喉に下りて来て、またそれが頭部の傷から肝臓や大腿にまで到達することがある。

40.
骨の脱臼やずれの徴候は、どこで、どのように、そしてどの程度かによって、違いがある。そして関節窩の破損や靱帯の断裂、骨端の破損などがどのような時に起きたか、二本の骨で構成されている下腿の一本または二本が何時どのようにして折れたか、そしてその結果の危険性や悪化する可能性、およびそれが何時死に至るか、はたまた何時回復するか、などの違いがある。

どの症例を整復すべきか、それを試みるべきか、そして何時やるか、どれを行なうか、何時やめるか、これらの症例の回復見込みと危険性。

先天性脱臼のどれをまた何時引き受けるべきか。患部が成長途中か、成長が終わっているか、回復が早いか遅いか、患部が不具になるか、なるとしたらどのようになるか、ならないか。どの部分がどのように萎縮するか、どの場合が程度が軽いか。

骨折部の癒合が早いか遅いか、どのように変形し、どのように仮骨が形成されるか、どのように治療するか。

外傷がある場合には、初期か後期か、骨折の場合なら、どの場合に骨が短くなるか、ならないか。骨折した骨が飛び出た場合なら、どのような場合にひどく飛び出すか。どのような場合に脱臼した骨が飛び出すか。

医師たちも勘違いする。それは症状や治療に関して、どんな方法を用いるか、何を見ているか、何を思案しているか、などによる。

確立されている包帯の巻き方。準備、患部の配置、牽引、調整、マッサージ、包帯、四肢の吊り下げまたは配置、姿勢、包帯の交換間隔、食餌。

海綿質の骨であるほど治癒は早く、逆なら遅い。骨が曲がった部位の歪み。脱臼側の肉と腱の萎縮。整復時の力は、ずれている部位からできるだけ遠い部位にかける(前田注;「関節について」第9節参照)。

靱帯は、動く所にあるものや水分の多い(緩い?)所にあるものはよく伸びる。そうでないものは伸びにくい。

全ての脱臼はできるだけ早く整復することが最もよい。患者が発熱している時や、発症から4日目、5日目には整復してはいけない。肘の脱臼や麻痺を誘発するような全ての症例では、特に整復してはいけない。炎症が治まれば、できるだけ早く整復するのが最もよい。

靱帯(nerves)、軟骨、骨端が断裂して分離した場合や骨癒合部が分離した場合は元通りに復元することはできない。しかし、ほとんどの場合で仮骨が速やかに形成されるが、四肢を使うのは不自由する。

脱臼は骨の先端近くに起きるものほど危険でない。脱臼しやすい関節ほど炎症を起こしにくい。炎症を起こしにくい関節で整復後の看護を受けていない場合には、最も脱臼を再発しやすい。

牽引は、片側の骨ともう一方の骨端が離れるように患者の姿勢を決め、場所と形に注意して行なう。矯正は、ずれた方向に行なうが、ずれた骨を真っ直ぐ後方に押し込んだり、横に回したりしながら押し込む.

突然に横に引っ張られて脱臼した骨は、回転させながら突然に引き戻して整復する。たびたび脱臼する関節は整復するのも簡単である。脱臼する原因は靱帯(nerves)や骨の構造にある。すなわち、靱帯が長くて柔軟性がある時、関節窩が浅い時や(そこに嵌まり込む骨の)骨頭が丸い時である。

脱臼した関節をそのまま使っていると、摩擦によって新しい関節窩が形成される。その原因は生活習慣や年齢にある。粘液質の関節は炎症を起こしにくい。

41.
損傷の初めから外傷がある時や、骨が飛び出たことによる外傷がある時、あるいは痒みや刺激によって後から外傷ができた時。後者の場合には、すぐさま包帯を解き、松ヤニを混ぜたワックスを傷口に塗る。

四肢への包帯は、傷口から巻き始め、そのほかは外傷がない場合と同じように行なう。このようにして巻くと、最も腫れが引きやすく、膿も早く排出され、病んだ部分が早く分離するからである。分離した部分がきれいになれば、傷は早く治るだろう。なお、副木は用いるべきではないし、きつく縛ってもいけない。

大きな骨が剥脱するのではない時には、上記のように治療を進めるが、そうでない時には、このような処置を行なってはいけない。というのは、大きな化膿病巣があるので、同じ治療は効果がないからである。そして膿瘍を外気に晒さねばならない。

骨が飛び出た場合には、整復しようがしまいが、包帯は効果がない。しかし、足枷のような輪っかを布で作り、これを用いて牽引をかけるのがよい。この輪っかは足首に一つ装着し、もう一つは膝につける。またこれは柔らかいが強靱なもので、お互いの面を平らにしておき、数個の輪をつけておく。そしてヤマボオウシの木で作った適当な長さと太さの棒をその輪にはめて、患部を牽引し続ける。また、両方の骨端に細帯を縛りつけ、それを上記の輪に通して括っておく。こうすれば両方の骨端が足枷に固定され、牽引効果が増す。

治療は、松ヤニ入りのワックスを温めて使用する。足と股関節の配置。食餌の管理。

皮膚を突き破って飛び出した骨は、その当日または翌日に整復するべきで、4日目、5日目に整復してはいけない。ただし、腫れが引いてからなら行なってよい。整復には梃子を使用する。梃子を当てる適当な部位がない時には、邪魔になる部分を鋸で切り落とす。露出した骨が脱落すると、それだけ四肢は短くなる(前田注;「骨折について」第26〜31節参照)。

42.
関節脱臼の程度は大小さまざまである。程度の軽いものは整復するのも簡単であるが、重傷のものは骨や靱帯、関節、肉づき、体つきなどに障碍を引き起こす。大腿と上腕の脱臼形態は非常によく似ている(前田注;「関節について」第61節参照)。

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