骨折 ヒポクラテス著
On Fractures Hippocrates


英訳:Francis Adams (1796~1861)
「The Genuine Works of Hippocrates」 (1849)
邦訳:前田滋 (カイロプラクター:大阪・梅田)
(https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-fractures.html )

掲載日:2013.10.27

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邦訳者(前田滋)の序

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追記:
英訳文は(そしておそらくギリシャ語の原文も)、コンマ(、)やセミコロン(;)で延々と文章が続いていて、段落が全くない。しかしディスプレイ上で読む際には、画面に適度な空白がないと極めて読みづらいので、英文のピリオドを目安にして、訳者の独断で適宜改行をつけ加えたことをお断りしておく。また、目次も作成しておいた。



ーーーーー 目 次 ーーーーー
上腕の包帯の巻き方 第1~3節
前腕の骨の骨折 第4~7節
上腕骨の骨折 第8節
足の骨の骨折 第9~10節
踵の骨の骨折 第11節
下腿の骨の骨折 第12~18節
大腿骨の骨折 第19~22節
下肢の処置法 第23~29節
下腿の整復装置 第30節
骨折の処置法 第31~36節
膝の脱臼 第37節
肘の脱臼 第38~49節
上腕骨の脱臼 第40~43節
肘の脱臼 第44節
尺骨の骨折 第45節
上腕骨頭の骨折 第46節
骨折・脱臼に対する包帯処置法(特に前腕) 第47~48節


1.
骨折や脱臼を治療する時、医師はできるだけ真っ直ぐに牽引する必要がある。これが最も自然な方向であるから。これがどちらかに曲がるとすれば、回外よりも害の少ない回内に曲がるはずである。このような症例をあまり深く考えずに治療する人は、ほとんどが大きな誤りを犯さない。腕に包帯を巻いてもらう人が、必要に駆られて適切な腕の配置を自ずと取るからである。しかし、これらの症例から何かを学習したがっている医師は、大きな失敗を犯すことになる。この場合には、深く考察する必要はなく、折れた腕を接合するためなら、簡単に言うと、普通の医師なら誰でもできることである。

しかし私は、この事柄に対してさらに多くの指針を提示しておかねばならない。というのは、腕に包帯を巻く時に適切な配置を取らせるのに熟練しているという評判の高い医師は、実際には自分の無知をさらしているだけであることを、私は知っているからである。

我々の医術におけるその他多くの事柄は次のようにして判断される。すなわち、人々は、それが適切かどうか判らないのに、新しいことを褒めそやすのである。そしてすでに適切と判っていて慣れ親しんでいるものを二の次とする。そしてまた彼らは見てすぐ分かるものより、一風変わったものを好むのである。ここにおいて私は、云いたくないことだが医師たちの誤りに関して、また腕の扱い方に関して伝えておかねばならないことを述べておく。というのも、これに関する説明は、身体の他の骨にも当てはまるだろうから。

2
そこで、我々がいま話題にしている腕に関して、ある人が、手掌を下に向けて包帯を受けようとしていた。しかし医師は、弓を射る時のように肩を突き出す姿勢を取らせ、包帯を巻き上げた。その医師の考えでは、それが自然の摂理にかなっていて、その証拠として、前腕の全ての骨はこのように真っ直ぐになっていることと、内側と外側の皮膚も真っ直ぐになっていること、肉と腱も自然な位置に収まっていることを挙げる。そしてその証明として弓を射る状態を提示している。以上のように説明し、以上のように包帯を実施したことによって、彼は聖人とあがめられたのである。

しかし、彼は他の全ての技術や動作を忘れている、すなわち、ある動作が力と巧妙さによってなされるかどうか、また自然な状態で行なわれることでも同じではなく、同じ作業であっても、右腕の自然な位置は左腕のそれとは異なることを忘れている。例えば、槍投げ、投石器の操作、投石、ボクシング、休息中などには、それぞれの姿勢がある。どんな技術でも調べてみると、それぞれの動作において自然な腕の位置は異なっていることが判るだろう。そして、全ての場合において、腕は用いる器具に最も適した状態で作用してしていることも判るだろう。

弓を射る時には、次のことが明らかである。左の上腕骨先端の蝶番部が尺骨の窪みにはまり込んでいるので、この配置によって腕と前腕の骨は、あたかも一つの骨であるかのように一直線に整列している。そのため、この状態では関節の屈曲動作が妨げられる。

また次のことは疑う余地がない。この状態では、腕の骨は最も曲がりにくく、限度まで伸展しているので、右腕で弓の弦を引いてもこれに屈したり曲がったりしない。このようにして射手は目一杯弦を引き、最大の力と速度で矢を放てるのだ。そして放たれた矢は最大の速度と力を持って最も遠くに飛んで行く。

しかし、腕に包帯をすることと弓で矢を射ることには何の共通点もない。さらに、この状態で腕を保持するように患者に指示して包帯を巻くと、外傷の痛み以上に強い痛みを引き起こすだろう。そしてまた、腕を曲げるように患者に指示しても、骨も靱帯も肉も、もはや同じ状態ではなく、それぞれがばらばらな状態に配列して包帯に負けないようにしているのである。しかし、弓を射る姿勢に何の使い道があるだろうか?患者自身に腕を差し出させるようにしていたなら、自分の知識にうぬぼれている医師でも、おそらくこのような誤りはしなかっただろう。

3.
しかし、別の医師は手掌を上向けて、腕を回外位にして腕を伸ばすように指示し、包帯を巻いている。これは、皮膚の状態から判断し、骨も自然な状態にあると考え、この状態が自然であると考えているからである。というのも、手首から発している小指の骨が、前腕の長さとして計測する骨(前田注;尺骨?)と一列になっているように見えるからである。

その医師は、腕の各部位が自然な状態にあることの証明として、これらの事柄を提示し、またこれを正しいことを言っていることの根拠としている。しかし、実際には、腕を回外位にして伸展したままでいると、とても痛くなる。これは、自分の腕をこの状態にしてみれば誰でも判ることである。また力の弱い人でも、自分より屈強な男が腕を回外位にしているのを両手でつかめば、自分の思い通りの所に連れて行けるだろう。あるいはその男が剣を持っていても、腕をこの状態にしていたなら、ひどく強ばるために剣をうまく使えないだろう。

さて、この状態で包帯を巻き、同じ状態を続けさせると、患者は歩き回る時にひどい痛みに耐えねばならないし、休息時であっても、かなりな痛みを感じるだろう。また、患者が腕を曲げようとしても、筋肉と骨は異なる位置を取らざるをえない。

しかし、他の誤りに加えて、その医師は腕の位置に関する次の事実を知らない。すなわち、手首から突き出ている骨で小指に近いものは前腕に含まれていて、前腕の長さを測るために始点となる関節の骨は、上腕骨の先端である。その医師は、これらが二つとも同じ骨であると思っていて、しかも他の多くの人たちも同じように考えている。

実際には、後者(上腕骨の先端)は、身体を預けることもある肘と呼んでいる部位のことである。そして腕を回外位にすると、真っ先に骨が歪んで見えるのと、次に手首の内側と指から伸びている腱が歪んで見える。というのは、これらの腱は、前腕の長さを測る始点となっている上腕骨に達しているからである。

腕の自然な構造に関して、このように多くの誤りと無知の証しが云われてきている。しかし、私が言う通りに折れた腕を伸ばすなら、患者は腕と小指の先端、肘が一直線になるように腕を回旋する。そうすると、手首から上腕骨の先に張っている腱が真っ直ぐになるだろう。そうして、腕を三角巾で支えると、包帯を巻いた時と同じ腕の形になる。これなら、歩き回っても、寄りかかって横臥しても、痛まないだろうし、疲れもしないだろう。

患者を、取り敢えず骨の突起部が最も明るい方に向くように座らせる。そうすれば術者が牽引するにあたって、腕が充分真っ直ぐになっているかどうかを見誤ることがない。折れた骨の突起部は熟練者が触診すれば見逃すことはなく、そこに触れると特に痛むのですぐに判る。

4.
前腕のどちらかの骨が折れた場合、上の骨(前田注;橈骨?)が折れた場合の方が治りやすい。こちらの方が太いのだが、健全な骨が下にあって上の骨を支えていることと、手首に近い部分を除き、厚い肉が上側についているので、歪みが目立たないためである。一方で、下側の骨(前田注;尺骨?)は肉で覆われていないので、それほど隠されることがない。そしてこの場合には、より強く牽引する必要がある。骨折したのがこの骨ではなく、他の骨であるなら、ずっと軽い牽引で充分である。しかし両方の骨が骨折したなら、もっと強く牽引する必要がある。

私が知っている若い人の例では、牽引操作は必要以上に強くされていた。しかし、概して牽引操作は必要な強さより軽い力でされている。牽引操作を行なっている間に、医師は両手の手掌で骨折部を調整し、ワックスを用いてマッサージするべきである。ただし、包帯が外れないようにワックスの量はあまり多くしないこと。この状態のままで包帯をするのだが、手が肘より低くならないように、少し高くなるようにして包帯する。そうすれば、血液が上方部に止まり、末梢に向けて流れずに済む。そして包帯の端を骨折部に持ってきて、強く圧迫しないように包帯を巻き、骨折部を固定する。包帯は、骨折部に2~3回巻いたあと上方に移動してゆき、患部に血液が流入しないようして、そこで巻き終える。最初の包帯は長くしてはいけない。2番目の包帯も、端を患部に当てて1回巻き、先端に向けて移動する。この時、先に巻いた包帯と同じほどに締めつけないようにし、しかも間隔を開けて巻く。そうすれば、もう一方の包帯が巻き終わったところまで充分巻き戻せる。

包帯は左向きに巻いてもよいし、右向きに巻いてもよい。どちら向きでも骨折した腕に最も合うように、また腕の曲がり具合に合わせて巻く。その後、少量のワックスを塗った圧定布を腕に沿って当てる。このようにすれば、患者は窮屈さを感じなくて済むし、形を整えるのもずっと簡単である。

次に包帯を交叉させて巻く。時には右巻きに、そして時には左巻きとし、ほとんどは下から始めて上方で巻き終える。しかし、時には上から始めて下方で巻き終えることもある。

肉づきの薄い部位には、圧定布を巻きつけて凸凹をならすべきだが、何度も折りたたんで一度に巻かないで、徐々に枚数を増やすようにする。手首の部分は左右交互にゆるく巻く。最初は、これら二通りの包帯で充分である。

5.
処置がうまくなされ、包帯も適切になされたというしるしは、次の通りである。きつく感じるか?と問われて、患者は腕がしっかり固定されているが、きつくはないと返答すること。これは特に骨折部で。そして包帯が適切に施されているなら、患者は全体がこのように感じるはずである。

包帯がきつくなく、しかもしっかり巻かれているという徴候は次の通りである。患者が、最初の一昼夜に包帯のしまり具合が緩くなるのではなく、むしろ強くなるように感じること。そして2日目に手に軽い浮腫を認めるなら、これは穏やかに圧迫されているしるしである。しかし、2日目の終わりには圧迫が軽くなるように感じられ、3日目には包帯がゆるく感じられるはずである。

上記の内のどれかが欠けているなら、包帯が緩すぎると判断するべきである。また上記の徴候の内どれかが強すぎる場合には、圧迫が強すぎると考えるべきである。これらのことを参考にして、次回の包帯をゆるくしたりきつくしたりする。

3日目には包帯をはずし、牽引操作を行なって骨折を調整し、そして再び包帯を巻く。初回の包帯がゆるめであったなら、2回目は少しきつめに巻くこと。前回と同様に、包帯の端を骨折部にあてる。こうすることによって、体液が末梢に送られる。ところが、前もってほかの部位に包帯を巻くと、巻いた部位から体液が骨折部に向けて押しやられる。このことは、正しく理解しておくべき大変重要な事柄である。このようにして、包帯と圧迫を常に骨折部位から始めねばならない。

そしてまたその他全ての操作もこれと同じ原則に従って行なうべきである。すなわち、骨折部位から離れるに従って締めつけを軽くする。包帯は決してゆるくしてはならないが、また滑らかに腕に巻きついていなければならない。

さて、包帯を巻くたびに、その数を増やすべきである。そして、特に骨折部において、またそのほかの部位ではこれに比例して、前回の包帯よりも幾分きつくなっていることを、患者が感じるようにするべきである。浮腫と痛み、回復に関しては、前回の包帯時よりも改善していなければならない。

3日目には、外側の包帯がゆるくなっているように見えるはずである。そして包帯をはずし、その時々に必要な全ての包帯を用いて、前回よりも少しきつめにして再び包帯を巻く。包帯を巻いた後には、患者が前回の包帯時に感じたのと同じような徴候を感じるように行なうべきである。

6.
3日目が来たら、ということは正しくなされているなら最初から7日目になるが、手の浮腫はそれほど強くないはずである。そして包帯を巻いた部分は、毎回細くなり腫れも少なくなっているはずである。そして7日目には、腫れはすっかり引き、折れた骨はより動かしやすくなっているので、調整もしやすくなっているはずである。

このような状態になったなら、骨折を調整した後、副木をあてられるように包帯する。この時も、手の浮腫による痛みがひどくないなら、前回より少しきつめに巻く。

包帯を巻き終えたら、副木を腕の周りにあて、かろうじてこれがずれない程度にゆるく、紐で縛る。そうすることで、副木が腕を圧迫することのないようにする。

この後、痛みと回復は、以前の包帯期間中と同じように進行するはずである。しかし、3日目になって、包帯が緩くなっていると患者が訴えるなら、副木の締めつけをきつくする。これは特に骨折部できつくし、その他の部位ではむしろゆるくする。

副木は、骨折の隆起部で最も厚くするが、他の部位よりあまりに厚くしすぎないようにする。特に注意すべきなのは次の点である。腕から母指に至るライン上で、副木が母指に当たらないようにし、副木はそのどちらかの横に当たるようにする。また小指のライン上で、手首の骨隆起部に当たらないようにし、そのどちらかの横に沿わせる。

副木を骨折部で上記の方向にあてねばならない時には、その副木を他のものより短くすれば、手首の隆起に届かないだろう。そうしないと、潰瘍が形成されたり、腱が露出する恐れがある。

副木は3日目ごとに、極めてやさしくかつ新しく調整しなおすべきである。その際、副木の目的は、その下の包帯の配置を維持するためであり、また圧迫するためではないことを、常に心に留めながら行なうこと。

7.
最初の包帯で骨が適切に調整され、面倒な痒みもなく、潰瘍形成の疑いもないことが判れば、副木をつけたままの状態を20日間以上継続してよい。前腕の骨は一般に30日で完全に骨化するが、正確なところは判らない。人の体質はまちまちで、また寿命もまちまちであるから。

さて、包帯をはずしたら、腕に湯をかけ、再び包帯をする。この時、以前の時よりも幾分ゆるめに、また少なくする。そして3日目に包帯をはずした後も、またよりゆるく、少なく包帯を巻く。

腕に副木を装着している間には常に、骨が正しく接合されていないと思われたり、患者が包帯に不具合を感じたりした時には、包帯の取り替え期間の半分またはそれより少し早い目に包帯を取り替えるべきである。

初期に外傷や骨の露出がなければ、食餌制限は軽くしてもよい。しかし10日目までは、身体を動かさない状態なので、かなり食餌を制限するべきである。そして、適度に腸を緩めるような柔らかい食物を摂るべきで、肉とワインは完全に控えねばならない。その後、徐々に栄養のある食餌に戻す。これらのことは、患者をどのように治療すべきか、適切な治療計画の結果がどうなるか、ということに関する骨折の治療法の通則として考えてよい。そしてもしも回復が上の通りに進まないなら、治療において何か過不足があることが判るだろう。

この単純な治療計画においては、次の指針に従う必要がある。しかし、ある医師たちは全く考慮を払わないのだが、やり方が不適切なら、包帯操作のすべてが台なしになる。

両方の骨が折れた場合、あるいは下の骨(前田注;尺骨?)だけが折れた場合には、前腕に包帯をした後、ショールを三角巾にして腕を支える。その時、骨折部は特にゆるくしているため、前腕の両端では支え方が不適切となり、この場合には、前腕が上方に歪んでしまうことが判る。一方で、両方の骨がこのように折れた時、手首と肘をショールで支え、他の部分は支えないようにすると、この場合骨は下側に歪むだろう。従って、前腕の大部分と手首を幅が広くて柔らかなショールで均等に支えるべきである。

8.
上腕骨が折れた時、前腕を伸展して調整し、その状態にしておくと、上腕の筋は伸ばされたままで包帯される。包帯をし終えて患者が肘を曲げると、上腕の筋は違う形状になるだろう。

次のようにするのが、上腕を整復するのに最も自然なやり方である。およそ45Cmか、もう少し短い木の板で、鋤の取っ手のようなものを用意し、この両端を鎖でぶら下げる。患者は少し高めのものに座って上腕をこの板の上にのせる。そうすると、板が脇の下を支える形になり、患者はかろうじて尻が座面に触れるくらいで、ほとんど宙づりになる。次に別の椅子を持ってきてこれに肘をのせ、その下に一つか二つの革の枕を敷き、肘を直角に曲げた時に適度な高さになるようにする。

最良の方法は、上腕に幅広で柔らかな革または幅の広いショールを巻きつけ、これにかなりの錘をぶら下げて、適度な牽引をかけることである。あるいは、私が述べたように上腕を配置し、屈強な男が肘を掴み、これを下方に牽引する。医師は立ったままで、片足をかなり高い物の上に乗せ、両手の手掌で骨を調整する。牽引操作が適切に行なわれているなら、このようにすれば調整がやりやすい。

その後、上で示した通りに、骨折部から始めて包帯を巻く。患者には上と同じことを訊ね、また同じ徴候を手がかりにして、腕が適度に締めつけられているかどうかを確かめる。そして3日目毎に包帯をやり直し、巻き方をきつくしてゆく。7日目または9日目には、副木をあて、30日以上そのままにしておく。

骨が正しく接合されていないと疑われる時には、その期間内であっても包帯をはずし、上腕を調整し、再び包帯を巻く。一般に上腕骨は40日で骨化する。この期間が過ぎれば、包帯をはずし、再び包帯の量を減らしてゆるめに包帯を巻き直す。

患者は、前の症例よりも長期にわたって厳格な食餌に従うべきである。我々は手の浮腫の具合と患者の体力を基に、その期間を判断しなければならない。

また次のことも理解しておくべきである。上腕骨は元来、外方に曲がっている。したがって正しく処置しないと、通常はこの方向に歪む。実際、他の全ての骨も、骨折の治療中に、元来曲がっている方向に曲がるのが一般的である。従って、何であれ、この種のことが疑われるなら、胸に回した幅の広いショールで上腕をくるむ。患者が休息する時には、何度も折り重ねた圧定布あるいは何か同様の物を、肘と腋の間に入れておく。こうすれば上腕の歪みが矯正されるだろう。しかし、上腕が内方に曲がりすぎないように注意する必要がある。

9.
人間の足は、手と同様に数個の小さな骨から構成されている。それゆえ、何か鋭利な物か、重い物で同時に皮膚を傷つけない限り、折れることはめったにない。

縫合(前田注;stich→stitch)を要する外傷の治療に関しては、頭部外傷の論考で取り扱うことにする。どの骨が元の位置から動いたとしても、また足先のどの関節がずれたとしても、あるいは足首と呼ばれている部分にあるどの骨がずれたとしても、手に関するところで説明した通りに整復するべきである(前田注;「関節について」第26節、「整復装置」第16節;参照)。そして骨折の場合と同様に、ただし副木は用いないで、ワックス、圧定布、包帯を用いて同じようにしっかり固定する。そして3日目毎に包帯を巻き直す。包帯をしたら、骨折の時と同様に、包帯がきついかゆるいかに関して、同じ返事が患者から帰ってこなければならない。これら全ての骨は20日で完全に回復する。ただし、下腿の骨と一直線に連結している骨を除いて。

治療中は横臥しているのがよいのだが、患者の苦痛が軽い時には、これに我慢できなくて、回復する前に歩き回る。それゆえ、多くの例で完全に治癒しない。また当然のことながら、足は全体重を支えているので、怪我の痛みが残ってしまうことが多い。従って完全に元通りになる前に歩き回ると、ずれた関節が完全に治癒しないことになる。そして、歩き回っている時に、時々は脚に痛みを感じるようになる。

10.
下腿の骨と連結している骨は他の骨より大きいので、これがずれると回復はより長引く。治療の仕方は同じであるが、より多くの包帯と副木を用いねばならない。包帯は両側にぐるりと回し、他の例と同様な圧のかけ方を用いる。すなわち、ずれた箇所を特に強く圧迫し、最初の一巻きはその箇所から始める。そして包帯をはずすたびに、大量の湯をかける。すべての関節外傷は、大量の湯を用いた潅水を行なうべきである。そして前に述べた治療例のように、同じ時期に同じような圧迫と弛緩の徴候を患者が感じるようにしなければならない(前田注;第5節参照)。また、それと同じように、その後の包帯も行なうべきである。これらの症例は、患者が我慢して横臥状態を続けるなら、ほとんどが40日で完全に治癒する。そうでない時には、前述の通りに苦痛に苛まれるか、さらに悪化するだろう。

11.
高所から飛び降りて踵を強くつくと、この骨は分離し、骨周囲の肉の挫傷によって出血し、腫脹とひどい痛みがこれに続いて起きる。なぜなら、この骨(踵骨)は小さくはないので、下腿の線からはみ出していて、重要な血管、腱と結合しているからである。実際、下腿後部の腱がこの骨に付着している。

この症例では、ワックス、圧定布、包帯で治療する。そして大量の湯も用いるべきである。包帯は特に良質で、この症例に適したものが大量に必要である。患者の踵の皮膚が元々柔らかいなら、何もしなくてよい。しかし、ある人たちがそうであるように、その部位の皮膚が厚くて堅いなら、傷つけないようにして、それを削り取って薄く滑らかにする。

この症例では、誰もが正しく包帯できるとは限らない。というのも、他の足首の怪我で包帯を巻く時に、足に巻いたり腱に巻いたりするが、これによって挫傷部の踵が分離し、踵骨が壊死する危険性があるゆえ。踵骨が壊死したら、障碍が一生涯続くことになる。またこれ以外の原因で起きる他のすべての壊死、例えばベッドに横臥している間の不注意な姿勢が原因の壊死によって踵が黒くなったり、足から踵にかけてひどい怪我を負って治るのに長引いたり、大腿に同じような怪我を負ったり、他の病気によってできた長引く褥瘡など、全ての症例では、傷は根深くやっかいで、壊死を伴う全ての症例と同じように、充分な休息を取らせ、特に注意深く治療しないと、しばしば再発する。

包帯の巻き方が原因で起きる壊死の場合は、他の障碍に加えて全身に大きな危険を伴う。というのは、この壊死は持続性で激しい急性の発熱を併発しがちで、振顫、吃逆(しゃっくり)、意識錯誤を伴って、数日で死亡することがあるゆえ。

そして圧迫による血管の黒ずみ、吐き気、壊疽も、壊死に伴って起きるだろう。以上に述べたことは、非常に激しい挫傷の場合のことであるが、一般には、挫傷は軽度であるので、それほど手厚い治療は必要としない。しかし、適切に治療すべきことは言うまでもない。

挫傷がひどいようであれば、以上述べた通りのことをせねばならない。すなわち、踵に何度も包帯をまわし、時にはそれを足先にまわし、また時には足の中央部にまわし、また時には下腿にまわす。これに加えて、以前に述べたように、その周囲も方向を変えて巻きつける。締めつけは強くしてはならないが、大量の包帯を用いること。そして当日またはその翌日にヘレボレ(前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を飲ませるのがよい。包帯は3日目に取り替えること。

病状が悪化しているか改善しているか判断する徴候は次の通りである。血液の溢血、紫斑、および周辺部が紅潮して堅くなると、悪化している恐れがある。しかし、発熱がなければ、以前に述べたように催吐剤を与えねばならない。発熱が持続性でなければ、他の適切な治療薬を与える。持続性の熱があるなら、強い薬を与えてはいけない。そして固形の食物とスープを摂らせないようにし、水を飲ませ、ワインは禁止し、オキシグリキ(oxyglyky;前田注;蜂の巣と酢を煎じたもの)を飲ませる。病状が悪化していないなら、斑状出血と紫斑、およびその周辺部は緑色がかってゆき、堅くはならない。これが斑状出血全般において、悪化してしていないという充分な徴候であるゆえ。しかし、紫斑が硬化してゆくと、その部位は黒化するかもしれない。そして、足を身体よりも少し高くなるようにせねばならない。この症例では、安静を保つなら、患者は60日で回復するだろう。

12.
下腿は2本の骨から成っている。ある部分では、一方の骨が他方よりずっと細い。しかし、別の部分ではそれほど細くはない。この2本の骨は足のところで連結し、共通の骨端を形成しているが、下腿に沿って全体が結合しているわけではない。そして大腿のところで連結して骨端を形成している。この骨端には骨幹がある。小趾側の骨はもう一歩の骨より少し長い。以上が下腿の骨の自然な状態である。

13.
足に連結しているその骨がはずれることがある。その場合、両方の骨が骨端と共にはずれる場合、骨端全体がわずかにはずれる場合、片側の骨がはずれる場合がある。これらの症例は、手首の脱臼よりも問題は少ない。ただし、そのためには、患者が我慢して患部を安静にしていなければならないが。治療法は他の脱臼例と同じである。他の例のように牽引して整復するが、この部位は身体の中でも強固なので、より強力に行なう必要がある。しかし、反対方向に牽引するのは、ほとんどが二人の男性で足りるだろう。その男たちに充分な力がなくて耐えきれない場合でも、さらに強力な牽引をするには、次のようにすれば簡単にできる。

車軸(こしき)またはこれに類似のものを地面に固定し、患者の足に何か柔らかいものを巻きつける。その上から幅広い牛革紐を足に巻きつけ、その端をすり粉木かそれに似た木の棒に括る。そしてこの棒の端を車軸に差し込んで引っ張る。そして他の人たちが患者の両肩と膝を掴んで反対方向に引っ張る。

場合によっては、上腕を他の方法で固定する必要がある。これを行なうには、丸くて滑らかな木の棒を地面に深く埋めて固定し、この棒の端が会陰に当たるようにする。そうすれば足が引っ張られた時に身体が歪むのを防げる。さらに、足が牽引されている間に身体が下がるを防ぐために、誰かが患者の横に座って尻を押し戻すようにしなければいけない。そうすれば引っ張られた時に身体が回転しないですむだろう。またこれと同じことをするのに、術者がなじんでいる方法なら、次のようにしてもよい。患者の左右の脇の下に木の棒を固定し、これを両手で牽引する。このように固定しておいて、別の人が患者の膝を掴んで反対方向に引っ張るようにする。

あるいは次のようにしてもよい。膝または大腿部を革紐で巻き、これを木の棒に繋ぐ。そしてこの木の棒を、患者の頭部の地面に据えつけた別の車軸(こしき)に差し込み、足が牽引されるのと反対方向に引っ張る。

次のような方法もある。車軸(こしき)の代わりに、適度な大きさの梁を寝椅子の下に据えつける。そして木の棒を梁の両端に固定し、革紐で対抗牽引をかけるか、両端に巻き上げ機を据えつけて牽引する。

牽引には他にも多くの方法がある。大都市で開業している医師にとって最良の方法は、骨折や脱臼に備えて、牽引したり梃子の作用に応用できる器械力を備えている適当な木製装置を用意しておくことである。そのためには、樫の木製の脱穀板に似た長さと幅、厚さの板があれば充分である(前田注;「関節について」第72節参照)。

14.
さて、正しく牽引すれば、関節を整復するのは簡単である。牽引すれば、はずれた骨は対の骨と正しく配列するので。そして片手の手掌で飛び出ている骨を押し込み、他方の手掌で足首の下を反対方向に圧する。骨を整復したら、できれば患部を牽引したまま包帯をするべきである。革紐が邪魔なら、それをはずすべきだが、包帯を終えるまでは対抗牽引を続けねばならない。

包帯の巻き方は以前に述べている。すなわち、包帯の端を飛び出ている部位にあて、最初の一巻きは同様に巻く。また圧定布の数と締めつけ具合も同じように、足首の両側に回数多く巻く。この関節には、手の関節の場合よりも初回の包帯をより強く巻かねばならない。包帯を巻き終えれば、包帯を巻いた部位を身体の他の部位よりも少し高くしておかねばならないが、足の吊り上げはできるだけ小さくする。

身体を痩せ細らせるのは、脱臼が軽度のこともあり、重度のこともあるので、その強さに比例して決める。しかし概して、下腿の骨は手の骨よりも大きくて厚いので、下腿の外傷では手の場合よりも体重の減量を大きく、しかも長期間続けねばならない。そして身体を横たえて安静状態を続けねばならない。

包帯は3日ごとに取り替えてもよいし、取り替えなくてもよい。他の全ての治療は前の症例と同じでよい。患者が我慢して横臥しているなら、40日間続ければ充分である。しかし、骨が正しく整復されても患者がじっと寝ていなければ、足を思い通りに使えなくなるし、包帯が長期間必要になることに気づくだろう。

骨が正しく整復されなかった場合には、何か欠陥があったはずなのだが、臀部、大腿、下腿が衰弱する。内方への脱臼であったなら、大腿の外側が衰弱し、その逆であるなら、衰弱も逆側に現われる。しかし脱臼はほとんどが内方に起きる。

15.
下腿の両方の骨が折れた場合で、皮膚の外傷がない場合には、より強い牽引が必要である。折れた骨がお互いにかなりな程度に重なっているなら、以前に述べた牽引法のどれかを用いて引き伸ばしを行なう(前田注;第13節参照)。

牽引は男性が行なうのがよい。ほとんどの例では牽引と対抗牽引を行なうのは、屈強な男性がふさわしい。牽引を行なう時には、大腿の骨折であれ、下腿の骨折であれ、大腿と下腿を一直線にして自然な状態で行なわねばならない。この両方の例では、伸展状態で包帯を巻くべきで、腕と脚を同じ配置で包帯するのはふさわしくないからである。というのは、上腕または前腕の折れた骨に包帯を巻く時、前腕は三角巾で支えるが、これを伸展状態で包帯すると、肘を曲げた時に肉の形が変わるからである(前田注;第2、3節参照)。人間は肘を伸展し続ける習慣がなく、曲げた状態が習慣になっているので、肘は長期間の伸展に耐えきれない。それに、腕を怪我した場合には、歩行は可能なので、肘を曲げる必要がある。

しかし脚の場合には、歩くにしても立つにしても、常に完全伸展かそれに近い状態であり、また通常はその構造から下にぶら下がっている状態で、しかも体重を支えている。それゆえ、必要に応じて下肢を伸展しておくことには耐えやすい。だから、ベッドで横臥している時でさえ、しばしば下肢をこの状態にしているのである。

そして怪我をした時には、必要性が考えに打ち勝つもので、患者は立ち上がれなくなって、下肢を曲げようとも、直立しようともせず、同じ状態で横たわったままでいる。これらの理由から、腕と脚を同じ姿勢で、また同じように包帯を巻くことはしてはならない。

さて、男たちによる牽引が充分なされているなら、無用の装置に頼る必要はない。必要がないのに機械的な手段を用いるのは不合理であるゆえ。しかし、男たちによる牽引が不充分な時には、それにふさわしい器械力を用いればよい。充分に牽引がなされていれば、手掌を用いて骨を真っ直ぐに整えることで、骨は簡単に元の位置に戻る。

16.
患部を調整したら、下肢を伸ばした状態で包帯を巻く。巻き初めは左右どちら向きでも都合の良い方向でよいが、まず包帯の端を骨折部にあててから巻き始めること。その後は他の骨折例で述べたように(前田注;第4節参照)、下肢を上方に移動して包帯を巻いてゆく。この時の包帯は腕の場合よりも、より幅広くて長く、大量でなければならない。

包帯を終えたら、脚を滑らかで柔らかい物の上に横たえるべきで、そうすれば脚が片側に歪まずに済むし、前後に突き出ることもないだろう。そのためには、クッションその他の類似物で、麻や羊毛で堅くない物が最も適している。そして中央部をくぼませ、それを下肢の下に敷く。

骨折した脚の下によく用いる円筒管(雨樋?)に関しては、用いるべきかどうか、助言するのに途方に暮れる。というのも、これは確かに有効であるが、それを使っている人たちが思っているほどには役に立っていないからである。また、その人たちが思っているほどには、休息中の脚の保護にはなっていないからでもある。ましてや身体をあちこち反転する時に、患者自身が注意しない限り、脚がそれについて動くのを円筒管が防ぐわけでもない。また、身体を反転しないでも、下肢が動くことさえ防げない。そもそも、板を下肢の下に敷くこと自体が、その上に何か柔らかい物をあてがわない限り、不快なことである。しかし、ベッドの準備やトイレに行く時には、これは非常に便利な物である。

従って、円筒管があってもなくても、下肢は充分に調整されるし、うまく調整されないこともある。しかし、一般人はこれを信頼しており、医療技術に係わることではないが、円筒管を下肢の下に入れておけば、外科医は非難されにくいのである。

ともかく下肢は真っ直ぐにして平らで柔らかい物の上に横たえるべきで、そのために包帯は、脚を整える時に、何時でも少しでも、決して歪まないように巻かねばならない。包帯を巻いた後は、以前述べたように患者から同じ返答があるべきである(前田注;第5節参照)。包帯操作は同じ様に行なわれているはずで、浮腫も同じように先端部に出現するはずであるから。包帯の緩みも同様で、3日目の包帯の取り替えも同じである。包帯を巻いた部分の腫れも軽減しているはずである。新しい包帯は、より多くして、よりきつく巻く。怪我が膝の近くでなければ、足の周りでは包帯を緩くする。

包帯を新しくするたびに、牽引を行なって骨を調整するべきである。正しく治療しているなら、そして腫れがうまく軽減しているなら、包帯されている下肢はより細くなって、骨は動きがよくなり、牽引しやすくなるだろう。

7日目か9日目あるいは11日目に、他の骨折例の治療で説明したように(前田注;第6節参照)副木を用いるべきである。足首周りと、下腿に向かっている足の腱に当たらないよう、副木に注意すること。

適切に治療すれば、下腿の骨は40日で骨化する。下肢を正しく整復するのに何か必要と思われるなら、あるいは何らかの潰瘍形成が疑われるなら、途中であっても包帯を解き、正しい処置をしてから再び包帯を巻くべきである。

17.
脛の(すね)の他の骨(腓骨?)が折れた時には、牽引操作はより軽くしてよい。かといって、これをいい加減にすることも、ぞんざいにすることも、してはならない。特に最初の包帯の時には。

全ての骨折例では、牽引操作はできるだけ早く行なうべきである。骨が正しく整復されていない状態で包帯をきつく巻くと、患部の痛みが増すからである。その他の治療は同じである。

18.
脛骨と呼ばれている下腿の内側の骨の場合には、治療がやっかいで、より強力な牽引を行なう必要がある。折れた骨の整復が適切でないと、どうしても歪みが目立つだろう。というのも、この骨はむき出し状態で、全体に肉で覆われていないからである。そしてこれが折れると、脚で歩けるようになるまで、大変長い期間がかかる。

しかし外側の骨が折れた時には、遥かに面倒が少なく、歪みも小さい。そして骨が正しく整復されていなくても、この骨は肉で充分に覆われているので、目立ち方はずっと少ない。また、内側の骨が体重のほとんどを支えているので、足をつけるようになるのも早い。大腿に沿って一直線に体重がかかっているので、内側の骨により体重がかかるゆえ。

身体の上部を支えているのは大腿骨の頭部であり、またこれは大腿の外側ではなく内側にあって、脛骨と一直線に整列している。身体の片側は外側の線ではなく内側の線上に近くかかっている。そして同時に前腕の小指側の骨が細くて長いのと同じように、下腿の内側の骨も外側の骨より大きい。

しかし、下肢の関節においては、長い方の骨(前田注;腓骨)の配置は上肢のそれとは異なっている。というのも、肘と膝は曲がり方が異なるからである。これらの理由によって、外側の骨(前田注;腓骨)が折れても、すぐに歩き回れるが、内側の骨(前田注;脛骨)が折れると、歩けるようになるまでに長い時間がかかる。

19.
大腿骨が折れた時には、牽引が不十分とならないように、特に気をつけねばならない。逆に、牽引しすぎても大きな害はない。折れた骨の端同士が引き伸ばされて離れた状態で包帯をしても、包帯は離れた状態を保持するわけではないので、牽引している人が手を離すと、すぐに再び骨は接合するだろう。肉(筋?)は厚くて強力なので、包帯よりも力があり、ましてやそれに負けることはない。

今取り扱っている例においては、患部を適切に広げ、真っ直ぐに整復するために何事も欠かしてはならない。短い大腿が露わになることは非常に見た目が悪く、また大きな損傷であるから。腕の場合には、短くなったとしても目立たないし、障碍も大きくない。しかし、大腿骨が短くなると、その不具が露わになる。健全な下肢を横に並べてみると、他方の骨より長いので、欠陥がよく分かるからである。それゆえ、不適切な治療を受けるなら、片側だけが折れるよりも両方の骨が折れた方が好都合である。その方が両方同じ長さになるから。

さて、正しく牽引しておき、両手の手掌で患部を調整し、以前に述べた通りに包帯を巻く(前田注;第4節参照)。すなわち包帯の端を患部に当て、上方に向かって巻いてゆく。そして以前と同じ問いに、患者は同じ答えを返すはずで、同じように手当てして同じように回復するはずである。包帯の取り替えも同じように行なう。副木の用い方も同じである(前田注;第5・6節参照)。大腿骨は40日で骨化する。

20.
しかし、次のことも知っておくべきである。大腿骨は内側へではなく、むしろ外側に、また後方へではなく前方に彎曲している。そこで、適切に治療されないと、歪みはこれらの方向に現われる。

この骨は、その彎曲部で肉づきが少ないので、歪みは隠せない。従って、この種の歪みが疑われるなら、腕の歪みに推奨されている器械装置を利用するべきである(前田注;第8節参照)。

そして、臀部と腰に包帯を数回巻きつけ、鼠径部と会陰の近くの関節も包帯で覆うようにする。これは、副木をあてた時、その先端が包帯で覆われていない部位に障害とならないようにするためである。

実際、副木は、その両端が皮膚に直接触れないようにしなければならない。そして膝の関節部の自然な骨隆起やこの部位の腱に副木が当たらないようにするべきである。

21.
圧迫によって、膝、足、その他の部位に現われる浮腫には、包帯する前にワックスを塗り、そこにワインとオイルを浸した未洗滌の羊梳毛をあてる。副木をあてると痛みが出るなら、これを緩める。副木をはずし、大量の包帯で下から上に向けて巻くようにすれば、浮腫はもっとも早く消えるだろう。また体液も前に包帯した部分から上方にむけて押し出されるだろう。

しかし、浮腫のある部位に水疱や黒ずみの恐れがない限り、このような包帯をしてはいけない。骨折部をきつく締めつけたり、下肢をぶら下げたり、手でこすったり、何か刺激性のある物を皮膚に塗ったりしない限り、この種のことは何も生じないのだから。

22.
大腿の下に円筒管(雨樋)を配置するのは、それが膝窩の下まで届かないようであれば、有益というより有害になるだろう。この場合には、大腿が動かないように、身体や下腿の動きを防止することができないからである。またこの円筒管を膝窩にまで下げると不快感が増し、避けねばならない全てのことが起きやすい。すなわち、膝の屈曲である。これは包帯の大きな妨げとなる。大腿と下腿に包帯を巻いた後で膝を曲げると、筋肉の形がどうしても変わってしまうので、折れた骨も必然的に動いてしまうことになる。

従って、膝を伸ばしたままにするよう、万全の対処をするべきである。尻から足まで包むような円筒管なら有効であるように、私には思える。さらにベッドで子供を寝かせる時に包むように、円筒管と共に膝の周りをショールでゆるく巻いておく。大腿骨が上方や横にずれた時には、円筒管と共に同じようにすれば、簡単に正しい位置に保持できる。従って、円筒管は下肢全体に届くように作成するか、あるいは全く使用しないか、どちらかにするべきである。

23.
下腿および大腿の骨折においては、踵の先端が適切な位置になるように、特に注意を払わねばならない。というのは、身体を支えておいて足をぶら下げていると、どうしても下腿の前面が彎曲してくる。あるいは踵を正しい位置よりも高く保持し、下腿をかなり低くしていると、下腿の前面がへこんでくる。患者の踵が生まれつき大きい時には、特にこのへこみが大きくなる。しかし、正しく保持していないと、大きな骨は骨化に余計時間がかかる。また同じ状態で静かにじっとしていないと、仮骨は余計に弱くなる。

24.
以上の事柄は、骨隆起を起こさなかった骨折または他に怪我のない骨折の場合のことである。骨が単純に破断しただけで粉砕していないが骨端が飛び出している場合で、当日または翌日に整復して元の位置に固定されている場合、あるいは粉砕した骨が分離する懸念がない場合、折れた骨が露出せず、骨片も飛び出る恐れがない場合などにおいて、ある医師はそれほど良くもないが害にもならない治療をしている。すなわち、松ヤニ入りの軟膏や新鮮な外傷のための軟膏、あるいはいつも使っている他のものを塗ってから洗浄薬で治療している。その後は、ワインに浸した圧定布や未洗滌の羊毛あるいはこれと同じようなものを巻きつけて固定している。

傷がきれいになり治ってくると、医師たちは大量の包帯で下肢を縛り、それを真っ直ぐに保持する。これはいくらかは有効で、大きな害にはならない。しかし、骨は決して同じようには元の位置に戻らない。そして患部は以前よりも少し盛り上がる。下腿の骨または前腕の骨が2本とも折れた時には、脚、腕は幾分短くなる。

25.
他の医師たちはこのような症例を治療するのに、損傷部をよけて、その両側にまず包帯を施し、傷口を覆わないままにしている。そして洗滌薬を塗った後に、ワインに浸けた圧定布と未洗滌の羊毛で患部を縛っている。しかしこの治療法は良くない。この症例はもちろんのこと、他の骨折例においても、この治療法を採用することは大きな誤りを犯していることは明らかである。

包帯の端をどのようにあてるか、どの部位の圧を最も強くするかを理解することが、最も重要である。包帯の端をうまく処理することと、正しい部位に圧をかけることに、どんな利点があるのか、そしてまた正しい部位でないところに包帯の端をあてたり、間違った部位に圧をかけることがどんな障害をもたらすのかを理解することも重要である。

そういうわけで、それぞれの治療がどのような結果をもたらすかは、本稿の前の部分で説明しておいた(前田注;第5節参照)。そして治療自体によってその実状が明らかになる。というのは、上のように包帯をされた人は、必ず患部が腫れるからである。

たとえ健康な皮膚であっても、真ん中を残してその両側に包帯を巻くと、包帯されていない部分は大きく腫れて色が変わってくるだろう。このような処置を受けた時に、どうすれば傷が悪化しないで済むだろうか?その傷は必ず色が白くなり、縁がめくれ上がる。そして膿ではなく漿液が浸出する。骨は壊死状態には陥っていないはずだが、剥離する。傷口は疼いて炎症状態を呈する。

医師たちは、この腫れを見て湿布をあてるべきと考える。しかし、両側に包帯を施した部位にこれを貼りつけるのは不適切である。これは、前から発生している疼き加えて無用な負荷をかけることになるからである。

そして最悪の状態になると、医師たちは包帯を解き、包帯せずに、その他の治療を行なう。それにも拘わらず、その医師たちは、別の同じ症例に遭遇した時にも、同じ様に治療するのである。それは、彼らが患部の両側に包帯することと、傷口を露出させておくことが、その後に生起したことの原因であるとは思わず、何か他の不都合な事情が原因であると考えているからである。

そういうわけで、このような包帯の巻き方が不適切であることを、私が充分に理解していなかったなら、この件について、これほど多くのことを書かなかっただろう。とはいえ、このように多くのことを書いたのだが。重要なことは誤りを正すことであり、骨折部に包帯をきつく巻くべきか否かの状況に関しては先に書いたが(前田注;第5節参照)、ここで説明したことが、それが正しいという証明となる。

26.
一般的な手順は次のように説明されている。骨の剥離がないと予想される時には、外傷を伴わない簡単な骨折の場合と同じ治療を行なうべきである。すなわち、牽引と骨の調整、包帯を同じように行なう。

外傷そのものには、松ヤニを混ぜたワックスを塗り、その上から薄く折りたたんだ圧定布をあてる。患部の周りには白いワックスを塗り込む。包帯その他に用いる布は、外傷のない骨折に用いるものよりも幅を広くする。また、最初の一巻きに用いる包帯は、傷口よりもずっと広いものでなければならない。傷口より幅の小さい包帯を用いると、ガードルのように縛ってしまうので、良くない。最初の一巻きは傷口全体を覆い、その両側まで覆うように広くするべきである。

そして包帯を傷に直接あて、傷のない時ほどにはきつく巻かないようにする。その他は以前に述べた通りに巻いてゆく(前田注;第4節参照)。包帯の素材は柔らかい物にするべきだが、この症例では外傷を伴わない簡単な症例の時よりもさらに柔らかい物を用いるべきである。

包帯の量は前に述べた例よりも少なくないように、むしろかなり大量に用いるべきである。包帯をした後、患者は、患部がきつ過ぎず、適度に締めつけられていると感じ、特に傷の周りがしっかり固定されていると感じていなければならない。患部が適切に調整されている期間と患部が緩んでくる期間の間は以前に述べた通りでなければならない(前田注;第5節参照)。

包帯は3日目に交換し、その後の治療は前述の通りに行なう。ただし、後者の例では前の例よりも幾らか圧迫を軽くする。

病状が適切に回復しているなら、傷口の腫れは包帯を取り替えるたびに常に減少してゆくはずである。また包帯をしている部分全体の腫れも引いてゆくはずである。

そして、他の治療を施した傷の場合よりも早く膿が排出するだろう。黒ずんで壊死した傷口の肉も、この治療法なら他のどんな治療法よりも早く剥離して脱落するだろう。このように治療すれば、他の方法よりもずっと早く傷が瘢痕化する。

これら全ての理由としては、傷口を含む患部とその周囲に腫れが生じないことにある。その他全ての点については、外傷のない場合と同じように治療するべきである。

副木は使用すべきではない。そして前の症例よりも包帯を多く用いる。というのは、この場合には患部をゆるく巻かねばならないのと、副木はもっと後で用いるべきであるから。

副木を用いるなら、傷にはあてないようにして、ゆるく固定するべきである。そして副木が強く圧迫しないように格別の注意を払わねばならない。これは以前にも書いた(前田注;第6節参照)。

外傷を伴う場合の初期と、骨が皮膚を突き破っている場合には、食餌制限はより厳格に、また長期にわたって管理するべきである。すなわち、外傷のひどさに応じて、食餌制限をより厳しく、長期間続けねばならない。

27.
傷の治療法については、初期には外傷がなかったが、副木をあてて包帯した結果、圧迫が強すぎて傷ができたか、その他の原因によって傷ができた骨折の場合と同じである。

このような症例では、痛みと疼きがあると潰瘍ができていることが判る。そして四肢にできる腫れが堅くなり、指で押すと赤みが消えるが、離すとすぐ元に戻る。

このようなことが疑われるなら、包帯を解かねばならない。そして包帯の巻かれている部位のどこであっても痒みが出ているなら、今までのものに代えて松ヤニ入りのワックスを使用するべきである。

この種のことが全く起きていないけれども、潰瘍が過敏になってひどく黒ずみ、汚くなり、肉が化膿したり、腱が壊死していることが判ったら、どの部位も外気に晒さないようにし、化膿することを心配せずに、最初から外傷を伴っている症例と同じように治療するべきである。

さて、包帯は先端の腫れている部位からゆるめに巻き始め、徐々に上に向かって移動してゆく。そしてどこもきつく締めつけず、傷の部位は特にしっかり当たるようにし、他の部位はそれよりもゆるくする。

最初の包帯は清潔で狭くないものを用い、副木を用いる時と同量かそれより少し少ないくらいの量を用いるべきである。傷そのものには白ワックスを塗り込めた圧定布をあてれば充分である。というのは、肉や腱が黒ずんでくると、剥落するから。このような傷は刺激の強いもので治療するべきでなく、火傷に使用するような刺激の弱い軟膏を用いるべきである。

包帯は三日目ごとに取り替え、副木は用いない。しかし、先の症例(前田注;第26節参照)よりも安静状態をしっかり守らせ、食餌制限を厳格に行なう。

そして次のことを知っておくべきである。すなわち、肉や腱が剥落しかかっているなら、洗浄剤を塗る場合に比べて、この治療による方が傷の広がりはずっと小さくて済み、その部位は一層早く剥落する。また周囲の腫れもより完全におさまるだろう。

そして剥落しそうな部位が剥落してしまうと、このように治療すれば他のどんな治療法よりも早く肉芽が再生し瘢痕治癒も早いだろう。

包帯がどのように効果があるか、どのように適度に巻くかを理解することが、良い結果に結びつく。ただし、正しい姿勢を保つことや食養生、適切な素材の包帯を用いることも共に大切である。

28.
最近の傷を見て、傷が爛れかかっているのに骨の剥脱はないと間違って予想したなら、ためらうことなくこの治療を行なうべきである。上手に包帯を施し、問題を起こさなければ、大きな傷は生じないだろうから。

この治療法の下での骨の剥脱の徴候は次の通りである。すなわち、傷口から大量の膿が排出し、傷口が開いているように見える。膿が出るので包帯はより頻繁に取り替えねばならない。さもないと発熱する。傷口とその周囲を包帯で圧迫すると、そこは衰弱する

非常に小さな骨が剥脱するというやっかいな症例でも、治療法を全く変える必要はない。ただし、包帯はずっとゆるく巻くこと。そうすれば膿の排出を妨げずに済む。そして膿が排出するままにして、骨が剥脱するまでは頻繁に包帯を取り替え、それまでは副木を用いてはならない。

29.
より大きな骨の剥脱が予想される症例においては、気づくのが初期であろうと後であろうと、もはや同じ治療は必要ない。ただ、先に述べたように牽引と整復を行なうだけでよい(前田注;第15/17/19節参照)。そして半スパン(前田注;およそ12Cm;Withington訳による)以上の幅(傷の性状に合わせて決める)の圧定布を二重にし、傷の周りを2周するよりはずっと短く、1周するよりずっと長いものを用い、充分な量を用いる。

この圧定布は渋みのある黒ワインに浸けておき、双頭包帯で巻くように中央部から巻き始める。包帯は患部から巻き始め、端を交叉させる「斧型」にして巻いてゆく。これを傷のある部位とその両側に行なう。そして圧迫しないようにして、傷を保護するためにあてておく。

傷口には松ヤニ入りのワックスや新しい傷に使用する軟膏、その他適当な軟膏を塗る。夏季であれば、圧定布を頻繁にワインに浸してあて、冬季ならワインとオイルで湿らせた未洗浄の羊毛を大量にあてる。

それから、傷口から流出する体液を流すために山羊の皮を患部の下に敷くこと。長期間同じ姿勢で静止させている患部は、治癒しにくい褥瘡を起こしやすいことを心に留めておき、そうならないように対策を取るべきである。

30.
これまでに説明したやり方やこれから述べるやり方で包帯できない場合には、骨折部を正しい姿勢に配置していてもひどく痛むはずである。そこで患部が下がるよりも上に傾くように気をつけるべきである。

症状をうまく巧みに改善したいと思うなら、骨折部を力任せでなく適切に牽引するために、器械装置を用いるのがよい。この方法は特に脚の骨折に適している。

脚の骨折全てについて、包帯を使用するかどうかに拘わらず、足底を寝椅子に固定したり、寝椅子近くの地面に据えつけた板にそれを固定する医師がいる。この人たちは危害ばかりで良いことは全くしていない。このように足を縛ると、牽引に何の効果もない。それは、身体が足よりも下に下がることがなく、もはや足は牽引できないからである。また脚を正しい姿勢で保持することもできず、むしろ害になるだろう。というのは、身体の他の部分を左右に反転させる時に、縛りつけられている足や骨が身体について動くのを防げないからである。

むしろ縛りつけない方が歪みは少ないだろう。この方が、身体の他の部分が動くのに連れて患部が動きやすいからである。

さて、エジプト革で二つの輪を縫い上げる。これは人を長期間繋いでおく大きな足枷に似たものである。この輪の両側には皮膜を張り、傷口に近い側は深く、関節に近い側は短くしておく。またこの輪はしっかり詰めものを入れて柔らかくしておき、一つは足首の上部に、もう一つは膝の下にぴったり合わせてはめる。そしてこの輪の両横に一重または二重の短い取っ手のような革紐を取りつける。上部の輪にも同じものを同じ線上に取りつける。次にヤマボウシの木から作った4本の棒を用意する。この棒は指の太さで同じ長さとし、曲げた時に上の付属物にぴったり合う長さにしておく。そして棒の端が皮膚に当たらないように注意して輪の端にはめる。

棒の長さは三種またはそれ以上用意しておく。一組は他のものより少し長めとし、別の組は少し短く小さくしておく。そうすれば、必要に応じて牽引を強くも弱くもできる。

これらの棒の一組を足首の両側に取りつける。正しく取りつけたなら、傷口に痛みを引き起こすことなく、均等に真っ直ぐな牽引力がはたらくだろう。何かの力がかるとしても、それは足と大腿にかかるはずだから。

また、この棒は足首の両側に無理なく取りつけられているので、脚の姿勢を邪魔しない。また傷の具合を調べやすいし、調整も簡単である。正しく取りつけていれば、上方の棒をお互いに固定しておくのに妨害するものは何もない。また脚に何か軽いものをかけるとしても、傷口には触れないで済む。

足枷の輪を上手に柔らかく新しく縫い上げておき、上に述べたように棒を用いて牽引が適切に行なわれたなら、これは大変優れた装置となる。しかし、これらのうちどれかがうまく合わなかったら、むしろ有害となる。他の全ての器械装置も正しく操作するべきで、そうでなければ全く用いるべきでない。器械を利用しながら、手作業のような使い方をするのは、みっともなく不手際なことであるから。

31.
さらに、ほとんどの医師たちは、骨折を治療する場合、外傷のあるなしに拘わらず、初期に未洗浄の羊毛を用いているが、これは別に不適切だとは思われない。急な怪我を治療する時、手近に包帯用の布がなく、羊毛で処置するというのは仕方のないことである。このような症例の場合、包帯用の布がない時には羊毛より適切なものは何もないのだから。しかし、そのためには大量の羊毛を使用するべきで、しかも充分に梳毛し、滑らかなものを用いるべきである。少量でしかも質が悪いものでは、効果がない。

しかし、1日か2日は羊毛で下肢を縛るのを続け、3日目または4日目には包帯を巻いて強く圧迫して牽引する医師がいる。この人たちは医術の最も重要な原則を無視していることを、自ら示している。つまり一言で言うと、怪我というものは全て、3日目や4日目に処置するべきではないからである。また、この期間には、炎症を起こしている他のどんな怪我にも、外科用の探り針は全て使ってはならない。一般的には、ほとんどの外傷において3日目4日目というのは症状が増悪し始める時期なのである。すなわち、過敏状態が炎症に移行したり、傷口が汚くなったり、発熱が始まったりするのだ。

この症例に対して特に重要な指針があるとすれば、以上のことがその指針となる。医療において最も重要な症例に対して、この指針が無効であろうか?また他の全ての病気を外傷と云わない限り、外傷だけでなく他の多くの病気にも無効であろうか?

またこの指針には妥当なところがある。というのは、外傷も病気もお互いに多くの類似点があるから。

しかし、最初の7日目を過ぎるまで羊毛を使い続け、その後で牽引と整復を行ない、包帯で固定する医師は、前の例と同じように正しい判断を欠いているとは思えない。それは、正しい判断を下す時期や、最も炎症を起こす恐れのある時期は過ぎているからである。そしてこの期間を過ぎれば、骨は柔軟になっていて、整復するのは簡単だから。

とはいうものの、最初から包帯で固定する治療法に比べると、この方法はずっとまずいやり方である。なぜなら、包帯で固定していると、7日目には炎症が消えるので、副木をあてて完全に包帯固定ができるからである。ところが、羊毛固定の方法では、この点に関してはずっと遅くなるし、ほかにも多くの障害を伴う。そしてこれを説明していると長くて飽き飽きするだろう。

31a.

骨が飛び出て整復できない骨折の場合には、次のような整復法を行なう。石工が使っている梃子に似た、小さな鉄板を用意する。一方の端はかなり幅広いもので、もう一方の端は幅の狭いもの。そしてぴったりなものを利用するために、これを最低でも3枚またはそれ以上用意するべきである。牽引の最中に、これを梃子として使用する。この鉄板の下面を折れた骨の下にあてがい、その上面を上になっている骨にあてがう。そして簡単に言うと、石や木片を押しつける時のように力強く梃子を操作せねばならない。鉄板は、曲がらないようにできるだけ強いものを用いる。この鉄板がうまく適合し、そしてこれを梃子として上手に用いるなら、これは強力な助けになる。

人が扱うあらゆる器械装置の中で、最も強力なものが次の三つである。すなわち、車輪と車軸、梃子、楔である。これら一つまたは全てを欠くと、強い力を必要とするどんな仕事も人はこなせないだろう。であるから、梃子を利用する整復法は見下されるべきではない。というのは、この方法を用いると、骨は整復されるか、あるいは全く整復されないかのどちらかであるゆえ。

しかし、一方の骨の上に乗り上げている上側の骨に、梃子をあてる適当な場所がなく、隆起部が鋭く突き出ている時には、骨を削って梃子をあてるための適当な場所を作らねばならない。牽引と共に梃子を用いるのは、怪我をした当日か翌日とする。3日目、4日目、5日目には、決してこれを行なってはならない。というのは、この期間に下肢をあちこち動かすと、整復しなくても炎症が強くなるし、整復しても炎症が軽くて済むわけでもないからである。整復が成功した時には、それを失敗した時よりも痙攣が起きやすい。

次のことは十分理解しておくべきである。すなわち、整復が成功した時に痙攣が起きたなら、回復の見込みは全くない。そして問題を起こさずに骨をはずせるなら、再びはずすべきである。これは、痙攣と強直が併発するのは、患部が特に弛緩している時ではなく、普通以上に緊張している時であるから。今取り扱っている症例においては、前に書いた期間中には下肢をあちこち動かしてはならない。そして、できるだけ傷が炎症を起こさないようにし、膿を排出させるように努めるべきである。

7日またはそれ以上の日数が過ぎて発熱がなく、炎症もなければ、整復を行なうことの妨げとなるものはない。ただし、成功させたいという医師の気持ちがあるならであるが。さもなければ、妄りにやっかいごとを与えたり抱え込んだりするべきではない。

32.
骨を元の位置の戻したら、骨が剥脱してもしなくても、治療の仕方はすでに説明されている。骨の剥脱が予想される場合には、全て布製の包帯を用いるべきで、双頭包帯を巻く時のように、最初は包帯の中央部から巻き始める。しかし、傷の形状には特に注意を払うべきである。そうすれば、包帯の下で傷口が大きく開いたり歪んだりするのをできるだけ少なくできるだろう。それゆえ、包帯を巻くのは、ある場合には右向きとし、ある場合には左向きに、またある場合には双頭包帯の巻き方を行なう。

33.
次のことは理解しておくべきである。すなわち、整復できないと判った骨は剥脱するが、これは肉が全体に分離した骨も同じである。そして、ある時には骨の上部が露出し、またある時には周りの肉が壊死する。長引く傷から骨が齲蝕(うしょく)することもあるし、そうでないこともある。また齲蝕(うしょく)がひどい場合も、軽い場合もある。またこれは小さな骨にも大きな骨にも起こり得る。

これまでに説明したことから、骨が何時分離するかを一言で説明するのは不可能である。骨が小さいと早く分離することがあるし、あるものはただ先端にあるために早く分離する。またあるものは分離していない骨片から分離するが、これはそのうちに汚く乾燥して剥脱する。その上、治療法が異なれば結果も違ってくる。

多くの場合、化膿が早く始まる場合や、新しい肉が早く形成される場合、しかも特にそれが壊死していない場合に、骨は早く分離する。それは、傷の下から成長する肉が骨片を持ち上げるからである。

骨の円周全体が40日で分離するなら経過は順調である。場合によってはそれが長引いて60日、またそれ以上かかることもある。骨が海綿質であるほど分離が早く、緻密な骨であるほど分離はゆっくりである。そして、小さな骨ほど早く剥落するし、その他の骨はそれなりに分離してゆく。

飛び出ている骨は、次の理由から鋸で切り取るべきである。その骨を整復できないなら、また面倒なことになりそうなら、骨を元の位置に戻すためには小さく切り落とすだけでよい。またそのような状態にあるなら、切り落とすことは可能である。飛び出ている骨が肉を刺激して問題を起こしたり、下肢を安静に横たえる妨げになるなら、さらに肉が剥がれ落ちたりするなら、そのような骨片は切り取るべきである。

他の場合に関しては、骨を切り取っても切り取らなくても、結果はあまり違いはない。これは、しっかり理解しておくべきだが、完全に肉が分離し、乾燥してしまった骨は全て完全に分離する。ただし、剥脱しそうな骨は切り落としてはいけない。骨が完全に剥脱するかどうかは、これまでに述べた徴候から判断すること。

34.
このような患者は、離脱する骨に関して以前に述べた圧定布とワインに浸した湿布を用いて治療する(前田注;第29節参照)。ただし、初期には冷たいもので濡らしてはいけない。というのは、発熱性の悪寒や痙攣を起こす恐れがあるゆえ。また痙攣は冷たいものや外傷によっても誘発されるから。

骨が折れて重なったまま治癒した場合や、骨の円周全体が脱落したような場合には、必然的に骨は短くなることを知っておくのがよい。

35.
大腿骨や上腕骨が飛び出した時には、整復は簡単にはゆかない。これらの骨は大きくて、多量の骨髄を含んでいるので。また多くの重要な神経、筋、血管が同時に傷つけられる。そしてこれらの骨を整復すると、通常は痙攣が起きる。整復しないでいると、吃逆(しゃっくり)と壊疽を伴って急性の胆汁性の発熱が生起する。

骨を整復しないままか、その試みさえしなかった場合の方が、少なからず回復の見込みがある。折れた骨の上部が飛び出すよりも、その下部が飛び出す場合の方が回復しやすい。整復を行なった場合でも回復することがあるが、これは実際、極めて希である。

治療法と人体構造の特異性によって、このような損傷の耐えがたさは大きく変わる。

また、上腕骨や大腿骨が内側に飛び出す場合も、大きな違いがある。というのは、ここには多くの重要な血管が通っていて(前田注;第31節参照)、そのうちのどれかが傷つくと命に関わるからである。このようなものは外側にもあるが、これらはそれほど重要ではない。

この種の外傷においては、その危険性を見逃さず、また適宜にそれを予測しなければならない。

どうしても整復しないとだめな時、また成功する可能性がある時、骨が大きく交叉して重なっていない時、筋肉が収縮していない時(筋肉は通常は収縮する)、このような場合には、梃子を用いる方法が有効であろう。

36.
整復を終えれば、その日のうちに作用が穏やかなヘレボレ(hellebore前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を飲ませる。ただし、これは怪我の当日に整復を行なった場合である。それ以外の場合には、飲ませてはならない。怪我は、頭部の骨折と同じように治療する。そして冷たいものは決して当ててはならない。また食餌制限を厳格に行なう。患者が胆汁気質であるなら、少し芳香を添加したオキシグリキ(oxyglyky;前田注;蜂の巣と酢を煎じたもの)を水に数滴加えて飲ませる。患者が胆汁気質でないなら、飲み物としては水を与える。持続性の発熱が続くようなら、この食餌療法を少なくとも14日間続ける。発熱がなければ7日間でよい。その後は徐々に通常の食餌に戻してゆく。

骨を整復できなかった症例でも、同じ治療を行なうべきで、傷の治療と食餌も同じでよい。ただし、宙にぶら下がっている身体の部位を同じように牽引してはならない。傷の周りの部分を弛緩させるために、むしろ押しつけるようにするべきである。

以前に述べたように、骨の分離には時間がかかる(前田注;第33節参照)。そこで、誠意を尽くせるなら、上記のような症例を引き受けないようにするべきである。というのは、上記のような症例は回復の見込みが小さくて危険が大きいゆえ。そして折れた骨を整復できなかった時には、その医師は未熟だと見なされるし、整復できたとしても、回復させるというより死に追いやることになるからである。

37.
膝の脱臼やずれは肘のそれに比べると、遥かに軽い怪我である。それは、膝関節の大きさに比例して腕と肘の比率よりもより小さいからである。また平坦な構造で丸い構造になってるからでもある。ところが、腕の関節は大きくて多くの窪みがある。これに加えて、下腿の骨はほとんど同じ長さで、外側の骨が他方の骨より少し上に突き出ているが、これは云うべきほどではない(前田注;?)。それゆえ、外側の靱帯が膝窩から出ているとはいうものの、これらの骨はほとんど妨害しない。ところが、前腕の骨は長さが揃っていなくて、短い方の骨は他方の骨よりかなり太くなっている。細い方の骨(尺骨?)は飛び出ていて、関節の上部にまで伸びている。そしてそこ(肘頭?)に、両方の骨の接合部に向けて走っている靱帯が付着している。細い骨(尺骨?)には太い骨(橈骨?)よりも腕の靱帯が多く付着している。

以上述べたことが、肘の骨と関節の構造である。その構造のゆえに、膝の骨は実に頻繁に脱臼するが、簡単に整復できる。それは、ひどい炎症も起きず、関節の拘縮も起きないからである。膝の骨はほとんどが内方にずれるが、時には外方にずれることもあるし、また時には膝窩に向かってずれる。これら全ての例では、整復は難しくない。ただし、内方と外方への脱臼例では、患者を低い椅子に座らせ、大腿を少しだけ挙げておかねばならない。ほとんどの例で、牽引は中程度で充分で、下腿を牽引し、大腿に対抗牽引をかける。

38.
肘の脱臼は膝のそれより厄介である。発熱することと、関節の構造のゆえに、すぐに整復しないと、整復は難しい。というのは、肘の骨は膝の骨に比べて脱臼しにくいが、整復して元の位置に留めておくことはずっと困難で、炎症と癒着を起こしやすいからである。

39.
これらの骨のずれは少しで、肋骨の方向または外方にずれる。関節全体がずれることはなく、その部分の上腕骨は、隆起のある前腕の骨(尺骨?)の窪みと関節していて、その位置にとどまっている。

このような脱臼は、どの方向にずれようとも整復するのは簡単で、腕の線に沿って牽引するべきだが、一人が手首を引っ張り、もう一人が脇の下を掴む、そうしておいて3番目の人がずれている関節を手掌で中心に向けて押し込む。それと同時に他方手で関節の近いところで反対側から対抗圧をかける。

40.
肘の所で上腕骨の端がずれる(脱臼?)時には、尺骨の窪みからはずれる。このような脱臼は、患部に炎症が起きる前なら、簡単に整復できる。脱臼は大多数が内方に向けて起きるが、時には外方に向けても起きる。どちらに向けてずれているかは、腕の形状からすぐに判る。

これらの脱臼は、強力に牽引しなくても元に戻ることが多い。内方脱臼では、前腕を回内位にしておいて整復する。肘の脱臼は、これがほとんどである。

41.
しかし、上腕骨の関節端が、腕の窪み(?)に向けて突き出ている前腕の骨を越えて、どちらかにずれると、これはめったに起きないが、これが起きた時には、この状況下では、一直線に牽引することは適切ではない。というのは、このような牽引の仕方では、腕の骨(上腕骨?)が尺骨を乗り越える時に、その突起(肘頭?)が妨げとなるからである。

この種の脱臼では、折れた腕を包帯で治療する時に述べた牽引法を用いるべきである(前田注;第8節参照)。すなわち、脇の下を上方に引き上げ、肘の所を引き下げる。このようにすれば、上腕骨が最も簡単に窪みの上部に持ち上がる。

このように持ち上げておけば、両方の手掌を用いて簡単に整復できる。すなわち、一人が腕の飛び出ているところを押し込み、もう一人が関節部の前腕の骨を反対方向に押すのである。

この方法は両方の症例に使える。そしておそらく、この種の脱臼には最も適切な整復法である。真っ直ぐ牽引しても整復されるだろうが、上の方法ほどには簡単ではない。

42.
めったに生じないが、腕が前方に脱臼すると、実際、突然の衝撃でどんなずれも起きないと言えようか?この場合には、大きな障壁があるにも拘わらず、他の多くのものが正しい位置からはずれてしまう。このようなひどいずれでは、骨の突出部の上にある患部(肘頭?)が大きくて、靱帯の緊張も強い。実際に、このような脱臼を起こした例がある。

このような脱臼の徴候を以下に記しておく。肘は全く曲がらない。関節に触れてみると、脱臼していることがすぐに判る。早急に整復しなかったなら、発熱を伴って強烈でひどい炎症が起きるだろう。しかし、脱臼したその時にたまたま居合わせたなら、簡単に整復される。

堅い麻布(堅い麻布で、それほど大きくないものを丸めたものがよい)を肘の内側にあて、肘の所で急激に腕を曲げる。そして手を肩まで挙げさせる。このような脱臼には、この整復法がよい。

この種の脱臼は真っ直ぐ牽引しても整復できるが、その時には、同時に片方の手掌で、肘の曲がる部位にある上腕骨の突出部を押し戻し、他方の手掌で肘の先端部に対抗圧をかけ、患部を真っ直ぐにする。

そして、この種の脱臼においては、以前に述べたように、腕の骨折に包帯をする時の牽引法を用いるのも有効である(前田注;第8・41節参照)。そして、牽引したなら、上で述べたように患部を整復するべきである。

43.
上腕骨が後方に脱臼した時。これはめったに起きないが、しかしこの種の脱臼の中では最も痛みが強い。そして胆汁性で持続性の発熱を起こす傾向が最も強い。またこれが起きると数日中に死亡する。この場合には、患者は腕を伸ばせない。その場に早く到着したなら、無理やりにでも患部を牽引すると、自発的に元の位置に戻るだろう。

最初から発熱しているなら、もはや整復してはならない。このような強烈な操作を行なうと痛みがさらに強くなるからである。一言で言うと、発熱中には、どんな関節であっても整復してならない。とりわけ肘の関節では。

44.
肘関節に関連する厄介な損傷は他にもある。例えば、太い骨(橈骨?)がもう一つの骨から部分的にはずれると、肘の曲げ伸ばしがうまくできなくなる。

この怪我は、筋肉に沿って流れている血管の分岐部の近くの腕の曲がり角に手を当ててみるとはっきり判る。この場合、元の位置に整復するのは簡単ではない。そもそも、軟骨で結合している二つの骨が分離したのを、元の自然な状態に戻すことも簡単ではない。なぜなら、離開部は必ず腫脹するからである。関節に包帯を巻くやり方は、足首に包帯を用いる治療法ですでに述べている(前田注;第11節参照)。

45.
上腕骨の後ろにある尺骨の突起(肘頭?)が破損することがある。すなわち、上腕後方の腱の起始である軟骨部が破損したり、その前部にある前方の筋突起の基部がが破損したりすることがある。このような変位が生じると、厄介な発熱が起きやすい。

しかし、関節は元のままである。これは、この関節の基礎全体がその部分で突出しているからである。しかし、尺骨の端が上腕に突き出ているところでずれが生じた時には、骨がはっきりと横断して折れたなら、関節はゆるくなる。

一般的には、全ての症例において、骨が破損せずに、患部にある血管や重要な腱が挫傷している場合よりも、骨が折れた時の方が危険性は小さい。

発熱が続くようであれば、死に至る危険性は、後者よりも前者の方が高い。しかし、この種の骨折はめったに起きない。

46.
上腕骨頭が骨端で折れることがある。これは厄介な怪我のように見えるかもしれないが、実際にはその関節における他の損傷よりも、ずっと軽傷である。

47.
それぞれの特殊な脱臼に適した治療法は、すでに述べておいた。そして、腱の炎症がすぐに起きるので、素早く整復することが最も有利であることも書いておいた。

脱臼した部位をすぐに整復したとしても、通常は腱が硬直するので、相当な期間にわたって、普通に曲げ伸ばしするのが妨げられる。関節を形成している骨の先端が折れても、脱臼しても、治療の仕方は同じである。すなわち、他の骨折と同様に、大量の包帯、圧定布、ワックスを用いる。

骨折した上腕または前腕に包帯を巻く時には、これら全ての症例では、関節の配置は同じにしておくべきである。この関節配置が、全ての脱臼、ずれ、骨折において、最も便利であるから。また、その後の屈曲伸展の動作をするにも、その中間位であるため最も都合がよいから。そして腕を動かすにも、三角巾で腕を吊すのにも、この状態が最も便利であるから。

その上、関節が仮骨で硬直するとしたなら、腕を伸ばしている状態では、この硬直が起きない方がよい。腕を伸ばしたままで硬直すると、大きな障害となり、都合の良いことは全くないからである。

腕を完全に曲げた状態で硬直する場合、こちらの方が使い勝手が良い。しかし、関節強直が起きた時には、関節を中間位にしておくのがずっと便利である。(前田注;肘)関節の配置については以上である。

48.
包帯を巻く時には、まずその端を損傷部に当てるべきである。これは骨折の場合でも脱臼の場合でも離開(分離?)の場合でも同じである。そして、最小の一巻きを損傷部に行ない、その部位を最もきつく巻き、その上下の部位をゆるめに巻く。

包帯は上腕にも前腕にも巻くべきで、多くの医師たちが行なっているよりもずっと広い範囲に巻くべきである。そうすれば、損傷部から両側に向けて腫れが押しやられるだろう。前腕の先端部に損傷がある時もない時も、この部位にも包帯を巻くべきで。そうすれば、腫れがここに集中しないだろう。

包帯を巻く時には、腕の曲がり角に包帯が集中するのを避けねばならない。損傷部を主に締めつけるが、骨の骨折の治療に関して以前に述べたのと同じ推移を取るべきで、圧迫と弛緩の期間も同じであらねばならない(前田注;第5節参照)。そして3日目毎に包帯を取り替えるべきである。また他の症例のように、3日目には包帯がゆるくなったように患者は感じるべきである。

副木は適切な時期がきたら用いる(骨折の有無に拘わらず、発熱がなければ、副木を用いることには何の不都合もないので)。上腕であれ、前腕であれ、これは特にゆるくしておくべきだが、厚いものはいけない。また副木の大きさは不揃いにしておくべきで、肘の曲がり方に合わせて、副木を重ね合わせて当てる。

圧定布を用いる時も、副木について述べたのと同じやり方を適用する。この圧定布は、損傷部には少しかさばるように当てるべきである。回復に要する期間については、炎症の具合と、上に述べた事柄を参考にして予測する。

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