2−1 ニブヒ族の過去、現在、未来

ナニヲーのニブヒの人々

ゾーヤさんの住宅
電気・水道・ガスなど通じていません。
ナニヲーの村は冬、陸の孤島となってしまいます。
ゾーヤさんの住宅@
 ナニヲー(現ルポロボ)におけるニブヒの人々は、1965年から68年にかけてソビエト政府によって強制的に移住させられていました。これは、ソビエト政府が取った少数民族統治の政策だったのです。ソビエト政府は、少数民族を統治する政策として一ヶ所に彼らをまとめて移住させ、そこに漁業コルホーズを設立して生活の安定を図ろうとしたのでした。アパートを建設、学校、病院を完備し、少数民族統治のモデルケースとしたのでした。
 ルポロボの人々は、オハ市の近く、ノグリキにある漁業コルホーズに移住したのでした。しかし、そこでの生活は、伝統的なニブヒの生活とは程遠いものでした。集合住宅に居住し、政府の指導の下、集団による労働をしなければなりませんでした。
 伝統的なニブヒの生活は、間宮林蔵がその著作「北夷分界餘話」で詳しく報告しているようにアザラシなど海獣の狩猟、サケやマスの漁労によって営まれていました。住居も木製の、質素なものではありますが樺太北部の厳しい気候に適応した合理的なものだったようです。
 結局ニブヒの人々は、豊かな、しかし自分達の伝統的な習慣とは全く異なった生活には馴染めませんでした。人々は強制移住からたった2年で、故郷に戻るのでした。その故郷が現在のルポロボ(ナニヲー)なのです。現在のルポロボの人々は先祖伝来ルポロボ(ナニヲー)に居住していました。強制移住の数年間の空白はあるものの現在も先祖伝来の土地に、伝統を守りながら力強く生きているのです。
 しかし、ルポロボの生活は大変厳しいものがあります。電気、ガス、水道はありません。病院、郵便局、小学校も村にはありません。社会資本は全く整備されていないのです。更に経済的にも貧しく、新聞やテレビを見ることも出来ません。それどころかサハリン州政府から見てナニヲーには、人がすんでいないことになっています。
 現在ルポロボには、年間を通じて約10家族30人ほどが居住しています。そのほとんどは老人です。夏期の間だけは、ここを離れた若者も子供達を連れて里帰りをします。私たちが訪問した時には、小学生ぐらいの年齢の子供達がたくさん集まってきました。夏の間は里帰りの若者も加わり、ルポロボの人口は60人ほどになるそうです。里帰りの若者達も、気候の厳しい冬になるとオハに帰っていきます。子供達も冬の間は、オハの学校に通います。若者は、ロシアの生活様式に馴染みオハの街に暮らしているのです。ルポロボの家族に仕送りをして、老人達の生活を助けています。

ロシアの少数民族の統治の状況

少数民族の人口

 サハリン州には、主だった少数民族としてギリヤーク(ニブヒ)、オロック、エベンク人がいます。この三つの民族を合わせても約3、000人程度です。この他に東洋系の民族としては、残留日本人(約200人)、残留韓国人(約2万人)、残留中国人(人数は確認できず)が住んでいます。

ソビエト連邦による少数民族の統治

 1930年代から1970年代、ソビエト共産党政府は少数民族の生活・居住・婚姻をも管理しようとしていました。1ヶ所に強制移住させ集団生活を送ることを強制しました。少数民族は、政策上手間がかかるので何ヶ所かに集団で居住させ、統治しようとしたのでした。
 少数民族は、主に次の都市に強制移住させられたという事です。
    ポロナイスク(旧日本名敷香)
    アレキサンドル
    ノグリキ
    オハ
ニブヒ族は、主にノグリキとオハに移住させられたようです。
 7歳に達した子供達は、小学校に入学、食事と教育を無料で受けることができました。中学校を卒業するとレニングラードにある少数民族のための大学に入学することができました。少数民族もロシア人と同じ生活をすることができたのです。しかし、これは自らの伝統的な生活を忘れることでした。

少数民族の将来

 現在では、少数民族もロシア人との混血が進んでいます。純粋な少数民族の血を引く人々は、ごく僅かとなっているようです。伝統的な生活を棄て、ロシアの人々の生活と同じ生活を選ぶ若者も増えているようです。少数民族に固有の伝統は、次第に忘れ去られようとしています。例えばルポロボであった老人ヴォルフ・サメンさんは、ロシア式による名前をヴォルフ・サーメンコと言います。少数民族の悲しい運命なのでしょうか。そんな中、幸いと思うことは、少数民族がロシア人から特に差別的な扱いは受けていないようであると言うことです。伝統的な生活を送るためには、厳しい生活を選ばなければなりません。しかし、ロシア人と共に生活する場合には、ロシア人達も彼らを受け入れ、お互いに分け隔てなく生活することが出来るようです。


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