side−B −V.S 2− 豪 高校2年6月初旬


 一列に並んで床に座って紅茶をすする姿は微笑ましくも有り、間抜けな気もするのだが、正規を除いて全員の顔は完全に強張っていた。
「母様のあんな姿を見たのは初めてだわ」
 千寿子が呟くと愛も青い顔をして頷いた。
「母様があれだけ切れたのも初めてだよね。いつも冷静なのは父様が側に居たからなのかな」
「普段の会長から想像も付かない姿だった」
 と智が頭を抱えると和紀が「あれ?」と、間の抜けた声を上げた。
「佐藤恵って誰?」
「母さんの旧姓……だったよね? 父ちゃん」
 生が確かめると正規が頷いて肯定する。
「そうだ。ついでに言うなら母さんは会長と同い年。中学時代からの友人で、唯一対等の口をきく相手だったよ。私は2学年上だから、実際に知っているのは2人が中1と高1の時だけだが」
「母さんなら相手が会長令嬢だろうが、どこかの国の王子様だろうが気にしないだろうな」
 豪が目に浮かぶ様だと溜息を吐くと、皆がたしかにと笑った。

「だいたいあんたって昔っから人を騙すのが上手かったわね。天ノ宮の血を強く引くくせに、佐藤姓をいい事に一般人を装ってたわ」
「騙す? 人聞きの悪い事を言わないでよ。沈黙は金という言葉を知らないの。何でわざわざ曾祖父の名字を周囲にふれ回らなければいけないのよ。佐藤がわたしの名字だったんだから、あんたにとやかく言われる事じゃ無いわ」
「生君の事も、愛が見つけてこちらが調べるまで報告しなかったわ」
「思い出すのも不愉快な事を言わないでよ!」
 自分の名前が出て「俺?」と生が自分を指差すと、正規は少し困った様な顔をした。
「生君の資質は天ノ宮の血が強く現れたものよ。資質をもっと伸ばす為に、あれほど良い条件で天ノ宮家に養子にと誓願したのにあんたは一蹴してくれたわ」
 やれやれという風情で肩を竦める可奈女に、両手を腰に当てた恵が強く反論する。
「可愛い我が子を、一族の為だなんて馬鹿馬鹿しい理由で手放す親は親失格よ! 愛君の場合は事情が事情だから引き受けたけど、天ノ宮のそういうところって昔から大嫌い。豪が自分の意志で千寿子ちゃんとの婚約に同意しただけでも、感謝して欲しいくらいよ」

「俺に養子の話が有ったんだ」
 呆然として俯く生の頭を、隣に座っていた豪が「俺が知ってたら何が有っても断って貰った」と言って抱え込む。
「あの時は、怒りまくった母さんが天ノ宮家の使いに塩をまいて撃退したんだよ。私もお前を手放す気は全く無かった。覚えていないか? 家中が塩だらけで、家族全員で床掃除した事が有ったろう」
「あ、あの時か」と豪と生が同時に手鼓を打つ。
 知らなかった事とはいえ、愛と千寿子が本当に申し訳無い事をしたと生に謝った。
「しきたりなんだから仕方無いでしょう。わたしだって、好きで愛を養子に出したんじゃ無いわよ!」
「しきたり? はっ。笑わせんじゃ無いわ。自分の時は散々ごねて逃げ出したくせに」
「……25年も前の事を、今になってあんたがそれを言うの!」
 吐き捨てる様にきつい言葉を投げつける恵に、可奈女の両手が震える。
「当然。わたしだから言ってんじゃないの。あんたもすっかりヤキが回って忘れてるようだから、思い出させてあげてるんじゃない!」
「25年前というと母様が16歳の時。おじ様、何が有ったんですか?」
 正規が千寿子の気迫に苦笑して「これは本当は一族の間でも禁句になっているんだがね」と昔話を始めた。
「25年前のあの日、天野一族全員が震撼するような事件が起こった」

 可奈女と恵は天気の良い日は、いつも中庭の木の下で一緒に昼食を食べていた。
 高校生の身で会社経営の一端を担うという重責に悩まされていた可奈女にとって、恵と2人きりで過ごす昼休みが唯一、完全に息抜きができる大切な時間だった。
 日頃食欲旺盛な可奈女がお弁当の半分も食べ終わらないうちに蓋を閉じて大きく溜息を吐く。
 恵が不思議そうに可奈女の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? いつもは隙有らばわたしの分まで横取りするあんたが、たったそれだけしか食べずに残すなんて」
 じと目で恵を見返して、再びふうっと大きな溜息を吐く。
「……今日はさすがにあんたと口喧嘩する元気が無いわ。明日の事を考えたらいくらわたしだって食欲も落ちるわよ」
「明日? あんたの誕生日で、譲さんとの婚約発表パーティーを盛大にやるんだったよね」
「明るく言わないでよぉ。こっちは気が重くて仕方無いっていうのに」
 可奈女はへたりこむように、芝生の上にごろりと寝転がった。
「そこで寝ると後で草を払うのが大変よ。それはともかく、何でそんなに気が重いの?」
「誰にも言わない?」
 自分を見上げる可奈女のおでこを軽く弾いて、恵は笑って頷いた。
「わたしの口の堅さはあんたが1番知ってるでしょ? ほら、言ってごらんよ」
「婚約したくない」
「―――――――はぁ!?」
 恵のあまりの大声に、可奈女は思わず飛び起きて耳を塞いだ。
「ちょっと恵、声が大き過ぎ。それに誰かに聞かれたらどうするの」
「それどころじゃ無いわよ。ちょっと来て」
 可奈女の腕を取ると、恵は走って林の奥に引っ張って行った。
 周囲が木に覆われ、外からは完全に見えない場所まで来ると恵は可奈女の手を離して振り返った。
「どういう事? わたしはあんたと譲さんは熱愛カップルだと思ってたのに、喧嘩でもしたの? それとも何か問題でも起こったの?」
 一気にまくし立てる恵に可奈女が違うと頭を振る。
「そうじゃないの。譲さんとはとても上手くいってるわ。彼、大人だしね。でもね、わたしは明日やっと16歳になるのよ。法律で結婚が認められた年齢になったらすぐ婚約だなんて、時代錯誤だなって思いだしたらどんどん不満や不安の方が大きくなっちゃって、逃げ出したくて仕方が無いの」
「あのー、もしもし可奈女さん? ついこの間まで散々人にのろけを聞かしておいて、今更逃げたいは無いんじゃない」
 こめかみに人差し指を当てて恵みが唸ると、可奈女がしゅんと俯いた。
「わたしだって解ってはいるのよ。AMANOと一族の為にも、早く身を固めて安心させなきゃいけないって事くらい」
「だったらどうして今になって、婚約したくないなんて言い出したの?」
「譲さんの事は凄く好きよ。でもまだ婚約はしたくないの。気持ちに正直でいたいから、余計に形式で縛られたく無いの。明日の婚約発表パーティーが駄目になれば、少しは時間が稼げるんじゃないかと思うの」
 よほど気が咎めるのか、可奈女は指先にもたれた木の細い枝を絡ませながらポツリと漏らす。
「そんな理由で婚約をすっぽかされたら、譲さんがショックで落ち込むとか思わないの?」
「後で土下座してでも許して貰えるまで謝り続けるわ。好きって気持ちは本当だから」

 両腕を組んでしばらく考え込んでいた恵は、1度空を見上げるとふっと肩の力を抜いた。
「可奈女、好きだからこそ本気で逃げたいのね?」
「うん」
「後でどんな問題が起こっても?」
「うん」
 素直に頷く可奈女に指を3本立てて恵がにやりと笑った。
「今日から3日。3日間だけで良かったら、わたしが誰からもあんたを匿ってみせるわ」
「恵?」
「実はわたしも天ノ宮家のやり方に不満が有ったのよね。わたし達はまだ高校に入ったばかりじゃない。いくら好きだからって一生の伴侶を公式に決めるのは早過ぎると思ってたの。まぁ、あんたの立場を考えたら、生まれた時から人に決められていましたって言われても不思議じゃないけどね」
 可奈女は半ば信じられないという気持ちで恵を見つめた。
「天野一族全員を敵に回す気? もし見つかったら、恵が凄く困った立場になるんじゃないの?」
「だから3日間だけって言ってるでしょ。誰にも見つからず、後で絶対にばれ無いだけの自信は有るわ。この話にのるの、のらないの?」
 恵と可奈女の付き合いは3年半になるが、恵がこうと言って本当にそうならなかった事は無かった。
 譲を除けば、可奈女に取って恵の言葉ほど信の置けるものは無いのだ。
「のるわ!」
「後には引けないわよ。良いわね?」
 恵の差し出した手を可奈女が強く握り返した。

 その日の放課後、可奈女の姿は校内で消え、迎えに行った運転手からの連絡で天ノ宮家は震撼した。
 可奈女失踪は即座に一族全員に知らされた。
 社会的影響の大きさを鑑みて警察には知らせず、AMANO警備部門の精鋭部隊と散策能力を持った一族全員が呼び出されて必死に捜索した。
 誘拐と失踪の両面でのべ1200人態勢で捜索し続けたが、手掛かり1つ見つけられなかった。
 翌日になっても可奈女は発見されず、婚約発表パーティーは中止になった。
 当然、1番仲の良かった恵にもきつい尋問が行われ尾行が付いた。恵は屈強のテレパス達を完全に煙に巻き、透視能力者達に家の捜索もされたが、一切尻尾を掴ませずに、親友が失踪して不安で一杯の状態を演じ続けた。
 逆に詰問する親族に逆に食って掛かり、可奈女の不在を責め立てて、自分は無関係だと完全に思わせた。
 3日目の朝、可奈女は無事に学校の養護室のベッドに寝ているところを発見された。
 皆が安堵したが、可奈女は失踪していた間の記憶が一切無かったので、再び大騒ぎになった。
 医師やテレパス達が呼ばれ、数日掛けて調べたが何も見つける事ができなかった。

 千寿子が真っ青になって両手で頬を覆った。
「そんな事が有ったなんて全く知らなかったわ」
 「僕も」と愛が訴える。
「君達が知らないのは当然だと思う。あの事件は一族中で特級の禁句になっているから」
「AMANOを相手に16歳の少女がたった1人で人1人を完全に隠匿するなんて到底不可能だ」
 智が信じられないと声を上げると正規は「普通ならそうだろうね」と頷いた。
 感歎と畏怖の入り交じった空気に全員が飲み込まれ、誰1人として二の句が継げなかった。
「で、結局どうなったの?」
 沈黙に耐えかねた生が正規の顔を覗き込む様に背を伸ばす。
「前会長が事態を重く見て、予知能力者達の意見をまとめた結果、しばらくは静観した方が良いだろうという事になった。原因不明のまま、婚約は会長が高校を卒業後に延期されたんだ」
「母様の記憶が無かったというのはおば様と口裏を合わせたという事かしら?」
 千寿子の問いかけに正規は違うと頭を振った。
「詳しい事は未だに私にも教えて貰っていない。ただ、母さん曰く「学校から出ると絶対誰かに見られるし、可奈女が起きてると強力なテレパスなら意識を辿って見つけるだろうから、本人に黙ってジュースに後に残らない薬を入れて眠らせちゃった」だそうだ」
 再び、全員に沈黙がおりる。
 正規が冷めた紅茶を飲み干すとカップを床に置いた。
「母さんの超能力は、見抜く事と隠す事の2つだ。厳戒態勢で真っ先に学校内がくまなく捜索されたにも拘わらず、養護室の一画で眠っていた会長に誰も気が付かなかった。と言うより、母さんがカーテンの引かれたベッドに誰も気を留めないように、ずっと超能力を使い続けたんだな。会長を眠らせたのも後々、会長自身の意志で失踪していた事がばれない為だと思う」
「きっと。3日間、徹夜で超能力を使い続けだんだろうね。なんか、お母さんって僕達の常識や能力を完全に超えた存在って気がする」
 和紀が素直に賞賛する。
「そうでも無いさ。母さんは単に大事な親友の願いを叶えたかっただけだと私は思う。母さんの口癖は「自分に嘘をついて生き続けるのは、最終的に自分も周囲の人も1番不幸にする選択」だから」
 正規が笑って言うと千寿子が両手で膝を抱えて俯いた。
「母様にはそれだけ自分を大切に思ってくれる親友が居るのね。羨ましい」
 小さくかすかに震える肩に横に座っていた豪が気付いて視線を向ける。
 少しの間考えた豪は、視線を逸らしてそっと肘で千寿子の腕に触れた。

『お前には俺が居る』

 はっと気付いて千寿子が顔を上げると、豪はかすかに頬を染めながら何事も無かった様に天井を見上げていた。
 一瞬で癒された心に暖かいものがこみ上げてくる。
 何かを言わなければと千寿子が必死で言葉を探していると、生が立ち上がって千寿子の正面に立った。
「千寿姉ちゃん、何言ってるんだ? 姉ちゃんには兄ちゃんや俺や此処に居る皆が居るじゃないか。姉ちゃんのお母さんって1人っ子だったんだろ? 姉ちゃんには愛兄ちゃんって姉弟が居るんだからそれだけでもお母さんより恵まれてると俺は思うよ」
 呆気に取られた千寿子は一瞬言葉を失った。
 少しだけ腰を浮かして、生や周囲に居る皆からの温かい視線と笑顔を受けて破顔した。
「そうだったわ。わたしには皆が居てくれるのよね。変な事を言って本当にごめんなさい」
 真面目に頭を下げる千寿子に、生も少しだけ頭を下げた。
「謝らなくていいよ。逆に俺もきつい事言ってごめん。うっかりしてたけど俺達は皆男だから女の子同士でしかできない話っていうのは、姉ちゃんが話したくてもできないもんな」
 生の言葉に合わせて、和紀が笑って応じる。
「例えばアレの話とか、ソレの話とか、男が聞いちゃいけない話って一杯有るもんね」
「たしかにその手の話を振られたら困っちゃうよね。僕は姉さんが居るからまだ知ってる方だと思うけど」
 堅くなった空気を吹き飛ばすように愛が更に混ぜ返す。
「男だって女からアレの大きさとか形とかあの回数とか聞かれたら困るだろ」
 智の爆弾発言に豪と千寿子が同時に吹き出した後、赤面して両手で顔を覆った。
「形とかあの回数って何の事?」
 生の素朴な疑問に智が答えようとした瞬間、左右から愛と和紀が同時に口を塞いだ。
「あー、生にもその内解るから今は知らなくて良い。この話はここで終わりだ」
 正規が苦笑して言うと、生は「俺だけ解らないのって何か不公平だ」と言いつつ腰を下ろした。

 しばらく睨み合っていたが、恵が1つ溜息をついてソファーに腰掛けた。
「可奈女も座って少しは落ち着いたら。紅茶がすっかり冷めてしまったわね。すぐに入れ直すわ」
 自分のカップに手を伸ばそうとした恵の手を可奈女が退ける。
「替えなくて良いわ。冷えても恵が入れた紅茶が美味しいのはよく知ってるから。それに少し頭を冷やすには丁度良いと思うの」
 カップに口を付ける可奈女に恵が笑いかける。
「可奈女がそう言うなら、わたしも冷めたので良いわ。そういえば、可奈女はよく運転手さんをまいて放課後にうちに遊びに来ていたわね。今考えるとお互い怖いもの知らずで、結構やりたい放題してたものだったわ」
「そうね。あの頃が1番楽しかったわ」
 頬に掛かった髪を軽くかき上げ、可奈女は懐かしい思い出にふけるように遠くに視線を投げた。
「千寿子ちゃんも愛君も、本当に素直で良い子ね。あの頃のあなたみたいにせっぱ詰まった表情を見せた事は1度も無いわ。やはり姉弟で助け合えたからかしらね」
「ええ。男女の双子で産めて本当に運が良かったと思っているわ。千寿子にはわたしみたいな寂しい思いはさせたく無かったから」
 頷いてカップをテーブルに戻すと恵は「それなら解るでしょう?」と静かに告げた。
「自分の事を振り返れるのなら、まだ若い2人の自由意志を尊重して、今は静観しろって事ね。わたしが矢面に立って、豪君の早期教育を望む親族を黙らせると」
 足を組み直して可奈女はにっこり微笑んだ。
「良いわ。あの日頃からうるさい連中にもう1度一泡ふかせてやろうじゃないの」
「そうこなくちゃね。ようやくあんたらしくなったじゃない」
 恵も声を上げて笑い返した。

 恵がソファーから立ち上がると、廊下に鎮座していた全員を呼び戻してお茶を入れ直した。
 皆が落ち着くのを待って可奈女が告げた。
「豪君の場合、若過ぎたって事とAMANOをあまりにも知らな過ぎる事が問題なの。わたしの権限で重役達を黙らせておけるのは……。そうね、豪君の18歳の誕生日直前までが限界かしら。千寿子」
「はいっ」
 名前を呼ばれて立ち上がった娘に、可奈女は手を振って腰を下ろすように促す。
「わたしがあなたのやっている事の全てをフォローできるのは、来年の7月末までよ」
 緊張する千寿子に可奈女は満面の笑顔を浮かべて告げた。
「それまではあなたのやりたい様に存分におやりなさい。責任は全てわたしが持つわ」
 組んだ手を震わせる千寿子の頬に、可奈女はそっと手を添えた。
「こんなに不安な思いをさせて悪かったわ。皆もね」
 リビングに居る全員の顔を見渡すと、可奈女は立ち上がって玄関へと向かう。
「せっかくの休日にお邪魔して悪かったわ。でも、皆の元気な顔を見れて安心したわ。また、会える日を楽しみにしているわね」
 玄関先まで見送りに出た全員に軽く手を振って、可奈女は待たせておいた車に乗り込んだ。

 本社に向けて走り去る車の姿が見えなくなると、千寿子は力が抜けてその場にへたりこんだ。
「大丈夫か?」
 即座に差し出された豪の腕に支えられて、千寿子は何とか立ち上がると、服に付いた土を払ってにやりと笑った。
「ありがとう、豪。……。後1年ね。思いっきりやってやろうじゃないの」
「誰に向かって言ってるんだ?」
 ふらつきつつも低く押し殺した声で呟いた千寿子を、かばいながら豪が問いかける。
 豪の腕を退けると、千寿子はしっかりと自分の足立ち上がって振り返った。
「わたし自身に言ってるのよ。もう絶対に負けるもんですか。母にも親族達にもね」
 自分のふがいなさへの怒りに瞳を輝かせ、きっぱり言い切った千寿子に恵が笑いかける。
「千寿子ちゃんの性格は可奈女似ね。愛君は譲さん似だけど」
「この場合、誉め言葉と受け取っておきますわ。おば様、今日は本当にお世話になりました。今日はこれで失礼します」
 千寿子は皆に向かって頭を下げると瞬時にその場から消えた。可奈女から解放されてテレポートが使える様になったらしい。

 呆然とする豪の後ろで愛達はテレパシーで話し合っていた。
『豪って全然自分の立場解って無いよね』
 和紀が溜息をつくと愛が苦笑して応えた。
『誰か豪に説明する?』
 ぶるぶると生が首を横に振る。
『俺は絶対やだよ。兄ちゃんの鈍さって半端じゃ無いんだから』
『俺は豪本人の自覚ができるまで、周囲が何を言っても無駄って気がするぞ』
 智の言葉に正規や恵も含めて皆が頷く。

 千寿子に残された時間はそのまま自分が自由でいられる時間なのだと豪が気付くのはいつの事か。
 豪を除く天野家の住人は全員同時に盛大な溜息を吐いた。

つづく



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