side−B −はじまり−2 豪 高校1年3月


「兄ちゃん!」
 焦った生が豪の腕に必死でしがみつく。
 その瞬間に我に返った豪は、額から汗を流して青ざめた。人前で超能力を使う事は、両親から堅く禁じられている。
「あ……」
 いくら相手がテレパスで自分の正体を知られているとはいえ、禁を犯した事には変わりは無い。豪の念動力はあまりにも強く、感情のままに使う事は危険過ぎるのだ。
「すまなかった」
 豪の心からの謝罪に「全く気にしていない」と告げると、千寿子と愛は手分けして散らばった紙切れをかき集めてゴミ箱に入れた。
 そして、2人は同事に豪に向けてにっこり笑いかけた。
「すばらしい超能力のコントロールだわ。書類以外のどこにも被害が出ていないもの」
「そうだね。豪君はあの時、怒りで一瞬我を忘れていたよ。だけど僕達に矛先は向かなかったね。決して人を傷つけない様に無意識レベルで調整できてるんだよ」
 千寿子達の言葉に気を良くした生が笑って応える。
「兄ちゃんはそれだけは絶対にしちゃいけないっていつも気を付けてるんだ」
 まだ立ち直りきっていない豪の手を引いて生がソファーに腰掛けさせた。

 豪は自責の念に駆られていた。感情のままに超能力を使ってしまったのは完全に自分のミスだ。それなのに、千寿子と愛は当然の事だと受け止め笑っている。
(同じ能力者とはいえ、一体どういう神経をしているんだ? いや、本当の問題はそこじゃ無いだろう。どうしてこんなに論点がずれていくんだ?)
 こめかみを押さえて豪が唸る。
「養子の件は良い。親父達が全てを承知した上で決めた事だし、やんごとなきお家の事情とやらで愛の行き場が無いのなら、俺の弟として受け入れる。生も本当はそうしたいんだろう」
 豪が視線を向けると、生はにぱっと笑って何度も頷いた。
「うん。ここに来た時からずっと愛君のSOSがずっと聞こえてたんだ。俺、愛君を助けたい。兄ちゃん、やっぱり解ってくれてたんだ」
 生が喜んで豪の首にしがみつく。愛も喜びで頬を染めて目には涙を浮かべていた。

「だから、俺が言いたいのはだな……」
「これの話でしょ?」
 にっこり笑って千寿子が婚姻届を指先でヒラヒラと振った。
「あーっ!」
「ほーーーーほほほ。豪君残念でした。さっきのは精巧なコピー。こちらが本物よ」
 憤慨した豪に千寿子が更に笑みを浮かべる。
「わたしには予知能力も有るの。あなたが怒りで超能力を使う事も判っていたから、事前にこれを用意しておいたのよ」
「くそぉ。このっ……よこせ! それも破ってやる」
 豪がテーブル越しに手を伸ばすと、千寿子の手から瞬時に婚姻届が消えた。
「瞬間物質移動? 千寿姉ちゃん、凄いよ!」
 千寿子の能力の幅広さに生が素直に感嘆の声を上げる。
「生、お前どっちの味方なんだ?」
 じろりと豪が睨み付けると生はぺろりと舌を出した。
「だって兄ちゃんはすごくもてるくせに鈍いしトロいから、未だに彼女の1人もできないだろ。せっかく、美人の千寿姉ちゃんがプロポーズしてくれるならお似合いだなって思ったんだ」
「生! お前まで俺を裏切る気か!?」
 豪は生まれて初めて人前で泣きそうになった。
 両親に完全に騙されて勝手に一生の身の振りを決められ、その上、誰よりも大事に思っていた生からこれほど酷い言葉を聞くとは思わなかったのだ。
「はいはい。兄弟喧嘩は家に帰ってからしてね」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」
 兄弟の間に割って入った千寿子に豪の怒号が降り注ぐ。
「全てを話すと始めに言ったはずよ。最後まで聞いてそれでもあなたが嫌なら、わたしの手であれは処分すると約束するわ」
 豪の怒りの形相に全く怯みもせず、千寿子は真摯な目を豪に向ける。
 豪は不安げに自分を見つめる生と愛の顔に視線を移して、心配は要らないと少しだけ頭を振った。
 深く息を吸うと千寿子の顔を正面から見据え、ソファーに座り直した。
「話を聞く」

「お茶を入れ直すわ」
 そう言って千寿子が席を外すと、愛は豪に頭を下げた。
「豪君、本当にありがとう。それとさっきは試す様な真似をしてごめん。君の超能力をどうしてもこの目で見たかったんだ」
「俺の超能力を、一体何の為に?」
「それは……」
 愛が言いかけると千寿子が新しいティーセットをケーキを持って戻ってきた。

「豪君の怒りはもっともだと思うの。あなたの意志を完全に無視して、周囲だけで勝手に話を進めていたのだから」
 千寿子は紅茶を一口飲むと話を続けた。
「さっきも話したけど年に1度行われるパーティーは、愛だけではなくわたしのお見合いの席でもあったの。天ノ宮の長女は血筋を守る為に16歳の誕生日までに最低でも婚約しておかないといけない決まりなのよ」
「愛の時も異常だと思ったが、本家は時代錯誤もいいとこだな」
 豪の嫌みを含んだ口調に千寿子は全くだと頷いた。
「全くそのとおりよね」
 ぞんざいな口調から、千寿子自身も自分の置かれている立場にかなり怒っていると豪は気付いた。
 千寿子は指を1本ずつ数折りながら豪達に説明する。
「選ぶのはパーティーに出席を許された能力者である天野家の人間。血筋は近すぎてはいけない。歳も離れすぎては駄目。その上たった数度、しかもほんのわずかな時間に会っただけの人の中から相手に悟られずにAMANOを継げるだけの能力を持った男性を探せなんて言うんだもの。絶対無茶だと思ってたわ。実際にあなたを見つけるまではね」
「え?」
 視線を受けて豪が「俺の事か?」と自分を指さすと、千寿子は俯く。
「豪君ならとうるさい親族達も納得してくれたのよね」
 千寿子の表情から、もしかしたらと豪は1つの推論を挙げてみた。
「お嬢さんは本当は結婚したくないのか?」
「今はね。とにかく今は時間が欲しいの」
 伏せ目がちだった瞳を真っ直ぐに豪に向けて千寿子は訴えた。
「あなた達の力がどうしても必要なの。協力して貰えないかしら?」
 豪と生はお互いの顔を見合わせて1つの答えを導き出した。
「それはもしかして俺達家族全員の協力が欲しいという事なのか?」
「あなた達は勘も良いし、テレパシーを使わなくても心が通じ合えるのね。そのとおりよ」
「親父の転勤もそれに関係しているんだな?」
 千寿子は頷いて長い昔話を始めた。

 豪が生まれた時、両親は大変喜こんだ。だが、しばらくすると豪の超能力の強さに両親は困惑した。
 毎日のように破壊される家具や衣服、経済的な事よりこれほどの能力を持つ豪をいかに育てていくか夫婦は連日話し合った。
 そして、父の正規は別部門への転勤を決意する。
 製薬部門で数学の天才と異名を取り、賄賂などを一切使わずに絶対に病院側にも得をさせる。計算と信用だけで営業トップの成績を収めていたが、勤務は多忙を極めた。
 百年前に天ノ宮家から分家した血筋で能力も高く、栄養学と保育の資格を持つ恵でも、1人で豪を育てる事は不可能だった。
 第1線の職場を辞した正規は恵と共に時間の許す限り豪と過ごした。
 その為、かなりの打撃を受けた会社は、何度も正規に帰属するように要請したが、頑として正規は受け付けなかった。
 道徳観念、超能力の使い方や制御方法、そして人前では決して超能力を使ってはいけない事などを自然な遊びや何気ない会話を通して豪に教えていった。
 すでに持っている超能力を強引に封印する事は不可能であったので、豪の持っていた素直で優しい気質を伸ばす事で破壊活動を止めさせたのだった。
 豪が幼稚園に行く頃にはかなりの能力制御ができるようになっていた。
 そこで夫婦は豪に兄弟を作る事を決心し、生まれたのが生である。
 豪は少し歳の離れた弟を溺愛し、宝物のように大切にしていた。両親も豪の時と同様に生を心から愛して育てた。
 生が動ける頃になると両親はあることに気付く。生はどんな怪我をしても、翌日には必ず完治していた。
 両親は生が治癒の能力者で有ることを理解した。
 その超能力が精神にも及ぶ事は豪の生への溺愛ぶりを見れば明らかだった。
 兄弟なら痣の1つや2つはできる喧嘩をするの普通だが、年齢が多少離れているとはいえ、1度も喧嘩をした事は無い。
 生は決して特別良い子では無かったが、豪はどんな時でも生の味方だった。
 両親は生が怪我の治癒以外では無意識の内に能力を発揮しているのに気付いていたので、癒し能力を制御させるのは不可能だと判断した。
 以来、2人共傷が無くても包帯や絆創膏をする事になった。
 酷い怪我をした翌日に無傷で学校へ行けば、どうしても人から不審を買うからだ。
 両親は生にも人前で超能力を使う事をきつく禁じた。
 そして、現在に至っている。

 豪と生は千寿子の話に驚きを隠せずにいたが、黙って最後まで聞いていた。
「母ちゃんが能力者だなんて知らなかったよ。いつも勘がすごく良いなって思ってたけど」
「ああ、それに親父が俺が生まれた為に無理矢理職場を変えたなんて知らなかった。たしかに俺はガキの頃は超能力の制御なんて全くできなくて、母さん達を困らせてばかりいたと思う」
 項垂れる豪に千寿子は頭を振った。
「豪君の超能力は方向性さえ誤らなければ素晴らしいものよ。ご両親はあなた達が立派に育った事をとても誇りに思っていらっしゃるわ」
 顔を上げた豪に千寿子は真剣に訴える。
「わたしにはどうしてもやりたい仕事があるの。これは天ノ宮家がAMANOを創立した時からの悲願で、この為に一族が総力をあげて会社を大きくしていったと言っても良いわ。資本金が無ければどれほど高い志でも実行は不可能だもの」
 テーブルに両手を付いて千寿子は力説した。
「今が会社創立以来、最高の人材が揃っているの。この機会を逃したらきっとこのプロジェクトは、いつまで経ってもできないわ。それにあなた達のお父様にそろそろ第一線に戻っていただきたいのよ」
「お嬢さんがこれほどまで手の組んだ方法を取ってまで、やりたがっている仕事っていうのは何なんだ?」
 豪の問い掛けに千寿子はウインクして答えた。
「人助け」
「はぁ!?」
 思わず豪と生はソファーから転げ落ちそうになった。
「一体何だ? そのふざけた内容は!」
 豪の抗議に千寿子は両手を腰に当て、強い意志に瞳を輝かせて反論した。
「ふざけてなんかいないわよ。AMANOの企業方針は『福祉・安全・健康』よ。医療面でも技術面でも常に最前線を目指しているわ。だけど、今の技術では助けられれる人はわずかなものよ。でも、あなた達の超能力を使えば、もっと多くの人を事故や災害から助けられるのよ」
 千寿子の申し出は豪に取ってとても魅力的に思えた。
 自分達の超能力を人命救助の役に立てるものなら是非参加したいと思った。
 しかし、豪は両親からきつく言い渡されている禁を犯す気にはなれない。
「悪いが、お嬢さん。俺達は人前で超能力を使う事を禁じられているんだ」
 俯き加減に首を横に振って答える豪に千寿子の眉が軽く吊り上がった。
「あら、とても交通事故に遭いそうになった男の子とお婆さんを超能力を使って、助けた人の台詞とは思えないわね」
 千寿子の指摘に、豪は思わずティーカップを取り落とした。
 図星と察した生が豪を恨めしそうに見上げる。
「兄ちゃん、母ちゃん達からあれほど言われてたのにちゃっかり隠れて超能力を使ってたんだ」
「あ、あれはつい……目の前で交通事故が起こりそうになって、気が付いたらあの人達を抱えてジャンプしてたんだ」
 ばつが悪そうに豪が生から視線を外す。
「実は豪君のそういう性格も親族達に受けが良いのよね。困ってる人や目の前で危険にさらされている人を放って置くことができないのでしょう」
 豪が落として割ったカップを片付けながら千寿子が話し続ける。
「心配しなくても良いわ。ご両親はあの事はとっくにご存じよ。この仕事を引き受けてくださる気になったのも、あなた達の性格を充分に考慮した上での事だと思うの」
 千寿子に言われて、嘘が苦手な豪は少しだけほっとした顔を見せた。
 これまで両親や生に人助けの為とはいえ、うっかり超能力を使ってしまっていた事を黙っている事が苦痛だったのだ。
「協力して貰えるかしら?」
 千寿子と愛の期待に満ちた眼差しと、生の訴える様な視線を受けて豪は微笑んだ。
「引き受ける。生もやる気充分みたいだからな」
 豪の返事を聞いて生は満面の笑顔が浮かべて豪に抱きついた。
「兄ちゃんのそういうトコ大好きだよ! 俺もこの超能力を人の為に使いたいってずっと思ってたんだ」
 豪も生を抱き返して頭を何度も撫でた。

「で、豪君はこれにサインする気になってくれたのかしら?」
 いつの間にか千寿子の指には再び婚姻届が挟まれていた。
「ちょっと待て! 何で仕事とそれが関係有るんだ?」
 ガタガタと大きな音を立てて焦った豪がソファーから立ち上がる。
「言ったでしょう。わたしは16歳までに婚約しないといけないと。あと何ヶ月も無いの。自分で見つけられないと、親族達から強引に誰かと婚約させられてしまうわ」
「お嬢さんは嫌だと思っているんだろう。何でそこまで決まりに縛られなくてはいけないんだ?」
 豪の訴えに千寿子に苦悶の表情が浮かぶ。
「わたしは『宮司の巫女』。天ノ宮の女は全ての超能力に通じ、一族を纏める役目を負っているわ。だからこの歳でAMANOの次期会長なのよ。一族への義務は果たさなければならないわ」
 豪は千寿子の言葉から嘘は見いだせなかった。
 おそらく生まれた時からずっと義務に縛られてきたのだろうと、豪は初めて心から千寿子に同情した。
「わたしは時間が欲しいの。お願いよ。ふりで良いからわたしの婚約者になってくれない?」
 豪はソファーに腰掛けると千寿子に向かって、書類を渡すようにと手を差し出した。
「印鑑は持ってきていないから今日はサインだけで良いか? ペンも貸してくれ」
 口元に当てた手を震わせながら千寿子が問い掛けた。
「本当に……良いの?」
「お嬢さんはどうしてもやりたい仕事が有る。でもそれをやるには時間が無い上に、うるさい親族達を黙らせる必要が有るんだろう? 良いさ。全面的に協力する」
 豪の言葉に千寿子の瞳がかすかにゆれた。
「ありがとう……豪君」
 豪がサインした婚姻届を千寿子は慎重に封筒に収めた。

 その直後、隣の部屋から2人の少年が飛び込んできた。
「あー、長かった。待ちくたびれちゃったよ」
「まぁそう言うな。豪がしつこくごねる事は俺が予知済みだったろう」
 呆然として豪と生は新たに現れた2人の顔を見つめた。
 千寿子が2人の横に立った。
「紹介するわ。茶髪が天野和紀(かずき)君。15歳、テレポーターで透視・遠視能力者でわたし達の又従兄弟。黒髪が天野智(さとる)君、同じく15歳で予知能力者、従兄弟よ。彼らは中学時代からわたしの個人スタッフとして協力してくれているの。これからあなた達の仕事仲間になるわ」
「よろしく豪。顛末は愛からテレパシーでずっと送られていたから大笑……もとい、君達の事をよく知る事ができたよ」
 人好きのする笑顔で和紀と紹介された少年が豪に手を差し出す。
 背はこの歳の少年なら平均くらい、穏やかでちょっと不思議な色をたたえた瞳と、みかんのように柔らかそうな明るい色の髪が笑顔に似合っていて印象的だった。

(愛の奴、ずっと黙ってると思ったらテレパシー中継してたのか)
 憮然としながら豪は差し出された和紀の手を取った。
「豪の単純さは今に始まった事じゃないからな。今更どう言っても無駄だろう」
 言いたい事をずけずけと言う智を豪は睨んだが、智は全く怯まない。
 和紀とは対照的な硬質で黒髪、きつく感じられる瞳は自分を通り越して、何か別の物を見ているのではないかと錯覚させる。
「『お前、初対面の相手に失礼だろう』と言いたいんだろう? 俺はテレパスじゃ無いが予知で判るんだ」
 いかにもお座なりという雰囲気で差し出された手と豪は我慢して握手した。
 握った手は豪が思っていたよりずっと細かった。身長は和紀とそれほど違わないが、薄手のセーターで隠れている智の身体は標準より遙かに線が細いとそれだけで知れる。
「ああ、生。俺も君には会いたかったんだ」
 にっこり営業スマイルを浮かべて智は生に手を差し伸べた。

(俺と態度が全く違うじゃないか!)
 怒った豪の肩にそっと愛が背後から手を添えて、控えめにテレパシーを送る。
『豪、智の事を怒らないであげて。智は予知という特殊な能力の為に子供の頃から少し神経質なところが有るんだ。僕も自分の超能力に振り回されてきたから智の気持ちは解るんだ』
 テレパスは超能力を制御できなければ、周囲の人間のむき出しの感情に自分自身の心が押しつぶされる。
 知りたくもない未来をずっと視ている智も、かなり辛い思いをしてきたのだろうと豪が察すると、愛が肯定の意志を伝えた。
「さて、全員が揃って自己紹介が終わったところで今後の話をしましょう」
 千寿子が窓際に立って外を指さした。
「豪、生、あなた達一家の新居はここ天ノ宮家の敷地の一角に建設済みよ。すでに手入れもされているわ。春休み中に入ってすぐに引っ越すのだったわね。そこには和紀と智も一緒に住む事になるから皆仲良くしてね」
「は?」
 豪と生が何を言っているのか判らないと声を上げるが、千寿子は意に介せずに話し続ける。
「身の回りの事はあなた達のお母様が担当されるわ。お母様曰く「男の子が2人でも5人でも大した変わりは無いから喜んでお世話をさせて貰います」って笑っておっしゃってくださったわ。お父様にはこの仕事に関する様々な予算から事務処理まで全て引き受けて頂く事になっているの」
 千寿子が「思い出したわ」と言って1つ指を鳴らした。
「そうそう、大事な事を言い忘れていたわ。アルバイト代の他に生活費および大学院までの学費を全て免除。これが雇用条件なのだけど他に質問は有るかしら?」
「なんだって! それじゃここに居る男全員一緒に暮らすって事なのか?」
 驚いて大声を上げた豪に千寿子が少しだけ意地悪な笑みを見せた。
「嫌なら豪はこの家で暮らしても良いのよ。わたしの婚約者なんだから」
「それだけは絶対に嫌だ!!」

 ころころと鈴を転がすように笑う千寿子に、さっきまでの真摯な態度に完全に騙されたと豪は思った。
 元々すぐに誰とでもうち解けられる癒し能力者の生は、すでに他のメンバーと笑って話している。
 豪はこれからの生活を思うと思わず頭を抱えこんだ。

つづく



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