Rowdy Lady シリーズ 2 『木星より愛をこめて』

14.

『獅子、獅子。起きて。何が有っても生き続けると皆で誓ったのでしょう』

ああ。
母さんが死んでしまったあの日、猫と鹿乃子と烏の4人で誓った。
どんな手段を使っても俺達は生き続けようと。
……母さんの遺言だった。

『それなら生きて。目を開けて。お願い』

もう瞼も開けられない。
限界が来たんだ。

『駄目よ。生き続けなきゃ駄目。あなたが本当に会いたい人に会えないまま死んでしまっても良いの? 絶対に後悔しないと言える?』

……。

『彼女に会いたいでしょう?』

もう1度だけで良いから会いたい。
綺麗な声、輝く瞳、強く優しい心。
生まれて初めてあれほど綺麗な存在に会ったんだ。

『だったら生きなきゃ。さあ、わたしの声に付いてきて。彼女に会わせるわ。こっちよ……』

待ってくれ。

 リリアがふっと息を付いて獅子の額から手を離すと大の胸にもたれ掛かった。
「獅子の意識が戻った? うん。よく頑張ったね。リリア、愛してるよ」
 大が疲れ切ったリリアを抱きしめて何度も髪を撫で続ける。
「心臓はまだギリギリ動いてるな。呼吸もかすかだけど自力でしてる。ビクトリア、アイスパックの予備ってまだ有ったっけ? もうすぐこれも溶けそうだ」
 アトルがワゴン後部に寝かせられ上着を脱がされた獅子に酸素吸入をさせながら、助手席でモニターチェックを続けているビクトリアに声を掛ける。
「強心剤もアイスパックも酸素ボンベも全部使い切ったわ。ああ、船ならいくらでも作れるのに地球は不便だわ。分析データを見る限り獅子は人間DNAの方がかなり強くなっているのね。この状態でタイプAガードロボット相手に、あれだけ無茶な動きをし続けていたのなら本当に危ないわ」
 獅子がこの状態では自分達は到底動けない。
 早急に優秀な医師に頼んで獅子の治療をしないと半日も持たないだろう。
 地球では信用が出来、なおかつ違法行為に荷担してくれるほどの人脈の薄いビクトリアは、まだリンダ達が着かないのかと苛々しながら爪を噛む。

「来た」
 リリアが額の汗を拭って顔を上げると、タイヤが激しく軋む音が早朝の街に響き渡り、濃紺の車が3ブロック先でドリフトするのがガラス越しに大達の視界に入った。
「げっ。RSMの奴、大の癖が完全に移ってやがる」とアトル。
『バックドアを開けて。全員座席から退いて!』
 リンダの怒号に近い声がスピーカから聞こえてくる。
「本気」とリリア。
 大がドアを開けるとリンダが猛スピードで走っている車の助手席窓からボンネットに上がろうとしているのが見えた。
 「おい。まさか……逃げるぞ!」とアトルが全員に声を掛ける。
『コード、大いなる1歩(対6Gモード)』
 リンダが前傾姿勢でボンネットの上を走りながら吐息だけで囁き、ホイスカーの1本をワゴンのフレームに撃ち込むと両足で強くバンパーを蹴った。
 急いで大がリリアを抱えて車から走り出て、アトルは内部から運転席に転がり込んで助手席に居たビクトリアを引っ張ると全身で庇う。
 自動回収されるホイスカーに引っ張られる様にリンダが突風と共にワゴンの中に飛び込んで来る。
 リンダは空中で身体の向きを変え、両足で前部座席のシートを蹴って勢いを殺しながら吐息だけで囁いた。
『コード、ノーマル』
 前部座席シートがフィールドとリンダの蹴りで破砕し、シート下に隠れていたアトル達の上に破片が降り注ぐ。

 リンダは振り返ると迷わずに両手に持った2本のアンプルを獅子の右肩と左脇に同時に打った。
「獅子さん! 獅子さん! わたしの声、聞こえてる!?」
 リンダが必死で獅子の耳元で大声を上げる。
 爆音でくらくらする頭を少しだけ上げてアトルが叫んだ。
「サラ、聞けっ! 動けないだけで意識は有るからこっちの声は聞こえているはずだ。ほとんど自力呼吸してねぇし、いくら走り続けてたからって脈のスピードも異常だ。あちこち変な発熱もしている。マジでやばい状態だ」
「分かったわ」

 バンパーが潰れたα・シリウスの車がワゴンを追い越し、500メートル近く通り過ぎた所で再びターンしてワゴンの横に急停止した。
 リンダより数分遅れでアンプルの入ったケースを持ったα・シリウスと鹿乃子が車から駆け寄ってくる。
「獅子!」
 鹿乃子もワゴンに乗り込もうとするのをα・シリウスが背後から抑えて止める。
「今お前が行っても狭くて邪魔なだけだ。サバイバル訓練を受けているリンダ・コンウェルに委せた方が早い」
 リンダが顔を上げて獅子の気道が確保されている事と酸素ボンベの残量を確認し、獅子の胸に耳を当てて心音を聞く。
「かすかに動いているみたいだけど安定していない上に脈が測れないわ」
「心房細動を起こしている可能性は? 心電図だと心臓の信号は1分間で400以上よ」
 端末を見ていたビクトリアも顔を上げてリンダに声を掛ける。
「わたしは医師じゃありませんし、短時間では判断出来ません。長期に渡る薬の未使用と過度の心臓への負担が原因だと考えられます。このままでは心停止する可能性が高いと思います」
 リンダは固く唇を噛んでウエストバッグから透明な端末を出すと素早く指先を動かして調整する。
「獅子さん。痛いけど我慢して。麻酔をしている時間が無いの。クイーン・ビクトリア、端末から手を離してください」
 リンダは端末を獅子の胸に当てるとボタンを押した。
 獅子の身体が強い電流を受け、一瞬だけ跳ねて小さな呻き声を上げる。

「獅子さん。わたしの声が聞こえてるなら目を開けて!」
 リンダが獅子の耳元で再び大声を上げる。
 獅子の瞼が微かに動くのをアトルが確認して、モニター端末を拾い上げるとビクトリアに渡す。
「心臓は動いているわ。脈拍はまだ180以上有るけど電気ショックはもう使えないわよ」
「分かっています。獅子さん、お願いだから目を開けて!」
 リンダが獅子の手を強く握って耳元で叫ぶ。
 獅子の目がゆっくりと開き、リンダの顔を間近に見ると小声で「これは夢か」と呟いた。
「夢じゃ無いわ。現実よ」
 リンダの声を聞いて獅子は微かに微笑むと再び目を閉じた。
「獅子さん!?」
 リンダが悲鳴を上げると、リリアが大の腕から降りて獅子の額に手を当てた。
「安心したから寝たの」
 リリアが今にも泣きそうな顔をしているリンダの頬に笑みを浮かべて手を添える。
『お願い。そのまま手を握ってあげて。彼はずっとリンダを呼んでいたの』
「わたしを? あ、いけない。鹿乃子さんの無事を言い忘れていたわ。獅子さんはとても心配していたのに」
「……」
 リリアは大きな目を更に丸くしてリンダの顔をじっと見た。
「何? あ、そうね。すぐに専門家に頼んで治療して貰いたいけどこれではとても獅子さんを動かせないわ。Ω・クレメントに応援を頼んだ方が良いかしら。クイーン・ビクトリア?」
 リンダが問い掛けるとビクトリアが眉間に皺を寄せて頭を振る。
「わたしもさっきから呼び出しているのに全く連絡が取れないのよ。あのボケ、この非常時に何処に行ったのよ」
 リリアが困った顔をしてワゴンから降りると大にしがみついた。
 大はリリアを抱き上げるとぶっと吹き出して、この非常時に悪いと思いながら笑いだした。
「獅子はどうなるの?」
 不安で仕方がないという顔の鹿乃子に、リンダが自分では手の施し様が無いと力無く頭を振った。
「今日はもうこのアンプルは打てないわ。これ程弱った状態で免疫力を落とすと感染症を起こす可能性が高いの。薬も無いしわたしは専門医じゃ無いからこれ以上は無理よ。ああ、サムが此処に居てくれたら良いのに」


 リンダの呟きに応える様に大型トレーラーがワゴンのすぐ側に停まると運転席からサムが顔を出した。
「僕を呼んだかい? リンダ」
「サム! どうして?」
 リンダが驚いて立ち上がろうとしたが、眠っている獅子がリンダの手を離さない。
 α・シリウスが軽く舌打ちをしてリンダ達から視線を逸らすと、今度は相変わらず笑顔を絶やさない天敵のサムと目が合った。
 面白い物を見たという顔をするサムにα・シリウスは一瞬だけ頬を引きつらせたが、逃げ出す訳にもいかないので我慢した。
 動く大きな影に気が付いて全員が見上げると、太陽系警察機構のジェットヘリが上空を旋回していた。
 ビクトリア達のゴーグル端末にΩ・クレメントの声が響き渡る。
『ビクトリア、待たせてすまない。この地区は私の権限で一時的に全ての道路を封鎖させた。α・大、コンウェルから特急で発注していた物が届いている。すぐに担当医師と相談して使ってくれ』
「オスカー、支部長官自ら出て来るなんて一体何をやっているのよ。でも感謝するわ」
『ビクトリアに言われたくないな』とΩ・クレメントが笑う。
 大が大型トレーラに目を向けると運転席からサムが、助手席からケインが降りて来た。
「えっ。パパぁ!?」
 リンダが信じられないという顔をすると、ケインは「黙っていろ」という顔をして大にハードメモリーシートを渡した。
「初めまして。α・大。ケイン・コンウェルです。事前に発注されていた物は「光の矢」号に取り付け中です。今回緊急で追加発注された物は、時間の都合で全てテスト済みの予備機を回しましたが問題は有りませんか?」
「初めまして。それで充分です。無理を言ってすみませんでした。ビクトリア、頼む」
 ケインから2枚のメモリーシートを受け取って一通り目を通した大が、車から降りて来たビクトリアに渡す。
 ビクトリアは素早くサインをしてBLMSを貼ると1枚をケインに返した。
「直にお会いするのは初めてですね。ケイン・コンウェルさん、ビクトリア・ロックフィールズです。いつもお世話になっています」
 手を差し出すビクトリアに「こちらこそいつもお世話になっております」とケインが握手を返す。

 サムがメディカルキットを手に笑顔でワゴンに乗り込んだ。
「交代だよ。ずいぶん頑張ったみたいだね」とリンダの頭を優しく撫でる。
 サムは慣れた手つきでメディカルチェックをしながら、しっかりリンダの手を握りしめている獅子の手を見て微笑した。
「いやぁ。僕のリンダは相変わらずモテモテだねぇ。ケイン、どうする?」
「サム、誤解よ。偶然なの」
 ケインとα・シリウスが嫌そうな顔をし、リンダが顔を真っ赤に染めて否定した。
「治療の邪魔だ。トレーラーに移したらリンダの手を離させろ」
 徹夜明けのケインが不機嫌さを隠そうともせずに言い切る。
「リンダ、トレーラーに治療道具一式が揃っているから移動させたいんだ。出来そうかい?」
 サムの意図を察したリンダが承知したと力強く頷いた。
「何度か練習しているから出来ると思うわ。わたしのフィールドに彼を取り込んで力場で浮かせるのね。今は少しの振動も怖いもの。サムは少しだけ離れて」
 真剣な顔で答えるリンダにサムは笑って「良い子だ」と言うとリンダの額にキスをした。
 益々解らないという顔をしてリリアがリンダ達を見て顔を上げる。
 リリアの困惑した視線を感じた大が『たしかに複雑だね』とだけ答えた。

 ケインと大がトレーラーを開けると、内部には4台のコールドスリープ装置が設置されていた。
「サム、これって「光の矢」号の新しい部屋とそっくりだわ」
 ゆっくり獅子を移動させながら、リンダはトレーラー内部に目を見張る。
「昨夜α・大から特急の依頼が有ってね。ケインが徹夜でラボに詰めて予備機を全部こっちにセットしたんだよ」
 ベッドの1つに獅子を寝かせ、手をゆっくりと離してサムと大に全てを委ねる。
 リンダはトレーラーから飛び降りると笑顔でケインに抱きついた。
「パパ。ありがとう」
「馬鹿者、大切なお客様からの依頼だ。お前の為じゃ無い」
 軽くリンダの頭を叩きながらケインも瞳に優しい光を宿す。
「それでもよ。パパ、大好き!」
 リンダの年相応の少女らしい姿に、周囲に居たビクトリア達は思わず微笑した。

「電流、計器類、全て正常値を確認。ドクター・リード、指示をお願いします」
「レベル調整確認。大君、発熱は気になるけど今は通常モードだよ。炎症を抑えて内部から時間を掛けて体温を元に戻してあげないとショック死する可能性が高い。彼も辛いだろうけど麻酔は使えない。リンダの判断は正しい。彼の詳しいDNAデータが有れば助けられるんだけどね」
 サムがデータ端末を見ながら獅子に数種類のアンプルを打ち、このままでは難しいと呟いた。
「本当に獅子を助けられるの?」
 鹿乃子がトレーラーに飛び乗ってサムに詰め寄った。
「君もだよ。小さなレディ。僕達は君達全員を助けたい。どこかにデータが有るんだね?」
 優しい声でサムに問われ、鹿乃子が何度も頷いた。
「わたしは鹿乃子よ。うちに帰ればお母さんの研究結果が全て残っているわ。うちには怪我をした烏と付き添っている猫がわたし達の帰りを待っているの。お願い。わたし達を家に連れて帰って」
 サムが大と視線を合わせ、トレーラーの外に居るリンダに視線を向ける。
「太陽系警察機構も何も関係無いわ。わたしの名に掛けて獅子さんとの約束を果たすわ!」
 興奮するリンダの肩を叩いてビクトリアが1歩前に出た。
「関係有るわよ。このわたしが居るのに絶対に彼らを見殺しにはしないわ。オスカー!」
『好きにして良いと言っただろう。ビクトリア。クイーンの名に相応しい行動をしてくれ。此処に居る全員が君の指示に従う。レディ・サラ、君もだぞ』
 Ω・クレメントが全員に檄を飛ばし、ビクトリア以外の刑事全員が「了解」と答えた。

 ビクトリアがにっこり笑って全員を見渡した。
「ケインさん、トレーラの定員は何人です?」
「前方に4人、コンテナ内にベッドを除いて5人です。コンテナは「光の矢」号と全く同じ設定にしてあります」
「大、トレーラーの運転を。鹿乃子さんは助手席で家へのナビゲートをお願いするわ。アトル、リリア、サラはドクター・リードと一緒にコンテナ内で獅子さんの治療に協力しなさい。ケインさん、あなたはどうされます?」
「お望みのままに。クイーン・ビクトリア」とケインが軽く礼をとる。
「ではわたしと一緒に後部座席に乗っていただけますか。時間が有りませんので詳しい仕様を聞かせて欲しいのです。オスカー?」
『車はそのまま置いていけ。リモートでマザーに回収させて修理に回しておく。私はこのまま上空から君達のルートを確保する』
「相変わらず理解が早くて助かるわ。RSM、サラの顔が見えるコンテナ内に入れてあげるからドクター・リードの指示に従って大人しくしていなさい。病人を殴ったりしたら後で制裁を喰らわすわよ。さあ、全員行動開始」

 ビクトリアの号令と同時に全員が動き出す。リンダ、α・シリウス、サム、アトル、リリアが紫外線消毒をしてコンテナ内の隔離室に入る。大が全員が車内に乗り込んだのを確認すると車を発進させた。
 サムがコンテナのメンバー全員の顔を見渡して笑った。
「リリアちゃん、君は眠っている人の思考が読めるんだったね。獅子君の精神状態を常にチェックしていて欲しいけど大丈夫かい?」
 リリアが頷いて獅子の額に手を当てる。
「アトル君はメディカルモニターのチェックだ。少しでも異変が有ったら僕を呼ぶんだよ」
 「ほいよ」とアトルがモニターの前に座り込む。
「リンダは獅子君の手を握ってあげるんだよ」
 「それだけ?」とリンダが不満げな声を上げる。
「彼を眠る前と出来るだけ同じ状態にしておきたい。目を覚ました時に環境の変化で動揺させたくないんだ。理由は解るね」
 「分かったわ」とリンダが枕元に腰掛けて獅子の手を握る。
「シリウス君、まだ若いんだからその眉間の縦皺を何とかした方が良いよ。君も多少は医療知識が有るはずだね。雑用が沢山有るんだ。当然手伝って貰えるよね」
 意地の悪い笑みを浮かべるサムに、α・シリウスは1度目を閉じてすぐに頷いた。
「……出来る限りの事をします」

 サムが計器を細かく調整しながらメモリーカードを遠慮無くα・シリウスに放り投げていく。
「良かった。脳は無事だ。最悪身体の大半をクローン培養と入れ替える事になっても記憶だけは残る」
「サム、獅子さんの今の体力で移植に耐えられるかしら?」
 リンダが感染症が心配だと唇を尖らせる。
「最悪の場合って事だよ。彼らの家にデータがどれほど詳しく残っているかと、時間との戦いが鍵だね。僕のスタッフ達が待機して連絡を待っている」
 メモリーシートを分類して並べながらα・シリウスが呟いた。
「たしか鹿乃子が「お母さん」とか言っていたな。研究者の名前が解れば多少は早く動けないか?」
 サムがそのとおりだと軽く手を叩いて通信回線を開いた。
「こちらサム。誰か助手席の鹿乃子嬢にお母さんの名前を聞いてくれないか」
「お母さんの名前は荻瑤子(おぎようこ)よ」と鹿乃子。
「ありがとう。鹿乃子ちゃん。その名は聞いた事が有るね。シリウス君、データベースを検索するぞ」
「俺も聞き覚えが有るな。日本人だ。有名な生物学者で研究中にUSAで行方不明になったと子供の頃にニュースを見たよ。たしか俺が4、5歳の頃だったから地球標準年で……計算パス」と大。
「DNA融合体の研究が禁止されてしまったから、仕方無く生物学者に転向したという事かしら?」とリンダ。
 ケインと細かい打ち合わせを済ませたビクトリアが顔を上げる。
「DNA融合体の研究をしていたのなら、当然動植物の研究も同時にしていたでしょうしね。ケインさん、先にお聞きします。わたし達はこの件に対してコンウェル財団にどれだけの協力を期待して良いのですか?」
 獅子達の命に関わる為、一時でも時間が惜しいというビクトリアの厳しい視線を受けて、ケインは堂々と笑顔で返した。
「クイーン・ビクトリア、コンウェル財団はあくまで法律を守ります。それが企業として有るべき姿だからです。ですが、私個人としては融合体の処分措置には強く反対の姿勢を取っています。法律改正の署名嘆願書にサインしていますし、この懸案は現在国際法廷で審議中です。生まれた命に何の罪が有りますか? 私は時間が掛かっても現在の法律を変えていけたらと考えています。職務を離れ1個人としてなら出来る限り協力を惜しみません」

 振り返った鹿乃子が大きな両目を潤ませてケインの顔をじっと見つめる。
「わたし達は生きていても良いの?」
 不安げに自分を見上げる鹿乃子にケインは優しい笑みを見せた。
「私には君達が死ななければならない理由の方が解らない」
「ケインさん、ありがとうございます。……サラの人格形成を見た気分だわ」
 ビクトリアが嬉しそうに笑い、つられて大や鹿乃子も笑う。
 サムやアトルやリリアまでも笑うのでリンダが「何でよ?」と頬を膨らます。
「似たもの親子って事だ。お人好し度合いじゃどっこいどっこいだ。あっちは……だが」とα・シリウス。
「こらこら、シリウス君。伏せるくらいなら心の中だけに留めておこうね。君の場合はケインと仲良くしておいた方が将来絶対お得だと思うけどなぁ」
 手は素早く動かしているのにのんびりした口調のサムの茶々に、リリアとアトルが耐えられないと同時に噴き出した。
 α・シリウスが背を向けたまま耳まで真っ赤になってデータ解析に集中する。
 リンダだけが意味が判らずに獅子の手を握り続けていた。


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