Rowdy Lady シリーズ 2 『木星より愛をこめて』

3.

 Ω・クレメントの席のインターカムが鳴ると同時に扉が開き、黒い影が風の様に飛び込んできた。
 攻撃信号が出なかった為にリンダの反応が遅れ、咄嗟にフィールドを展開するより早く、影はα・シリウスに背後から飛び掛かって羽交い締めにした。
「RSM、元気にしてたかぁー?」
 まだ若く脳天気な声に、コーヒーを噴き出し掛けたα・シリウスが嫌そうに声を荒げる。
「アトルだな。いきなりこういう真似は止めろといつも言ってただろう」
 α・シリウスは何とかアトルの腕を振りほどこうとするが、がっちりと両手で首を固められていて身動きが出来ない。
 肩まで届くぼさぼさの黒髪と赤みを帯びた浅黒い肌、瞳の色も黒く小柄でどう見ても15、6歳にしか見えない。
 自分より年下の少年がハイレベルな体術を使うα・シリウスを小動物の様に扱うのを見てリンダは思わず息を飲む。
「おいおい。アトル、少しは手加減してやれよ」
 α・シリウスに負けない長身、黄色人種特有の東洋系の顔立ちで優しく落ち着いた雰囲気の青年が、短く淡い金髪とグリーンの瞳を持った10歳くらいの少女を腕に抱えて苦笑しながら長官室に入ってくる。
「大(だい)、頼む。こいつを俺から引き離してくれ」
 真剣な声と視線で訴えられて大と呼ばれた青年は「無理だ」と軽い口調で答えた。
「俺の力じゃとてもアトルに敵わないのはRSMもよく知っているだろ」
「久しぶりに会って嬉しかったんだから、少しくらい遊んだって良いじゃん。こうやって触ってるとRSMの成長がよく解るもんな。かなり筋力が付いたな。毎日鍛えてる証拠だ」
 呻くα・シリウスの頭をアトルと呼ばれた少年が嬉しくて仕方がないという笑顔でくしゃくしゃに掻き回す。

 あれ? この雰囲気、何かさっきのシリとデジャブ……とリンダは思ったが、言葉にするのは躊躇した。
この子はシリよりずっと強いわ。
 到底自分ごときは相手にならないと戦士の本能がリンダを警戒させる。
「ん。リリア、何?」
 少しだけ困った顔をした少女がそっと大の頬を撫でる。
「アトル、それ以上絞めたらRSMが窒息するとリリアが本気で心配している」
「ほいよ」
 アトルがつまらなそうにα・シリウスから手を離す。
「毎回こんな調子だからこいつらには極力会いたくなかったんだ」
 漸く自由になったα・シリウスが渋面のまま乱れた服と髪を直す。

「アトル。RSMに会えて嬉しいのは解るけど、あまり馬鹿をやってうちのチームの品位を落とさないで。USAマザーやオスカーは慣れているけど、そこの可愛いお嬢さんがびっくりして固まっているわ」
 よく通る声にアトルが振り返って不満を漏らす。
「ビクトリア、おせーよ」
「アトルの俊足に付いていける相手が居たら会ってみたいわ。犬みたいにエレベータの扉が開くと同時に飛び出して行くんだから」
 輝く長い銀色の巻き毛をなびかせ、アイスブルーの瞳をした20代後半らしい美しい女性が長官室に入ってくる。
 圧倒される雰囲気に長官室の空気が一気に変わり、童話に出てくる雪の女王の様だとリンダは思った。
『お待ちしておりました。ようこそ地球へ。クイーン・ビクトリア』
 最高の礼をとるマザーに「地球標準時間では久しぶりになるのかしら? USAマザー、礼は必要無いわ」と軽く受け流してビクトリアは笑顔でΩ・クレメントの正面に立った。
「やあ、ビクトリア。相変わらず元気そうで何よりだ」
「あなたも元気そうね。オスカー、まだ地球では階級を付けて呼んでいるの? この分だとスモール級刑事は名前を明かす事すら許可していなさそうね。コード名制度など面倒だから廃止しろ何度も言っているのに」
「今も地球での実名公表は危険過ぎるんだ」
 見た目を裏切らない鋭い口調によほど慣れているのか、Ω・クレメントが苦笑しマザーも軽く肩を竦めるに留めた。
 この人が太陽系唯一のクイーン級刑事とリンダは目を見張る。
 木星支部長官にして今も第1線で捜査を続ける太陽系最強チームの女性リーダーが、これほど若いとは思ってもいなかった。

 完全に諦めたという顔をしてα・シリウスが立ち上がって最敬礼をする。
「お久しぶりです。ビクトリア教官」
「あなたも元気そうで嬉しいわ。RSM」
 にっこり笑うビクトリアにα・シリウスが渋い顔をする。
「教官、出来ればその呼び方は止めていただけませんか。今の俺は「シリウス」と呼ばれています」
「何だよ。まだ自分の名前に誇りを持てずにいるのか。身体はでっかっくなったのに中身は全然成長してねーな。RSM。えっと……何年経ったんだっけ?」
 アトルに問い掛けられて大がすこし考える様に顎に手を掛ける。
「たしか地球標準時間で4年数ヶ月くらいだな。初めて会った時に20歳だったRSMが俺と同い歳くらいにまで育っている」
「童顔の大に言われたく無いが、お前がまともな感覚を残してくれていてくれて助かる。木星支部は相変わらずこの調子なんだな」
 溜息をつきながら手を差し出された大は「俺の国ではこの顔が平均だ」と笑顔でα・シリウスの手を握り返した。
「リリア、久しぶりだな」
 大が抱えている少女と目が合い、α・シリウスが軽く少女の髪を撫でた。
 リリアは大にしがみついたままにっこり笑い、大がリリアの気持ちを代わりに伝える。
「RSMが良い意味で変わって嬉しいそうだ。パートナーが見つかって良かったな」
「地球時間だとあれからもう4年かぁ。こっちは時間が経つのがメチャ早いぞ。だからあれだけ木星支部に残れって言ったのに、RSMがメチャ意地を張って地球に帰るから、性格に合わない諜報部門なんかに送られたんだ」
 アトルが頬を膨らませてソファーの背もたれに腰掛ける。

 リンダが人間関係や状況が把握出来ないまま困惑していると、温かいが強い視線を感じて顔を上げた。
 顔を巡らすと自分の顔を真っ直ぐに見つめているビクトリアと目が合った。
「初めまして、サラマンダー。わたしは木星支部のビクトリア・ロックフィールズ。アンブレラI号事件の活躍は聞いているわ。USAマザーがあなたの事を話したがらないので、あなたにとても会いたかったの。皆もRSMのパートナーに直接会いたがっていたのよ。これほど可愛いお嬢さんだなんて全く知らなかったわ」
 笑顔で手を差し出されて、リンダは立ち上がってビクトリアの手を取った。
「わたしもお会い出来て光栄です。クイーン・ビクトリア」
「ビクトリアで良いわ。一々名前を呼ぶ度に敬称付なんてあなたも面倒でしょう」
 迫力の有る美しい笑顔で言われ、リンダも「はあ」とだけ答える。
 敬称無しでと言われても、この迫力では自然にクイーンと呼んでしまいそうだ。
「はいはい。次、俺。テオ・アトル。サラマンダー、宜しくな」
 順番待ちをしていたと強引にリンダの手を引き、満面の笑顔と力強い握手でアトルが自己紹介をする。
「山崎大(やまざきだい)。名前で判るだろうけど日本人だ。地球標準時で……そうだな。多分30歳は越えてると思う」
 α・シリウスと同年代にしか見えない穏やかな笑顔の青年が、大きな手で優しくリンダの手を包み込む。
 続いて小さな手が差し出され、リンダは壊れ物を扱う様に白く細い指を握り返した。
『わたしはリリア・マーロよ』
『初めまして。あなたはテレパスなのね。初めて会ったわ』
『リンダはRSMと同じでわたしの事が怖く無いのね。とても嬉しい。そういう人は滅多に居ないの』
 本名を呼ばれたリンダが大きく目を見開くと、リリアは恥ずかしそうに頬を赤らめて手を離した。
 大が笑ってリンダに話し掛ける。
「リリアが自分と名前や髪や目の色が似ているからとても嬉しいって。ああ、名前は言っちゃいけないのかと心配している」
 常にリリアを抱きかかえている大は、テレパスのリリアの代弁者なのだとリンダは気付いた。
 エンパシー能力者の多くは自分の口で話す事が苦手だと、何かのファイルで読んだ記憶が有る。
「わたしの存在はUSA支部でも極秘扱いだそうだから、余所で話さないでいてくれるのならかまわない……と思うわ」
 答えながらちらりとΩ・クレメントを振り返ると、頷いたのでリンダも安心してリリアと大に笑顔を向ける。
「サラマンダーの本当の名前って何? 俺も知りたい」
「アトル、調子に乗り過ぎだ。木星支部と地球ではルールが全く違う。あまりサラを困らせるな」
 α・シリウスが保護者宜しくリンダとアトルの間に立つ。

 リンダが視界一杯に有るα・シリウスの背中を避けてアトルに問い掛ける。
「わたしも聞きたい事が有るわ。RSMって何なの?」
 首を傾げるリンダにアトルが笑ってα・シリウスの頭を突ついた。
「こいつのフルネームのイニシャル。ファーストネームで呼ぶと意地張ってぜってー返事しねーから、俺達はそう呼んでるんだ」
 返事が出来ない事情を知っているくせにアトルは脳天気過ぎると軽く顔をしかめて、α・シリウスはアトルとリンダを交互に見た。
「アトル、余計な事は言わなくて良い。サラ、混乱するだろうから説明しておく。全員が俺の研修先だった木星支部のチームメイトだ。クイーン級のビクトリア教官以外は全員特化α、レディ級刑事で、さっき話していた太陽系最強のチームだ」
 振り返ったα・シリウスにリンダが信じられないという顔をする。
「嘘っ。だってわたしが最年少のレディ級だとマザーが言ったわ。リリアとアトルはどう見てもわたしより年下でしょう?」
 リンダの当然の疑問にα・シリウスも頷いて答えた。
「アトルはああ見えて地球標準時間では大より少し年下なだけだ。キャリアだけなら大よりはるかに長い。俺達とは生きている時間軸が全く違う。特殊相対性理論は知っているな」
「はぁーっ」
 理論は知っていても実際に目にすると、子供の頃から宇宙旅行に慣れているリンダも驚きを隠せない。
 こっそりと自分達のやりとりを微笑しながら見ているビクトリアに視線を向ける。
 Ω級刑事のクレメントが50歳前という事は、クイーン級のビクトリアも見た目では想像も付かない歳らしい。
 視線でリンダの疑問に気付いたα・シリウスがそっと耳打ちをする。
「見た目は若作りをしているが、ビクトリア教官の地球標準時間での歳は……」
「女性に恥をかかせない! 4年経ってもその口の悪さは全然直っていないわね」
 α・シリウスの後頭部にビクトリアの教育的指導という名の鉄拳が入る。
 α・シリウスが頭を押さえてしゃがみ込み、ビクトリアはΩ・クレメントを振り返って素早く告げた。
「オスカー、ごめんなさい。すぐに打ち合わせに入りたかったのだけど、コンウェルから特急でと頼んでおいた新型エンジンが完成したと連絡が入ったの。約束を破って申し訳無いけど船への取り付けに時間が掛かるから、先にそちらの手続きを済ませたいわ。かまわないかしら?」
 Ω・クレメントが当然だと軽く頷く。
「木星支部の事情は解っている。こちらもレディ・サラが復帰したばかりなので調整に時間が欲しい。君の事だからその目で結果を見なければ納得出来ないだろう?」
「そう言って貰えると嬉しいわ。話の続きは明日で良いわね。アトル、大、リリア、行くわよ」
 ビクトリアに呼ばれてチーム全員がすぐにソファーから立ち上がる。


 「えっ?」とリンダが思わず立ち上がって大声を上げる。
「お待ちください。失礼で無ければあなた方があの「光の矢」号のクルーなのですか?」
 呼び止められたチーム・ビクトリア全員が驚いたと振り返る。
「サラ、わたしの船を知っているの?」
 太陽系最高速宇宙船「光の矢」号の名は有名だが、太陽系警察機構内でも所有者名は表向き伏せられている。
 相手がパートナーとはいえα・シリウスがチームの事情を話すとは思えない為、入ったばかりの新人では知り得ない事情を知っているリンダに、ビクトリアが少しだけ警戒した視線を向ける。
 視線の意味に気付いたリンダが「自己紹介が遅れて大変失礼いたしました」と頭を下げて、IDカードを表示させる。
「「光の矢」号テストパイロットのリンダ・コンウェルです。クルーの皆様にお会い出来て大変光栄です。新型エンジンのテスト結果をお望みであれば、コンウェル本社に行かれなくてもわたくしの権限で今すぐにご提示出来ます」
 驚いたアトルが口笛を吹き笑顔でα・シリウスの肩を叩いた。
「サラがあの『奇跡のリンダ』かぁ。RSM、メッチャ有名人じゃん。すげー相手をパートナーにしたな」
「サラの実名も太陽系中に知られている伝説の名も知っていたが、あの「光の矢」号のテストパイロットだとまでは聞いて無かった。エンジンテストをしていたのか。どうりでこの4日間全く連絡が取れなかったはずだ」
 何故正直に言わなかったのかという顔をするα・シリウスに「企業秘密だからに決まってるでしょ」とリンダは一蹴する。
 大が興味深げにリンダを見つめる。
「「光の矢」号の正規パイロットは俺だ。あの使い易い設定は全て君がやっていたのか。連続7Gに耐えられる身体には全く見えないのに凄いな。RSMを初めて船に乗せた時は30分も保たずにダウンした」
 ぽんぽんと誉める様に笑顔で頭を撫でられ、リンダも嬉しそうに目を細めた。
「わたくしが「光の矢」号を担当してまだ8年目です。建造以来ここまで大掛かりなエンジンの全面設計変更は今回が初めてですし、担当メカニックとわたくし以前のテストパイロット達が優秀でした」
 恥ずかしそうにかしこまって頬を赤らめるリンダを見てリリアが笑う。
「え、何? サラは9歳の時から「光の矢」号に乗ってる? しかも地球標準時間でなのか」
 大がこれは驚いたと声を上げ、α・シリウスもリンダが何故わずか9歳で航宙士の資格を取ったのか漸く理解した。
「リンダ・コンウェル嬢。あなたがわたしの船の担当になって以来、定期点検以外でのオーバーホールの必要が無くなったわ。『宇宙を旅する者の守護天使』と噂されるだけの事は有るわね。『奇跡のリンダ』がテストした船は無故障、無事故で有名だから。ケイン氏の人選に感謝しなくてはいけないわね」

 ビクトリアは一旦リンダに笑顔を向け、その直後クレメントとマザーに鋭い視線を向けた。
「計算が合わないわ。リンダ・コンウェル嬢は地球標準時間で大学生でまだ17歳のはず。研修生ならともかくどういう裏技を使って資格の無い未成年者をレディ級刑事にしたの? いくら問い合わせをしてもRSMのパートナーの情報を開示しないはずだわ。USA支部独断でこんな事をするなんて。能力上特例で単独捜査官を認められたRSMと違って完全に規約違反じゃないの」
 ビクトリアから厳しく糾弾され、Ω・クレメントとマザーは小さく肩を窄めた。


 こうなっては全てを話すしか無いと、マザーが改めて全員にソファーを勧めて飲み物を出した。
『これはわたくしも含めた全太陽系警察機構戦略コンピュータ・マザー達と、Ω・クレメントしか知らない情報です。α・シリウスが不正麻薬製造事件で早急にパートナーかチームを選択する必要性に迫られた時、わたくし達の上部機構、グランド・マザーがリンダ・コンウェル嬢を強く推薦されました』
 Ω・クレメント以外の全員が一様に驚いたという顔をするので、当然だろうと1度マザーは言葉を切った。
『わたくしはグランド・マザーの命令に従い、α・シリウスとリンダ・コンウェル嬢の性質や資質、能力や相性、初めて出会った際の行動を細部に渡って分析し、アンブレラI号でα・シリウスがすでにリンダ・コンウェル嬢をパートナーに選んでいた事を知りました』
 α・シリウスがコーヒーを噴き出し、リンダとチーム・ビクトリア全員からきつい視線を受けて「俺は知らない」と激しく首を横に振る。
『無意識下での選択でしたので、当然α・シリウスにも自覚が有りません。あなた方もよくご存じのとおりα・シリウスは太陽系警察機構に入って5年間、誰にも心から背中を預ける事は有りませんでした。ですが、初対面のリンダ・コンウェル嬢にはあっさりと全てを託したのです。グランド・マザーもわたくし達もこの事実を重視し、Ω・クレメントと相談の上で特例措置を設け、リンダ・コンウェル嬢をレディ級刑事サラとしてUSA支部にお迎えしたのです。グランド・マザーからの命令でレディ・サラが未成年である事は現在も公には隠されています』

 空になったカップを指先で回しながら、アトルが少しだけ面白く無さそうな顔で問い掛ける。
「初対面でか……。RSM、ひょっとして一目惚れってやつ?」
「「それだけは絶対無い!」」
 力一杯リンダとα・シリウスが同時に手を振って否定する。
 ピッタリと合った動作と台詞にビクトリアが吹き出して笑う。
「パートナーとの息は合っているみたいね。サラがリンダ・コンウェル嬢ならアンブレラI号事件での様々な謎が解けるわ。いくら太陽系で著名な大物とはいえRSMが女子大生の護衛を? と不思議に思っていたわ。組織……第13コロニー上層部に気付かれない為に、アンブレラI号では高名なリンダ・コンウェルの名前を隠れ蓑にして極秘捜査をしたのね」
 大が服の端を握りしめるリリアの肩を抱いてゆっくりとお茶を口に含んだ。
「噂ではサラというかリンダ・コンウェル嬢はアンブレラI号で、太陽系防衛機構レベル6強化スーツ26体と生身で戦ったらしい。通常では考えられ無いが、俺達の知らない秘密がまだまだ有るみたいだ。俺としてはその綺麗なピアスと変わった形をした髪飾りがさっきから気になって仕方が無い」
 探る様な視線を受けてリンダの頬が緊張で強張り、α・シリウスが身を乗り出して背中でリンダを大の目から隠す。
『マイ・ハニー、サラ。気を付けろ。大は「光の矢」号の正規パイロットだが優秀なメカニックでも有る。わずかな異変も見逃さない』
『マイ・ハニー、シリ。了解』
 リリアが不満そうに大の頬を軽く叩く。
「ん? リリア、ごめんよ。核心を突き過ぎて警戒させてしまったのか。すまない。サラ、RSM。今のは単なる職業病だ。サラの驚異的な装備に興味を覚えるが、コンウェル財団の企業秘密まで探る気は無い」

 大の謝罪を聞いてそれまで考え込む様にソファーの上で両膝を抱えていたアトルが「はいっ!」と元気良く手を上げる。
「俺、サラと試合したい。完全な生身って噂は眉唾もんだろーけど、現行モデルのレベル6と1人でやり合ったんだろ。『奇跡のリンダ』がどれだけの実力かこの目で見てーじゃん」
「俺が今言おうとした事を……」
 大がアトルの台詞を取られて不満そうに眉をひそませる。
 額に血管を浮かせたビクトリアが同時に両側に居る大とアトルの頭を握り拳で叩く。
「地球に着いてからそれほど時間は経っていないのにあなた達ときたら「遊びに来てるんじゃ無い」と何度言わせれば気が済むのよ。これ以上わたしに恥をかかせないで。サラ、ごめんなさい。うちのメンバーはすぐに悪乗りするのよ。気を悪くしないで」
「ビクトリアも出発前からサラに興味津々だったろ。1人で良い子ぶ……」
「やかましいっ!」
 全部を言い終わる前に赤面したビクトリアの2度目の拳がアトルの顔面に飛んだ。
 リンダはチーム・ビクトリアの開放的な雰囲気とノリの良さに、逆に好意を覚えて笑った。
「いいえ。怒ってはいませんから安心してください。研修時代シリの担当教官だった事を思えば初めてのパートナーの実力は知りたいと思うのは当然の親心だと思います。それとリンダ・コンウェルの実力を知れば、新型エンジンのテスト結果の真価も理解していただけるでしょう。……このお話、2重の意味でお受けします」
 特例中の特例レディ級刑事の実力を計る為と、得意先にコンウェル財団のマネージメントの良い機会だと、リンダは笑顔でチーム・ビクトリアの要請を受ける。

 元々アトルや大も1度言い出したらよほどの事が無い限り引かない性格なのに、強い相手を目の前にして竜の本能と戦士の血が騒ぎ、戦意で瞳を輝かすリンダの顔を見て、これは止めても無駄だとα・シリウスは額を押さえて溜息をつく。
 リリアだけが『可哀相』と手を伸ばしてα・シリウスの頭を撫でた。


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