−ふたり 番外編− 『その窓のむこう側』 久しぶり。 うん、結構元気でやってる……というか毎日充実しているよ。 オーナーとの話も付いて父さん達がずっと反対していた仕事も、もうすぐ辞められるよ。 学生時代のバイト先に卒業と同時にそのまま就職した事は、本当に悪かったと思ってる。 「大学の授業料を全額返せ!」ってすごい勢いで怒鳴られたしね。 父さんも1度言い出したら引かない方だから、お金を貯めるまで家に帰れなかったよ。 でもあの仕事のおかげで彼女に出会えた訳だし、経験は再就職先でも充分活かせられるはずだよ。 デジカメの映像は見てくれたかい? え? まぁ確かに一見、男の子に見えるかな。 僕も始めは女の子だと気付かなかったからね。 でもかなり可愛いだろう。 ロリコンって……酷いな。 僕がそういう趣味だと思ってたのかい? 彼女はああ見えてとても家庭的でね、料理も家事もすごく得意なんだ。 それに性格も今時珍しいくらい純情で素直で、とにかく何をしていても可愛いんだ。 どうだい、羨ましいだろう。 ドコッ!! 「うげっ!」 直人の後頭部にまともに踵落としが炸裂した。 「直人ぉ〜。てめぇはあれほど止めろと言ったのに、まだ日記系サイトで馬鹿な書き込み続けてんのかよ!?」 いつの間に背後に来たのか翼が仁王立ちで拳を振り上げていた。 ふり返った直人が慌てて立ち上がる。 「翼、誤解だ」 「何が誤解だぁ。それじゃ今やってたのは何だったんだ? 言ってみやがれ! 毎回、お前のそのくそ恥ずかしい台詞を聞かされる俺の身にもなってみろ!」 ヘッドセットを付けたまま直人が必死に翼の拳を避ける。 手加減されても直撃したら翌日まで顔の痣が消えないほどの威力なのだ。 マジで切れた翼の拳をまともに受けたら、顔の形が変わる事は避けられない。 「だいだいなぁ、俺があれほどブラインドタッチのコツを教えたのに音声入力にばかりに頼ってるから、いつまで経ってもキー入力が上手くならないんだろ。ちったぁ真面目に練習しろ!」 「だから誤解だって言ってるだろう。日記サイトはあの後すぐに退会したんだ」 「嘘つくんじゃ無ぇー!! てめぇがいつも駄目だって言ってるくせに、誤魔化す気か?」 「本当だよ! 落ち着いて話を聞いて……」 ブチンッという音と共に音声が聞こえなくなった。 ヘッドセットが外れたか壊れたかしたらしい。 直人は必死で何かを言いながら翼から逃げ回っている。 パソコンの前に居た直人の2人の兄は、画面の中で繰り広げられている光景を呆然と眺めていた。 その後、同時に肩を落として首を横に振ると『インターネット電話』の回線を切った。 おわり <<ふたりTOP||小説TOP||TOP>> |