具体的に何をどう進めるのか

   では、今からどのような学習をしていけばよいのか。重箱の隅をつつくような診断基準を隅から隅まで覚えることも確かに大切なことかもしれない。事実、試験では聞かれることの大半が、そのような細々とした事項である。しかしながら、次のようなケーススタディーをすすめていくことも重要である。一つには、チャートの書き方のフォームを学習できる。チャートのCC、HPI、PE 、LabsやImaging から、疾患を想像するに当たって、病態生理、解剖などを理解しながら基礎医学との有機的なつながりを作り上げることができる。そして、医学用語を学ぶことができる。低学年でこの方式の学習を行う場合には、特に後者の2つが強調され、すでに臨床医学を学習している高学年では、これに加えて、疾患を想像するという部分、つまり、できるだけ鑑別診断を考えながら学習を進めることができるという点が強調されることになる。そして、病理像、治療と言った臨床の現場に直結する知識をより具体的、有機的に疾患と結びつけて学習ができる。(もちろん低学年でこの方式で学習を行う際には「こんなかね」くらいでいいとは思うが。)

   具体的には、以下の具体例で説明しようと思う。

 

ID CC:

A 29-year-old male comes to the medical clinic because of

palpitations, weakness, and fatigue that does not allow him
to walk more than five blocks, together with coldness of his
right foot.

HPI:

He underwent surgery four weeks ago for a penetrating stab-

wound injury in his right groin that he sustained during a
fight.

PE VS:

marked tachycardia. PE: continuous murmur and easily

palpable thrill over area of wound; skin over wound warm to
touch; right foot cold to touch with diminished pulse;
tachycardia diminished when pressure applied to site of
fistula (= BRANHAM'S SIGN).

Labs:

CBC/Lytes:normal. LFTs, glucose, BUN, creatinine

normal.

Imaging MR/Angio:

Iarge AV connection (fistula) in groin area with

significant diversion of blood flow. US: color flow doppler
shows rainbow-colored turbulence in fistula; high-velocity
and arterialized (pulsatile) waveform in draining vein.

Gross Pathology:

Abnormal communication between

artery and vein, in this
case as a result of a penetrating injury.

Micro Pathology:

N/A

Treatment:

Surgical repair if symptomatic and

large; angiographic
embolization if smaller. Ultrasound-guided direct
compression is sometimes an option .

Discussion:

May clinically present as high-output

cardiac failure.
latrogenic AV fistulas may be seen after arteriography.

ARTERIOVENOUS FISTULA

   これは、最後にも挙げられるようにARTERIOVENOUS FISTULA に関するClinical Vignettesである。でも、これらを知らないことにして、自分が診察しているつもりになって、上から順番に考えてゆくことにすると、まずは、CC(chief complaint)の部分について

A 29-year-old male comes to the medical clinic because of palpitations, weakness, and fatigue that does not allow him to walk more than five blocks, together with coldness of his right foot.

   29才の男性、主訴は、5ブロック以上歩くことができない動悸、weakness、疲労感で、そしてまたこの症状は右足が冷たいと言う症状を伴っている。

   動悸、weakness、疲労感というのはなにによると言う部分が漠然としすぎているので、ここまでの情報では、おそらく

・足に関係する何らかの障害がある。
・右足が冷たいと言うことから、血流が途絶していることが疑われる。

と言うことがわかれば十分だろう。
   次にHPI(History of present illness) に注目すると、

He underwent surgery four weeks ago for a penetrating stab-wound injury in his right groin that he sustained during a fight.

    過去の病歴は4週間前にケンカの最中の右鼠径部に受けた刺創(ナイフあるいはナイフ状の物で刺すことによってできたもの)を治療目的で手術を受けている。他に疑われる病歴が書かれていないので、この右鼠径部に関する術後の障害が疑われる。

以上を整理すれば、「右鼠径部で術後の障害によって血流が途絶している。」のではないかと言うことが疑われる。この時点で、鼠径部に関する一般的な解剖が確認できていればいいだろう。ここまでが、上記の例に挙げた病院でのひとこまの「問診」にあたる。高学年の勉強会ならば、ここからのアセスメントを考えるべきだが、低学年ならば、予想がつかなければ、すぐに先に読み進めていってかまわまない。ただ、この場合は、「右鼠径部で術後の障害によって血流が途絶している。」と言うことが予想されているので、PE(Physical Examination)では、右鼠径部を中心に注目すればいいと言うことがわかるだろう。

VS : marked tachycardia. PE: continuous murmur and easily palpable thrill over area of wound; skin over wound warm to touch; right foot cold to touch with diminished pulse; tachycardia diminished when pressure applied to site of fistula (= BRANHAM'S SIGN).

VS (vital signs)の頻脈は、様々な理由が考えられるが、別表のCommon Clinical Problemの鑑別診断の表によれば(高学年はここで鑑別診断とその機序をきちんと説明できなければならない)、様々な可能性が疑われるので、ここでは一応保留しておいて、PEでは、BRANHAM'S SIGNが見られることで、そこに説明があるようにfistulaの存在が疑われることがわかる。

vital signs
生命徴候(呼吸、脈拍、血圧維持などの現象)

次に、いわゆる検査が行われるわけだが、高学年の場合には、これらを確定するためにどのような検査が必要かオーダーを出すべきかを考えるべきだが、低学年の場合には、ここで、次のLabs とImaging に書かれている検査によって確定していると言うことを一応理解しておく。そして、来るべき臨床の講義で、その検査がどのようなもので実際にどのような要領で検査が行われるのかを確認すればいいだろう。だから、この場では検査名とおおざっぱにどんなものかがわかればいい。

Laboratory data では、

CBC/Lytes: normal. LFTs, glucose, BUN, creatinine normal.

血算、電解質、そのほかの検査にも以上はないようである。生体としてのバランスは保っているので、局所的な問題であることがわかる。

Imaging

MR/Angio: Iarge AV connection (fistula) in groin area with significant diversion of blood flow. US: color flow doppler shows rainbow-colored turbulence in fistula; high-velocity and arterialized (pulsatile) waveform in draining vein.

Magnetic Resinance imagingやAngiographyでは、右鼠径部に動脈と静脈のConnection が見られていて血流の迂回が見られる。これは、UltraSoundでも確認ができ、動静脈のfistulaが確認できた。

以上のように流れの中でなにを確認すべきかを明確にして、特に低学年の場合には、生理学や解剖学と言ったもので確認できる部分をきちんとこなせばよい。さらに、病理や薬理をならっていない段階では治療や病理像がどうという議論は予想しがたいものがあるので、Gross Pathologyや MicroPathology 、Treatment などは一応読んでおく程度でいいと思う。言葉になれることも大切なことである。知っている事柄、つまり、生理や解剖で知っている事項をフル活用することででも問題解決の糸口はある程度はつかめるはずだから。それを病態生理や症状に徐々に結びつけていけば、その後の病理、薬理、それから臨床系の科目にも十分に役立ち、「研修医は使えない」と、教えるべき事柄も教えずに無責任な発言をする教師に対しての自己防衛と言うよりも、自分の実践すべき医療への助けになると思うのである。


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