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『レクスオウ』


                   鷹崎 翔



若き日の青春は永いようで短く、短いようで永いものだ…。それがたとえ苦汁に満ちていても、いもしれぬ幸せにみちていても…。
ーーーーーー愛…友情…夢…無限にも思われる物語をーーー人生と言う名の思い出の中に沈め…人は静かにーーーゆっくりと刻の奔流に旅立つーーー希望でかためた夢の船を駆る若い瞳ーーー限り無くあふれるそれは夢だったのかもしれないーーーーーーーー。
ーーーーーーいつか俺が見ていた夢を、君は、みつけるだろうか?ーーーーーーみつけられる…だろーか?
ーーーーーーそれが時の後契者、後継者の流れ背負いし者達の夕暮れーー俺のつばさを君にーーーーー折れたつばさの変わりにーーーーーーーーーーー


壱之参(いちのさん)〜幻影の皇帝(げんえいのこうてい)〜


高層ビル郡の中でも特に大きいビルが二つ、競いあうように天空に向かって伸びている。地上2500メートル、超高密度に密集した高層ビル郡が無機質に、それで いてきらびやかに朝日を反射してエルメニアの街並を彩っている…。
ーーー俺はゆっくりと目を開けた。どうやら眠っていたらしい。俺は短いあくびをひとつすると、教科書を静かに閉じた。とっくに経済の授業は終わったらしく教室の中はいつもの雑談に包まれていた。
「おっはよー! お目覚めかな? ヴィルちゃん、また寝不足なんでしょ?だめだよーちゃんと眠らなくっちゃお姉さんがそいねしてあげようか? ダメかな? ねえ、ダメ?」
ドゲシ!
 俺はまた机につっぷした。こんなのが友達かと思うと目の前がまっくらになってくる…。
「あのなー、つかれるギャグすんなよな、それでなくても疲れてんだから。それよりノート後で写さしてくんない?」
「えーっ?! どっしょっかなー?」
 彼女が思案顔であーだこーだ訳わかんない事をほざいている…。クーラーをコントロールするはずの調整機がいかれたのか、突風に近い風が彼女の…、アーミィー・ L(ロット)・クルティアの闇よりも濃い黒髪をはゆらせる。後ろで編んだ長髪が風とたわむれ、まるで黒翼のごとくはばたいている。それにあわせてほのかな、甘い香水の匂いが俺の鼻をくすぐる。まるで母親みたいな感じの匂いだ…。
 えー、いちおう言っておくけど彼女とは友達以上のなにものでもないから、なんてったって俺にはフィーニア・K(ケイ)・ミリネアっていう恋人がいるんだから…な。それにクルティアとあと三人の仲間で、大の仲良し五人組って有名なんだ。
「ねえっ、聞・い・て・る・の? ヴィルちゃんってっ! あーーっぜんっぜん聞いてないでしょ? 聞いてないなぁ〜〜」
ゲッ! 彼女のひたいに怒りマークがちょこーっと浮いている。こ、こりゃまずい! 危険信号が脳から発令されたが0、01秒遅かった。彼女の目が細くなり、ネコみ たいな顔になる。
「あーっ聞いてなかったでしょーっ?」
彼女が俺の肩をおもいっきりつかんでブンブンゆらし始めた。どんどん加速がついて速くなる。だー! 意識が遠くなる〜うぅ〜。
「ひあーたあすけて〜」
俺が放った非愛の声も彼女の笑いにかき消された…。
「キャハハハハ、どぉーだまいったか?お・は・な・し・を聞くかい?それともまぁーだ続けてほっしっいのかな?」
「こぉ、こふさんすぅふるぅうぅぅ…」
俺は両手を合せてこれ以上ないってぐらい一生懸命お願いポーズを作った…。
ーーーーーーーみ、みじめ…。こ、これがシリアス小説の主人公にさせる事かぁ…ぁ…
…ぁぁ死んだ。ドベッ……………。
「これこれ、なに死んだマネしてんの。あたしゃなんかすんごく暑いねぇーって言っただけなんだよ…ってまた聞いてないんじゃないでしょうねえー、こんどはクスグリの刑にしちゃうよっ!」
「ひえーそれだけはやめてくんろ〜」
俺はガバッとはねおきた。し、しかし…こいつと話していると、とぉーっても疲れるのは気のせいだろーか? とにもかくにも冗談はさておき、まじめに暑い。調整機が故障をおこしてるのかと思ったがそうじゃないらしい。
「本当に暑いな…」
と、言い終わらないうちに彼女の哀色の瞳が外に向かって動いたかと思うと外を指さして言った。
「ヴィストゥルに誰かいる!」
「え? そんなバカな!」
俺はすぐビルの上の、六本の鉄骨がたち並んでいる所を見た。
しかし暗黒の霧が邪魔をしてあまり良く見えない。
 ヴィストゥル…、この州で7番目の八千メートル級の超高層ビルだ。まだ建造中のためこちらのビルよりちょっと高い程度だが、六つのビルが基盤となり天空 に伸びているさまは壮観なものがある。 ふと鉄骨の一つが淡くひかりだした。ひかりの中心に人影がはっきりと見えた。
「なんだなんだ、どおしたんだ?」
親友のエルティスが窓際の俺の席に近ずいて来る。クラスのみんなもどんどん窓際により始める。
「どっこのバカだぁ? あんなとこに登るなんて…、頭狂ってんじゃないのかぁ?」
エルティスが半分ふざけたように言う。だが次の瞬間信じられない事が起こった。
「炎(カ)鉚(リ)熾(オ)麈(ス)!」
ドキュウゥDOGYUUO(ギャ)!
その言葉の響鳴が聞こえた瞬間、信じられない爆音が連続して起き、三千メートル近くあるヴィストゥルが…、その美しい鏡面外装のすべてが炎に包まれた。ま るで内側から花火でも破裂させたように、爆発、餓壊した…。一瞬の出来事だった。それは夢のようでもあったが、もし夢なら悪夢のたぐいであったろう。炎旒光(えんりょうこう)にあおられて、目がおもいっきりチカチカしていたが、それでいて目の前の燃えさかる建造物から視線を外す事が出来なかった。その時誰かが鼓膜(こまく)がはり裂(さ)けんばかりの悲鳴をあげた。それが合図となり、どっとみんな出口に向かって逃げだした。
それはまるで映画の1シーンのようにも思えた。みんなが逃げだす中、俺は逃げるでもなくそこに立ちつくしていた。
 どこかで見た景色だ…、俺は逃げる事さえ忘れあまりにも他愛ない考え事に、すべての意識を支配されていた。どこでみたんだろう。心の中でなんども考えてみる がいっこうに思出す事はできない。
「ちょっとどうしたの! 逃げるのよ、ねえ! 速く!!」
クルティアが俺の腕をひっぱる。俺はあいまいな返事をしながら人影の姿を捕え続けていた。人影はなにか手で印のようなものをきった後、かすかに呪紋らしき言葉を唱えた。
「翔(メ)麼(ビ)紆(ウ)甦(ス)!」
キュウウゥ…KYUUUU…BASA(バサッ)!
 それはこの世の物とは思えない、あまりにも美しく、あざやかな白銀の翼が…人影の背中に生えた。片翼だけで三メートルはあろうかという巨大な翼だった。あまり の壮麗(そうれい)さにクルティアも俺も逃げる事を忘れ、立ちつくしていた。恐怖さえ消えさり、ただただ見とれるばかりだった。ふと頭の中に声が響いた。“危険”それはもっとも単純でありながら、もっとも的を得た危険信号だった。 ふといつのまにか人影の人物が目の前まで近ずいていた。白銀の翼に照らしだされ人影の容姿が はっきりとわかった。それは炎のごとく紅い、短髪の赤毛が印象的な若い青年だった。
 赤毛の青年はほんのすぐ目の前まで来るといきなり笑い始めた。「ハハッ見つけたぞ!貴様がヴィルナスだな?」
 俺は少し逃げ腰ぎみだったが、なるべく胸をはって言返した。
「そうだ!」
 “危険”また頭の中で声が響いた。奴はまたニヤッと笑いながら、それでいて真剣な声で言った。
「ならば死ね!」
 俺とクルティアが唖然としているのを無視しながら奴は呪紋を唱え始めた。
奴の手が光始め、ゆっくりと両手を開き始めた。その中には透明な炎の渦が荒狂っていた。
 それが奴…、炎締神(えんていしん)との再開であった…。
そして今、長きに渡る戰いが始まったーーーーーー。
悪しき地獄の戰いがーーーーーー。




弐之壱(にのいち)〜幻魔帝降臨(げんまていこうりん)〜


ーーーーーーキィンキイィィィン…キイィィ…ィンーーーーーー
不思議な音色が心を揺さぶるーーー
なつかしい響きーーー
崩れさった、何かが、甦ってくるようだ……
本当に不思議な気分だ…
それは幻影だったのかもしれないーーーーーーーーーーシュッキィィィンーーー…ーーーキイィィンッーーー………ーーー刻の鐘が鳴り響く…。
少女がひとり立ちすくんでいる、なにかを待っているかのように…俺は、やさしくおまえに…語りかける。
ーーー君を守るよ、たとえすべてを失っても、たとえすべてを敵にまわしても、たとえすべてを殺しても…。
君を愛している。いつか君に会える日をふとなつかしい唄がきこえるーーー不思議な唄が…。



近くに君を感じる、すぐ近くだ

彫刻の様に美しい若者が膝をつき、“神の都(ベグファシオ)”の地に拳を叩きつけ呻き声にも似た言葉を発する。
「俺は愛する者さえ救う事ができないというのか…。たとえ蒂位(ていい)のためだとしても、これが仕方のない事だと言うのか…」
朱い涙が金色の髪をつたいおちる…。
長い黄金の糸からつたい落ちた血溜りには、あまりにも醜すぎる地獄絵図”が映しだされていた。
 俺は地に膝まつく彼が何者なのかを知っていたが、別に不思議だとは思わなかった。そう、それが聖旒界(せいりゅうかい)の支配者にして神としての最高位を持つ“蓁蔕神(しんていしん)”だという事を無意識に認識していた。

ーーーーーーーーーキイィィィィン…ーーーーー
キィィィン…ーー深い砂漠がすべてを包む世界、砂の結晶が崩れ落ちた建造物の群れを飲込む。陽にさらされた屍が風化して砂に溶け込んでいく。
これは…どこかで見た景色だ、どこで見たのだろう。この景色を見ていると妙な気分になる。なにか不思議な気分に…。
それは幻影だったのかもしれないーーーーーーー
 無限に続く廃墟の中、若い聖騎士の前に一人の青年が立ちふさがる。ギュギィィ…ィ…ン白銀の旒髪(りゅうはつ)を風に揺らしながら聖騎士はゆっくりと宝剣に して最高の聖旒刀(せいりゅうとう)の称号を持つ、メルゼナル・トゥーム・エルメニアスを引抜いた。陽光に照らされた聖剣が鮮やかに輝きだす。腕を伸ばし聖剣 を垂直に二、三度構え直し、きっさきを地につけ印を刻みつける。そして特殊紋章を刻んだ純銀製の鎧を着けた聖騎士が、哀色の澄きった瞳を青年に向けた。
「そこをどいてもらえないか、烈締神(れっていしん)よ。俺は急いでるんだ、邪魔はしないでほしい」
その端正な横顔に、戸惑いと迷いの表情を深く顔に刻んでいる聖騎士は、やさしい口調?で彼に語りかけた。親友である烈締神のことだから、解かってくれるだろう とでも思ったのだろう…。二人は共にあの、地獄の日々であった“神元刻(カウス)”を生抜いてきた戦友なのだから…。
「き・み・ねえっ、聖旒刀(せいりゅうとう)をつきつけているんじゃ説得じゃ無くて脅しだよ。まったく君って奴は…。どっちにしろここを通すわけにはいかない。解かっているだろう? 君は盗んだ三宝を元に戻し、与えられた天命を引継ぐんだ。これは説得じゃない、君と同じおどしだ!」
 烈締神(れっていしん)という高位の地位を持ち、そして若き聖騎士の親友でもあるグレス・I(イットス)・レニングス二世が、短かいが美しい金髪をかきあげると鋭い眼光 で睨付けた。そして左腕の上方と右腕の下方に装着している烈鍠剣(れっこうけん)と烈龍剣(れつりゅうけん)を二本同時に引抜く。
ーーーーギュゥキィィイィキィィ…ィインッ!
そこに存在するのが当然のように壮麗なる朱い鋭剣(えいけん)が姿を現す。そして烈締神(れっていしん)が装着している美しい装飾紋を刻むプロテクターとあいまって、静かな、それでいてとても高貴な雰囲気を作り出していた。
「それほどあの人が大事なのか? 君にとってそれほどの存在なのか?! そのためだけにすべての神簇を裏切り、殺してきたというのか…」
 若い聖騎士は何も言おうとはしない。ただ静かに立ちすくんでいるだけだった。それはまるで、彼にわびているようでもあったし話を肯定しているようでもあった。
 不思議と、無表情を装っていた烈締神(れっていしん)は表情を表した、残念そうなそして悲しそうな表情、この顔はそう、怒鳴る寸前の…彼の顔だ。
「ふざけるな! そんな事が許されると思っているのか? すべての人々が死ぬ事になるとゆうのに君は、君はあの人を助けだすとゆうのか? 答えろヴィルナス!」
ーーーーーなん…だって? ヴィルナス、そう言ったのか? そんなバカな! あの聖騎士とは顔や体型だって全然違うんだ…。名前の偶然一致? いや、それにしては本人達しか知らない事を知りすぎている。まさか…これは…そういう事なのか? 記憶の糸が複雑に絡み合いひとつの答えが導きだされようとする。だが、何かを思いだしそうな一歩手前で無情の暗闇が、冷たく深くそれを覆(おお)い隠してしまう。 ふと聖騎士……ヴィルナスと呼ばれた男…が、つらそうな笑いを浮べる。
「ーーーーーここで…時間を潰すわけにはいかない、すまない、おまえには地獄でわびるさ…」
聖騎士は聖剣を頭上にかかげると寂しそうにそう言った。だがその顔には先程見せた迷いや戸惑いの表情がすべて消えていた。その瞳の蒼球(そうきゅう)に秘めた思いは…
ザギンッ!
聖騎士が俺? ……ヴィルナスに一刀両断される。いや、それは聖騎士の残像に過ぎなかった。



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