erem9
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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー =闇奇跡(やみきせき)〜』
第九旋承壁陣(だいきゅうせんしょうへきじん)
たかさき はやと
「なに、それで逃げ出して来たの!?」
酒場には仕事を終えた中年の男たちでごったがえしている。
皆仕事帰りという中に、旅をしている感じの者たちが三人いた。
長い栗色の髪に丸い装飾品を山ほどつけ、年季を感じさせるリュックを背負った女性、
ミラルがそう言う。
美しいというより愛くるしい感じの顔立ちだ。
「なにもできなかった……」
ジョルディーは打ちひしがれた声で言う。
エルフィールにいたっては言葉さえ出ない。
「それでよく勇者やってるわね」
「勇者をやってるわけではない。
だいたい、ミラルだったらなにか方法でもあったって言うのか?」
「ないわね」
ミラルは即答した。
「でも、なんの準備もしないうちにダリルにぶつかったりはしない……違う?」
「それはそうかも知れないが……」
「賢者なら一人紹介できるのがいるけれど……」
「ほんとうに!?」
ミラルの言葉に反応したのはエルフィールだった。
「ええ、旅に出て半年、まったく、できた友達は一人だけよ」
「すぐ紹介してくれっ!」
エルフィールがミラルに喰らいつくように言う。
「いいわよ」
ミラルに連れられ、ジョルディーとエルフィールは破邪(はじゃ)の森を越え、とんがり山の異名を持つ、山の中腹に向かっていた。
「いったいいつになったら着くんだ」
ジョルディーがミラルにぐちる。
エルフィールの知らない一面をミラルには見せる。
なにか歯がゆい気持ちがするエルフィール。
「本当に八賢者の一人なのか。賢者を名乗る者はたくさんいる。
ニセ者じゃないのか」
エルフィールの質問はもっともなものだったが、ミラルは大丈夫を繰り返すばかりなのだった。
山の中腹にある洞窟にミラルは入っていく。
「こんなところに人が住めるのか?」
「なに用じゃ」
渋い男の声がする。
どこにいるかジョルディーとエルフィールは探すが気配を感じることがない。
「ダリル様は……封印の魔則(まそく)とはなんだ、
ダリル様はどうなってしまったんだ。私は……どうすればいいんだ!」
洞窟にエルフィールの声が響く。
「一人一人ではなにもならないが、二人が力を合わすならば、奇跡は起きる……」
「それはどういうことだ」
今度はジョルディーが聞く。
賢者は沈黙を守った。
「こんなところまでピクニックかい?」
三人の後ろにエルフの女性がいる。
外は吹雪となっているというのに、薄い布一枚を着ているだけだ。
腰まである金髪が風に揺れる。
その美貌は年はいっているが相当のものだ。
「アーディーン……」
エルフィールの言葉はまた新しい刺客を意味していた。
「ここが墓場でいいかいエルフィール……」
「ダリル様は私を許してくれた」
「私たちは許していないし、
そのダリル様に対する不穏な動き……それだけで充分だっ」
アーディーンは手から氷の剣を放出する。
氷の短刀が三人を襲う。
ミラルのマントのひと振りで落ちる短刀の数々。
「助っ人か……三人とも死ねっ!」
戦いは長期戦を思わせた。
だが、だんだんアーディーンの動きがぎこちなくなっていく。
アーディーンが封印の魔則(まそく)のために、
クリスタルに閉じこめられはじめていた。
「アーディーンっ!」
エルフィールの声も空しく、クリスタルに閉じこめられていくアーディーン。
「奇跡は二人の力が重なった時起きる……」
また賢者の声がした。
ジョルディーの手が光り出す。いや、エルフィールの手も光り輝く。
二人は自然と並ぶ。
エルフィールが精霊を呼び、ジョルディーがそれを剣とした。
ジョルディーとエルフィールの手が剣によってつながったいた。
二人は同時に手を振り下ろす。
パ……キィ……ン……
アーディーンのクリスタルが一刀両断される。
「これは……どうして?」
いぶかしるアーディーン。
「ま、ま、いいからあなたこっち来なさい」
ミラルがアーディーンを洞窟から連れ出す。
ジョルディーとエルフィールはお互いの手がつながった剣を見ていた。
それこそクリスタルでできていた。
「それを使いこなすも悪用するもおまえたち次第だ……」
声はそれから聞こえなくなった。
しかし、二人にはそれで充分だった。
剣が輝きの星となって消えていく。
洞窟の外に出る二人。
外ではミラルとアーディーンが待っていた。
「やったじゃない」
と、ミラル。
「おまえたちを認めたわけではないぞ」
アーディーンが二人に道を開ける。
「でも、おまえたちがしょうとしていることに……
興味がわいた。行けよ」
「ありがとう」
エルフィールは頭を下げて歩き出す。
それにジョルディーが続いた。
目的地はダリルの城のみであった……。
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