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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー 闇神場(やみかみば)〜』
第二十六旋承壁陣(だいにじゅうろくせんしょうへきじん)
たかさき はやと
神の神殿があった。
ぽつんとひとつ白い神殿がある。
白い大理石の柱に支えられたギリシャ風の建物だ。
「これは入り口か?」
エルフィールがハイベルに聞く。
「いや、これが神々のすべての神殿だ。
これが神々が住むそのすべての神殿だ」
「なんだ神はこんな一軒家に住んでんのか。
交代で住んでんのか」
エルフィールは興味津々だ。
「中に入ってくださいよ」
ハイベルに進められ、四人は神殿に入る。
神殿の階段に足を一歩踏み入れる。
と、神殿の横に神殿がひとつ現れる。
「なんだ、こりゃ」
エルフィールがハイベルに聞く。
「始まりの神殿はあなたが必要としてる神殿への入り口。
あなたが求める神の神殿へと案内してくれます。
エルフィールさんが求める神はあの神殿にいます。
どうします。行きますか」
エルフィールはジョルディーを見る。
ジョルディーがうなずく。
「行こう」
エルフィールは歩き出す。
始まりの神殿を通り抜けて現れ出(い)でた神殿に行く四人。
白い石の階段を半階のぼり、
天までのぼるような白い柱を抜け、
神殿内に入る。
中は広大な庭園が広がる。
「おいおい外見より中が広いぞ」
エルフィールが文句つけている。
「神は見た目に左右されない。
きみの心と同じさ」
ハイベルがしたり顔で笑う。
「はんっ神がなんだってんだ。
行くぞジョルディー」
「おう」
四人はエルフィールを先頭にそらに歩く。
背の高さまで、びっしりしげる赤いバラのしげみの庭を通り過ぎる。
神殿内だというのに太陽がらんらんと輝いている。
「ずいぶん居心地がいいな」
エルフィールは関心しきりだ。
「ここは気持ち良さが生まれる場所だからね」
目の前にめがねに金色の短髪、
精悍(せいかん)な顔をした、
白い布の服を着た神がいた。
「おまえは……」
エルフィールが目を見張る。
その神は戦いの神を斬った時に光りの中で見えた神だった。
戦いの神に、神の没落を説いていた男だった。
「ようこそ。
お待ちしていた。
ここではなんだから、客間まで起こし願おう。
お茶くらい出すよ。
着いてきなさい」
「それじゃお言葉に甘えて」
ジョルディーがそう言うと、
神にほいほい着いていく。
「おい、戦ったほうがいいんじゃないか」
エルフィールの言葉はどこ吹く風、
ダリルもハイベルも着いていく。
「どうしたエルフィール。
置いていくぞ」
ダリルの言葉にエルフィールは「は、はいっ」と、あわてて着いていく。
神殿の中の建物は白い石を積み上げた神殿だ。
白い壁がどこまでも続いている。
しばらく歩いていると、
一歩踏み入れた途端、
部屋は一転して暗くなる。
一歩下がると太陽の照る空間であり、
一歩踏み入れると夜が彩る空間なのだ。
暗い視界のため、
靴音の響きでここが広大な広間らしいことがわかる。
歩く先だけ光りが開けていく。
どれだけ歩いただろうか。
壁と扉が現れた。
扉が開く。
そこは長いテーブルがある部屋だった。
装飾品や色彩豊かな絨毯。
どうやら客間であることがわかる。
「どうぞ座りたまえ」
神は着席をうながす。
「名も知らぬ者にそんなことを言われてもな」
エルフィールが反発する。
「そうだな、私はあなたがたを知っている。
私は知識の神ウェルハイコイル。
ウェルとでも呼んでくれ」
ダリルが、
ジョルディーが、
ハイベルが、
長いテーブルに座る。
エルフィールもなんとなく座る。
気づくと食事がテーブルの上に人数分ある。
「どうぞ」
ウェルがうながす。
「食事をしに来たのではないぞ!」
憤(いきどお)るエルフィールをよそに、
食べ始めるダリルたち三人。
「うんうまいぞエルフィール」
「そうですね」
エルフィールも口に詰め込む。
「それで、どうしたらいいんだろう」
ジョルディーがウェルに聞く。
「私は問う者。
知識を開く者。
答えは用意されるものではない」
「そうだな」
ダリルもうなずく。
「まあ、教えよう」
ウェルは続けて言う。
「大神(たいしん)ハーバイトが姿を消してからこっち、
神々は力を失い、
失った力を人から奪って、
なんとか凌(しの)いできた。
大神さえ戻っていただければ問題はない」
「そんなもん探せ。
神だろう」
エルフィールは憤慨(ふんがい)している。
「神とて神には万能ではないのでね」
ウェルはさらっとかわす。
「なにか私にできると言うのですね」
ジョルディーが言う。
「ちょっと待て」
エルフィールがちゃちゃを入れる。
「私たちってなんだ。
私は力を貸すなどと……まあなんだ。
話しにもよるかな。
聞いてからだぞ」
ウェルが説明する。
「その光りでこの神殿を斬ってくれ。
それでなにか解かれば、
めっけもんだ」
「おい、こっちは冗談でここにいるわけではないぞ」
エルフィールは怒った風だ。
「まあ、いいけどな。
それでも」
エルフィールはそう言うと立ち上がる。
「どうしたエルフィール」
ジョルディーが聞く。
「どこへ行けばいいんだウェル。
しのごの言ってないでいくぞジョルディー」
「そ、そうか」
エルフィールの後に着いていくジョルディー。
「ところで」
エルフィールはウェルに向き合う。
「どこへいく」
「着いてきてくれ」
ウェルは歩き出す。
後に続くダリルとハイベルとエルフィールとジョルディー。
暗い回廊をどのくらい歩いただろうか。
建物の外に出る。
広大な雄大な景色が広がる。
浮いた大地の数々。
「これが神殿か」
エルフィールが聞く。
「神殿とは神の住処(すみか)か。
それはどこでもある。
神はどこにいても神殿に存在があり、
神殿を光りで薙(な)いだ時、
どこに大神ハーバイトがいようとエルフィール、
きみたちに大神がつながるはずだ。
では、頼む」
ジョルディーとエルフィールのあいだに光りが生まれる。
光りが一瞬視界を包む。
光りが神殿を包んだ。
神々がいた。
ジョルディーとエルフィールの前にいた。
無数の神が。
だがいない神がいた。
なにかがぽっかりないのだ。
それは気持ちであった。
どこかで声がした。
誰かが呼ぶ声がした。
−−−これが大神か?
エルフィールは思うが解からない。
それはほんの一瞬だった。
そうには違いないのだが、
神の一端となり、神々の気持ちが流れ込んできて、
エルフィールはクラクラした。
考えがまとまるまでに、しばらくかかった。
「なんかいたな」
エルフィールがしどろもどろになりながらジョルディーに聞く。
「ん、なんかあったな」
「行ってみるか」
「そうだな」
「我々も大神を探してみよう。
引き続きだから期待しないでくれたまえ」
ウェルは一礼するとパチッと指を鳴らす。
ジョルディーたちは平原にいた。
神殿はどこにもなかった。
「それじゃよろしく頼むよ」
ウェルはそう言うと空間の扉を開け、神殿に帰っていく。
「さて、行くか」
ジョルディーの言葉にエルフィールは「そうだな」と答えた。
道はまだ続いているようだった。