erem23
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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー 闇国葉(やくは)〜』
第二十三旋承壁陣(だいにじゅうさんせんしょうへきじん)
たかさき はやと
時間が止まっている。
それがエルフィールが感じた最初だった。
なにもない世界。空は白く、地は黄色い。
その色と色がどこまでも続いている。
どこまでも続く黄色い大地。
「なんだ?」
エルフィールは地にでこぼこしているところがあるのが見分けられた。
「なんでしょう。あのでこぼこは」
「わからない」
ダリルはそう言うと歩き出す。
ジョルディーはちょっと先でその黄色い突起物をしげしげと見ている。
「どうだね」
ダリルの声にジョルディーは「なんだか人のようだ」と答えた。
エルフィールも黄色い物体をしげしげと見てみる。
なにやら影が人のような物が透けて見える。
「これは……」
その黄色い物体は見渡す限り延々と遠くまである。
「どうやら行方不明の人々のようだな」
ダリルが断言する。
「そう、それは消えた人々だよ」
ハイベルが一人言のように言う。
「どうしてこんなことになったんだ」
エルフィールの問いにハイベルは「それが神の意志だからさ」と答えた。
「神? 神がなんだっていうんだ」
エルフィールは憤慨(ふんがい)して言う。
「ここはカミバだ」
「カミバ? 神の領域がなぜここにある」
「カミバは時と場所を選ばないで出現するとこもある。ここの人々は捧げられたのだ」
「なぜ」
「神を問うてはならない。そうだろう」
「だとしても」
エルフィールとジョルディーのあいだに光りが生まれる。
ザキン!
二人は光りで黄色に包まれた人を斬る。
その人が消えていく。
「これは……?」
ダリルが不思議そうな顔をする。
「元の世界に戻ったのさ」
ハイベルが説明する。
「でもねエルフィールにジョルディーさんたち。考えてもみてくれ」
ハイベルは二人に話しかける。
「国がひとつまるごとカミバとなったのだ。この国の人たちや様子を見に来た騎士たち。どれくらい膨大な数きらなくてはいけないと思う。その光りはカミバではそんなに多くの人を一辺には斬れないと思うよ。この国の人たちを斬るのに何日かかることやら。食料ももたないよ。無理はしないことだ。元の世界に帰るなら力になる。きみたちはこんなところでどうにかなるべき人ではないのだと、ぼくはそう思うのさ。どうだろう、帰らないかい」
ジョルディーたちは光りを振るい続けている。その度に人は元の世界に帰っていく。
「まったくきみたちは頑固(がんこ)だねえ。そうでなくてはぼくが見込んだかいがないよ。聞いてくれ。一回で済みそうなところがあるんだ。お得だろう」
エルフィールたちは無言で光りを振るい続けている。
「おいおい聞いてくれよ」
ハイベルはエルフィールの肩をつかむ。
間髪いれづに光りがハイベルを斬る。
ザキン!
ハイベルは片手で光りを受けとめる。
「話し、聞く気になったかな」
光りが収まる。
「それで?」
エルフィールが聞く。
「国の中央の噴水がカミバの中心だ。それを斬れば、この国ごと元の世界に戻る」
エルフィールたちは歩き出す。
「それでね、きみたちが持っている光りはね、どういうものかというとね」
「少し黙ってろ」
エルフィールが一括する。
「なんだよーいいじゃないか」
ハイベルがしゃべりたそうだ。
四人は石の舗装路(ほそうろ)を抜け、広場に出る。
ドームひとつ分はありそうな石のミュージアムの中心に噴水があった。
吹き出す水が止まっている。
なにもかもが氷りついた空間。
エルフィールとジョルディーのあいだに光りが生まれる。
水の中に入っていく二人。
水はゼリーのように脆(もろ)く砕けていく。
噴水の中心に石の丸い柱がある。
二人はうなずく。
ザキン!
柱が光りに包まれる。
なにかが空からやって来る。
いや落ちて来るのだろうか。
二人はそれ、に飲み込まれた。
それ、の中は四角い空間が続いている。
人がいる。
奇妙な服を着た人々がイスに座っている。
四角い細長い空間には窓があり、外の風景はすごい速さで移動していく。
どうやら乗り物であるらしいことにエルフィールとジョルディーは気づく。
これが電車であることに、まだ二人は気づいていない。
電車は二人を通り抜けて行く。いや、二人が電車を通り抜けて行くのだろうか。
―――なに食うかなあ。
若者が通り過ぎて行く。
―――腰が痛いねえ。
老婆が通り過ぎて行く。
―――あ〜カレシ欲し〜。
女性が通り過ぎる。
通り過ぎる人々は色々な気持ちを風のように持ちつつも過ぎていく。
老婆も若者も女性も性別の解からない人も通り過ぎていく。
そこには別の人々がいた。
エルフィールもジョルディーも知らない人々がいた。
電車が通り過ぎたのは一瞬だった。
すべてが透き通っていた。
人々の心までが透き通って心に残った。
ズババン!
世界が出現した。
それは葉(は)の国だった。
凍った国は息吹を取り戻し、人々はまた生活を始める。
エルフィールとジョルディーは噴水から出る。
エルフィールはハイベルに詰め寄る。
「あれはなんだ。なんだったんだ」
「知らなくていいことだ」
ハイベルは険しい顔をしている。
一変笑顔になるハイベル。
「さあ、あなたたちの度は終わりでしょう。葉の国でも案内しますよ」
ハイベルはそう言う。
「いや、旅は終わっていない」
エルフィールはそう言うとジョルディーのほうを見る。
ジョルディーもうなずく。
「神の住処へ行く。案内しろハイベル」
「え、いやでもそれじゃあなた方が割にあわないですよ。もっとするべきことがあるんじやないですか」
「これがやらずしていつやるんだ。案内しろハイベル」
エルフィールはがんとして言(げん)をゆずらない。
「困ったなあ。ぼくは戦いの神じゃないから、神と戦うことになっても戦力になりませんよ」
「いいから案内しろ!」
「そうですか。それじゃちょっとだけですよ」
「私もついて行っていいかな」
ダリルがそう提言する。
「死の国の王がそれを許さないだろう」
ジョルディーがそう言う。
「それならぼくが話しをしときましょ」
ハイベルがさらっと言う。
「決まりだな。行くぞ!」
エルフィールは歩き出す。
四人はまた歩き出した。