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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー 闇帰旋(やくそく)〜』


                 第二十二旋承壁陣(だいにじゅうにせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






エルフィールだけがいる。
白い世界が続く。どこまでも。煙のようなもやが地を隠す。地の感触がない。まるで雲にでも乗っているような感じだ。
エルフィールは辺りを見回すが誰もいない。
「どこだここは……おーいジョルディーどこだー」
誰も何も反響しない。それでいて自然の中にいるように落ち着いた感じがエルフィールを包んでいた。
仕方なく歩き出すエルフィール。
どれくらい歩いただろう。
世界はその存在意義を失ったかのように静かだ。
「女の子?」
ちょっと先で座ってなにかしている女の子がいる。
「お嬢ちゃん」
エルフィールは声をかける。
「なんでちゅか」
女の子は花を摘んでいる。
髪は長いストレート。色はぼやけた虹色だろうか。
白いワンピースにりぼんを腰と頭にくりくりっと巻いている。
「なにをしている。ここはどこだ。おまえは誰だ」
「しちゅもんはひとちゅまででちゅ」 「あっああすまんな。それじゃここはどこだ」 「ここはあなたのこころれちゅ」 「あ、んーとおまえ言葉使い変だぞ」 「へんちゃありまちぇん」 「そうか。それで誰か他に見なかったか」 「だれもみまちぇんよ」 「そうか」 しばらく辺りを探索したが、また少女のところまで戻ってくるエルフィール。
万策尽きたとばかり少女の横に座る。
「おまえこんなところでなにをしてる。一人でヒマじゃないか」 「いそがちいんでちゅ。じゃまはいけましぇんよおばたん」 「誰がおばさんだ誰が」 エルフィールは憤慨しつつも手のシワをじっくり見てしまう。
「おまえは一人なのか。帰る場所はあるのか」 「ありまちゅよ」 「そうか良かったな」 「おばたんはないの」 「ないな。いや、いまはある。それだけだ」 風がなびく。
白い世界になにもかも失ったような気がした。エルフィールはそんな気がした。
「なにか忘れているような……」 エルフィールは座っている地面を見る。白い煙が漂い、なにも見えない地面。
だが、そこから少女は花を摘んでいる。はっとするエルフィール。
「おまえなにをしている」 少女の肩を乱暴につかむエルフィール。揺れた少女の髪からとがった耳が見える。
「エルフか。なにを知っている。言え! 言わないと斬るぞ」 「おまえをころちぇ」
「なんだとこのガキ」
「ふるいじぶんをすてしゃりなしゃいっ」
「なにを言っている」 いきおいよく立ち上がろうとして草だろうか。エルフィールはなにかにつまづいて転ぶ。
後ろに気配が、少女の気配があった。それは大人のものに変わる。
なにか知らない気配。
―――斬られる。
エルフィールは直感でそう思った。
迅速に振り返る。
そこにエルフの女性が立っていた。
大人の女性だ。
それは知った顔だった。
「母さん」
髪は腰下まである白いワンピースの女性がいた。
「大きくなったわねエルフィール」
「母さん私は私は」
「おゆきなさいエルフィール。あなたを待っている人がいるでしょう」
女性は遠くに消えていく。白い霧がその姿を隠す。
「母さん、あたしはっ」
「……元気でエルフィール」
―――エルフィールを頼みますあなた。
目が覚めた。いや、それは世界が変わっただけなのかも知れない。
目の前にダリルとジョルディーがいる。
眠っていたようなのがエルフィールには解かった。
「だいじょうぶかエルフィール」
ダリルがやさしく起こす。
「はいダリル様」
エルフィールは起きあがる。地面は普通の土だった。森の中に三人はいた。うっそうと緑がしげる。まるで亜熱帯のジャングルのように。空は青い。エルフィールは陽の光りに目を細める。
「向こうから水の音がする」
ジョルディーはそう言うと歩き出す。その後をエルフィールとダリルは歩いた。
木々が別れ、小さな滝と池がある。
「誰だおまえは」 そこに白い布と紐(ひも)の服に身を包んだ男が一人立っている。
金色の短い髪。
端正な顔立ち。
なにひとつとて不足のない様子と自信があふれている風貌(ふうぼう)。
「ようこそ。ぼくはガリューンの息子ハイベル。以降よろしくお願いしたい」
よく澄んだ声が響いた。
まるで鳥の声のようだ。
「ガリューン……、確か海底のひとつオリンティアの神、だな」
ダリルが問うように言う。
「よくご存じで、まあ、母は人ですがね」
「それで、なにが言いたい」
エルフィールは前に出る。
それを補うようにジョルディーも前に出る。
「私はなにもしない」
「神の息子とて死なないとでも思うのか」
エルフィールは剣を引き抜く。
「およしなさい。そんな無粋なもの見たくありません」
「おまえが敵でないと、この事態の大元でないと、なんと証明する」
エルフィールが詰め寄る。
「証明はありません。ただ見たいのです」
「なにをだっ」
ハイベルはエルフィールには答えず滝を指さす。
「ただ、あれが鍵だと言いたいのですよ」
滝の下に白い大理石の柱がある。いや、柱というには小さい。その上にふくろうの像がある。
光りが生まれた。ジョルディーとエルフィールのあいだに。
二人は像の前まで行くと像を斬る。
パアア……
三人は光りに包まれた。









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