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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー 闇走陽(やみそうひ)〜』


                 第二十一旋承壁陣(だいにじゅうせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






葉の国の近くにジョルディーとエルフィールの二人は来ていた。二人にもそれは解かっていた。だが一向にそんな国などない。どこまでも平原が続き、地平線がどこまでいってもある。太陽だけが頭上にギラギラと輝いている。地平線には蜃気楼のような、ぼやけた揺らぎがまたたいている。岩や砂の砂漠が延々と続いていた。それには終わりがないように二人には思えた。足どりも重く、二人は疲れていた。
「おかしいな。もう着いてもいいはずなのに」
エルフィールは乾いた声でそう言う。
ジョルディーは「なにかおかしいな」と言った。
バカ
バカン
岩が砕けた。そこかしこの岩が砕ける。地中から無数の手がのびる。岩が飛び散り、エルフィールやジョルディーも吹き飛ばされる。なんとか着地する二人。
「なんだこいつらは」
エルフィールは狼狽(ろうばい)していた。際限もなくのびる手は人のものではない。それが友好的なものでなく、攻撃であることも見てとれた。
エルフィールはサラマンダーや細剣でなぎはらうが、手は次から次へと出現してくる。逃げようにも地平線の彼方まで手の触手がひしめく。他にはなにもない。
「こんなのが、なんだ、これは。これが葉の国の異変の正体か!?」
エルフィールの言葉にジョルディーは答えない。
ジョルディーはただ、手をのばした。エルフィールに。
エルフィールもうなずく。
パアア……
光りが場を包む。
カキインッ!
光りが砕けた。その後に、二人の間に光りの剣が生まれる。二人は触手を斬るが、ひとつやふたつの触手を斬ったところでなにも事態は変わらないし、光りの剣に心に響く手応えもなかったのだ。
ジョルディーは疑問を感じていた。なにかが違う、と。
それはエルフィールとて同じだが。
「きりがない」
エルフィールが汗だくでそう言う。
ジョルディーも肩で息をしている。
疲労だけが二人に蓄積されていった。だが、なにか改善策があるわけでもないのだった。
二人はなんとか足場を確保しつつ、逃げるだけの状態だ。こんなことが無限に続くはずもない。二人が不利なのはあきらかだった。
「ジョルディー。こんなことは言いたくないが……」
「なんだエルフィール」
「観念するという言葉が頭をよぎるんだ」
「それはたいへんだな」
二人は何度光りを振るっただろう。
そして、触手はさらにわきあがる。
そのくり返しが続く。
そんな時だった。
「太陽を斬れ!」
男の声が響いた。
エルフィールとジョルディーは触手をかわし、飛び上がる。
反射だった。
その言葉に体が先に反応した。
疲れがそうさせたのか、日々の修羅場が身についていたのか。
二人は触手を足場にしつつ、どんどん空に飛び上がる。
二人は目を疑った。あろうことか空の太陽が近づいてくる。
目の前にメラメラと灼熱の星があった。
ザキン
二人の光りの剣により、太陽がまっぷたつになる。
炎のように太陽から血が吹き出す。
赤い雨に打たれ、触手が次々と消滅していく。掘り返された地面だけが残った。太陽が、いや、それはもう丸いなにか生物の残骸だったものが地面に崩れていく。その生物が倒れる地響きがしばらく鳴り響いた。太陽が輝いていた。本物の太陽が。
二人は光りに包まれ、ゆっくりと地に降り立つ。
二人に傷ひとつないのだった。
「よくやった」
男が近づいてくる。先ほどの声はこの男らしい。男の姿は黒い、黒づくめの衣装だ。それは黒いマントに黒いフード。
まるで舞踏会か死に装束かといった感じだった。
黒ずくめの男は、エルフィールにあいさつする。
「ひさしぶりだな」
エルフィールがびくついた。
「ダリル様……」
その声、フードをとったその姿はダリル、かつて二人が倒した男に違いなかった。エルフィールにはなぜかそれが本物に思えたのだ。
「ダリルさまっ!」
エルフィールはダリルに駆け寄る。歓喜がエルフィールを支配していた。ダリルはにこやかに立っている。足もあった。ウソでも幽霊でもない。そこにダリルがいた。瞬間、エルフィールの脳裏にダリルを倒した時のことが思い返される。二人の剣の前に崩れていくダリルが。笑った。あの時と同じように。ダリルがそこにいた。目の前に笑顔の男が。「う、うわあああ!!」エルフィールが抜刀した細剣をダリルに放つ。
ガキイン!
ダリルも長剣を半身、鞘(さや)から出したもので、エルフィールの細剣を受けとめる。エルフィールの目の前にダリルがいた。少女の頃からエルフィールを育ててくれたダリル。父親のようにやさしかったダリル。いや、エルフィールには父親以上だったかも知れない。雨の日、見えない太陽を探してずぶぬれだった少女、エルフィールを抱き上げ、歌を歌いながら一緒にいてくれたダリル。少女が見上げた空にはダリルがいた。いつも一緒だったダリル。きっとダリルとともに終わるはずだった人生。ダリルはいた。変わりなく、エルフィールの目の前に。
「ずいぶんがんばっているんだろうな、エルフィール。その顔がそう言っているよ」 エルフィールは泣きだした。ダリルにひざまづいて泣いた。ダリルはやさしくエルフィールを抱きしめる。
いつからそうしていただろう。いつまでも変わらない日常がここにあった。横にいるダリルに、いままであった冒険を話しているエルフィールがいた。いままであったことをコト細かく、楽しそうに話した。何度も何度も話した。しばらくすると話すことが無くなってしまった。エルフィールはあさってのほうを向いていた。ジョルディーがダリルに聞く。
「どうしてあなたがここに?」
エルフィールが聞かなかったことをジョルディーは聞いた。いまのエルフィールにはどうでもいいことを。ダリルはジョルディーに向き直る。
「私は死の国々を冒険して歩いた。そこで老人と会った。しわの寄った顔。白いヒゲで顔がおおわれているんだ。年は年だが、口はよくまわった。冗談も好きだが、なにかというと腹はすいてないかと私に聞いてくる。そんな老人がアル国の王だと知ったのは後のことだ。その老人は国の人々が葉の国に行きたがっている。それがなぜなのか解からないかと聞いてくるんだ。私が調べましょうかと言ったら、ここまで来ることになった。だから来たんだ。そうでもなければいけないことなのさ」
ダリルはそう言って笑った。ジョルディーもなんとはなしに苦笑いしている。この二人には言葉は多くいらないようだった。
「それで、なにか解かりましたか」ジョルディーの質問に「いや、まだない」と答えるダリル。 ジョルディーは軽く「それでは一緒に行きませんか」と言った。
驚いたのはエルフィールだった。
「な、なにを言うジョルディー。ダリル様はな、い、忙しいのだから、こんなところでそんなことを話していてはいけないからな、そ、そうですよねダリル様。い、いえ、なにも言わなくても解かります。ダリル様はダリル様なのですからっ」
「それもいいな」と、ダリルが答えた。
「は?」
「それともエルフィールはいやかい?」
「そ、そんなめっそうもない、え、いや、その、なにがですか?」
エルフィールのことを笑っているジョルディーが二人の間に入ってダリルに問うた。
「葉の国がここいらにあるのは確かなんですが、どこにも見あたりません。知りませんか」
ジョルディーの言葉にダリルは長剣を抜き、地に突き立てた。
ガリガリガリ
岩が崩れ、地の割れ目から門が顔を見せる。数十メートルはあろうかという、見上げる高さだ。黒い艶は鋼鉄の証しを示している。装飾は人の像が数えきれないほど設置されている。それぞれが芸術の粋を集めて作られた。そしてそれらのデザインから、重い伝統を感じさせられたのだった。
ダリルはなにもなかったように二人に向き直る。
「さっきの生き物が門だったんだ」とダリルが言う。
「さあ、行くぞエルフィール」
ダリルの言葉にエルフィールは「はいっ!」と答えた。
エルフィールとジョルディーとダリルは門の前に立つ。三人の前に黒い門がそびえてる。門の数々の装飾と伝統の重厚さはこれからの苦難の証のように立ちはだかっているようだ。が、エルフィールにはどうでもよかった。ただ三人で旅が出来る。それがうれしかった。これから先なにが待ち受けていたとしても、それを受け入れようと心に誓うのだった。
鋼鉄の門はダリルが開くと、簡単に動いていく。音もなく門は開いた。白い世界が広がっていた。別の世界が広がっていた。三人は足を踏み入れたのだった。









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