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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー =闇夢旋(やむせ)〜』


                 第十九旋承壁陣(だいじゅうななせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






闇が視界のすべてと化す。
ひとりの少女だけが立っている。
なにをするでもなく立ちすくむ少女。
「まだ見つからないのかい」
少年の声は少女に問う。
少女は答えない。
ただ、立ちすくむだけ。
「もっと願いはない、自由は嫌いかい」
少女はなにも答えない。
暗い闇の世界に光りの雨が降る。
それは少女の涙だったかも知れない。
少女はエルフィールに成長した。
エルフィールは光りの雨の中、なにか、うごめく闇と戦っている。
エルフィールがサラマンダーを放つ。闇もサラマンダーを放った。
回転しながら消えゆく両者のサラマンダー。
「それでいいのかい」
少年の声がする。
エルフィールは剣を抜くと、闇に斬りつける。
同じ剣が闇から射出て、エルフィールの剣を受けとめる。
「なにを争う必要がある」
少年は何気ない口調で問う。
闇の剣が折れた。
エルフィールはさらに剣を振るう。
切り裂いた闇の先には、同じ姿のエルフィールがいた。
動揺せずにさらに斬りかかるエルフィール。
相手の腕を切る。
切ったほうのエルフィールの腕も切れて血を流す。
それでもエルフィールは切り続ける。
感触はない。ただエルフィールは剣を振るった。
「光りはなにを映している?」
すでに少年の声も聞こえてはいない。肩で息をするふたり。
それでも剣を振り上げる。
エルフィールは力つきたように剣を落とす。
立っているのがやっとだった。
それでも拳を頬に叩きつける。
お互い吹っ飛ぶ。
「それはなんだい」
エルフィールの手に誰かの手の感触があった。
光りのが生まれた。光りの剣が。
エルフィールはエルフィールを斬る。
そして自分も光りに包まれた。
青空が見えた。
夢だったことに気づくのに、しばらくかかった。
まわりは草むらの中、草原がどこまでも続く。
そんな中にジョルディーとエルフィールはいた。
起きあがろうとして、ジョルディーと手をつないでいることに気づいた。
「起きたのか」
ジョルディーがそう言う。
「おまえ……手……」
「必要だっただろ?」
「あ、ああ……うん、まあな」
キョトンとしてしまうエルフィール。
「おまえ、あの夢……いや、あれは夢、なのか?」
「ん?」
ジョルディーが不思議そうな顔をしている。
「い、いやその……」
エルフィールは下を向いてから、またジョルディーを見る。
ジョルディーは笑っていた。
なんともいえない笑顔だった。エルフィールはそれでなにもかも良く思えた。
ふっと、ため息をひとつつく。
「なんでもない」
青空はどこまでも続いている。
こんな日常が心地良かった。
いつか夢見た日々でもあった。
ただ、となりにいるのがこの男であった。
「そういえば……」
ジョルディーは鹿の腸を洗って作られた袋から、笛を取り出す。
「それは……」
エルフィールはけげんな顔色だ。
「ああ、鳥人(アベル)が別れぎわにくれたんだ」
「なんのために?」
「さあ……?」
ジョルディーは吹いてみる。
音色はまるで低いテノール歌手のようだ。
音色はどこかなつかしい感じがした。
ジョルディーはしばらく吹いてみたが、なにも起こらない。
笛を調べてみるが、なにか魔法がかかっているようでもない。
「おい、あれ……」
エルフィールが指す空には何も見えない。
しばらくすると、空に点がふたつ見える。
点は大きくなる。それには翼があった。体中に羽があり、筋肉隆々だ。顔はワシのようだ。
まぎれもなく、アベルたちと同じ鳥人だった。
鳥人はワシのように突風のように近づいて来る。
あっというまに、ふたりの鳥人はジョルディー達の前に降り立った。
「わたしたちはこの近くを飛んでいた。用を言え」
威厳あり気に腕を組んだ鳥人がそう言い放つ。
ジョルディーとエルフィールは顔を見合わせる。
「用ったって……」
エルフィールがジョルディーを見る。
「そう、ひとつあった」
ジョルディーは鳥人となにか相談している。
ふたりの鳥人はうなずくと、飛んで行く。
「なにを頼んだんだ?」
「ああ、これからどこへ行くか、さ。話し合う必要があるだろう」
「? なんだって?」
しばらくすると、鳥人がまた現れた。
「なにすんのよ! はぁなあせぇ〜え〜!!」
鳥人はミラルをはがいじめにして連れてくる。
「あら、ジョルディーとエルフィールじゃない。こんにちわ」
「あ、ああ」
「ひさしぶりだな」
「それで、なにかあったの」
ミラルが聞く。
「ああ……」
「帝国がたいへんらしい。兵士がなにかのために帰ってこないらしい。なにか知らないか」 「う〜ん、あれかしら」 「なんだ?」
「ハの国が連絡とれなくなってしまって、隣国はいまちょっとした騒動とか」
「それだけか」
「それが内々の話しだけど、どうもそれが世界を巻き込む大事件で、各国兵をハの国に送ってるって話しよ。たいへんよねー」
「ふーむ……葉の国か……」
「行ってみるか」
ふたりは歩きだす。
ハの国に。
まだ道は荒れ地だった。
それはこれから訪れるなにかを暗示しているかのように。
日がかたむいていく。
ふたりはそして歩きはじめる。
未来へ。
「あの〜あたしはどうなるの?」
ミラルははがいじめにされながら言う。
「ああ、いたところにもどしといてくれ」
「あーれ〜」
羽ばたきの音とミラルの声が遠くに消えていく。
ふたりはハの国に向かう。
「そういやこの武器の山はなんだ」
馬に武器が山と積んである。
「ああ、生活費の足しにしょうと、帝国の兵士からもらってきた」
「ははっ、そうか」
「でも野宿だけどな」
「そうだな」
ふたりの歩く先には赤い日が暮れていく。
まだなにも知らない明日があった。
ただふたりはその日々へ身を投じていくのである。
まだ決まらない運命を目指して。









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