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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー =闇軍樹(やみぐんき)〜』


                 第十八旋承壁陣(だいじゅうななせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






 行商隊のロバや馬群とすれ違いはじめる。
 それらが巻き起こす砂埃で前が見えない。
 帝国は砂漠という地形を隊商の交流地として栄えていた。
 下層地帯は布を木の棒で四角く張ったテントが群れている。
 見渡す限り商店のテントや馬たちの停留所で占められている。
 行き交う人々は年季の入ったしわが顔に彫り込まれている。
 疲れたような、それでいて活気をおびた人の群の中を、ジョルディーたち三人はゆく。
 砂がカーテンのように道を舞い、体中砂まみれになる。
「うへえ、口の中までジャリジャリする」
 エルフィールがそう言って舌を出す。
「見えたな」
 ジョルディーの視線の先、砂のカーテンの先にうっすらと巨大な建物が見え始める。
「あれが居城か」
 と鳥人。
「王が話しなどしてくれるものか」
 とエルフィール。
「それはどうかな」
 ジョルディーはいつになく陽気だ。
「おい!」
 エルフィールの声に前を向くと、帝国の兵士が四人ほどやって来る。
「どうする」
「ま、行こうじゃないか」
 ジョルディーが歩き出す。
 商人たちが兵士たちに道を開ける。
 ジョルディーは気にするでもなく、兵士とすれ違う。
 ジョルディーたちには、なにも言わず、なにもしない兵士たち。
 エルフィールは振り返り、振り返りジョルディーの後に続く。
「なんだ、あいつら」
 ジョルディーはさらに先を歩く。なにごともなかったかのように。
「なにか買うか」
 鳥人、アべルが食材を吟味しながら言う。。
「いや、先にすましちゃおう」
「そうだな、帰りにするか」  まるで観光にでも来てるようなふたり。
 ふたりに呆然としながら、それでもついていくエルフィール。
 もしかして、自分だけおかしいのかと危惧するエルフィーネ。
 しばらく歩くと、城壁が見えてきた。
 水が流れる掘りもあり、城壁はそびえるかのようだ。
「飛ばないと入れないな……」
 ジョルディーが一言、 「頼もう……!」
 と言うと、木製の門が壁から降りて来る。
「さあ行こうか」
「は? なんの準備もせずにか」
「なにかいるのか」
 エルフィールは思案する。なにも思いつかない。
「ま、まかせる」
 三人は城の中に入る。
 広い通路はさらに大きな扉に阻まれている三人。
ガラガラガラ
 後ろの扉が閉まる。そして、前の扉が開いた。
 目が光りに慣れる。目の前に数えきれない兵士たちが武装ずみで立っている。
「さあ、行こうか」
 ジョルディーとエルフィールは同時に歩きだす。日の下に、兵士たちの前に。
 兵士たちは抜刀すると、じりじりと近づいて来る。
「なにか、変だな」
 鳥人がぼそっと言う。それはエルフィールも感じていた。
 兵士たちの統率がとれていないのだ。
 まるで素人の集団のようだ。
「倒すのが楽でいいな」
 ジョルディーはあくびしながら手をエルフィールに向ける。
「余裕と油断は違うんだぞ、ジョルディー」
 エルフィールはジョルディーの手をつかむ。
 光りがほとばしる。ふたりの手に。
 その光りに触発されたように前にいた五人の兵士が一斉に襲いかかってくる。
ザギン!
 一閃で五人が吹っ飛ぶ。
 後ろの兵士たちがおじけづいたように後ずさる。
 光りの剣は爛々(らんらん)と輝いている。
 兵士たちには恐ろしく見えるのだろう。
 一歩また一歩後ずさる。と、城壁の上に配置されていた弓隊が矢を射る。
 雨のように矢が弧を描く。
 それはふたりを射抜いてはいなかった。
 日が影っていた。
 空に鳥人がいる。
 魔法によって矢は空中に静止していた。
「こちらは気にするな」
「それは助かる」
「そんな悠長な会話をするな!」
 エルフィールはずかずか前に進む。引っ張られるようにジョルディーも前に出る。
 やけになった青年兵士たちがのしかかるように剣をふるう。
 そこにふたりはいなかった。
 ただ、剣をふるった兵士たちが、光りの扇状(せんじょう)になぎ倒されていく。
―――……のために。
 エルフィールはなにか聞いたような気がした。青年の兵士から。
「なんだこれは」  十人、二十人、三十人……。
 光りの剣の前に、次々と兵士たちは倒れていく。
 兵士を斬るたび、なにかがエルフィールの気を包む。
―――答えるために……。
―――すべてをとして。
―――助けなければ。
 兵士たちの思いがなだれ込んでくる。
「なんで聞こえる、こんな……」
 エルフィールはそれでも斬った。
 斬って斬って斬った。
「いくらでも、こいっ、て、ゆーんだ……」
 エルフィールは疲れで倒れそうになりながら、言う。
 もう場内の広場には、立っている兵士はいなくなっていた。
「さて、こんなもんかな……それとも」
 ジョルディーの視線の先に門があった。
 その門がゆっくり開く。
 奥からまた新たな兵士たちがやってくる。
 その数は百人はいるだろうか。
 蒼い鎧の群が続々と門から出て来る。
「さて、どうす……る?」
「いま考えてる、とこだ」
 ジョルディーも立っているだけでいっぱいのようだ。
 壁を背に囲まれるふたり。
 鳥人も弓隊と戦うので精一杯のようだ。
「これまでか」
「かもな」
―――救わなければ……。
「なにか言ったか、ジョルディー」
「いや、これは……光りの声?」
 兵士たちを斬った時聞こえた声がふたりを包む。
 無数の声が、なにかを望んでいた。なにかを。
 光りが声に共鳴していく。
ザギン!
 一瞬だった。
 光りの剣が城内を、百人からの兵士たちを斬った。
 平面の光りが消える。
 倒れこむ兵士たちの地響きが城内を包む。
 すでに立っているのはふたりだけだった。
 ジョルディーが倒れている兵士たちをうかがう。
「新手の兵士たちも新兵ばかりだな」
「さて、いくんだろ。話しを、さ」
「そうだな」
 エルフィールとジョルディーは城内に入って行く。
 鳥人はそれを見送っていた。
 城内は薄暗く、窓から陽が差し込んでいる。
 誰もいないのを確かめながら、ふたりは階段をのぼる。
 壁の装飾は地味だが、伝統があるようだった。
 なにに困っているというのか、エルフィールは誰かに聞いてみたかった。
 ジョルディーはなにかを考えてるいるようには見えなかった。
 赤い絨毯(じゅうたん)にそって、ふたりは荘厳な扉を開く。
 長い回廊の先に、ひとりの老人が立っていた。
 白髪は金の装飾品で彩られ。
 服は何重にも布がたなびいている。
 絨毯は老人まで伸びていた。
 老人はなにをするでもなく、高窓からさす陽の光りをあびている。
「あなたが王様ですか」
 ジョルディーが聞く。
 老人はなにも答えない。
「答えてくれ、なぜこんなことをするっ!」
 エルフィールの言葉にも、老人は答えない。
ギャリン……
 老人は剣をぬく。そしてふたりに剣を向ける。
 ふたりのあいだに光りが生まれる。
「そうですか……解かりました」
 ふたりは光りの剣を老人に向ける。
 ふたりは一気に距離を縮めた。
ザギン!
 老人は微動だにせず、光りの剣に斬られた。
 ふたりに老人の記憶が断片的にきらめく。
―――神のおぼしめしならば……
 老人はそう言って年のいった家臣たちに答える。
―――聖者のラクサをきっと……
 老人はそれ以上は語らなかった。
 時は流れ、精鋭ぞろいの年季の入った兵士たちを老人は見送る。
 砂漠を埋める騎馬隊が進む。
 帰ってくることがないことを、老人は知っていた。
 しかし、できることといえば、見送ることだけだった。
 時がたち、青年たちが年輩の兵士の後を追う日が近づいてきていた。
 老人はそれを見ていた。
 たとえ、結果が解かっていたとしても……。
 エルフィールはハッとした。
 老人は泣いていた。
 ジョルディーは王にひざまづく。
「私におまかせください」
 それ以上誰も、何も言わなかった。
 陽は陰りはじめていた。
 街のはずれ、交易の隊商いがい、人はいない。
 そこにジョルディーとエルフィールと鳥人がいた。
 寒い疾風に三人のマントが揺れる。
 もう夜は三人を別れの時へと導く。
 口を開いたのはジョルディーだった。
「じゃあな、アベル」
 ジョルディーはアベルと握手する。
「元気でな」
 エルフィールは軽く手をふった。
「おまえたちに神のご加護があるように……」
 アベルはそう言うと歩きはじめる。
 その後ろ姿を見ながら、ふたりは考えていた。
 ふたりはアベルとは逆の道をいく。
 その先には、帝国を震撼させた者がいるとしても。
 ふたりの歩はゆるむことはなかった。
 できることは限られていた。
 逃げることもできた。
 それでも、ふたりの足跡はしっかりとしていた。
 なにも迷いがないかのように。
 ただただ、ふたりは歩きはじめたのだった。









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