縮刷版2002年12月下旬号


【12月31日】 真夜中のテレビから流れだしてきた小山茉美さんの声に目を向けると何やらアメリカーンな感じの映画が始まっていて、スーザン・サランドンとかゆー女優の演じるスポーツジャーナリストか何かが、新人で剛腕を持ちながらも頭の方はからっきしな若いピッチャーの暴走ぶりを、たしなめるか何かするマイナーリーグを舞台にしたドタバタ劇かなー、なんて思って見ていたところにベースボールといえばあの顔が。「フィールド・オブ・ドリームス」で小麦畑に球場を作る野球バカぶりを見せたケビン・コスナーが、端正で細長く生え際もぎっしりとした顔で登場しては、ベテランのキャッチャーとしてノーコンピッチャーの彼をメジャーでも通用する投手に育てるべく、あれやこれや奮闘を始めた。

 小山さんが声をあててるスーザン・サランドンの方はと言えば、若いピッチャーとコスナー演じるベテランキャッチャーのふたりに対して自分と寝れば成功するぞと誘惑を始めたものの、ベテランのコスナーはプライドもあって身を引いてしまい、若いピッチャーが彼女と突き合うことになる。態度の割に野球に詳しくインテリの彼女のサジェスチョンと、コスナーの時には肉体言語(サブミッションではない)も駆使する教えが奏功して、ノーコンで我が儘だったピッチャーは更正して勝利も重ね、シーズン終盤にかけて大リーグへの昇格が決定。そんな彼を横目にコスナー演じるキャッチャーには、マイナー暮らしにつきものの哀愁が訪れる……といったストーリーは聞けばなかなかに良い話で、見ても実際に良い話ではあったんだけど、時折見られるギャグっぽいシーンが感動を割り引いてしまうのが玉に瑕。この辺の経験が、公開順だと「さよならゲーム」の後になってる「フィールド・オブ・ドリームス」の塩梅につながったのかな。

 若いピッチャーを演じていたのが演技派として知られるティム・ロビンスなんだけど、この「さよならゲーム」での若いピッチャー役が注目を集めて「ザ・プレーヤー」から「ショーシャンクの空に」から「デッドマン・ウォーキング」と次々に大役をものにすることになる。でもってスーザン・サランドンともいい仲になってパートナーにもなったから、「さよならゲーム」は公私の両面で出世作だったってことになる。対してコスナーと言えば、「ダンス・ウィズ・ウルブス」から「ロビン・フッド」から「JFK」から「ボディーガード」とトップを極め続けたものの、「ウォーター・ワールド」で付けたミソが尾を引いて、今は何をやっても当たらない”大根”になってしまった。幸せなのはコスナーか、それともロビンスか。しかし役柄では20歳くらい違う2人なのに実際の年齢差はたったの3歳だったりするから映画って不思議、俳優って素晴らしい。ちなみに「さよならゲーム」でコスナー33歳、「ダンス・ウィズ・ウルブス」で35歳。今の僕よりはるかに若かったりする訳で、未だ何も成していない我が身を省みて来年こそはと強く誓う。で何するの?

 起きてサッカーにまみれた1年を総決算すべくJRからモノレールを乗り継ぎ千葉にある「千葉県総合運動場陸上競技場」へと出向き、昨日から開幕した「高校サッカー」の1回戦「市立船橋vs一条」の試合を見る。高校生の試合だってゆーのにスタンドはメインだけながらも8分くらいの入りでもしかしたらちょっとしたJ2の試合よりも多く入っているかもしれず、高校野球といい高校サッカーといい大学ラグビーといい学生スポーツの日本人の関心に締める度合いの高さを目の当たりにする。料金だって大人1500円と先般に見た「天皇杯」での「東京ヴェルディ1969vs大宮アルティージャ」の料金と良い勝負。プロ中のプロの試合と将来はプロといってもアマチュアのそれも高校生の試合とが”価値”ではならぶこの状況。何か考えてしまうなー、集まったお金の使い道なんかも含めて。

 プロってゆーなら立派にプロだったりする女子サッカー「Lリーグ」の頂点を決める試合の入場料が無料で観客も実に寂しいものだった事実をここで思い出して、なおのこと日本人のスポーツに対する関心の方向に思いを馳せてしまったけれど、一方で高校サッカーってのはどんなに細い道でも世界の頂点を極める「ワールドカップ」につながっている訳で、ここで活躍した選手がプロに入って活躍して日本代表に選ばれて世界の舞台に立つ、って可能性は決してゼロではない。対して「Lリーグ」はどんなに頑張っても「女子」とゆーカテゴリーの中ででしか道を歩めない。技量の差ってのももちろんあるんだろーけれど、こーした絶対的な違いが呼ぶ”価値”の格差なんてものが、もしかしたらあってそれで一般の関心にも大会の扱いにも現れてしまうんだろー。注目を集めたいとオーストラリアの選手がヌードカレンダーを作るのも何か分かる。こーなれば女子サッカーは徹底的に”魅せる”スポーツとして女子プロレス化するしかないのかな、ユニフォームはミニスカート、スパッツは不可って規定でも導入して。

 それにしても市船は強かった。U−19に選ばれていた大久保裕樹選手もさることながら、トップ下くらいに入ってボールをさばいたりはたいたりセンタリングをしたりと大活躍のカレン・ロバートって日本人離れした名前(ってゆーか多分外国人、国籍は日本かもしれないけれど)の選手が大活躍を見せてくれて、このまま勝ち進んだ暁にはその日本人離れした(あたりまえだ)容貌とあわせてサッカー界の太田幸司(古過ぎ)として話題を集めそー。8番の高橋直也選手もなかなか。カレン・ロバート選手とは柏レイソルのジュニアユースで一緒だったみたいで、良いコンビネーションを見せていた。

 大久保選手も含めて皆プロでも活躍しそーだけど、この何年か市船ってプロで一流になり損ねる選手が多いからなあ。得点王に輝いた森崎嘉之選手は市原水戸横河電機を経て引退しちゃったし、北島義朗選手は柏レイソルだけのエースが長くって日本代表の道なお遠過ぎ。名古屋グランパスエイトに入った原竜太選手がそろそろと活躍を始めて来てるんで、悪い流れも変わろーとしているのかな、とりあえず得点王にはならない方が吉かも。対する一条はディフェンスのとりわけセンターバックが今ひとつで、突破され突っ込まれ抜かれまくって市船に6点を献上してしまった。ひとり14番の左サイドバック、古垣光浩選手が長身を生かした頭の守備と、長くて正確なフリーキックと、最後は突破力をいかした攻撃を見せていてちょっと気になる。3年生ってことはどこかに行くのかな。鍛えれば良い線行きそーなんだけど。

 そんなこんなで1年も終了、今年も何もしなかったなあ、2年続けてカラオケにも行かなかったし(実はとてつもなく巧いことは秘密だ)、宴会とか歓迎会とか勉強会とかの類にお呼ばれしたのは1回くらいだし誰かと何かを見に行ったのもほぼ皆無、Jリーグは完璧すべて1人で見物に行ったし「ワールドカップ」も1試合をのぞけばすべて単独行、山と行ったイベントもすべて1人で行列したし何本か見た映画も同じ、もちろんデートとかいったものとはこの数十年(十数年じゃない)縁がない。付き合いの悪さ愛想の無さ懐の寒さから来る自業自得って奴だから別に悲しみも反省もしないけど、来年は少しくらい他人を会う機会を増やしてアクティブなひきこもり生活からの脱却を目指そう。あとはそーだな、ギターでも勉強して街頭デビューでも目指すか。それにはまずは家でも練習に使えるヤマハの「サイレントギター アコースティックモデル」を買わなくっちゃ。男は形から入るんだ。


【12月30日】 男の子は臆病で枠組みから逸脱するのが苦手でその癖にプライドが高く自己中心的、女の子は自分に正直で好奇心が強く新しいものに貪欲で後先考えずにジャングルでも大海原でも飛び込んでいく開明派、なんて実に分かりやすい書き分けを今時の小説なんかでしてもひねりが足りないなあ、なんて思われるのがオチなんだけど、フランスでも1番とか2番とかゆー文学賞らしーゴンクール賞を去年獲った「ブラジルの赤」(ジャン=クリストフ・リュアン、野口雄司訳、早川書房、3000円)に出てくる、16世紀半ばの植民地化され始めたブラジルに通訳として送られた男の子と女の子の兄妹のキャラクターがもろ、そんな感じでフランス文学ったってその辺は割に通俗的なんだなあ、なんて読みながら思う。

 まあ、現実社会でも男性は組織が好きでその中で成り上がっていくのが使命と思いこんでいる節があるし、女性は好奇心旺盛で海外旅行なんかでも全然都会じゃない場所にだってどんどんと出かけていくくらいだから、「ブラジルの赤」のジュストとコランブの兄妹の思考行動がそのまんまで別に不思議はないんだけど、世の中からズレた部分をことさらにフレームアップして見せるのが最先端のブンガクだって思いこんでて、なおかつフランス文学のいちばん新しいところが出てくるのがゴンクール賞だって考えていたんで、古典的なキャラクター描写によって繰り広げられる冒険と陰謀の物語から、文明と自然の二項対立がアウフヘーベン(弁証ほー)したところに生まれる新しい価値観が指し示されるとゆー内容の真っ当さに、意外な印象を持ったってのが率直な感想。古典的な枠組みを借りてドラマを見せメッセージを感じさせるってのは歴史小説とか時代小説が得意にしてることで、歴史小説の「ブラジルの赤」がその通りであってむしろ当然のことなんだろー。

 兄と妹の冒険物語がメインストリームにあるとして、ヴィルガニョンってゆーブラジルに兄妹を連れて乗り込んだおっさんの”中間管理職”ぶりがなかなかで、表の主人公たちに対する裏の主人公として強い存在感を見せている。フランス国王のために植民地を作るんだって騎士道精神に燃えてブラジルまで突っ込んでいくモーレツな所がある一方、妙に進歩派ぶったところもあって人文主義の本が好きで、ユグノーの親玉カルヴァンの信徒たちもブラジルに呼んで一緒にやっていこーと呼びかけ、新教徒と旧教徒が対立したらしたで仲良くやろうとピースフルに振る舞おうとしたけれど、新教徒から否定されると途端にぶち切れ砦から追い出し路頭に迷わせてしまう。おまけにそれを根に持って、フランスに帰ってからも新教徒たちを誹謗中傷し続ける執拗さ。なんかあの辺の世代を揶揄ってる風もあるけどまあ、いつの時代の進歩派きどりで中身は古風、プライドばかり高くって始末に負えないってのが男って奴だから。通俗的だけど真実ってのは通俗なもんだ。

 朝からコミケ。10時半頃についたら行列も少なくそのままスンナリと中に入れてコミケといえども年末なんだなーと年の瀬の侘びしさをふと思う。「オールドホームの灰羽たち」を欲しがる行列の長さ(それでも両脇に比べればまだ少ない方だったかな)を確認してから岡田斗司夫さんのところで「マンガ夜話」本を購入、日経映像だかが取材に来ていてカメラ撮りしてて長々と撮るものだから行列が鬱陶しがっていたけど混雑もそれほどじゃなかったのがまだ幸いか、これが夏ならヤられてたね、取材班。唐沢俊一さんのところもちょっとした行列。売っていたアメリカの莫迦マンガ本は紅衛兵を揶揄った話とか美貌をねたんで硫酸ぶっかけて来た不細工な姉に復讐する話とかを紹介していて、何であーゆーオチになるのかと大笑い。そんなところで東館を後にして企業ブースをざっと見て、メディアワークスもブロッコリーも消えた寂しさに移ろいやすい世の中を思う。ブロッコリーは29日のイベントに絞ったのかな。

 国際展示場駅から1本で池袋に行けるこの幸せ。でも別に池袋に住んでないんで関係ない。「ジュンク堂」で家にあるはずだけど見つからない本がちゃんと在庫されているのかを確認、せっぱ詰まったら買いに行こう。ソニー・マガジンズから根こそぎもっていかれた中にこれも入っていた紺野キタさんの「あかりをください」(幻冬舎コミックス、540円)を買う。前のに入っている作品ばかりだけど1本、新しいのが入っていてこれがなかなかにホラーしていて、「ひみつの階段」なんかのロマンティックでメルヘンチックな感じとは違った(といっても旧版「ひみつの階段」には怖い作品も入っているんだけど)紺野さんが読める。OLの恋なんか扱ったのも珍しい方かな。「ひみつの階段」シリーズの出し直しといーだんだんと広がりつつある知名度に、あとはドラマ化なんかも期待したいところ。NHKかな。でもなんでまた「六番目の小夜子」の再放送なんだろー。「ドラマ愛の歌」。


【12月29日】 部屋が本でいっぱいになって大変だなんって言って読書家ぶってても小生、どれほどの本読みなんかでは決してなかったとゆー現実を突きつけられて、暗澹となった「朝日新聞」12月29日付け読書欄。20人の書評院のせんせい方がそれぞれに「今年の3点」ってのを上げておられるんだけど重なっている村上春樹さん「海辺のカフカ」(上下、新潮社、各1600円)を相殺した全59冊(目測)のうちで読了済みなのはこの「海辺のカフカ」と高橋源一郎さんが挙げている舞城王太郎さん「熊の場所」(講談社、1600円)とそれから与那原恵さんが挙げる永江朗さん「インタビュー術!」(講談社、700円)くらいしかない。菅浩江さん「五人姉妹」(早川書房、1700円)はすいませんまだ読んでません。

 山形浩生さんが挙げるところの、「サイゾー」連載分で読んでいた石丸次郎さん「北のサムライ」(インフォバーン、1500円)がかろうじて引っかかるかってところだけど、本としてはまだ手に取ったこともなく除外。つまるところ59冊中でたったの3冊しか読めていないって訳で、ニッポンの英知集うところの朝日文化欄読書面が認める知が、いかに自分とはかけ離れたものであったのかが伺える。せめて来年はふたケタに乗るよー頑張って本を読もう。それにしても20人いて選ぶ本で重なったのがたったの2冊ってのは不思議とゆーか。たぶん調整してバラけさせたんだとは思うけど、そうでなかったとしたら朝日新聞が選ぶ書評委員の方々ってのは見事なまでに趣味嗜好に多様性があるんだなあと感嘆する。人選に当たった人のこれも英知ってことで。

 だったら日本経済新聞の方はと言ったらこっちも似たり寄ったり。10人が挙げた3冊づつの計30冊で読了本は5冊しかなかったりして、うち3冊は小谷真理さんがあげた野尻抱介さん「太陽の簒奪者」(早川書房)に乙一さん「GOTH」(集英社)に宇月原晴明さん「聚楽」(新潮社)だったりするから趣味の偏りぶりが知れるとゆーもの。あとはバラード「コカインナイト」(新潮社)に三浦佑之さん「口語訳古事記」(文藝春秋)。このうち「口語訳古事記」については選者の赤坂憲雄さんの「その深みにしっかり横たわる、不敬と嬌笑に気付いた読者は、この裏切りに反撃しなければならない。これは限りない挑発の書なのだ」という言葉に含みを覚える。意図しての挑発ではないにしても、イデオロギーの両翼に立つ勢力にとって刺激を受ける内容を持った本だけに、労作と讃えるだけではなくまたアナクロもしくは不敬と断じるだけでなく(赤坂さんは断じている訳ではないけれど)、本の立つ位置売れている意味を考えてもらえると波風が起こって面白いかも。

 おおおお。これはスタンド「ヘブンズドアー」の仕業か何かか。「ヤングキングアワーズ」2002年2月号の「ピルグリム・イェーガー」は瀬名ロビン、じゃなかった硬貨の女王アガタ=マレー久々の登場に気持ちが奮い立ったと思ったら何故か途中から「三本の釘」が会合する場面へと変わり、おまけに絵柄まで変わってノートーン、ノーベタ、ノーペン入れの実験漫画状態に。最後の一ページこそベタが入ってペン入れも行われた感じがあるけど数えると9ページ目だったりして、話も途中に奇数で終わる辺りの実験性に、ここへと至るまでの「コミックマスターJvs鉄山」もかくやと思わせる攻防を想像して目頭が熱くなる。来月こそは白いワニも筆者急病もない漫画を。でもってフランチェスカ嬢の更なる活躍を。

 「ヘルシング」は快調絶好調、吸血兵士軍団に追われたインテグラのピンチに現れ美味しいところを持っていくアンデルセンの高笑い長口舌を、是非にも野沢那智さんの演技で聞いてみたくなる。かつてフジテレビ系で放映されたらしい(記憶の彼方)アニメーション版「ヘルシング」が再び作られることになったら今のエピソードまでちゃんと来てくれるのかな。来てもやっぱりな出来になってしまうのかな。第13課がこっちに来たってことは残されたウォルターはもはや絶命必至ってことか、それとも婦警の颯爽の登場か。婦警ごときが適う相手でもなさそーだからやっぱりアーカードの超音速機も越える移動に期待しよー。ハインケルと由美江の飛び入りにも期待したいとろころだけど由美子じゃない由美江なんか目茶怖そー。まあこの雰囲気に由美子じゃあそぐわないから仕方がないか。眼鏡っ娘はインテグラ1人いれば良い訳だし。

 フォルテさんを眼鏡っ娘と言って良いのか悩むところで代わって「ギャラクシーエンジェル」でひとり眼鏡っ娘人気を独占している(推定)メアリー少佐が可愛く描けていたのに気を良くする本日放送分Aパート。けど迫ってくる危険に叫んだ「本当は○○○」ってところがうまく聴き取れずに悩む。ビデオいちおう撮ってあったんであとで聞き直そう。歳のことかなそれとも男性で言うところのチェリーの女性版なのかな。早く帰りたいとゆーことでマリブが仕込んだ仕掛けが水泡に帰してもそれ自体がやっぱりマリブの仕込みで「面白かった」と落ちる最後は微妙にねじれているよーな。Bパートはまるで最終回。けど次回も変わらず冒頭からちゃんと登場して来るんだろーフォルテも蘭花もミントも。それでいいのか? これがいいのだ!


【12月28日】 2巻が出ていたのを見て1巻を買い逃してたことに気付いた「ピルグリム・イェーガー」(原作・冲方丁、作画・伊藤真美、少年画報社、524円)の1巻を朝の「ときわ書房本店」で購入、25日の夜に前代未聞な返金保証付きサイン会が行われた浅倉卓弥さんの「四日間の奇蹟」(宝島社、1600円)が来月8日の発売を前に少部数ながらサイン入りで売られてて、「店長絶賛」の帯まで付けられていて書店的な力の入れっぷりが伺える。

 ただでさえ書評家で選考にも当たった茶木則雄さんが自腹保証も辞さない絶賛でもってプッシュしている本に今度は、船橋で今や1、2を争うミステリーに強い書店の店長推薦まで付いて、これで売れなければあとはあのアカデミー出版かビジネス啓発書みたいな装丁が悪いんだってことが確定するんじゃなかろーか、話の内容から分からない表紙でもないんだけど、感動っぽさが伝わって来ないんだよねえ、ニッポンの夜明けっぽさはあっても。逆に売れれば推薦の力とそして返金保証付きサイン会の話題性がものを言ったって証明もできる。早売りが出回り始めた段階なんでまだはっきりとは分からないけど、本格的に書店に並び出す来月の動きに注目しておきたい。まさか店頭を埋め尽くしたりして、「ときわ書房本店」。

 「ジョジョ」っぽい、というと微妙にズレるかもしれない「ピルグリム・イェーガー」だけど、タロットカードに象徴される異能の輩が揃い踏みして力を見せ合う展開は、第3部の「ジョジョ」にも通じる「こいつにはどんな力があるんだろー」ってな興味を喚起させられる。すでに1巻で1部が登場しては、ゴッドハンドやら壁抜けやら人間レーダーといった力に、嘆き女に死に神といったスタンド使いの力は披露されていたけど、2巻でも「イエズス会」を立ち上げたばかりのイグナチウス・デ・ロヨラとフランシスコ(途中からフランチェスカ)・ザビエルが”タロットの戦士”こと「30枚の銀貨」に加わって、力を見せる機会を伺っている。ロヨラについては連載でもうすでに「千歩の距離」を披露してあとは無理矢理女装させられた(可愛い)ザビエルくんの力に興味、「星」ってことはやっぱりあれか、オラオラオラオラオラか。

 西船橋から新木場方面に普通だったら行く年末を何故か逆に府中本町方面へと向かって東川口で降り埼玉高速鉄道に乗り換えて「埼玉スタジアム2002」へ。11月の終わりに来た時はぎゅうぎゅう詰めの電車にとてつもなく辟易させられた記憶があるけれど、「天皇杯」でおまけにカードが紫ダービーこと「サンフレッチェ広島vs京都パープルサンガ」ってこともあって、赤の絡まない埼玉では関心が薄かったのか人もそれほどおらず、閑散とした中を歩いてスタジアムまで向かう。出店も少なく、あるいは制限されたのかスタジアム直前にいつも出ていたお好み焼きの店がなくってちょっとガッカリ。仕方なく中で牛丼と焼きそばを買ってかき込んでおなかを満たして午後1時5分のキックオフに備える。どういう食い合わせだ。

見納めにはまだ1試合のパク・チソン、J1見納めかそれとも移籍か久保竜彦  ともに遠方からの来臨ってこともあってサポーター席はホーム側のパープルサンガ、アウェイ側のサンフレッチェともにやっぱり寂しい入りで、それで熱烈なサポーターがゴール真裏付近に固まって陣取っては精一杯の声を張り上げて、サンフレッチェだったら来年のJ2落ちを前にしたJ1チームとしれのラストを飾るべく狙うタイトルの獲得が適うように応援してたし、パープルサンガもJ1チームとして低空飛行を長く繰り返していたのが今年よーやく上昇気流をうまく捉えて上位進出を果たし、その余勢を駆って狙う初タイトルに向けた熱のこもった応援をしていて人数こそ少ないながらも見ていて好感が持てた。多くたって野次に暴力じゃあね。

 どちらかといえばパープルサンガの方が人数も多くって同じ西日本でも京都と広島の地の利の差が出た感じ。パープルのユニフォーム軍団に混じって中に2人ばかり、赤いユニフォームを来た女の子がいて、双眼鏡越しに胸に太極旗のワッペンがついていたからもしかすると韓国のジャージだったのかな、でも夏のワールドカップで来ていた代表ユニフォームとは違っていたから別の何かだったのかもしれないけれど、それはそれとして着ていた人が遠目になかなかな可愛さで、ひときわ高くぴょんぴょんと飛び跳ねる姿に試合の流れそっちのけで見入ってしまう。本末転倒。枝葉末節ではないけど。

 さて試合の方はと言えば紫対決って部分しか見所のない試合と思ったことを深く反省させられる内容で、とりわけパープルサンガの攻撃がサイドの使い方から中へと折り返すスピードの速さまで素晴らしく、見ていて退屈しないどころか身を乗り出して見たくなるくらい。この「天皇杯」を最後に日本を離れるパク・チソンはサイドでの位置取りの巧さから突破するスピードの速さ、中へと入れるクロスの正確さとどれをとってもなるほどな動きっぷりで、これほどの選手を擁しているなら今期総合5位の成績ってのも存分に納得できる、あとフォワードでこの試合2得点だった松井大輔選手のすばしっこさも。試合はその松井選手の2点でパープルサンガが勝利して決勝へ。韓国ユニで飛び跳ねる女の子とも再開できそーで嬉しいな。

 注目されてるって意味ではパク・チソン選手と同じくらいなサンフレッチェの久保竜彦選手はなるほどボールを持った時の動きに早さ巧さ強さがあってひとり次元が違うよーな印象で、その存在感に身長180センチは楽にあると思ったらプログラムには173センチと出ていてちょっと驚く。ただパープルサンガと違ってボールが前へと走らず中盤が持って前を向いた時には詰められ出せずバックスへとバックパスして組み立て直そうとするものの同じことの繰り返し、挙げ句に最前線へと放り込んでパワープレーを仕掛けても囲まれ抜け出せない状況に時間も過ぎ、かろーじて森崎浩司選手の絶妙なミドルで1点を返したもののそれだけに終わって万事休す。なるほどタレントはいても組み立てられない拙さがJ2落ちへとサンフレッチェを誘ったんだなってことが感じられる試合具合だった。これで決勝は「鹿島アントラーズvs京都パープルサンガ」で堅守と老獪さで鳴るアントラーズにスピード&テクニックのパープルサンガがどう挑むかって試合になりそーでで期待も湧く。席もアウェーだし応援するならパープルサンガかな、「天皇杯」はやっぱ京都にあった方が相応しいし。

 温度の上がらないエアコンに業を煮やして買ったファンヒーターが部屋のどこかに埋もれて出てこない(6畳1間)悲しみに流した涙も凍る寒さをしのごーと、近所の「イトーヨーカ堂」で電気毛布を漁る。敷き布団用なら3980円くらいからあるんだけど上にかけて使える敷掛専用は日本電熱のが6980円からとなかなかなお値段。メーカー物はシャープもサンヨーもパナソニックももうちょっとだけ高く悩んでいたところでふと脇を見ると、伊藤忠商事がインドネシアから輸入したらしーノーブランドの電気毛布が敷専用なら1980円、敷掛兼用なら2980円と破格の値段で並んでいたんで即購入、ワット数が低いのと軽くて薄いのとが気になるところだけどまあ、これまでに比べれば多少は改善されるんで良しとしよー。年もこれで越せるなあ。あとは宝くじでも当たればなあ。


【12月27日】 山のよーに本を買い込んでどれから読んだら良いか迷った挙げ句にどれも読めていないとゆーワナ。お金がないなかを必死に選んでかっていた時代はそれこそ1冊を3度はしゃぶり尽くしていたとゆーのに。人間富しても鈍するものなのだなあと積み上がった本の山をながめつつ、昔買った「BOOMTOWN」とか「ジオブリーダーズ」とか、最近買った「ブラック・ラグーン」といった枕元に積み上げてある漫画をまたしても読み返している自分にため息、でも何度読んでも面白くって新鮮に感じるんだよなー、この編の漫画って、何故なんだろ。

 年の瀬の新宿に寄ったついでに「紀伊国屋書店」の本店1階にあるライターの店「カガヤ」で恒例の5000円福袋を買う。3年ばかり前に1個、買った記憶があってそのときはブラス仕上げでプレーンな外見の、「カガヤ」で買えば1800円程度のジッポのほかに得体の知れないTシャツだとかポーチだとかが入ってた記憶があるけど、性懲りもなく買った今回はさすがに銀のジッポこそ外したもののプレーンな奴じゃなくって、「スウェーデン」とかゆー刻印が入れられたちょっとだけ真っ当な奴で、ほかにTシャツと安いマフラーと革細工の灰皿を民芸品っぽい小物入れ、それとガスライターが2つばかり入っていて1つは値段が2500円なんて書いてあったりして、ジッポと足してもまあ元はとったかなって気にさせられる。

 福袋なんておみくじみたいなもので当たっても外れでも引いて見るまでのワクワク感を買うのが本意、品物は二の次だったりするんで定価であってもとりあえずは元がとれているなら万々歳と喜ぶのが正しい捉え方。ときどき宝飾時計とか何とかいった中身が分かってい超ゴージャスな品物のを破格の値段で販売して”福袋”って称している奴があるけれど、これってただのバーゲンに過ぎなくって、全然ワクワク感がない。値段は1000万円、でもって確実に3000万円分は入ってるんだってゆー保証書だけはつけといて、中身をまったくシークレットにしておく福袋とか、作らないかな、買えないけど。10万円で50万円以上入ってる保証があるなら冒険して買ってみてもいいかな。でもって開けると定価80万円とかだった大昔のマッキントッシュが入っていると。

 何でも福袋になるご時世だから例えばペットショップなんかも福袋を出すことだってあるのかも、引換券とかじゃなくって生きたまんまを入れた奴を。値段は10万円で運がいいと最近大流行のチワワとかが入っているんだけど、外れだと昔流行ったシベリアンハスキーだとかシェトランドシープドックだとかコーギーだとかミニチュアダックスフンドだとかが、それこそまとめて3匹とか5匹とか入ってたりして、チワワだと思って買って帰って開けて出てきたのに育ちきったハスキーが出てきて、アイフルなお父さんはガッカリするって寸法。袋の大きさで気付くものなんだろーけど、大きい方、重い方を選びたくなる気持ちも分からないでもないし(経験済み)。犬だと思ったら猫だったってのも悲劇、でもは虫類両生類が出て来られるよりはいいのかも。種類を混ぜて入れてあっても面白いけど、運送途中でひとつにまとまらないとも限らないから組み合わせには要注意、ゾウとウワバミが入っていたはずなのに開けたら帽子になっていた、とか。

 くだらない妄想は抜きにしてちょっとだけジャンー=クリストフ・リュファン「ブラジルの赤」(早川書房、3000円)。13歳と11歳の兄と妹が通訳にさせられるためにブラジルへと連れて行かれて大変な目に合うって話でおまけに史実を題材にしているらしーんだけど、読み終えた50ページではまだ2人はフランス国内にいて冒険は始まらず。ここを越えないと積ん読の山行きなんで頑張ろう。子供が何でまた通訳として引っ張られたかとゆーと子供は言葉を覚えるのが早くってすぐに現地の言葉に慣れ親しむからってゆー理屈らしくって、その能力は成長が続いている間は維持されるそーなんだけど逆に言うなら成長がとまった人間には、もはや語学は無理ってことになる訳で、いつか英語をペラペラになって原書だってバリバリ読んでやろーと重いながらも20余年を生きてしまった我が身では、「ハリーポッター」を訳して印税ガッポリな成り上がりロードはもはや歩けないと知って暗澹となる。となればやっぱり「ハリーポッター」を書くしかないのか、歳たしか一緒なJ・K・ローリングスに習って夜のファミレスで薄いコーヒーをおかわりしながら、でもそれだと新野剛志さんになってしまう、ああでも乱歩賞なら賞金は1000万円か、福袋いっぱい買えるなあ、と皮算用、こうして今年も何もしないまま寂しく終わろうとしています。忘年会1つしかなかったし。


【12月26日】 やはり運は「トヨタカップ」で使い果たしてしまっていたのか。28日に埼玉で開催される予定のサッカー「天皇杯」準決勝に行くことが決まっていて、その前哨戦に当たるベスト8のチームの対戦が25日にあちこちで開かれていたみたいなんだけど、4つ考えられた対戦カードのうちでよりによってまるで見たいと思っていなかった「サンフレッチェ広島vs京都パープルサンガ」に決まってしまったのを知って、果たしてあの寒空に2時間も身をさらしてまで行くべきなんだろーかそれとも、同じ寒風だったら有明の地に身をさらすべきなんだろーかと激しく迷う。

 かたや「名古屋グランパスエイトvs京都パープルサンガ」、こなた「清水エスパルスvsサンフレッチェ広島」で開催された準々決勝、もちろん最善のカードは我が名古屋グランパスエイトとそして今のところJリーグで1番真っ当で上手い外国人選手じゃないかと思えるアン・ジョンファンを擁する清水エスパルスとの対戦で、そのどちらかが準決勝で勝ち上がった果てに決勝を国立競技場でジュビロ磐田かもしくは鹿島アントラーズと戦うとゆー、元旦に相応しい華やかなカードになるのが理想だし現実もそーなると思って決めてかかってた。よしんばグランパスエイトがパープルサンガに負けてもエスパルスが残ってパープルサンガを倒せばそれで良し、アン・ジョンファンとパク・チソンとの韓国代表対決とゆー楽しみが持てたし、逆にエスパルスがだめでもグランパスエイトが「天皇杯」では相性の良いサンフレッチェを一蹴して決勝に出ればもう、最高の元旦を迎えられると思ってたし可能性も極めて高いはずだった。

 それがよりにもよってパープルサンガとサンフレッチェとゆー個人的には縁もなければ興味もそれほどなかったチームどうしの対戦で、おまけに伝わってくるアントラーズの停滞ぶりを鑑みるに、決勝の晴れの舞台がジェフユナイテッド市原とパープルサンガかサンフレッチェとゆー、野球で例えるならば広島カープ対千葉ロッテマリーンズのよーな地元の人しか関心を寄せられない対戦になりかねない。ああ運がない。けどまあ、考えれば残っている4チームで見たことがあるのはアントラーズだけでそれも96年だかそんな時代のことだから、残る2試合はどれも初見のチームが出てくるってことになる。それとサンフレッチェだったら去就が注目されている久保選手の仕事ぶり、パープルサンガはオランダのPSVに来月から行ってしまうパク・チソンの見納めとゆー楽しみ所もあったりするんで、ここは有明に後ろ髪をひかれながらも頑張って埼玉へと足を運ぶことにしよー。だからアントラーズだけでもちゃんと勝ってくれ。

 模写の巧さは言わずもがなな唐沢なをきさんなんだけど、それにしてもここまで巧いとは。「電脳なをさん 5」(アスキー、1600円)所収の「超人活躍マンガ」。超人ログとゆー超能力者とその仲間が負の世界、じゃなかった「Macの世界」へと入るとそこにはニンバス、じゃなくってスティーブ・ジョブスがいてさらにその背後には、「パワーマック8600」とゆーかつて最速だったけど今はクラシックなコンピューターがいたとゆー物語はそのまま「超人ロック」のえっと「この宇宙に愛を」だったっけ、作画グループ時代に出した単行本のうちの1冊のエンディングをそのままパクったストーリーなんだけど、今と違って拙かった頃の聖悠紀さんのタッチがそのまま真似されていて、女性になった「超人ロック」ならぬ「超人ログ」の見目麗しさに官能を覚えつつ、ここまでマックを虚仮にしながらもしっかり「超人ロック」をリスペクトしてみせるマンガ作りの巧みさに激しく感動する。秋葉原にも愛を。ついでに「コズミック・ゲーム」もパロってくれい。

 「ときわ書房本店」へと寄っていろいろとチェック、なるほどハヤカワ文庫と創元文庫の棚がしっかりと作られ平台も綺麗に並べられていたりして、てんちょさんの差配がいろいろと行き届きつつあることを確認する。店頭でこの前まで雑誌が並べられていた棚なんて「このミステリーがすごい」のセレクションになってるもんなー、やがて遠からずミステリーとハードボイルドと冒険小説とちょっとだけSFに関しては千葉県でもトップクラスの店になることだろー、あとは綺麗な女店員さんが可愛いエプロンドレスで仕事するよーになってくれることくらいかな、それがかなえば津田沼にある有名書店に萌えでも勝てる。折角なんで平井和正さんの「インフィニティー・ブルー 上」(集英社文庫、1000円)を購入、これって確か限定版が出ているはずなんだけどちょうどお金がなかった時期でまだ買ってなかったんだよなー、買うと平井さんの作家生活40周年記念講演会に出られることになっていたけど、それってまだ続いているんだろーか。ボーナスも入ったことだし買っちゃおうかな。


【12月25日】 「オーバーマン人生相談 トミノに訊いとけ!!」に寄せられた質問から。「初めましてトミノ監督、どうか教えてください、私は『ウィッチハンターロビン』のDVDを買い続けても良いのでしょうか? 実は最終回の録画に失敗してしまって、どんな終わり方をしたのか分からないんですが、伝わってくる評判によると、いろいろと難しいところのある作品だったらしいです。最後の巻でガッカリする可能性があるのかと思うと、これからも続けて毎月出てくるDVDを買って良いのかどうか迷ってしまいます。前にも『黒』とかいう美少女&美女によるガンアクションのDVDを、最終回のあんまりな内容に、2巻で買うのを止めてしまいまったことがあります。国粋ロボットアニメ『ガサなんとか』も同じでした。こんな時、監督だったら評判なんて気にせず自分の目で判断するために買い続けるのですか? それとも評判に従って即座に購入停止にするんですか?」

 「作品が良いから、悪いから買ってもいいかどうかと迷う段階であなたはアニメに対して『半人前』だということです。どんなにつまらないアニメであっても、それを面白いと思い込んで作ってしまった人が存在します。そして、そんな思い込みに側で接しなががらも如何ともできず、どうしてこんなことになってしまったのだろうと頭を悩ませている現場の人たちが大勢います。この人たちの葛藤を思えば、自分の目で確認した訳でもないあなたが、作品が良いか悪いのかで悩むことなんて贅沢です。仮に箸にも棒にもかからない最終回だったとしても、そうしたことは作っている人たちを思い浮かべれば想像は可能だったはずです。今ごろになって悩むなんて、あなたはアニメへの認識が甘すぎます。ダメでもともとのものと承知で買い始めたのだから、ダメだったとしてもそれは想定済みのこととあきらめて、買い続けるのが大人の対応です。そうすることによってあなたはさらに成長することができるはずです。頑張ってみて下さい」。辛い1年になりそうだなあ。

絶えないサイン希望の行列に見守るてんちょさんも一安心、あとは返金がないことを祈るばかり  「SFマガジン」2003年2月号で「ウィッチハンターロビン」が取り上げられててシンクロニシティー、でもデザインのことしか誉めてないよーな。それはそれとして「このミステリーがすごい大賞」の大賞金賞を受賞した朝倉卓弥さんの「四日間の奇蹟」(宝島社、1600円)を買って読んでつまらなかったら返金しますよってゆー前代未聞、世界初のサイン会が船橋市にある「ときわ書房本店」で開催されたんで取材もかねて体験にいく。選考委員のひとりでとりわけこの作品を推していた書評家の茶木則雄さんの尽力でかなったらしーことが、「本の雑誌」にも紹介されてたんで当日はきっと茶木さん本人も来店して見守っているんだろーなー、昔写真で見たことあるけどどんな人なんだろーな、なんて思いながら到着して4番目の整理券をもらって時間どおりに始まったイベントでサインをもらい来店していた大森望さんに挨拶して隣に立っていた「ときわ書房本店」でいつも見かける年配の店員を紹介してもらってひっくり返る。そ・う・だ・っ・た・の・か。どーりで最近の「ときわ書房本店」、ミステリー系が充実していた訳だよ。

 あまりのことに感動したので貢献しよーとゴンクール賞を受賞したジャン=クリストフ・リュファンの「ブラジルの赤」(野口雄司訳、早川書房、3000円)とブッカー賞受賞作のマーガレット・アトウッド「昏き日の暗殺者」(鴻巣友紀子訳、早川書房、3400円)と日本ファンタジーノベル大賞受賞作「世界の果ての庭」(西崎憲、新潮社、1300円)と同優秀賞受賞作「戒」(小山歩、新潮社、1600円)の合計で税抜き9300円ばかりを買い込みほかに仕事用にライトノベルの何冊かを2階で購入。この程度では茶木さん本人の購入分の1時間分にも及ばないだろーけれど、駆け出しの書評家としてのギリギリの出費と赦してください。ちなみに今日出た2002年の年収、一昨年よりも低かった、小学館のボーナスの2倍強ってとこかな、ちょっと悲しい。それもそれとしてサイン会に登場した朝倉さんは実にきまじめな感じの人で、サインするのも慣れていないよーでためがきでこちらの名前を書いた後に様をつけるのかそれとも殿かなにかを書くべきなのか迷い筆していた感じがあって初々しさを覚える。八重洲ブックセンターでもあるそーなんでご本人がどんな人か確認したい方は是非、日程は知らん。

 世界初の返金保証サイン会に出た後は世界初の返金受領者になっても良いかもと急ぎ読み始めた「四日間の奇蹟」を一気に読み終えて思う、保険には入っておいた方が良い。ってのは半分本当で半分冗談として、本編に関して言えばなるほど大森さんやサイン会にも見守りに着ていた吉野仁さんが指摘するよーに先行するあるミステリーと重なる部分があるけれど、おそらくはそれだとゆー作品を読んでなかったりする身にはあんまり気にならず、むしろ別の脳とか意識とか死後の世界といったものいついて考察された作品なんかとの関わりを想起して、そーした作品が明示する死の不可逆的な取り返しのつかなさ、人の意識の唯一性から鑑みて余りにファンタジーした展開に多少の懐疑を覚える。ただしあくまでも現実のシリアスさにアドバンテージを置いて考えた場合の懐疑だって、何があってもそれはそれ、ドラマ性なりメッセージ性なりを前面においてそこから浮かび上がる感銘に重きを見る作品として捉えた場合、「四日間の奇蹟」は茶木さんが選評で讃える言葉に納得できる内容を持っている。

 事故で弾けなくなったピアニストが、その事故で関わりを持った知的な発育に支障のある少女を引き取り程なくしてピアニストとしての可能性に気付き、彼女をもり立て全国行脚に出始めたある日、依頼された施設に出向いてそこで大変な事件に出会い、なおかつ大変な事態に遭遇する、ってのが主な展開。得られる感動の種類については落ち込んでいたピアニストが癒しを受けて生きていく活力を得られるって部分が大きいのかもしれないけれど、僕個人としては期限を切られた生涯の中で思い描く葛藤と覚悟そして安寧といったものへの、いずれ来る我が身の同じ運命を重ね合わせての同感といったもおを強く感じて泣きたくなった。同じ思いは岡本倫さんの「エルフェンフリート」所収の短編「MOL」で感じたものにちょっと似てる。サヴァンな千織の停滞と始動に関してもう少し、理由付けがあったらより納得できたかもしれないけれど、それは主題ではないから気にはしない。とりあえず良い話であることは確か、読んでおいて無駄にはなりません。世界初の返金受領者になり損ねたなあ。


  【12月24日】 天国の本屋ならぬ本屋は天国って話の倉田英之さん「R.O.D 第7巻」(集英社、495円)は外伝めいた感じに読子・リードマンの寝姿入浴シーン満載、といっても字なんで読んでもたいしたことはないんだけど、それでもあの余計なものが入っているんじゃないかと思わせるたわわなバストがドラム缶風呂の湯船に浮かんでいる様を想像しては、果たしてあれは水に浮くものなのかそれとも沈むものなのかを知りたくなる。MEGUMI関係者にはその辺りを是非に調査して頂きたいところ。もっともMEGUMIのはあれだけの大きさだから沈む可能性の方が高いよーな気もしないでもないけれど。

 そえにしても知らなかったよあのカレー屋の「ボンディ」が入ってる「古書センター」に地階があったなんて。ただし会員じゃないと入れない本屋で会員に紹介されて付いて行くと後ろを向いたままの店主が入会テストと称してあれやこれや聞いてくるんだとか。いろいろな質問があるよーだけどそこはそれぞれに答えるのが吉のよーで、傍若無人さでは「フォトン」のアウンと50歩100歩な菫川ねねね先生は、買った本のカバーも帯も気にせずとにかく中身を読むとストレートに答えて見事合格の栄誉を勝ち得てる。そこでごにょごにょと策をめぐらせて綺麗にしてもないのに帯は取ってありますカバーは絶対になくしません本屋の紙のカバーすらも外しませんとか答えると、それでどーやって中身を判断するのかと突っ込まれるかもしれないから、ちゃんと1冊1冊のカバーをカラーコピーしたのを紙カバーにして使ってますと答える用意をしておこー、ってそんな奴いるのか? いるかもな。

 おまけの1編はいきなりのハードコアな描写とキュートな連蓮ちゃんのイラストに目が点。香港は九龍のスラム街をはいずりまわっていた少年たちが”おばあちゃん”とやらに見いだされるサイドストーリーだけどイラストになった”おばあちゃん”の全然お婆ちゃんしていない様にこれまた目が星になる、いや可愛い。読子・リードマンと違ってまるで紙扱い他の才能を持ってなさそーに見えた王炎やら連蓮やらがこの後どーゆー訓練なりを受けて使い手になっていったのかにも興味のあるところ、なんでこれも外伝なんかで是非に書いていって頂きたい。やっぱり「北京図書大厦」とかで背中に100冊の本を背負って階段を1日に100往復したのかな。あるいはカバーかけ100万冊の修行とか。

 日本出版販売から届いた週報で出版各社の来年の剛速球企画を見ていた中に国書刊行会の企画を発見、したものの「スタニスクフ・レム コレクション 全5巻」とあってこれはあのスタニスラフ・レムもしくはスタニスラフ・レムのことなのかそれともスタニスラウ・レムだったするのかもしかしてまったく別の作家のことなのかと瞬間悩む。ゲーテがギョエテな日本のことだしアシモフなのかアジモフなのか未だ判然としないこともあるんであるいは「スタニスクフ」ってゆー読みもあるのかと思って出版社のページを見たら何のことはない「スタニスワフ・レム コレクション 全5巻」のことだった、誤植だな。中身は「ソラリス」とそれに連なる最後の長編「フィアスコ」に、ユダヤ人虐殺を扱った架空の歴史書「挑発」ほか、未訳新訳の作品を収録するそーで、ってことは「泰平ヨン」とかのシリーズとか「エデン」とかは入らなのかもしれないけれど、とりあえずは初の選集ってことで買っておくのが吉、でしょー。価格は各2400円で1回目の配本はもちろん「ソラリス」。著者名が「スタニスクフ・レム」になって回収とかされないことを祈る。

 同じく国書刊行会からは「吉屋信子乙女小説コレクション 全3巻」ってのの刊行も2月にスタート。中原淳一さんの装丁が付けられているだけに留まらず、乙女小説といえば今はこの人、嶽本野ばらさんが編・監修にあたっていて、丁寧な解説が付けられているそーだから嶽本さんで乙女小説に関心を持った人にとってはマストにバイなシリーズとなることでございましょう。平均300ページで2000円は高いのか安いのか分からないけど、中原さんの絵に嶽本さんの解説に支払う料金と思えばまあまあか、「完訳 金枝篇 呪術と宗教の研究 全8巻別館1」各9000円に比べれば、いやこっちもこっちで欲しいけど。

 会社の下で半月ほど前からクリスマスツリーが立てられていて1週間ほど前からはその下に雪が持ち込まれていて、何か屋台も出始めてクリスマス気分を盛り上げていたけれどその総決算ともいえるイベントがイブの24日の朝からスタートしてて、「ハモネプ」とあゆー番組で有名になったらしーコーラス隊が出てはいろいろ歌を唄っていて、集まった女子高生とかにキャアキャア言われてたんだけど、なるほど上手いことは上手いもののただ上手いだけって印象で、聞いていてたいして感銘を覚えない。山下達郎のひとりアカペラが耳に残り過ぎてるせいなのかなあ(ちょっと偏り過ぎ)。

 昔カラオケがなかったころって宴会で誰もバックに音楽なしで演歌でも民謡でも歌ってたけど、本当に上手い歌ってそれでも上手く聞こえた記憶がある。対してイベントで聞いた「ハモネプ」な歌はメインボーカルの声は伸びない音程は外すボイパは喧しいといった感じ。アカペラのノリはそれで嫌いじゃないけど、自分たちは上手いんだぜ、って感じで歌い上げたがる感じが漂うのが向かう気持ちを妨げる。まあもてはやされても残るのは1つか2つ、「イカ天」からだって「フライングキッズ」と「BEGIN」と「ブランキー・ジェット・シティ」が残ったくらいだし、プロになるとか野心を燃やさず言われるキャアキャアを勘違いせず上手さをひけらかすそぶりも見せず、唄う楽しさを前に出してくれれば「家族揃って歌合戦」よろしく長くみんなの「ハモネプ」として喜ばれるんじゃなかろーか。ところで「ハモネプ」ってどんな番組? ネプチューンがハモるの?

 夕方からはチャリティーオークションが始まったんで見物してたけど終盤からだったんであんまり良いのは出てこず演歌歌手の販促グッズとかそんなのばかりが出ては100円500円で落札される低調ぶり。最後の方は「オセロ」の松島とかってゆー人の、コートやらTシャツやらパンツ(下着じゃなくってスボンのこと)やらが出てきて、男子として買っても如何ともしがたい商品内容にどうしたものかと悩む。とはいえそこは珍しいも好き、最後に出てきたスカートにキャミソールに長袖TシャツにチビTのセットに誰も手を挙げなかったところをすかさず1000円と言って落札、したは良いけれどこれをいったいどうしたものかとまた悩む。着るには寒いし、って着る気なのか。ところでこれが最大の悩み、「オセロ」って何? 松島って誰?


【12月23日】 ジュニアとダブルスで優勝だなんて強いじゃん愛ちゃん、でもやっぱシングルスで優勝して連覇できるよーになってナンボだから。それはそれとして朝からぶらりと回った秋葉原では「灰羽連盟」のサウンドトラック集「ハネノネ」はほとんど壊滅状態、「ゲーマーズ」にも「石丸ソフトワン」にも姿が見えずこの週末にファンが大挙しておしかけて購入していったに違いないと類推する、ってゆーか金曜日の時点で既に店頭分しか在庫がなかったからなー「石丸ソフトワン」、よほど売れないと思ったに違いない。店頭で買えないと思ったユーザーの注文が集まった「日の丸アマゾン」じゃあ堂々の1位にランキング。アニメの専門ショップならいざしらず、平均一般の人が集まるサイトでB’zより浜崎あゆみよりミスチルよりも上ってちょっと凄いことなんじゃなかろーか。こーなるともはやアマゾンであっても初回限定版が手に入るかは分からないけど、地方のCD屋とかならまだ残っている可能性もあるんで、見つけ次第救出して欲しい人に売るか、定価で、見つかる可能性は低そーだけど。

 こちらはまずまず。信州の山間にある小藩、夕城藩を舞台に剣術の道場の師範とその周辺がさまざまな事件に出会い処理していく菊地秀行さん「妖藩記」(光文社、781円)は、誰にも勝る剣術の腕前を持つと言われ藩政から城下の事柄まであらゆることに通じ、藩の重臣たちに一目も二目も置かれていながら、道場の稽古場から襖1枚隔てた場所に佇み決して外には出ようともせず、姿すら弟と妹以外には決して見せない兄・紫暮右近という設定がいかにも不気味で、いったいぜんたいどんな輩なんだろーと興味を引っ張られてついつい先へとページをめくってしまう。

 どーやら藩政が豊なのには秘密があって、それを突き止めに幕府からは公儀の隠密がやって来てはひっかきまわした挙げ句に撃退されてしまう話もあれば、得体のしれない剣豪やら何やらに憑かれたりした人々が巻き起こす奇怪な話もあって、それぞれに弟・左近の剣術の冴えやら何やらが披露されて剣豪小説としても楽しめる。強者の両者が構え合い、一太刀かわした瞬間に兄から待ったがかかって、理由は分かっているだろうとかいった発言でもって締められるチャンバラ描写の簡潔さがちょっと凄い。読む方としては何がどうすごいのかを解説してくれると有り難いんだけど、そこはそれ、作者のみ知る剣の達人の心理ってことで。

 まあ、剣と剣とがぶつかり合って必然的に弱い方が斬られる描写もあるんでちゃんと、作者が剣術の凄みを分かって書いているだろーことは漠然とながら伺える。あと読み所としては、人が迷い込んでは50年歳も歳をとって再出現する山の謎、そんな謎を隠して知る物を抹殺しようと企む藩政の背後にうごめく得体のしれないものどもと、不思議な兄との関わりめいたものへの関心も浮かんで来るあたり。とはいえ短編ばかりの1巻物では何も明らかにされず欲求不満ばかりが残る。作者の人は何やらとてつもなく自信を持ってこの作品に取り組んでいるよーなので、その辺りの興味も満足させてくれるよー、世界観から人物から、提示される謎までが緻密に練り上げられた設定の上で、入り組んだ話が鮮やかに解決されるよーな長編をお願いしたいところ。「これきりだと思うなよ」、思いませんから是非に。

 「虫」が消え編集長も飛ばされる雑誌で誰の不興も買わずに書評を月いちのペースで発表するかたわらで、これまた編集長が更迭なのか昇進なのか隠居なのか分からないけど首をすげかえられる雑誌でさらに長期間、雑誌評を書き連ねられるってことはつまり、それだけ内容が真っ当なのかそれとも虎の尾を見極め踏まない眼力に優れているのか。ともあれ立派過ぎるくらいに連載をこなし続けたことがなお一層の進化を呼び込んだよーで斎藤美奈子さん、「AERA」の新年号よりいよいよ1ページものスペースを与えられては「斎藤美奈子ほんのご挨拶」とゆータイトルで、いつもながらに相変わらずのイチビリ書評を書き連ねることになった模様。その第1回目を読んでみて、相手をなでまわしつつも時々チクチクと爪で引っ掻き挙げ句、サクリと肉を削り取るよーな文章の冴え言い回しの妙に感嘆する。あとイチビって差し障りのない対象を選び出して来る才覚にも。

 栄えある1回目の犠牲者に選ばれたのは今あちらこちらでベストセラー入りして大騒動になっている「天国の本屋」(松久淳+田中渉、かまくら春秋社、1000円)って本で内容は天国にある本屋に来た人が本を朗読してもらって良い心地になるってゆーもので、これを斎藤さん、ドストエフスキーにチャンドラーなんてものの朗読を頼む輩の現れる本屋ってなあ難だ、って感じに茶々入れつつ、よーするに斎藤孝さんの「声に出して読みたい日本語」(草思社、1200円)から流れ出た、朗読万歳な本だってなニュアンスで収めてる。よーするに”ぷちナショ嫌悪”って奴なんだろーね。

 まあ今となっては「天国の本屋」がかくも大流行する理由に音読称揚の風潮プラス癒しブームの相乗効果で売れてるって可能性はあるけれど、調べてみるとこの「天国の本屋」、2000年12月の刊行で「声に出して読みたい日本語」よりも10カ月近く早く店頭に並んでいて、斎藤孝さんが始めた「音読」ブームに乗った本じゃないってことだけは分かる。むしろリーディングドラマの上演とメディアミックスっぽい展開の中で刊行されたよーな雰囲気もあって、「音読ブーム」を作り出した日本回帰の風潮からさらに縁遠いところに源流があるよーに見える。

 リーディングドラマってのは一種の朗読劇なんだけど、単に役者が立って朗読するだけじゃなく、ちょっとだけ舞台装置も入って映像による演出なんかもあったりする舞台。「三井広報委員会」ってところが99年11月21日に今をトキメク仲間由紀恵さんをフィーチャーして上演した「zelkova(ゼルカーヴァ)」って舞台あたりから始まっていて、これはなかなかに面白い舞台だったんだけど、そこでの上演形態から想像するに、舞台版「天国の本屋」もやっぱり舞台での朗読が中心になったものだったんだろー。店員がいて客が来て本の朗読を頼んでそれを店員が朗読していく、って趣向の。

 小説版「天国の本屋」を読んだ斎藤さんはチャンドラーもドストエフスキーも音読させる本屋の奇妙奇天烈さを嗤っていたけど、舞台で上演されることを前提に様々な種類の本を読み広げていくストーリーとして構想されたものだったとしたら、てんでばらばらな傾向の本が出てきてもそれほど違和感はない。もちろん小説としての「天国の本屋」があってそれを見た人が劇にしたって可能性もある訳で、それだと斎藤美奈子さんの言い分も当たってないこともないから、いずれ「プロジェクトX」か何かで「大ベストセラー『天国の本屋』が生まれるまで」ってのをやってそこで誕生秘話が明かされるのを待って判断することにしよー。それにしても作者のひとりの松久淳さんととり・みきさんは知り合いか何かなんだろーか。田中渉さんは同姓同名に知っている人がいるけどこっちの田中渉さんは描くイラストから想像するに「見目麗しい女性イラストレーター」だろーから違うなきっと。

 橋本紡さんの「毛布おばけと金曜日の階段」(電撃文庫、550円)を読む。最高。素晴らしい。過去に何本か橋本さんの小説を読んだことがあるけど設定に引っ張られ過ぎる感じに目があんまりついていかなかったのが、今回の作品についてはストーリーあってそれを設定が支えている感じがあって、読んでいてすべてが心にすんなりと染み通って来る。父が事故死し母親が精神を病んで入院してしまった家に残された姉と妹。その姉・さくらはこれまでお嬢さん学校に通い家でもしっかりした子を思われていたのが、父母の不孝にたがが外れたか心が切れたか父親の死んだ金曜日なると毛布にくるまって階段の踊り場でうずくまってしまうよーになってしまう。

 物語の方はそんな姉を囲んで割に普通に学校生活を送れている妹の未明と、高校生なのに大学生の姉とつきあっている少年の和人を軸にして、いくつかの出会いといくつかの別れが描かれ、そんな中で他人を想うことの大切さが浮かび上がって来る。同級生の真琴(女の子)が好きで、けれどもそれを言い出せずにいる未明が自分を吹っ切るエピソード、金曜日こそ毛布にくるまるけれど普段は美人で頭も良いさくらにどこか心で引け目を感じている和人の葛藤と解脱のエピソード、もやもやとした心に仮面を被って生きていた未明が他人への親切を返してもらう形で勇気づけられるエピソードと、いろいろ感じさせられ気持ちを前へと向けさせてくれる。

 ひとり自分の気持ちを外に出すことなく、金曜日には毛布にくるまってうずくまる姉のキャラクターの異様さが設定として際だつけれど、その突出したキャラクターの存在が、未明や和人が自分の置かれた立場を冷静に判断する鏡になり、他人の気持ちに思慮を向けられるよーに機能している感じがあって、自分の想いや他人の想いについてあれこれ考えさせる物語に大きな役割を果たしている。

 レーベルの割には全然ファンタジーでもSFでもミステリーでもなく、むしろ例えば四六判くらいで例えば村山由佳さんとか、よしもとばななさんの恋愛青春小説と並んで出た方が相応しい内容で、その方が読んで心惹かれる人たちの層により伝わりやすい気もするし、そうなったらベストセラーにだってなりかねないけれど、電撃のホームページで紹介されて評判になったってことは、電撃を読む層もこれでSFやファンタジーといった設定にのみ有意義さを見いだすコアな読み手ばかりじゃなく、物語の放つテーマやメッセージにちゃんと反応できる心豊かな人が大勢いるってことなのんだろー。ただそれでも2万部がやっとだろーからなー、ばななさんだったら20万部が200万部でも不思議はないからなー、いっそ別バージョンで出してみては如何。


【12月22日】 「天皇杯」2日目、もちろんサッカーじゃなくレスリングの方で午前10時半頃に入って空いていた席に座ったら前に山本美憂さん一家が座ってた、あとエンセン井上さんも。やがて試合の時間が来たよーで下へと降りていった美憂さんがアリーナの方で準備を始めると、テレビカメラがそれはもー寄るな押すなの大騒ぎ、試合が始まったら始まったでサークルのサイドにはテレビカメラにスチールカメラがずらりと並び、見事にフォールで勝って引き上げる時は何台もカメラがその後ろにくっついて、アリーナの方にまで上がってきてちょっとした賑わいを見せてくれて、その注目されぶりが間近にうかがえる。

その強引さで浜口父娘のところにも行ってみたまえテレビカメラくんたち  もっとも強さだったら浜口京子さんの方が毎度のごとく圧倒的なパワーで30秒弱でフォール勝ちする強さを見せたにも関わらず、アニマル浜口さんを筆頭に30人ばかりが陣取る応援席の方にまでテレビカメラが迫っている風はなく、レスリングとしての実力を伝える報道ってことはもちろん、かって強かった人がカムバックを果たそうとしているって部分ももどちらかといえば背後に後退して、ただひたすらに”美人”ってあたりが何を置いても1番の価値として、テレビカメラを送り込んだ人たちに捉えられているよーな印象を受けて、これが日本の”スポーツ報道”の実態なんだなあ、なんてことも合わせて強く感じる、たいして強くもない(もちろん全日本ベスト16は凄いけど、でもトップじゃない)福原愛選手にテレビカメラが群がる卓球の状況も含めて。

 とか言いつつも僕だって、山本美憂選手が出るってことにならなければ「天皇杯 全日本レスリング選手権」を見物に行こーとは思わなかったって事情もあるからテレビカメラと50歩100歩、偉そーなことは言わない言えない言えるはずもないんだけど、それでもグレコローマン100何キロ級が戦う相撲のよーな迫力の試合を遠目で眺め、浜口京子選手のパワフルでテクニックも相当あるレスリングを眺めるだけの矜持はあるからいささかなりとも免じて頂きたい。それにしても男子も女子も美憂さん京子さん以外は相変わらず誰が誰でそれが何キロ級なのかさっぱり不明、有料になる明日の決勝戦くらいは多少はリングアナウンスとかあるのかな。

 さて美憂さん、今日の2試合目は敵も相当に強かったよーで苦戦した挙げ句にポイントを奪われまくり、迫ったけれども逆転にはいたらず判定負け。ジャッジにセコンドのお父さんとか不満もあったみたいだけど、長いブランクの後での2試合フォール勝ちに3試合目もほぼ互角なところを見せられたってことで、次への手応えも感じたよーで本人、近場で観察するに割にさばけていたよーに見えた。次の試合がいつになるかは知らないけれど、再来年とまだ間があるアテネ五輪に向けてこれから研鑽を積んで衆目を集めて、下心があっても集まってくれた観客も含めた世間の関心を引っ張っていって頂きたいところ。今回は休んでいたけど妹の聖子さんの方も見たいなあ、修斗のKIDこと山本徳郁選手はそのうちに。

 「妖かし、蠢き、…墜ちる」だなんて思わせぶりぶりな帯の文句に菊地秀行さんの「風来鬼」(小学館、840円)を買って読んで呆然、「文芸ポスト」とやらに連載された羅シー小説だけど、描かれた話の筋のゆるやかさなま暖かさに、中間小説誌ってこの程度のエロスとバイオレンスがあれば成立するのと編集サイドのスタンスへの疑問に悩みつつ、あるいは作家の方に何らかの抑制でも働いたのかと訝りたい気持ちに襲われる。出奔してしばらくして戻ってきた嫁がまるで淫魔と化して村人たちを虜にし始めたものだからもう大変、妹は慌て住職に相談し、息子はインターネットを使って用心棒とやらを呼び寄せたものの相手もなかなかに強力で、やがて蘇った不思議な存在も絡んでくんずほぐれつの大バトルが繰り広げられる、ってゆーのがおおまかな話の筋。

 そりゃネットで呼べる拝み屋用心棒の類ってのがあって不思議はないけれど、小学生のガキにでもアクセスできる先にいたりしていったいこの用心棒の人、どーやって処理しているんだろーかと心配になる、それとも本当に必要な人のメールしか届かない霊的な仕掛けでも施してあるのかな、妖怪ポストみたく。後書きに菊地先生「用心棒や殺し屋を個人的アクセスを通して雇うというのも、夢物語ではなさそうだ。誓ってもいいが、そのうち、妻を殺した夫は、インターネットを通して海外から殺し屋を招いた、なんて記事がどこかに載りますね」なんて書いているけど、ネット監視の行き届いて来ているこのご時世に、「殺し屋」なんて看板掲げてホームページを開いている本当の殺し屋がいるんだろーか、いたらそれこそSFだよファンタジーだよ伝奇だよ。でもいたりして。

 格闘技の描写はあるけど技と技がぶつかり合うよーな場面が目に浮かぶほどまでに凝った描写はなく、性描写の方もたくさんあるにはあるけど濃密さに絡め取られる前にあっさりと終わってしまって欲求不満が残る。村の奥底に眠っていたものの正体がこれまた冗談のよーにトンデモなくってこれだったら別に解放されたっていーよーな気もしたけれど、モラルのこともあるしまあ、止めてもらって正解だったとしておこー。ともあれ何か知らないうちに力を得ていた用心棒の尽力で解決してしまう辺りの力業なまとめぶりも含めて、ノベルズとゆー媒体のある種のゆるやかさが強く感じられる1冊かも。「あうれるエロティシズムと極限の恐怖に貴方はどこまで耐えられる!?」だって? 足りねえよ。


【12月21日】 朝いちで近所の西武百貨店にある「WAVE」にかけつけて棚に残っていた DVDビデオの「オーバーマン キングゲイナー」を奪取する。いろいろあったらしいけどこれで見られるのが2カ月後になるのはタマらん、とゆー訳であなくむしろ「これはいいもの」になるんじゃないかとゆー下心での購入なんだけど、その場合はDVDのあのビニールを破って中を見ても良いのかそれとも見ないで永遠に残しておくべきなのかが悩ましい。家に衛星のない身としてはこの目で直に「おどるろぼっと」を見たい気もあるんだけど。だったら2箱買えば良い? それもアリか、けどもう売ってないだろーなー、秋葉ですらも。日曜日に回ろう。

 早起きついでに(たかだか午前10時でか?)電車を乗り継いで「天皇杯」を見に行く、ってもサッカーの「天皇杯」ではなく代々木第二体育館で始まった「天皇杯 全日本レスリング選手権大会」の方。そんなものに興味があったのかと聞くれれば「いやあの『レジェンド』でのマット・ガファリの強さに感動してアマレスってものがどんなか見たくなった」と答える用意だけはあるけれど、言って説得力のある理由じゃないんでこれは封印。素直に「女子のくんずほぐれつが見たかったんじゃあ」と大仁田になってここに激しく訴えることにする。とはいえそこはアマレス、見目麗しさでは例えばフィギュアスケートとか、新体操とかにかなわないだろーと思ったら実は大間違いで、行ってみるとこれがなかなかに美少女たちが混じってて、遠目でのぞいた中だと例えば大東文化大学の人とかは、美形な上に体型もなかなかに迫力でそれが柔らかい関節をいっぱいに広げて相手と組み合う姿のもう、格好良いこと美しいこと。「WOWOW」のCMじゃないけどホント、いっしょに練習をしたくなる。

 なにより女子のアマレスが世間に大きく注目されるきっかけになった元祖にして本家の”美人レスラー”山本美憂さんが、今大会で復活をかけて戦うって話題があったのも、雨の降る中を原宿までかけつけた大きな理由だったけど、行った時間にはもうすでに終わっていたのかそれとも円形の競技場に4つとられたサークルのどれかで知らない間に終わっていたのか、戦う山本さんを目では確認できず残念至極、ただ終わった後で私服に着替えた山本さんが観客席へと上がってきて、家族のあれは”大和魂”エンセン井上さんかな、彼といっしょにテレビカメラに撮られてたりした姿はみかけて、暗い照明を遠目に見てもなかなかの顔立ちだってことが分かった。明日は是非にナマな試合を見たいところ、だけど勝ったのかな、それとも負けての早帰りだったのかな。

強さと人気は高い随一の京子、でもマスコミは美憂ばっかに注目、田村亮子がもてはやされる柔道がちょっとうらやましい?  こちらは圧倒的な強さで勝ち上がっていった浜口京子さん。その偉丈夫ぶりは遠目にもはっきりと分かるほどで、父親のアニマル浜口さんと並んで「浜口京子」と書かれた応援旗の前に経った姿は大輪の菊か夏空にそびえるひまわりの様。存命だったらナンシー関さんからきっと「二代目 女の中の男」と言われたかもしれない。この何年か揺れていたよーだけど今年はアジア大会にワールドカップに世界選手権を制して3冠を獲得。とくに世界選手権は3年ぶりの優勝だったらしく、余勢を駆っての「天皇杯」も見た試合はわずかな時間で相手にフォール勝ちする強さを堪能させてくれた。ひとり応援団も凄くって登場すると客席からやんやの喝采、そして声援が。優勝のかかる明日の試合はもっと盛り上がるんだろーと思うと、続けて行って見てみたくなる。ってきっと行くんだろーけど。

 男子の方は体重が低い高校生によるエンピツ対ちくわの戦いがあれば、相撲取りが服を着てどつきあってるよーな体重の思い人どうしによる戦いもあったりと、体格によってとても同じスポーツに見えなかったりするのが面白かったけど、細くても双眼鏡で腕とかみるとこれがなかなかな中山きんにくん、じゃない筋肉のつき具合で鍛えれば人間強くなるんだってことがよく分かる。それでみ見応えのあるのは真っ当にレスラーな体型をした重量級の選手どうしの戦いで、アマレスだから肉体言語と書いてサブミッションと呼ぶ田中ぷにえちゃん的な技の繰り出し合いはないけれど、その分手、足、体にみなぎらせたパワーをいかにつかみ、引きつける方向へと使うのかって部分がより出ていて、硬直しているような攻防の中にも力のぶつけ合い、スピードの極め合いを堪能できる、と思う、けどやっぱりプロレスとは楽しみ所も力の出し所も違うから、楽しむには自分でもやってみたりする経験が必要かも。あのたくましい腕、盛り上がった体とか見ていると組み敷かれたいって気にもほのかになって来るし。

 プロレスとは見せ方は違っても基礎としては大切ってこともあるのかな、出ている選手たちの中に混じって「新日本プロレス」の若手選手も混じってて、結構な体型とそしてやっぱりな強さを見せてくれた。基礎は重要ってことなのか。それと審判員の中にひとり女性が混じっていたのにも目を引かれた。スラックス姿でブレザーを着て組み合う男子たちをさばく姿の格好良いこと、サッカーの女性審判員の半ズボンからのぞくたくましい脚にも惹かれるけれど、こちらもこちらで惹かれます。明らかに元経験者って体型の男子審判員に混じってるってことはこの女性審判員もやっぱり元経験者なんだろうか、組み敷かれたい(そればっか)。とにかくめまぐるしい展開で、4つあるサークルでのべつ幕なしに試合が進んでいくんで、目を転じていけば飽きることはない。女子の試合になると最前列に集まるビデオ小僧にはあんまり増えてほしくはないけど(取り締まりが厳しくなるから、新体操みたく)、間近に戦いを楽しめるイベントとして格闘に興味のある人筋肉に関心のある人はのぞいてみては如何。タダだし。

 出て渋谷へと向かう途中で「たばこと塩の美術館」でまた始まったインド美術の展覧会なんかを見物、またってのはつまり何年かおきに開かれてるってことで、今回もミティラー画とワルリー画が飾られていてインドならではの伝統的なアートを堪能できる。前に開かれていた時も出展されてて、すでにお馴染みとなってしまったガンガー・デーヴィーさん描くミティラー画「上弦の月を食べる獅子」も展示してあって、はじめ無題だったものを日本の新潟いあるミティラー美術館の人が絵の雰囲気からそういうタイトルをつけてポスターに使ったら、それを見た夢枕獏さんが絵とタイトルからイメージを膨らませて例の「上弦の月を食べる獅子」を書いたとか。もしもこれが単に「獅子」だけだったら獏さんもあそこまで深淵な世界は作れなかっただろーと類推すると、あの日本SF大賞受賞作品が生まれた背景にはいろいろな人の想像力が関わっていたってことになる。まだ見ていない人は一見、入場料は100円。


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