田口久美子著作のページ


1973年キディランド八重洲店で書店員としてのキャリアをスタート。76年西武百貨店書籍販売部門(のちリブロ)入社、船橋、渋谷各店を経て池袋店店長。現在はジュンク堂池袋本店副店長。
 
1.書店風雲録

2.書店繁盛記

 


   

1.

●「書店風雲録」● ★★




2003年12月
本の雑誌社刊
(1600円+税)

2007年01月
ちくま文庫化

  

2004/02/03

 

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1975年に池袋西武百貨店内にオープンしたリブロ(当初は西武ブックセンター)を中心に、当時の書店事情、書籍販売、出版事情まで含めて、リブロの社員だった田口さんが語る一冊。
書店業の内幕、開業当時から現在までの書店事情の変遷等を語って興味深いとはいうものの、また特異な書店だったとはいうものの、所詮中心は一書店の内輪話ですから、本書への興味、面白く感じるかどうかは、読む人によってかなり異なるでしょう。

ただ、池袋・リブロという場所・書店が、一時期の私にとって欠かせない存在だっただけに、記念アルバムをめくるような感慨があります。
そのリブロも、開業したての頃は出版社、取次店から本が回してもらえず困った内輪話とか、堤清二氏の肝いりで革新的な書店をめざしたという経緯は、成程と思うところが随所にあります。
また、ベストセラー本の変遷、バブル下での書店の繁栄、小説本の棚割りで純文学・中間小説・大衆文学のジャンル分けを諦めるほかなくなった経緯等々。書店事情を語った本として、本好きならきっと面白く読めることでしょう。
私にとっては、懐かしさと興味から楽しく読んだ一冊です。

西武ブックセンター/西武・セゾン文化/リブロの時代/バーゲンブックフェア

 
【 以下は私の思い出話 】

リブロ開業当時の池袋は、西口の芳林堂、東武百貨店内の旭屋、リブロと同じ東口に新栄堂、パルコ内の三省堂という4書店が並び立つ激戦区。
その4書店を、高校時代の私は土曜日午後となるとはしごして回っていました。また、大学時代の春・夏休みにはパルコの三省堂でバイト。そして就職後にリブロが開業し、日曜日にはいつもそのリブロに通っていました。
リブロの平台はいつも新鮮で刺激的でしたし、広いフロアーの中を散策するように書棚を見て回るのが楽しかった。気が向けば1階上の西武美術館にも入りましたし、戯曲や美術書コーナーの存在も貴重でした。さらに、買ったばかりの本を隣接のカフェ・フィガロでお茶を飲みながら読むこともできました(もっとも混んでいてめったに入れなかったけれど)。
リブロで出会った、忘れ難い本もあります。H・ハンフ「チャリング・クロス街84番地は偶然見つけた本。中野好夫訳ギボン「ローマ帝国衰亡史」、「サミュエル・ピープスの日記を読み始めたのは、リブロでの出会いがあったからこそ。未だに散策できるようなレイアウト、喫茶室が近くにあるとなお良い、という書店に関する私の好みは、このリブロに端を発しています。

    

2.

●「書店繁盛記」● ★★




2006年09月
ポプラ社刊
(1600円+税)

 

2006/10/07

 

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前著書店風雲録も書店の内幕を語っていたとは言え、良くも悪くも“リブロ”という一世を風靡した書店のその時代を描いた書と言わざるを得ません。
その点本書は、現在の書店を取り巻く状況、書店および書店員の苦闘ぶりが率直に語られていて、書店と縁の切れない私のような本好き人間にとってはとても嬉しい本です。
戦う場所は違うとはいえ、“本”文化を守るために頑張っている戦友の戦いぶりを聞く、そんな気分があります。

“戦い”という表現を使いましたが、それだけ昨今の書店を取り巻く状況はますます厳しくなっている。
特にアマゾンを代表するネット書店の好調ぶりに比較して、リアル書店は厳しい立場に置かれています。
その点が余すところなく語られているのが、第1章。検索機で目指す本がヒットしたとはいえ、場所が紛れたり、万引きという被害もある。それでも田口さんら書店員が頑張っているのは、リアル書店には客との交わり、語らいがあるからなのでしょう。第一章を読んでいると、客との繋がり合いを大事にしようという心意気が感じられます。
そう、リアル書店には本に囲まれる喜び、読みたい本を探すという楽しさ、思いがけない本と出合う嬉しさがあるのですから。
自分勝手に立ち読みして商品である本を売れない状態にしてしまったり、平気で本のうえに鞄を乗せたりと、そのな困った客の例を紹介した第2章では、私も書店員たちと一緒になって憤慨せずにはいられません。

書店共通事情とはいっても、全国一の規模を持ち、特に専門書に力を入れているジュンク堂だからこその苦労、という部分もあります。内部事情を知るという興味深さがあるものの、第3章はそんなジュンク堂ならではの苦労話でしょう。
田口さん自身の思いだけでなく、若い書店員の奮闘ぶりを紹介する第4章も読み甲斐があります。
本好き、かつ書店好きの人には是非お薦めしたい一冊です。

1.リアル書店で働いています/2.本屋さんの事件簿/3.開店準備は大変です(新宿店オープン)/4.書店員になった理由

  


     

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