斎藤由香著作のページ


1985年成城大学文芸学部国文科卒。祖父は歌人・斎藤茂吉、父は作家・北杜夫。サントリー株式会社入社、広報部を経て2001年10月現在所属している健康食品事業部に勤務。自称:「マカ」キャンペーンガール。酒量は楽々ウィスキーボトル1本の由。
※山口瞳・開高健「やってみなはれ みとくんなはれ」、阿川佐和子「オドオドの頃を過ぎても」に既に登場済。
 
1.窓際OL トホホな朝ウフフの夜

2.窓際OL 会社はいつもてんやわんや

3.猛女とよばれた淑女

4.窓際OL 親と上司は選べない

5.窓際OL 人事考課でガケっぷち

 


   

1.

●「窓際OL トホホな朝ウフフの夜」● ★☆


窓際OL画像

2004年04月
新潮社刊
(1300円+税)

2006年10月
新潮文庫化

  

2004/05/08

 

amazon.co.jp

阿川佐和子さんとの対談、山口瞳・開高健共著の文庫本あとがきと、最近よく見かけるのが斎藤由香さん。それら断片的なものを読んだだけでもかなりユーモラス、と感じていたところに刊行されたのが本書という次第。迷わず買って読みました。
本書は、週刊新潮に連載“窓際OLコラム”の単行本化。

作家の娘であってユーモア・エッセイストとして先輩格である阿川佐和子・壇ふみのお2人、共著エッセイのおかげで知的美人というイメージをすっかり壊してしまいましたけれど、お2人のご家族も本書を読むならば、これに比べればマシ、ときっと安心される筈。
由香さんはお2人と異なり、一応は普通の会社員。それなのにこうして注目されるようになったのは、勃起不全や勃起障害に役立つ健康食品の「マカ」売り娘となった窓際OL、というキャッチフレーズの所為かもしれませんが、ご本人の性格によるところも大でしょう。躁鬱病の父君に勝るとも劣らない大胆さ、遠慮なさ。どうもこの父娘、そろって普通人を逸しているところがあるようです。
いくら「やってみなはれ」が信条の会社勤務とはいえ、話題とした作家、同僚が誰のことかすぐ判るような書き方をしてしまって良いのかなぁ。
社内話から始まり、OL仲間、家族のことと、内容は玉石混交ですが、社内話・マカ話がことに面白い。しかし、北杜夫氏に大勢の前で歌を歌わせてしまうという場面には、唖然。

「精力剤」を売る女/OL「夜」のナイショ話/会社はテンヤワンヤ/仔マンボウの冒険/類は友を呼ぶ/どくとるマンボウ一家騒動記/父娘爆笑対談「楽しきかな おまけの人生」(ゲスト:阿川佐和子)/ちいさな心の風景/斎藤家三代失われた日記

   

2.

●「窓際OL 会社はいつもてんやわんや」● ★☆


窓際OL画像

2005年12月
新潮社刊
(1300円+税)

2007年04月
新潮文庫化

  

2006/01/08

 

amazon.co.jp

週刊新潮連載コラム「窓際OL」の単行本化、第2弾。

前半の見ものは、サントリーの年末28日、お台場の新社屋への引越し騒動。
この前後はサントリーの「おもろい会社」ぶりが発揮されていて楽しいし、窓際OL兼エッセイストの面目躍如という部分。
ちょっとしたことでもエッセイに書かれてしまうということが承知されているらしく、見に来ないかと誘われたり、突然S社長へのインタビューを設けられたり、等々。
この辺り、S社長の風貌を思い浮かべながら読むと楽しい。
それにしてもこんな自称“窓際OL”を平気で放し飼い(斎藤さんごめんなさい)しているのですから、確かにサントリーとはおもろい会社です。開高健さん、山口瞳さんのDNAがしっかり引き継がれていると言われると、納得してしまう。

その窓際OL、一ヒラ社員だというのに、芸能人や著名人らに混じって林家正蔵襲名披露の豪華パーティに招かれたり、ペルーの高地へ出張したり、雑誌の取材やTV番組に招かれたりと、ただものではない。
「ドヒャーッ!!」とか「ヒョエー!!」とか叫んだりしている割には、招待されると何処にでも物怖じせずに出かけていき、マカ娘ぶりを発揮しているのが後半。窓際OLと開き直ってしまうと、こうまで強くなれるものなのか。
サラリーマン、特にOLの方なら一層、楽しく読めるに違いないエッセイ本。ストレス解消にはマカではなく、本書をどうぞ。

阿川佐和子さんの名前が墓石から取られたのはよく知られた話ですが、由香さんの名前はマンガの薄幸な主人公から取られたとのこと。佐和子さんも由香さんも逞しくなる訳です。

ウチの会社の“引越大騒動記”/「マカ」不思議!?/窓際OL秘境へ行く!/OLたちのナイショ話/マンボウ家の素顔/実録「窓際OLは見た!」

  

3.

●「猛女とよばれた淑女−祖母・斎藤輝子の生き方−」● ★★


猛女とよばれた淑女

2008年02月
新潮社刊

(1400円+税)

2010年12月
新潮文庫化

  

2008/06/07

 

amazon.co.jp

歌人・斎藤茂吉の妻であり、作家・北杜夫と精神科医・斎藤茂太の母であった斎藤輝子さんは、一時期においてその3人より遥かに有名だった、と思う。
何しろ60歳を越えた老齢の身になってから猛然と海外旅行に飛び回り始め、それも先進国だけなら未だしも、南極、エベレスト山麓、アフリカ、南米アマゾン、ガラパゴスとか、世界の秘境に好んで出かけていったのですから。
その斎藤輝子さんが1984年に亡くなってから、早20年余。
本書は、“猛女”と呼ばれたその輝子さんの人となりを、孫娘である由香さんが語った一冊。

斎藤輝子さんがどういう女性だったかは、当時いろいろ語りつくされた観があって今更なのですが、本書は外向けの顔ではなく、孫娘という身内の立場から見た斎藤輝子像、というところに価値があります。
特に由香さんは一人っ子ということで、輝子さんにことのほか可愛がられたらしいので。
それにしても往年、その元気の良かったこと! 次男・宗吉(=北杜夫)の躁鬱病でヘタヘタになっていた姿と見比べると、なおのことその元気さが引き立ちます。
残る人生少ないと思えば何も怖くないというのは判りますが、それにしたってあれだけの行動意欲、行動力をそう持てる筈がありません。そこはやはり大病院の令嬢として乳母日傘で育てられた大らかさ、物怖じの無さ、ということだったのでしょう。
本書では、そんな輝子さんの驚愕すべき元気さと並んでもうひとつ、長男の故・茂太さんを初めとする親族がいかに輝子さんを大事にしていたかと感じられるところが印象的です。

我を通し、家族を思うがままに振り回した輝子さんがそれだけ愛されていたというのは、率直であって毅然とし、何事も悪びれないで常に生き生きとしていたからではないかと思います。
外側から見るとどうだったか判りませんが、身内から見ると可愛らしいところが多分にあった、と思えるのです。
孫の茂一氏曰く、「亡くなって二十年も経つのに、こんなにみんなの話題になるなんて、大したもんだなあ」とのこと。
その言葉は、そのまま本書の価値、面白さに通じています。

プロローグ:茂吉の「をさな妻」/輝子と父の物語/世界百八ヶ国豪傑旅行/失われた日記/追憶の輝子/エピローグ:三十年ぶりに見つけた絵葉書

   

4.

●「窓際OL 親と上司は選べない」● ★★


窓際OL画像

2008年04月
新潮文庫刊

(476円+税)

 

2008/05/10

 

amazon.co.jp

週刊新潮連載コラム「窓際OL」(17.11〜19.09)の出版化、第3弾。今回は最初から文庫化での刊行です。

“窓際OL”も流石に第3弾となるとマンネリ化だろうなぁ、だから今回は文庫本か、と思いつつ読み始めましたが、それは私の認識不足。
面白い! むしろ前2冊より面白さが増しているのではないか。

その理由は、すっかり“窓際OL”エッセイが社会的に認知された所為か、友人・同僚・知人からいろいろな情報が由香さんの処に持ち込まれる、集まるようになったからです。その勢い、決して軽視すべからず。
世はセクハラ、パワハラ厳禁時代だというのに、出るわ出るわ、セクハラ事例が。こんなにもあるかぁ〜、と驚き呆れるぐらいですが、笑ってしまう。それが「ダメ上司見本帳」の章。
ところが、セクハラを超え、女性社員にとってはもっと恐ろしい存在があったのです。それこそ、女性の上司! 「ダメ上司見本帳」より遥かに目を丸くしてしまう、それこそ「女の敵は女?」の章。
その他、父=北杜夫の傑作輝ける碧き空の下でを偲びながらのアマゾン紀行、「龍ちゃん」こと故・遠藤周作氏長男の遠藤龍之介氏(フジテレビ役員)との対談も貴重。
また、年老いてもなお超・元気振りをしていた祖母=故・斉藤輝子の思い出、今も元気を発揮している実母と対照的にヨロヨロの実父のレポートも楽しい。

それにしても、「小ネズミ部長」とか「ミジンコ部長」とか言いたい放題なのに全く自由放任というこの会社、その度量は凄いですねぇ〜。
また、マカ+“窓際OL”の看板で大トヨタのパーティや、中村獅童を励ます会、さらに海上自衛隊の観艦式にまでお呼ばれし、気後れすることなく堂々と乗り込むのですから、由香さんの度胸も凄い。
“窓際OL”とは度胸なくして務まるものではないのです。

楽チン窓際十ヶ条/(特別エッセイ)アマゾンの墓標−熱帯濁流紀行/ダメ上司見本帳/女の敵は女?/突撃!潜入ルポ/危うし、老マンボウ/狐狸庵vs.マンボウ/(特別対談)競争社会を楽しく生きるには(宮崎哲弥・斉藤由香)

  

5.

●「窓際OL 人事考課でガケっぷち」● 


窓際OL画像

2010年04月
新潮文庫刊
(476円+税)

 

2010/04/09

 

amazon.co.jp

週刊新潮連載コラム「窓際OL」(19.09.〜22.01)の出版化、第4弾。

ある程度マンネリ化してきた本シリーズですが、冒頭と最後にこの第4巻限りの面白い点あり。
冒頭のは、毎年繰り返される斎藤由香さんへの上司による人事考課。
同期・後輩が順調に昇進していくにも関わらず、なぜ自分だけが昇進できないのか。今年こそはと、由香さん、懸命に上司に媚びを売るものの、「会社が求めている活動と斎藤さんの活動には、若干、ズレがあるんだよ」等々。
そのうえ、あろうことか健康食品事業部からグループ会社の広告代理店A社へ出向になったとのこと。
会社の言うことも判るところありますが、由香さんの意見も判らないではない。
私のサラリーマン経験でも、実力主義を唱えながら、昇進している中に、無責任でロクな仕事はしていないという連中が大勢、ということがよくあります。実力主義とは、結果的に昇進できる能力(実力)を問うものであって、仕事の実力ではない、と何度思ったことか。

今回、キャバレー課長がフランスのボルドーに転勤。本人は公開する気などないのに、由香さんが勝手に「キャバレー課長のボルドー便り」と雑誌に掲載してしまうので、困ることしきり。
あとがきでの、個人情報も流出しまくり、抗議をしても、その抗議内容さえ記事にされてしまうという恐怖、というキャバレー課長の嘆きは噴飯もの。

ついに飛ばされた!/行くぞ、地の果て海の果て/キャバクラ課長のボルドーだより/ウフフのプライベートライフ/大丈夫か、ニッポン!?/マンボウ、大腿骨骨折の巻/キャバクラ課長にあとがきを依頼した

  


     

to Top Page     to エッセィ等 Index