中川織江著作のページ


日本女子大学大学院博士課程後期修了。(公財)教育美術振興会評議員。元・京都大学霊長類研究所共同利用研究員、元日本女子大学・埼玉大学講師。香川栄養学校調理師科卒、大塚テキスタイル学院工業繊維学科卒。

 


   

「セッシュウ!−世界を魅了した日本人スター・早川雪洲− ★★☆


セッシュウ!画像
 
2012年12月
講談社刊
(2500円+税)

  

2013/01/25

  

amazon.co.jp

早川雪洲というハリウッドでも活躍した日本人俳優がいたことは知っていました。でも具体的にどういう俳優なのか、国際的な映画界でどんな存在であったかまでは知りませんでした。
この際知ってみよう、と思って手に取った一冊。

伝説的な俳優についてということでは、かつて市川雷蔵坂東妻三郎を語った作品を読んだことがありますが、本書の早川雪洲についてはもう次元が違う、桁外れ!という印象です。
なにしろ、網元の上に生まれ日本で挫折を味わったことから渡米し、そして白人社会の中に飛び込んで一気に超人気俳優へと駆け上がったのですから。
どんなに凄かったかと言うと、あの名優
チャップリンとも並び称され、欧州では国賓扱いの待遇を受けたというのですから、想像の域を超えています。まさにアメリカンドリームの体現というところなのですが、余りに凄過ぎて驚嘆するばかりです。
何故そんなに人気を得たのかというと、異国の貴公子然とした風貌にあったようで、現代日本で韓流男優が人気を博しているのと似ているように感じます。
それでも、サイレント時代に超人気スターとなり、トーキー時代になってもスターで在り続けたのですから、それだけの魅力と力量をもった俳優だったのでしょう。
稀に見る幸運児だったというに尽きる、とも感じます。

それより本書で魅了されたのは、雪洲の妻となった青木鶴子という女性の方。
新劇の先覚者=
川上音二郎に連れられて9歳渡米したものの、米国で困窮した音二郎に置き去りにされ、米国で成功した日本人画家に引き取られて成長、後に日本初の国際映画女優となった人。
雪洲が2人の愛人との間に作った3人の子供を引き取り、戦時中の厳しい情勢の中でも見事に育て上げたというのですから、その度量の大きさといい、懐の深さといい、人間としての奥行きの深さといい、惚れ惚れする程です。
本来の主人公である早川雪洲より、この青木鶴子という女性のことを知ったことの方が果報だったかもしれません。

小説より奇なりと言うべき、日本人唯一の国際的映画スターの生涯を詳細に追った力作。
興味を持たれた方には、是非お薦めです。

青木鶴子・国際映画女優第1号/雪洲になるまで/あこがれのアメリカ/夢や夢 眠らない男/動く「役者絵」セッシュー/堂々帰国/沈黙の石畳/「もののふ」の人/「ハヤカワ劇場」閉幕す/終章

    


     

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