江國滋作品のページ


1934年東京生、慶應義塾大学法学部政治学科卒。新潮社入社後、「週刊新潮」編集部員。41年新潮社を退社し、文筆業に専念、随筆、紀行、評論の分野にて活躍。また、俳句にも親しみ、俳号は「滋酔郎」。平成元年刊行の「日本語八ツ当り」(新潮社)がベストセラー。1997年2月6日食道癌の告知を受け、闘病の後同年8月10日逝去。


1.旅はパレット

2.阿呆旅行

3.伯林感傷旅行

4.おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒

 


 

1.

●「旅はパレット」● ★★



1984年10月
新潮社刊
(1500円+税)

1984/12/29

「週刊朝日」に短期連載(8回)した「旅はパレット・アメリカ淡彩紀行」を基に、書き残していた水彩画も加えて一冊にまとめた画文集。

世界各国の街角を、気取らない水彩画と気取らない文章で綴った本であり、眺めているだけで、本当に世界各地を旅行している気分になり、気持ちもまた楽しくなってきます。
たまにはこんな本を眺めて楽しい気分に浸りたい、そんな一冊です。

アメリカのハミング/ヨーロッパのトレモロ/日本の口笛

 

2.

●「阿呆旅行」● ★☆

 

1984年12月
新潮文庫刊

2021年04月
中公文庫

 

1985/01/11

年末から、宮脇俊三「旅の終りは個室寝台車」、辻静雄「ヨーロッパ一等旅行」、江國滋「旅はパレット」、山口瞳酔いどれ紀行」と、紀行ばかりを読みつづけてきました。

ちょうど直前に読んだ酔いどれ紀行」と比べると、本書では場所ごとの頁数がはるかに少ないため物足りない面もありますが、読んでいる分には結構面白いです。

これらの紀行に阿川弘之「南蛮阿房列車」を加えて考えてみても、どの紀行も(但し辻静雄著作は除く)皆内田百「阿房列車」を模していると言うのですから、阿房列車」の存在は凄いものです。
本書の題名も、その「阿房列車」を真似たものだそうです。

 

3.

●「伯林感傷旅行−旅券と俳句−」● ★★

 

1991年6月
新潮社刊

 


1995/09/21

13年前東独の招待により、1ヵ月間東独を一人で、通訳者と運転手をつけてもらって旅行をしたのだそうです。その為、ベルリンの壁崩壊のニュースによってその思い出をかきたてられ、東独が消滅しないうちにベルリンを再訪したい、というのがこの紀行の発端だったそうです。
相棒は、俳句仲間である“省酔”ことジャック・スタム氏。氏は、ユダヤ系ドイツ人出身のアメリカ人であるとのこと。相棒を連れての紀行というのは、内田百以来どうも定着した観があります。遡ると弥次喜多道中が先ともいえますが、何はともあれ読んでいて面白いものです。
無駄のない筆運び、短いながらも適確に出会ったこと、感じたことを文章に表している、そして更に江國さんのユーモア精神、そんなところが本書の面白さの理由だと思います。
時折はさまれる、江國さんと省酔氏の即興俳句が、旅の印象を更に簡潔に表しています。良い出来、不出来は別として、俳句も記念として良いものだと感じました。

伯林感傷旅行/敦煌有情/巴里のばらーど

※【 参考 】・・・“旅券と俳句”シリーズ(すべて新潮社刊)1.旅券と俳句 1990.06
2.伯林感傷旅行−旅券と俳句− 1991.06
3.英国こんなとき旅日記−旅券と俳句− 1992.10
4.スイス吟行−旅券と俳句− 1993.12
5.ラプソディー・イン・アメリカ−旅券と俳句− 1994.12
6.イタリアよいとこ−旅券と俳句− 1996.12 

 

4.

●「おい癌め 酌みかはさうぜ秋の酒 江國滋闘病日記 」● ★★

 

1997年12月
新潮社刊

 

2000年11月
新潮文庫
(629円+税)

 


2000/11/21

一応念の為ということで受けた検査の結果突然食道癌を宣告され、以後亡くなるまでの約半年間、江國さんが病床で書き続けた闘病日記です。癌に負けまいと石田波郷に対抗して、闘病しながら俳句を作り続けることを宣言、その結果として書き残された俳句は500句に達するということです。
壮絶な癌闘病記ということでは、吉村昭さんが実弟の闘病を記録した冷い夏、熱い夏が思い起こされますが、本人自身が克明に書き綴った日記という点で、本書からはまた違った壮絶さを感じます。
文章にすべてを書き残すというのは、文筆家らしい闘病方法とも言えますし、文筆家の性とも言えるでしょう。「残寒やこの俺がこの俺が癌」という句に始まり、ついに辞世の句となった「敗北宣言−おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」まで、俳句にこめられた江國さんの思いは、日記の文章からとはまた異なったものが感じ取れます。
不安、疑念、葛藤、大勢の人に励まされてまた闘おうと気力を奮い立たせる様子が、繰り返し語られています。食道癌、手術で食道を摘出、再手術、食事できない状況を堪え忍んだ結果、骨への転移が発見され、また手術。そして、漸く退院したものの間もなく急変。
将来自分も万が一と思うと、他人事としてばかり読むことはできない一冊です。最後の江國さんの苦闘を思うと、ご苦労様でしたという言葉を捧げずにいられません。謹んでご冥福をお祈りいたします。

残寒やこの俺がこの俺が癌/カーディガン、ナースはみんなやさしくて/春の闇阿鼻叫喚の記憶あり/惜春のまた傷ついてゐるこころ/目にぐさり「転移」の二字や夏さむし/四万六千日いのちかみしめ外泊す/おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒

 


 

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