レドモンド・オハンロン著作のページ


Redmond O'Hanlon 1947英国生、オックスフォード大学文学部卒。「タイムズ文芸付録」の編集記者を経て英国を代表する旅行記作家に。ボルネオサイを見たい一心で出かけたボルネオ旅行記の84年「ボルネオの奥地へ」にてデビュー。88年には凶暴なヤマノミ族に会いに出かけた「また面倒なことに」を刊行。

 


 

●「コンゴ・ジャーニー」● ★★
 原題:"CONGO JOURNEY"     訳:土屋政雄




2008年04月
新潮社刊
上下
(各2300円+税)

 

2008/06/03

 

amazon.co.jp

カズオ・イシグロ氏が「とんでもない傑作」と評したという、アフリカは密林の真っ只中、コンゴ奥地への大旅行記。

何故にそんな奥地へ旅行したのかというと、コンゴ奥地・テレ湖に棲むという恐竜モケレ・ムベンベを見たいとか、ピグミーに会いたいとか、フキナガシヨタカを見たいとか。
おいおい、それじゃあ、単なる好奇心、物好きというだけじゃないか。
そんな理由で苦労し、危険を冒し、現地人からは馬鹿にされ、強請られるままに金を渡して最後は全財産を使い果たしてしまう、というまでしてアフリカ奥地へ行く必要があるのか?と思うのですが、本当にそれを実行してしまうのですから、このオハンロンという英国人は凄い、というか、呆れるばかり。
しかも、真っ直ぐテレ湖に向かうのではないのです。余計なところを踏破して、ピグミーに会い、喜んでいる。
人が好いのは事実なのでしょうけれど、アフリカ奥地の危険に対する認識も覚悟もそもそも備わっていないのでは?と思えるのですから、ただ唖然。

同行するのは米国人の動物行動学者ラリー・シャファー博士。そして道案内というべき動植物保護省の役人でもあり、モケレ・ムベンベを目撃しているという生物学者マルセラン・アニャーニャ博士。さらに、マルセランの異父弟マヌーと従弟のヌゼ
このラリーとマルセランという2人、とても学者とは思えない。ラリーは悲観的な言葉ばかり口にし、一体何の為に一緒にこの旅行にやってきたのか、と思う程。おまけに、やっとテレ湖に向かうという段階に至ったら休暇切れと米国に帰ってしまうのですから、何ともはや。
旅行中、マルセランとヌゼは、宿泊先、宿泊先で現地の女漁りばかり。
それは一例にしか過ぎませんが、呪い師が勢力を振るっていたり、あやゆる病気あり、人にたかってくるアリ、ハチありと、アフリカの奥地はやはり文明社会から隔絶した別世界、と思わざるを得ません。

本書の殆どは、あてもないかのように延々と続くコンゴ奥地での旅行の様子がただ順を追って語られているだけ。
何の為にとか、どんな視点から、というのは一切なく、ただただそこに在るアフリカの生の姿が語られている、と言ってよい。
著者曰く、「いろいろな村を通って、ジャングルでピグミーを見つけて、ゴリラやチンパンジーはオナガザルやゾウを見ていったら、アフリカ人のものの考え方・感じ方に少しは触れられるだろう。そうしたら、テレ湖に何があるのか、現地にたどり着く前にわかるんじゃないかと思う」というのですけれど、まさに言い得て妙、その言葉どおりの大旅行記。
ずっとそんな文章を読んでいると、次第にアフリカにはアフリカなりの社会、生活が営まれているのだと感じられるようになります。
そして、頼りになると思われたマルセランにしろ、大勢の親族に食い物にされるという“ビッグマン”としての鬱積、深い挫折感を背負っていることも見えてきます。
理屈は一切なし。理屈を超えるアフリカの現実がそこにあるのだと
思います。

読み始めた最初の頃は持て余す気分になるかもしれませんが、読み終わる頃には本書に対する深い愛着の念を感じるようになっているという、愛すべき紀行書。  
確かに「とんでもない傑作」という評価は誇張ではありません。

1.川をさかのぼる/2.サマレの謎/3.幻のモケレ・ムベンベ

※同じテレ湖のムベンベを追いかけた探検書に
  高野秀行「幻獣ムベンベを追え」があります。

 


  

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