高野秀行著作のページ


1966年東京生。早稲田大学探検部当時執筆した「幻ムベンベを追え」にてデビュー。著書に「巨流アマゾンを遡れ」「西南シルクロードは密林に消える」「怪しいシンドバッド」「異国トーキョー漂流記」「ミャンマーの柳生一族」「アジア新聞屋台村」等あり。2006年「ワセダ三畳青春記」にて第1回酒飲み書店員大賞、2013年「謎の独立国家ソマリランドそして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」にて第35回講談社ノンフィクション賞、2014年同作にて第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。


1.
幻獣ムベンベを追え

2.恋するソマリア

3.幻のアフリカ納豆を追え!

 


 

1.

「幻獣ムベンベを追え」 ★★


幻獣ムベンベを追え画像

1989年
PHP研究所刊

2003年01月
集英社文庫
第3刷
2007年03月

(514円+税)



2008/07/03



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「コンゴ・ジャーニー」を読んで、こんなアフリカの奥地へ酷いくらいの悪条件にかかわらず出かけていく物好きな人がいるんだなぁと呆れていたら、その前に早大の探検部が現地に行っていたと聞き、本当にびっくりしました。
その探検経緯を描いたのが本書であると教えてもらい、これは読まずにはいられないと思った次第。
しかし、同じテレ湖“モケレ・ムベンベ”を追い求めたというのに、本書と「コンゴ・ジャーニー」は何でこんなにも雰囲気が違うの? 本当に同じ場所なのか? それも同じようにコンゴの博物学者マルセラン・アニャーニャ博士が現地でのガイド役となり両方とも行動を共にしている、というのに。
その余りの違いの大きさに、呆れると同時に違いの大きさを楽しみ、さらに何故こんなにも違うのかと考える、という読み方になりました。

ひとつには、何処かへ探検へという安易なノリから始まってテレ湖を目指し大勢で現地に乗り込んだのと、アフリカという土地およびそこに住む人々のことを肌身で知りたいという関心から白人2人で出かけたという、そもそもの始まりから大きく違っていたのでしょう。
また、本探検行では、怪獣探しの他に米国探検隊のテレ湖滞在記録を抜くという俗っぽい記録が目標のひとつでしたし、そのため滞在中はとかく食べ物のことばかりに関心が向いている。
そのうえ、現地のボア村人にならってサルの肉もこだわりなく食べているところが、大きな違い。
当然「コンゴ・ジャーニー」におけるアニャーニャ博士の抱えている屈折感などはおくびにも出てきません。
ただ、探検に協力した後我々コンゴ国民に何が残るのか、という彼の問いかけは、「コンゴ・ジャーニー」におけると同様、本書の中で唯一と言える、無視できない重みをもった言葉だと受け留めたい。

学生らしいノリとはいえ、それを実際の行動に移し、悲惨な状況の中でテレ湖の畔に33日間踏み留まったというのは凄い!
結局何だったのか?という他ない探検行ではありますけれど、何のかんのといってメンバー各々その後の歩みへの肥やしとなっているらしいところが、他人事ながら嬉しく思えます。
なお、苛酷な探検行ながら、幾度も吹き出してしまう場面のあるところが本書の魅力です。

プロローグ/コンゴ到着/テレ湖へ/ムベンベを追え/食糧危機/ラスト・チャレンジ/帰還/エピローグ(解説:宮部みゆき)

※同じテレ湖のムベンベを追いかけた探検書に
   オハンロン「コンゴ・ジャーニー」があります。

    

2.

「恋するソマリア」 ★★


恋するソマリア画像

2015年01月
集英社刊

(1600円+税)



2015/02/25



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恥ずかしいくらい、アフリカについては無知です。
理由を考えてみると、歴史小説でアフリカが取り上げられることもないし、また積極的に知ろうともしてこなかったし(エジプトや南アフリカは小説や映画で少々は触れていますけど)。
本書でとりあげられたソマリアについても、輸送船を襲う海賊行為の報道で長らく無政府状態にある国らしいと知る程度です。
そうした中で「ソマリア」、さらにその前に「恋する」という言葉までついた題名ともなると、アフリカについて知る良い機会であると思うと同時に、何故「恋する」なのか?という興味が掻き立てられます。

本書の頁を開けばその冒頭から、まるで知らなかったこと、驚くことばかり、不明を恥じるばかりです。
ソマリ人ソマリア、さらにソマリランドという国(国際的には承認されていないとのこと)は同一ではない、という。
またソマリ語はとても難解と言い、ソマリ人は他のアジア・中東等の人々と違ってそっけなく、自分のことをあまりさらけ出さない。そして、所属する“
氏族”が良きにしろ悪しきにしろ無視できない社会なのだという。

元英国保護領だった北部のソマリランドはともかくとして、
イスラム過激派アル・シャバーブと暫定政府軍が戦闘を続けている南部ソマリアは危険がいっぱい。さすがの高野さんもそう簡単に行ける場所ではないと言う。
そしてソマリ語の難しさ、ソマリ人の性格から、ソマリアは“秘境”も同然とのこと。そしてそれ以上に
“秘境”だったのが、ソマリア人の家庭内、とくに女性たちの生活ゾーン、料理風景だったとは。

これまで様々な国での体験記を語ったエッセイ本は数多く読んできて、国によっていろいろ違うのだなぁと思うことは多かったのですが、ひとつひとつに驚きを感じたのは本書が初めてだったように感じます。
高野さん曰く、本書もまた秘境探検記。
探検記風の語りですから、面白く、また読み易い。お薦めです。


はじめに/1.片想いのソマリランド/2.里帰りのソマリア/3.愛と憎しみのソマリランド/4.恋するソマリア/おわりに

        

3.

「幻のアフリカ納豆を追え!−そして現れた<サピエンス納豆>− ★★


幻のアフリカ納豆を追え!

2020年08月
新潮社

(1900円+税)



2020/09/30



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アジア納豆の存在を追った「謎のアジア納豆」(未読)から引き続き、さらに足を西アフリカまで伸ばし、幾つもの村を訪ね歩いてアフリカ納豆の実態を追ったノンフィクション。

その探求心に感銘を受ける以前に、ISによる危険や衛生問題等々怖くなかったのかと、まず圧倒されます。
とても私などにはできることではないなぁと、早大探検部出身者の凄さを改めて感じ言った次第です。

それにしても納豆、日本独自の食文化とばかり思っていましたが、日本から遥かに遠いアフリカにおいてもこんなに広く定着していたのかと驚きました。
ただ、<ご飯+納豆>が基本の日本とは違って、加工されたものを食したり、特に広く<出汁>として利用されているという点に新鮮な驚きがありました。
なお、材料の豆も大豆ではなく、
パルキア豆が主体で、バオバブハイビスカスから作られる変わり種もあり。

どの国でも現地で食されるアフリカ納豆は、日本のような工場生産ではなく、家での手作り。そのため都市部でそれを見ることは叶わず、辺境の村を訪ねて実際の手作りの様子を見学させてもらうのですから、納豆を訪ねるだけの旅に終わらず、それぞれの食文化探訪記になっていることに存分な読み応えがありました。
訊ねた先での納豆、料理の写真もあるので実感が持てます。

アフリカ現地というと、つい暗黒で貧しいというイメージを浮かべがちなのですが、高野さんが訪れた村々やそこでの人々の様子を知るに、そこにも豊かな文化があることを気づかされ、反省大です。

本書読了後、冷蔵庫に当たり前に入っている納豆を見る目が、ちょっと変わりそうな気がしています。お薦め。


プロローグ
1.謎のアフリカ納豆 カノ/ナイジェリア
2.アフリカ美食大国の納豆 ジガンショール/セネガル
3.韓国のカオス納豆チョングッチャン/DMZ(非武装地帯篇) パジュ・韓国
4.韓国のカオス納豆チョングッチャン/隠れキリシタン篇 スンチャン郡〜ワンジュ群/韓国
5.アフリカ納豆炊き込み飯 ワガドゥゲ〜コムシルガ/ブルキナファソ
6.キャバレーでシャンパンとハイビスカス納豆 バム県/ブルキナファソ
7.幻のバオバブ納豆を追え ガンズルグ県/ブルキナファソ
8.納豆菌ワールドカップ 東京都新宿区
9.納豆の正体とは何か
エピローグ そして現れたサピエンス納豆

  


  

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