吉永南央
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1964年埼玉県生、群馬県立女子大学文学部美術史学科卒。2004年処女小説「紅雲町のお草」にて第43回オール読物推理小説新人賞を受賞。08年同作を含む「紅雲町ものがたり」にて単行本デビュー。


1.
紅雲町ものがたり
−紅雲町珈琲屋こよみNo.1−

2.オリーブ

3.その日まで−紅雲町珈琲屋こよみNo.2−

4.名もなき花の−紅雲町珈琲屋こよみNo.3−

5.糸切り−紅雲町珈琲屋こよみNo.4−

6.まひるまの星−紅雲町珈琲屋こよみNo.5−

7.花ひいらぎの街角−紅雲町珈琲屋こよみNo.6−

 


    

1.

●「紅雲町(こううんちょう)ものがたり」● ★★
  (文庫改題:萩を揺らす雨−紅雲町珈琲屋こよみ−)


紅雲町ものがたり画像

2008年01月
文芸春秋刊
(1429円+税)

2011年04月
文春文庫化



2008/01/26



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76歳のおばあちゃん探偵が登場、軽快で心温まる日常ミステリ短篇集。

北関東にあって、近くに大観音像を見る、紅雲町。その町で和食器とコーヒー豆を商う「小蔵屋」、小さな店ですけれどコーヒーの試飲をサービスしているためそれを目当てに訪れる人が多い。
本書の探偵役は、その小蔵屋を営む一人暮らしのおばあちゃん、杉浦草(そう)、76歳
小蔵屋の店が舞台となって出会った様々な事件、謎を、この穏やかで気の好いおばあちゃんが解決していく、というストーリィです。
この杉浦草さんの凄いところは、76歳という高齢の身で、何と自ら行動してしまうこと。
おかげで徘徊老人と間違えられ、警官から強引に保護されそうになり、噂が町中に広がって好奇の眼に晒されたことも。
また最後は、犯罪事件に絡んでしまい、悪人に襲われて組み伏せられるという、老体なのに大丈夫かぁ?という心配もさせてくれます。
おばあちゃん探偵というとクリスティの「ミス・マープル」が有名ですが、学生時代に一度読んだことがあるだけなので記憶は殆どなく、草おばあちゃんと比較することはできません。でも、ミス・マープルはこんな行動していたかなぁ・・・。

小蔵屋の居心地良さそうな雰囲気、主人公を囲むバイトの森野久実27歳、幼馴染の由紀乃、運送屋の寺田等々との温かな関係。それに加えて平凡かつ老齢の身からは予想もつかない行動力を時にして見せる意外性、そのユーモア感が楽しい一冊です。

※こうした作品はシリーズものになることが多いのですが、さてどうなりますことやら。

紅雲町のお草/クワバラ、クワバラ/0と1の間/悪い男/萩を揺らす雨

   

2.

●「オリーブ」● ★★


オリーブ画像

2010年02月
文芸春秋刊
(1571円+税)

2012年02月
文春文庫化


2010/03/11


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それまで何ら変わるところのなかった恋人等が突然に失踪、というシチュエーションは、そう珍しいものではありません。
片岡義男「道順は彼女に訊く」、香納諒一「幻の女」、宮部みゆき「火車等々。

本書表題作の「オリーブ」は、結婚して5年経つ妻=響子が、見知らぬ人の葬儀に喪服姿で列席しているのを偶然見かけた翌日、姿を消してしまう。その後に夫である主人公は、婚姻届すら出されていなかったという事実を知る、というストーリィ。
上記のとおり決して珍しくはない筋立てなのですが、響子の姿の消し方が余りに鮮やか。短篇であるにもかかわらず長篇小説なみの読み応えです。
消えた響子の姿には凛とした美しさが漂います。
そして、響子がたったひとつ、主人公に書き残していった言葉。その言葉の意味に実にいろいろな解釈の仕様があり、その謎めいた余韻もまた秀逸。
読後に残るそれらの余韻が、実に素晴らしい。

本書収録の5篇はいずれも、近しい人の思いもよらない事実を知らされる、というストーリィ。その中でも「オリーブ」は、飛び抜けた一篇。
この一篇を味わうためだけでも、本書を読む価値は充分ある、と言って誇張ではありません。

オリーブ/カナカナの庭で/指/不在/欠けた月の夜に

         

3.

●「その日まで−紅雲町珈琲屋こよみ−」● ★☆


その日まで画像

2011年05月
文芸春秋刊
(1667円+税)

2012年11月
文春文庫化



2011/06/11



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和食器&珈琲豆を商う店=小蔵屋の女主人、70代の杉浦草が活躍する連作日常ミステリ紅雲町珈琲屋こよみ”シリーズ第2弾。

民家風の品が良くて居心地も良よさそうな店、高齢ながら小粋な雰囲気ある草さんに体育系の女子バイト=久実という組み合わせの他、毎度お馴染みの面々が草さんをしっかり支えるという構図が、本シリーズの魅力。
そして草さん、決して安楽椅子型探偵ではなく、積極的に出て回るタイプ。事件に巻き込まれた人だけでなく、草さん自身が悔やんでも悔やみきれない過去を抱えているからこそ、つい入り込んでしまうというパターン。それが本シリーズの個性的なところです。

もっとも冒頭2篇、ミステリという感じはありません。むしろ、小蔵屋を舞台に人と人との繋がりを描いたという風。それが結構、楽しい。
本書は連作短篇風でありながら、新たに開店した和雑貨の店“
つづら”の悪質な商売ぶり、詐欺まがいの商売を繰り広げる不動産屋のことと、同時に長篇ストーリイの面も備えています。
ただ、読み手として一番気になるつづらのことが決着つかないまま、最後はどろどろしたことに草さんがどっぷり首を突っ込んでしまったという感じで、なにやら後味がすっきりしない気分。
※本シリーズ、まだまだ続きそうです。

如月の人形/卯月に飛んで/水無月、揺れる緑の/葉月の雪の下/神無月の声/師走、その日まで

             

4.

「名もなき花の−紅雲町珈琲屋こよみ− ★★


名もなき花の画像

2012年12月
文芸春秋刊
(1500円+税)

2014年07月
文春文庫化



2013/01/13



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和食器&珈琲豆を商う店=小蔵屋の女主人、70代の杉浦草が活躍する連作日常ミステリ紅雲町珈琲屋こよみ”シリーズ第3弾。

出版社によると本シリーズ、累計30万部の人気シリーズになったそうです。その人気の理由はひとえに主人公である杉浦草さんのキャラクターにあると言って間違いないでしょう。
草さんの周囲で起きるちょっとした揉め事、事件を黙って見逃しておくことができず、何とか皆のためになるように解決したいと、草さんは70代の老女とは思えない行動力で活躍します。
そうした行動の背景には、自らの離婚、幼い息子を事故死で失ったという悔恨があります。
ですから決して出しゃばることなく、最終的には当人たちが自らの力で問題を解決するようそっと背中を押してあげる、というスタイル。そこには長い人生経験を基にした賢人の智慧が感じられます。
そんな小蔵屋、草さんが身近にいてくれたら、きっと楽しく、心強いでしょうネ。
 
「長月、ひと雨ごとに」は、小蔵屋に良質の珈琲豆を廉価で下してくれるミトモ珈琲商会の代替わりに関わる草さんの心配事。冒頭からちょっとハラハラさせられます。
「霜月の虹」は同じ町内の田中青果店にまつわる困難事。
「睦月に集う」を含む4話は、個々の問題と並行して、郷土史研究家の勅使河原先生とその娘である美容師のミナホ、その弟子筋である新聞記者の萩尾らが抱えた問題事に草さんが関わるストーリィ。

※店員の
久実、幼馴染の由紀乃という常連は相変わらず。草さんのコーヒー師匠であるというレストラン「ポンヌフアン」のオーナー兼シェフ=バクサンこと寺田博三は常連に加わるのか。

長月、ひと雨ごとに/霜月の虹/睦月に集う/弥生の燈/皐月の嵐に/文月、名もなき花の

       

5.

「糸切り−紅雲町珈琲屋こよみ− 


糸切り画像

2014年08月
文芸春秋刊
(1500円+税)

2016年12月
文春文庫化


2014/09/09


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和食器&珈琲豆を商う店=小蔵屋の女主人、70代の杉浦草が活躍する連作日常ミステリ紅雲町珈琲屋こよみ”シリーズ第4弾。

これまでは短篇集ですが、本書はかなり長編風です。
舞台になるのは、小蔵屋のある紅雲町からも近い、古びれた商店街“
ヤナギショッピングストリート”。
そのヤナギにある
水上手芸店へ草が真田紐を買いに出掛けた折り、草は「帰っておいで」と書かれた手紙の一部を拾います。そしてその直後、草は車に惹かれそうになりと災難続き。
一方でそのヤナギ、新しく店を開いた古雑貨店=
クドウが熱心に加わり、女性建築家の弓削真澄が改装を請け負うことが決まり、長屋式商店の所有者である水上手芸店の千景を中心にリフォーム話が進みます。そこに、危うく草を轢くところだった車の運転手だという佐々木が主人の言いつけでヤナギのリフォームに協力したいと名乗りでてきますが、その意図は今ひとつ不明。
さて今回、草はどんな活躍を見せるのやら。

主人公の草も老女ですし、ヤナギの元からの商店主らも老齢ということもあって、なるようにしかならないとは言うものの、その傍らには親子問題が横たわります。
なるようにしかならないことであっても、草のちょっとした一押しで事態が少し進展する、それが本シリーズのミソでしょう。
とは言いつつ、今回はすっきりしない気持ちが残ったなァ。


牡丹餅/貫入/印花/見込み/糸切り

        

6.

「まひるまの星−紅雲町珈琲屋こよみ− ★☆


まひるまの星

2017年01月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2018年03月
文春文庫化



2017/02/02



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シリーズ5作目。
今回は、
小蔵屋を営む杉浦草の元に持ち込まれた紅雲町の山車蔵移転の話が皮切りになって、思わぬ過去から現在に至る問題が明らかになる、という長編ストーリィ。

紅雲町の山車蔵移転先として小蔵屋に話が持ち込まれますが、商いに支障が出てしまうため、草もそう簡単に了承する訳にはいきません。
そうしたところ、他から山車蔵移転を引き受けても良いという好意的な話が寄せられますが、何故かその土地に向かい側にある鰻屋<おがわ>の女将=
小川清子がその話に反対。
実は小川清子、草の亡母=
瑞(たま)と元は年齢差を超えて仲の良い間柄でしたが、ある時を境に反目し合うようになったという経緯あり。
亡母と小川清子の間に何があったのか。そしてそれは、山車蔵移転話に清子が反対する理由と関わるものなのか。
亡母の「関わるな」という戒めに反しつつも、草は自ら調べ始めます。


高齢なのに安楽椅子探偵に甘んじず、自ら行動してしまうのが本シリーズの主人公である杉浦草の特徴。
本書では、そんな草が時々体調を崩す場面が描かれていて、草も“寄る年波には勝てず”と言っているようです。
でもそれは、本シリーズの限界を示しているというより、身体を労わってこれからも長く元気でいて欲しいという作者からのメッセージ、そして草ファンの気持ちを代弁しているもののように感じられます。

どう行動すべきか、迷うことは時にあるでしょう。そうした時に選択のポイントは正しい行動なのかどうか。その結果、迷惑を受けてしまう人から憎まれることがあってもそれは仕方ない(全ての人を満足させることは無理)、という草の決意のほどが結末において光ります。本書から学ぶべき点と思う次第です。


母の着物/探しもの/冷や麦/夏祭り/まひるまの星

               

7.
「花ひいらぎの街角紅雲町珈琲屋こよみ ★★


花ひいらぎの街角

2018年02月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2019年06月
文春文庫



2018/03/03



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初めて読む作家の作品を続けて読んでいると、どうしても疲れるところがあり、そんな時は馴染みのシリーズ作品の中に戻ってくるとホッとする気がします。
“紅雲町珈琲屋こよみ”もそうしたシリーズの一つ。
本作はシリーズ第6弾。

しかし、今回は次々と個性的かつこれから常連の登場人物になっても不思議ない、という新しい人物が登場してきて、ちっとも安らぐどころではありませんでした。
とはいっても、「
小蔵屋」の老店主である杉浦草、元気な従業員=森野久実、人気洋食店「ポンヌファン」経営者で昔馴染みのバクサン(寺田博三)という毎度おなじみの人物はますます達者という感があって楽しめます。

草とバクサンの元に若い頃の仲間だった
田中初之輔から便りが届きます。それを機に初之輔と再会した草は彼を元気づけようと、バクサンと相談して昔彼が書いた短編「香良須川」を活版印刷の小本に仕立てて送ろうと計画します。
以前から付き合いのある
萬來印刷にそれを頼もうとしたところ、地元大手会社の個人情報流出問題に巻き込まれて大変な様子。
仕事の縁ができ、代替わりしたばかりの若社長=
萬田豪と関わるようになった草と久実は、知らず知らずのうちに萬來印刷の問題に関わるようになり・・・・。

今回は謎解き(ではあるのですが)とうより、人と人の間で縺れに縺れた糸を、ちょっと離れた立ち位置から草が温かく見守り続けることによって、いつしか縺れた関係が解きほぐされていく、そんな展開がとても好ましい。

本作では若い男女の恋模様も描かれますが、思いがけず、草の気づかなかった若い頃の恋話が明らかになるという展開も
付け加えられていて、楽しい次第。

年を取っても元気な人は元気ですし、気持ちが若いかどうかは本人の心持次第かな。という訳で草さんにはホントに元気づけられます。(笑顔)


1.花野/2.インクのにおい/3.染まった指先/4.青い真珠/5.花ひいらぎの街角

    


   

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